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2014.10.27

第54回「区全域にわたって環境学習を楽しくサポート ~排水溝から流されていた小さな生命を子どもたちの教材に活用する『ヤゴ救出大作戦』の取り組み(NPO法人すぎなみ環境ネットワーク)」

実録・区立杉並第一小学校のヤゴ救出大作戦

 ヤゴ救出大作戦当日の様子を少し詳しく紹介しよう。  今年度すぎなみ環境ネットワークがサポートした学校の一つ、JR中央線阿佐ヶ谷駅から徒歩2分に立地する杉並区立杉並第一小学校では、6月初旬に3年生3クラス81名がヤゴ救出大作戦に取り組んだ。駅前だから学区内の住宅地はそれほど多くはなく本来は児童数の少ない学校だが、この学年は希望制で他校区からの越境児童が2クラス分いるという。
 2週間前の事前授業でトンボの生態やプールに産み落とされたヤゴの一生について学習した後、数日前から少しずつプールの水を抜き始めて臨んだヤゴ救出大作戦の当日。プールの水は深いところで30cmほどに調整されている。
 晴れ渡った青空の下、プールサイドにタモ網やバケツ、仕分け用の小さいプラスチックケース、ヤゴの識別票などを用意して、サポーター5名と手伝いの保護者10名ほどがプールサイドで子どもたちを待つ。
 チャイムが鳴って、子どもたちは校庭の隅にあるプールへ、各クラス2グループ4班に分かれて移動してくる。1・2班と3・4班のグループごとに、プールの両サイドに分かれ、奥から3組、真ん中に2組、手前に1組と配置につく(図3参照)。遠目からでも区別がつくように、1班(グループ1)と3班(グループ2)は赤帽を、2・4班が白帽を被る。それぞれしゃがんで待機して、正面で拡声器を持つ進行役の境原さんと1組担任の先生の指示を待つ。

【図3】プールサイドの配置図
【図3】プールサイドの配置図


 両サイドのグループごと、2つの班はプールに入る人たちとプールサイドでヤゴを探して仕分ける人たちに分かれて、時間を区切って交代する。はじめに赤帽の子どもたちがプールに入ってヤゴを網ですくい、プールサイドで待つ白帽の子たちが網ですくった泥の中からヤゴを探して小皿に仕分ける。
 サポーターと保護者は、プールの中に入ってヤゴすくいの指導をしたり、プールサイドでヤゴ探しや仕分けの補助をしたり、種類ごとの捕獲数を記録用紙に書き込んだりする。

赤帽と白帽を被ってグループ分けをして、プールサイドで待機する3年生3クラス81名。
赤帽と白帽を被ってグループ分けをして、プールサイドで待機する3年生3クラス81名。

サポーターや手伝いの保護者が後ろに控える。
サポーターや手伝いの保護者が後ろに控える。


 プールサイドの所定の位置に全児童が揃うと、司会の先生が拡声器を持ってプール正面に立つ。
 「時間になりました。まずは挨拶から始めましょう。座ったままでいいです。気をつけ!礼! これから、3・4時間目のヤゴ救出大作戦をはじめます。(子どもたち一斉に「お願いします!!」)」
 先生の言葉に合わせて、子どもたちの元気な声が響き渡る。  プールサイドに分散しているサポーターを一人ひとり紹介したあと、境原さんにバトンタッチして、ヤゴのすくい方やプールへの入り方、注意事項について説明する。
 「いよいよ、ヤゴ救出大作戦の日がやってきました。とても天気がよくて、暑いくらいですが、みんなで頑張ってヤゴをたくさん救ってあげてほしいと思います。まず、赤の帽子の人たちがプールに入ります。網をしっかりプールの底につけて、泥ごとすくってください。網の中身をオーバーフローにあけたら、白い帽子の人たちは葉っぱや泥をかき分けてヤゴを見つけて、プラスチックのカップを用意してあるので、同じ種類のヤゴを10頭ずつ分けていってください。10頭になったら、後ろにいるお母さんたちに言って記録してもらい、バケツにまとめていきます」

プールの入り方やヤゴすくいの説明に合わせて、サポーターが実演してみせる

プールの入り方やヤゴすくいの説明に合わせて、サポーターが実演してみせる

プールの入り方やヤゴすくいの説明に合わせて、サポーターが実演してみせる


 「それから入り方の注意です。プールのステップのところから後ろ向きに入ります。今サポーターの方がやってくれているように、急がず、ゆっくりと入って、すぐに離れてください。次の子が入ります。プールの中は見ての通り、落ち葉や泥が溜まって滑りやすくなっていますから、ゆっくり歩いて、プールサイドにいるお母さんたちから網を渡してもらってください。網は、今サポーターに実演してもらっているように、プールの底にしっかりとつけて、なるべく泥や落ち葉といっしょにすくって、オーバーフローのところに静かにあけてください。あまり急にバシャっとやると、お友達にかかってしまいますから、気を付けてください。上にいるお友達は、泥や葉っぱの間からヤゴを探して、プラスチックカップに入れて数えていきます。そんなふうにして、まず赤帽の人たちがプールに入って、次に白帽の人たちと交代します。笛の合図が鳴ったら、すぐに上がってきてくれないと、次の人たちが入れません。ただ、プールの中ではしっかり足を付けて、絶対に急がないこと、それから網を振り回さないこと。その注意を忘れないようにお願いします」

 説明が終ると、いよいよプールの中に入ってのヤゴすくい。そろりそろりと赤帽子の子たちがステップを下りてプールの中に入っていく。
 「うわっ!ぬるぬる!」
 そんな声も発しながら、網を手に、底の泥ごとすくい取る。
 「ヤゴは端っこの方に隠れているから、角の辺りや壁に沿って網をすべらせてごらん。どう、いるかな? オーバーフローのところにあげて、見てもらってね!」
 サポーターも水の中に入って、声をかけていく。

 プールサイドでは、白帽子の子たちが、オーバーフローにあげられた泥の中でうごめく生きものを探して、プラスチックカップに取り分けていく。
 「ほら、この大きいのがギンヤンマのヤゴ。小さいのは、これはアキアカネって言って、赤トンボのヤゴだね。顔の形が三角になっているのがわかるかな? 全然違うでしょ。種類ごとに別のカップに入れて、10頭ずつにして向こうのバケツに入れるんだけど、ここは10頭より多いから、こっちのカップに移してくれる?」
 1つのカップに10頭以上のヤゴがひしめくカップがあったら声をかけて分けていく。

ギンヤンマのヤゴ
ギンヤンマのヤゴ

アカネ型のヤゴ
アカネ型のヤゴ

シオカラトンボ型のヤゴ
シオカラトンボ型のヤゴ


 「ねえ、これなぁに? これもヤゴなの?」
 すくい取った泥の間には、ヤゴのほかにも、長い足を伸ばしてオールのようにして泳ぐコミズムシや、アカムシ──名前の通り真っ赤な色をした小さなイトミミズのようなユスリカの幼虫──なども見られる。水上にはアメンボもすいすいと泳いでいるのが見られた。
 中には、ヤゴよりも貝ばかり集めている子もいる。インドヒラマキだ。今回、杉並第一小学校ではこのインドヒラマキがかなりの数見つかった。

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す


プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

プールの底の泥をすくったら、オーバーフローにあけて、泥の中からヤゴを探し出す

泥の中のヤゴ(アカネ系)
泥の中のヤゴ(アカネ系)

指につまんだギンヤンマのヤゴ
指につまんだギンヤンマのヤゴ


 笛が鳴って、プールの中でヤゴをすくう人たちと、プールサイドでヤゴを探して仕分ける人たちが入れ替わる。
 10分交代で何度か入れ替わった後、最後はプールの横幅いっぱい一列に並んだ子どもたちが、一斉に網を滑らせてローラー作戦を展開する。捕り逃がしたヤゴは排水溝に流されてしまうから、なるべく捕りつくしてしまいたい。

10分交代で交互にプール内外の役割を分担した後、最後はプールの横幅いっぱいに、一列に並び、捕り逃がしのないようローラー作戦を展開。

10分交代で交互にプール内外の役割を分担した後、最後はプールの横幅いっぱいに、一列に並び、捕り逃がしのないようローラー作戦を展開。

10分交代で交互にプール内外の役割を分担した後、最後はプールの横幅いっぱいに、一列に並び、捕り逃がしのないようローラー作戦を展開。


 ヤゴすくいを終えて、各グループからの集計表が集まってくると、急いで集計し、その場でこの日の成果を発表する。
 「みんな暑い中頑張ってくれて、たくさんのヤゴが救えました。お疲れ様でした。では、結果を発表したいと思います。アカトンボ型のヤゴが883頭。それから、なんと!シオカラトンボが53頭もいました。シオカラトンボのヤゴはプールには少なくて、普通は20頭もいたらたくさんいたなという感じなので、53というのはとてもいい数字だと思います。それとなんと!ヤンマが467頭もいました。もっと珍しいのは、イトトンボが17頭もいました。イトトンボは体も細く、すぐに食べられちゃう小さくて弱い生き物なんですが、それが結構生き残っていたということは、割りと隠れるところも多かったのかなと思います。ヤンマやイトトンボがこれだけいたのは、去年の3年生が、産卵お誘いの仕掛けをかけてくれたからなんですね。ここにある、汚い網です。みんながプールに入ってきて、“臭いなあ”と言っていたこの網のおかげで、今日はギンヤンマとイトトンボがこれだけいたんです。事前学習の時に、植物の繊維の中に卵を産むのがギンヤンマとイトトンボという話をしましたよね。プールにいるかなあと言っていたけど、こんなにたくさんいました。ぜひ、今日、4年生に会ったら“ヤゴいっぱい捕れたよ、ありがとう!”と伝えてくださいね。ただ、今日捕れた1300くらいのヤゴ、これが全部羽化することはありません。自然界のことなので。でもその3割も羽化すればすごいことです。普通、自然界では1~3%しかトンボにはなれないといわれます。杉一小の上空にトンボがたくさん飛んでいるのは、ヤゴ救出大作戦のおかげかなと思ってください。また来年もたくさんのヤゴが取れる環境が作れるといいなと思います。今日はありがとうございました!」

各グループの記録用紙を集め、急いで集計。
各グループの記録用紙を集め、急いで集計。

本日の成果を発表する境原さん
本日の成果を発表する境原さん

実は、プールの中に浮かべていたヤゴフロートは、子どもたちが来る前にプールサイドの隅に撤去した
実は、プールの中に浮かべていたヤゴフロートは、子どもたちが来る前にプールサイドの隅に撤去した

バケツの中には、種類ごとのヤゴがたくさん!
バケツの中には、種類ごとのヤゴがたくさん!


ヤゴ救出大作戦をただのイベントでは終わらせず

 ヤゴ救出大作戦を、ただすくって終わりというだけのものになってしまってはもったいないと境原さんは言う。
 「救出するだけでは単なるイベントに終わってしまいますよね。事前のインプット、事後の観察・飼育をすることで、身近な生きものと私たちの暮らしとのかかわりについて知るとてもよいきっかけにできるのです」
 井荻小学校・学校支援本部の岩渕さんも、そうした事前の先生の声かけや授業展開がとても大事だと同意する。
 「ヤゴ救出大作戦当日を迎えるまで、事前にどれだけインプットできるか、子どもたちに声をかけて雰囲気を作っていくことで、当日の盛り上がりもだいぶ違ってきていることは実感します。ヤゴすくい当日の感動や気づきが大きければ、その後の学習にも影響しますよね」

 すくったヤゴを飼育して観察したり、見つけたヤゴの種類を調べたり、羽化させたり、あるいは昔の状況を調べたりと、さまざまな展開が工夫できる。今回いなかった種類のヤゴを呼ぶにはどうすればいいか、ヤゴの種類と生態について調べてみてもよい。ギンヤンマやイトトンボを誘うためのヤゴフロートや、ヤゴ救出大作戦の前に羽化期を迎えるヤゴたちの羽化を助ける羽化装置を設置する学校もある。
 その結果、さまざまな面白いこと、予期しないことが起これば、新たな学習につながる。ギンヤンマを導入したことでアカネ型のヤゴが激減したのもそんなことの一つといえる。
 「自然界の捕食・被捕食関係なども含めて、子どもたちはここ杉並でどんな生命の営みが起こっているのかを知識としてではなく体験として知る機会を持ってほしいんですね。なぜ学校のプールにヤゴが生まれ、育っているのか。そんなことも考えてほしいと思って投げかけています。ただ単にヤゴすくいをするだけでは、楽しいイベントで終わってしまいます。ヤゴ救出の体験をきっかけに、区内の自然の状況や都市に棲む生き物のこと──人間だけが住んでいるわけではないですよね──について感じ、考えてほしいと思っています。ただ、それは学校側がどんな問題意識を持って、課題設定をしていくかによって大きく変わってきます」

すぎなみ環境ネットワークの境原達也さんと、井荻小学校・学校支援本部事務局長の岩渕晴子さん
すぎなみ環境ネットワークの境原達也さんと、井荻小学校・学校支援本部事務局長の岩渕晴子さん


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