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2013.10.02

第39回「楽しいことが、世の中を前向きに動かしていく ~アキバのメイドさんたちと取り組む打ち水や屋上菜園の活動(NPO法人リコリタ)」

NPOの登記がなった、まさにその直後に起こった活動休止の危機

 2008年1月にNPO法人として登記されて迎えた2008年の打ち水は、イベント直前の6月に突如起こった秋葉原無差別殺傷事件の影響で、一時はイベントの中止も検討した。
 当時、いわゆる『ヲタク』文化やそこに集う人たちのファッションの傾向や嗜好(しこう)を指して『アキバ系』という言葉が使われ出した頃だった。歩行者天国には人があふれかえるようになっていた。巨大なスピーカーを持ち込んで歌ったり踊ったりする人たちがいたり、エアガンで銃撃戦を繰り広げるような人たちもいた。目立ちたい女の子が過激なコスプレで補導されるようなこともあった。とどめを刺すかのように、あの悲惨な事件が起こった。
 秋葉原に集まる人たちがおもしろいと思うようなことをみんなが増長していったことで、さまざまな問題が生じてきていた。『うち水っ娘大集合!』の企画も、そうした流れに加担するようなところがなかったかと自問することになった。やらない方がいいんじゃないかという意見も少なくはなかった。
 それに対して、打ち水の活動それ自体は、ごく真面目な活動としてやっていたのだから、ここで手を引いたら、むしろ秋葉原の文化が死んじゃうのではないかという指摘もあった。正しい活動をしっかりとやっていくことで、アキバの文化がアングラな方向にいってしまうのを阻止する意味で実施するべきという意見だった。
 「ただ、それまでと同じようにやるだけでは“やっぱりやったんだ”と言われるだけだと思ったんです。そこで、神田明神さん──秋葉原を含む周辺108町会の総氏神なんですけど──に行って、境内で地球環境と平和を祈願する打ち水をさせてもらえないかと相談したのです。宮司さんや神主さんも、秋葉原の街で起きた凄惨な事件に心を痛めていて、何かメッセージを発信することができないか考えていたとおっしゃってくださって、快諾してもらえました」
 そうしてこの年、本物の巫女さんとコスプレメイドさんたちがいっしょに打ち水をするというイベントを実施した。

神田明神の境内で実施した、2008年の打ち水。(NPO法人リコリタ提供)

神田明神の境内で実施した、2008年の打ち水。(NPO法人リコリタ提供)

神田明神の境内で実施した、2008年の打ち水。(NPO法人リコリタ提供)


自己実現しながら、社会の役にも立つことをめざしてきたリコリタの活動

 打ち水から始まったリコリタは、今や打ち水だけにとどまらない多角的な活動を展開するようになっている。メンバーそれぞれのやりたいことをベースに、社会的に意味ある活動に作り上げて、多くの人たちを巻き込めるような企画をプロデュースして、マネジメントしていく。
 「アキバのメイドさんたちとイチゴ狩りをしてみたいという願望から生まれた『秋葉原菜園』という都市農業プロジェクトも立ち上がりました。日本農業新聞社の屋上をお借りした都市ガーデンです。イチゴの他にも、お米やショウガ、ニンジン、シシトウなどを植えてきました。プランターとバケツを並べたり、子ども用プールほどの大きさのバットにも植えたりしています。ニンジンやハクサイ、ネギなどは、冬に収穫して鍋をつつこうと育てています。菜園の場所と水は日本農業新聞社さんがCSR事業の一環として提供してくれています。土は再利用できるものは使いまわしますから、必要なのは種苗と肥料を買ったり、プランターなどの容器が意外に劣化しやすいので新調したりするくらいで、年間にかかる経費は3~4万円ほどです。技術的な部分は、大江戸野菜研究会という団体がサポートしてくれて、3者の連携で始めたプロジェクトでした。今は農大の学生ボランティアも参加してくれています」
 お米作りでは、全国にある『萌え米』(パッケージに美少女のイラストなどを取り入れたご当地米)の種もみを集めて、“秋葉原で萌え米を育てる”という企画も実施した。秋田県鹿角の『萌えみのり』や、岡山にある向山商店の『きぬむすめ』、広島県庄原市高野町産『こしひかり』やJAうご(秋田県羽後町)の『あきたこまち』など、地域おこしにつなげている例がいくつかある。秋葉原では、メイドさんが実際にお米を育てているから、コラボレーションさせたらおもしろいという発想で、萌え米生産地に呼びかけた。
 鳥獣被害の問題をPRするため、秋葉原で鳥獣肉を食べる『萌える鳥獣弁当』を作ったこともあった。メイドさんたちにイノシシやシカの肉を使ったおもしろい料理を考えてもらい、それをフレンチのシェフがメニュー化する。イラストレーターがパッケージを描いて、一日限定の『萌える鳥獣弁当』を販売した。この弁当を発表するイベントの席には、農水省の担当官やJRの社員にも来てもらって、弁当を題材にトークしてもらった。

日本農業新聞社の屋上に開園している『秋葉原菜園』(NPO法人リコリタ提供)

日本農業新聞社の屋上に開園している『秋葉原菜園』(NPO法人リコリタ提供)

屋上菜園の様子。右は、前年の土をひっくり返して、骨粉・米ぬか・鹿沼土を混ぜて、萌え米のための土づくり。(NPO法人リコリタ提供)

屋上菜園の様子。右は、前年の土をひっくり返して、骨粉・米ぬか・鹿沼土を混ぜて、萌え米のための土づくり。(NPO法人リコリタ提供)

屋上菜園の様子。右は、前年の土をひっくり返して、骨粉・米ぬか・鹿沼土を混ぜて、萌え米のための土づくり。(NPO法人リコリタ提供)


メイドさんたちが持つプラスチックケースは、各地から届いた萌え米の種もみ(左上)。育った苗を、屋上菜園の“田んぼ”に植え付けて(右上)、秋に稔った萌え米の穂を収穫(下)。(NPO法人リコリタ提供)

メイドさんたちが持つプラスチックケースは、各地から届いた萌え米の種もみ(左上)。育った苗を、屋上菜園の“田んぼ”に植え付けて(右上)、秋に稔った萌え米の穂を収穫(下)。(NPO法人リコリタ提供)


メイドさんたちが持つプラスチックケースは、各地から届いた萌え米の種もみ(左上)。育った苗を、屋上菜園の“田んぼ”に植え付けて(右上)、秋に稔った萌え米の穂を収穫(下)。(NPO法人リコリタ提供)

メイドさんたちが持つプラスチックケースは、各地から届いた萌え米の種もみ(左上)。育った苗を、屋上菜園の“田んぼ”に植え付けて(右上)、秋に稔った萌え米の穂を収穫(下)。(NPO法人リコリタ提供)

話を伺った、NPO法人リコリタ理事長の真田武幸さん。
話を伺った、NPO法人リコリタ理事長の真田武幸さん。

 任意団体の時代も含めて、リコリタを始めてから10年が経つ。年を重ねたせいか、心境の変化もあるという。
 「もともと自分たちがやりたくて始めたリコリタの活動でしたが、学生ボランティアなど若い人たちが参加するようになって、リコリタの活動を通じて社会に出て行くきっかけを得るような例をいくつも見ることになりました。それなりに世の中と接する機会となったり、いろいろな人と連携しないと成立しなかったりする活動ですから、学生さんたちにとっては社会経験にもなるし、仕事のスキルを学ぶこともできるんですよね。2010年から『うち水っ娘大集合!』の副代表をやってくれた女の子がいました。それまでずっと就職しないでいたんですが、『ちゃんと働きたい』『でも自信がない』と言うので、だったらおれは手を出さないから、千代田区の人たちの交渉事やいろんな人たちとを巻き込む時の窓口を君がやったらいいよと任せたんです。苦労はしていましたが、充実した時間を送っていたようです。いよいよ本腰を入れて就職活動に取り組み始めることになって、自分がやってきたボランティア活動のことを履歴書に書いたり面接で話したりしたそうです。『以前だったら全然言えなかった話も胸を張って言えるようになりました』と報告に来てくれました」
 そんな例が他にもいくつもあったという。
 「若い人たち、それも秋葉原で遊んでいるような子たちは、ある意味目立たずに生きてきた人たちです。そんな子たちが、自分の好きなことで胸張って社会によいことをするというリコリタの活動に参加して、社会に接する機会を得ながら、社会人になっていく。そんな実例にいくつか触れたことで、そういうのを応援するのもいいなと思うようになってきました」
 好きなことを思い切り楽しんでいくことで、世の中を前向きに動かしていくリコリタの活動。それとともに、関わる人たちの背中を押す役割も担いつつ、今日もまた遊び心にあふれた楽しい企画を仕掛けていく。


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