トップページ > 環境レポート > 第71回「活動の担い手を求める地域の保全団体と、ボランティアに関心のある人たちをマッチング ─(認定NPO法人自然環境復元協会「レンジャーズ・プロジェクト」)」
2016.03.28
3月初旬の土曜日の朝、JR原宿駅表参道口を出てすぐの神宮橋たもとには、首にカメラをかけた外国人観光客や短パンとランニングシューズに身を固めたランナー、ウォーキングステッキを抱えた妙齢の人たちなどが通り過ぎていく。誰かと待ち合わせでもしているのか、髪を派手に染め上げた若者数人がたむろしている。天気晴朗、まさにお出かけ日和の一日だ。
朝9時半、ここ原宿駅神宮橋のたもとに集まってきたのは、認定NPO法人自然環境復元協会が主催する「レンジャーズ・プロジェクト」に参加するボランティアたち約10名。目印となるのは、蛍光緑の鮮やかな色が映えるビブスを着用したコーディネーターの伊藤博隆さんだ。
集合場所に迷って遅刻してくる人や急な仕事の都合で参加できなくなったという人たちと携帯電話で連絡を取りながら、参加予定者全員の動向を確認すると、いよいよこの日のフィールド、都立代々木公園(渋谷区代々木神園町)に移動する。
駅から公園入口の一つ、原宿門まではゆっくり歩いて10分ほど。園内は散歩をする人たちや芝生で輪になって集う人たちなど、ことのほか多くの人たちでにぎわっている。そんな様子を横目で眺めながら、園内を横切ってさらに10分ほど歩くと、今回の活動拠点となる花壇脇の倉庫に到着する。今回の受け入れ団体となる代々木公園ガーデニングクラブのメンバーがすでに集まってきて、道具や資材の準備を始めていた。
「今回のミッションは、公園内の花壇整備をしている代々木公園ガーデニングクラブの皆さんの活動サポートです。公園内の落ち葉溜めから熟成した堆肥を運んできて花壇の土の中にすき込みます。まずは、毎回恒例の準備体操から始めましょう!」
伊藤さんの掛け声で、木々に囲まれた広場にレンジャーズ隊員たちが広がって輪を作る。講師役のガーデニングクラブの面々も混ざって、一通りストレッチをした後は、大きく広がった輪を狭めて、全員での自己紹介。ここ代々木公園での活動はレンジャーズ・プロジェクトとしても初の試み、参加者たちも今回が初のミッション出動という人を含めて、全員が1人で参加してきているから、まだお互いの名前も知らない。
ちなみに、レンジャーズ・プロジェクトでは、作業に参加するボランティアのことを「レンジャーズ隊員」、毎回の活動を「ミッション」と呼んで、ミッションの内容と日程が決まると登録隊員全員に案内メールを送って参加を要請する(呼びかける)。そして、呼びかけに応えてミッションに参加することを「出動」と呼ぶ。ちょっとした遊び心といえるが、そんな工夫にボランティア活動の基本となる主体性と使命感を持ってもらいたいという思いが込められている。
現地についたらまずは大きく輪になって、準備体操で体をほぐすのが、レンジャーズの活動の流儀だ。
自己紹介と合わせて、代々木公園ガーデニングクラブ代表の牧野ふみよさんから、会の活動の経緯と概要について説明がある。
「代々木公園には、かつて今そこに見えるフェンスの内側にもう1列フェンスがある二重フェンス構造になっていましたが、その間が結構広かったため、ブルーシートのテントが立ち並んでいました。都では、対応の一環として、内側のフェンスを撤去して、ここに花壇を造りました。ただ、もともとこの代々木公園は森林公園という位置づけだったため、花壇整備のための予算がありません。造成工事はなんとかかき集めた予算を工面したものの、その後の維持管理の予算がないため、ボランティアで何とかしましょうということでスタートを切ったのが始まりでした。2002年2月にはじめてここにきて、以来、ちょうど14年目になりました」
2年間にわたって、概ね30~50m2の花壇を50か所、総面積1500m2ほどが整備され、そのうちの一部を代々木公園ガーデニングクラブで管理している。
この日は、作業の段取りや目的についてレンジャーズ隊員たちに説明するため牧野さんを含めて5名のメンバーが講師役として集まった。
今回の受け入れ団体、代々木公園ガーデニングクラブの経緯と活動概要について、代表の牧野さんから説明がある。
レンジャーズ・プロジェクトは、みどりに関わる活動をしている首都圏各地の団体の活動フィールドに、週末の午前中3時間ほどのボランティア作業のため出動してくるレンジャーズ隊員たちがお邪魔して、いっしょに活動をするという取り組み。これによってメンバーの高齢化や人手不足などさまざまな課題を抱える現地の活動団体と、一方でボランティアをしたいと願う隊員たち双方のニーズを満たすのがねらいだ。
今回の受け入れ団体・代々木公園ガーデニングクラブは、活動当初は都が開催する花壇ボランティア講座の受講生の参加もあって人数も多く活発な活動が続いたが、活動開始から14年が経って、徐々に人数が減ってくると同時に、これまで活動を支えてきたメンバーもそれだけ歳を重ねることになった。現在は常時活動に参加できている5~6名ほどのメンバーが細々と活動を続けているような状況で、平均年齢も四捨五入すると70歳になるという。「代々木(よよぎ)公園」に語呂を合せて、毎月4の付く日(4日、14日、24日)の平日を定例の活動日に定めて、当日集まったメンバーがその時々にできる作業をしているが、つい最近、長年コアメンバーとして活動を担ってきた人がこられなくなってしまったと牧野さんは話す。
「初期からともに活動してきた仲間が入院してしまって、今休んでいます。メンバーも皆、いい年になってきたんですね。でも、“退院したらまたやるから”と言われてしまうと、その人が戻ってくるまではやめられませんよね。それと、14年も経つと、いったん離れていった人がまた戻ってくることもあります。子どもの出産と子育てで活動に参加できなくなった人が、子どもも小学生になって時間が取れるようになったからと来てくれたりします。ボランティアの“来る者拒まず、去る者追わず、戻る者には温かく”みたいな、そんな活動場所に今なっていて、ゆるゆるとした活動を続けています。でも、そんなゆるやかさがあるからこそ続いているのかなとも思います」
活動を始めた最初の頃に掲げた目標は「無理をしないこと」だった。広大な代々木公園での活動だからこそ、作業自体もさることながら、休憩時間を大事にして、のんびり・ゆったりとした活動を心掛けている。ただそれでもだんだん人数が減っていくにしたがって、一部のメンバーに負担が集中してきてしまっている現状がある。何とかしたいと思っていたところに、今回のレンジャーズ・プロジェクトのようなサポートの話がいくつか入ってきて助かっていると話す牧野さんだ。
ガーデニングクラブのメンバーたち。
看板を見ながら、花壇の場所について説明。
レンジャーズ・プロジェクトのめざすところは、まさにこうした各地の団体が抱える課題の解決にある。代々木公園ガーデニングクラブに限らず、各地で自然環境保全を担ってきた団体では、会の創成期から関わってきた主要メンバーの精力的で力強い活動が大きな推進力となってきた反面、その活動を引き継いでいく次世代の担い手がなかなか育っていかないという共通の課題を抱えている。
一方、ボランティアとして参加する隊員たちにとっても、いきなり見も知らない団体の門戸をたたいて所属しようというのは敷居も高いし、定例活動日に合わせて予定を調整するだけの覚悟が十分に持てるかといった不安もある。
結果として、森や自然に関わりたいという思いは強いものの、はじめの一歩を踏み出せずに逡巡する人たちが多いのが現状だ。
レンジャーズ・プロジェクトは、そんな受け入れ団体と作業の担い手双方の問題を解決することで、新たな里山保全の仕組みを作ろうと構想されたものだ。この日のミッションも、クラブのメンバーだけだと普段はなかなかできない作業を、レンジャーズ隊員たちが加わって一気にやってしまおうというわけだ。
参加してみたいボランティア活動と、参加したことのあるボランティア活動。自然環境保護や緑化運動へのニーズが高い(1・2位)わりに、実際にはなかなかできていない(8・9位)ことがわかる。(レンジャーズ・プロジェクト事務局提供)
レンジャーズ・プロジェクトの仕組みとねらい。(レンジャーズ・プロジェクト事務局提供)
再び、取材当日のレンジャーズ隊員たちのミッション遂行の様子を見ていきたい。
この日の作業は大きく分けて2つあるため、2班に分かれて作業をする。一方の班は、リヤカーを引いて落ち葉溜めに向かい、落ち葉堆肥を袋に詰めて運んでくるのがその役割。他方、残りの人たちは花壇に直行して、枯れて茎がしおれた花の株を根っこごと掘り起こして、運んでくる堆肥をすき込むための準備をする。
堆肥班が公園奥の落ち葉溜め場に向かった後、花壇作業班は、まずは花壇の中の落ち葉を掃きならして、どこに何が植わっているのか確認できるようにする。花壇の手前には背の高いスイセンがスッと立ち、その奥にちょうど新芽を出しているへメロカリスの株がパッチ状に点在しているのが見える。このヘメロカリスの株を根っこごと掘り起こしていくわけだ。
へメロカリスという名前は初めて聞いたが、ツンツンと伸びる葉っぱは特徴的で、他の雑草などとの区別は明確だ。広がって張り出す根を切らないように、広めの範囲にスコップを差し入れながら掘り起こすと、根っこの先にややオレンジ味がかった楕円形の塊がいくつもつながっている。宿根と呼ばれるこの器官に栄養を蓄えることで、地上部が枯れても土の中で生き続ける。ユリの仲間の多年草で、初夏にオレンジ色の花を咲かせる。野生種では、ニッコウキスゲやノカンゾウ、ユウスゲなどが近い仲間として知られる。
掘り起こしたヘメロカリスは、花壇の外にまとめて置いて、あとで植え戻すという。
「緑色の新しいのが今年の新芽です。去年咲いた花も白っぽく枯れて残っているのがわかると思います。根っこごと掘り起こしてください。ヘメロカリスは、毎年花を咲かせてくれて、立派なんですよ。でも何年かに一度くらいこうやって土を変えてあげると、リフレッシュされて状態がよくなります。こうした機会にお願いしている作業です」
ヘメロカリスの株
一面落ち葉に覆われていた、作業開始時の花壇の様子。
ヘメロカリスの根元、気持ち広めにシャベルを差し込んで、根っこごと掘り起こす。
ヘメロカリスの根元には、楕円形の塊が付いているのが見える。宿根草といって、この塊に栄養分を蓄える。
掘り起こしたヘメロカリスは、花壇の脇に置いて、堆肥をすき込んだ後に植え戻す。
掘り返していると、ところどころ、へメロカリスとは雰囲気も葉っぱの形も違う草が生えているのに気づく。
「チューリップですね。背の低い、原種系の品種です。背の高い園芸用のチューリップは日本の気候だと球根が根腐れしちゃうので、1年草として植え替えますが、この品種は強いから年を越えて新しい花芽を出します。ほら、そこに赤味がかったつぼみが見えるでしょう。もうすぐ花が開くんじゃないですかね」
そう、ガーデニングクラブのメンバーが解説してくれる。おしゃべりしながら作業をしていると、ガーデニングクラブの人たちが花々を慈しみながら世話している様子が伺えるようだ。
土を掘り返していくと、ツンとした刺激臭がほんのりと香ってくる。土の中には、ちょうどBB弾ほどの真っ白で小さな球状の塊が見え隠れしている。開けた野原などに自生する野草のノビルだ。白い球根は、小ぶりながら、味噌をつけて食べると酸味と辛味が刺激的で意外にうまいという。
白くひょろっと伸びた根が出てくると、ドクダミの独特なニオイが漂う。地上の株は枯れてそれほどニオわないが、白い根からは思いがけずはっきりとしたドクダミ臭が感じられる。ノビルもドクダミも花壇の中では雑草だから小石などとともに抜き取って花壇の外に投げ捨てていく。
背の低い原種系のチューリップ。すでに赤味を帯びたツボミが顔を出し、もうすぐにも花が開きそうだ。
根元に白く小さな球根をつけるノビル。
へメロカリスの掘り起こしが完了すると、全体を20~30㎝ほど掘り起こしていく。こうして土を耕したところに腐葉土などを撒いて、花壇の外に仮置きしたヘメロカリスを植え戻すというのが、今回の作業の内容だ。
掘り返してすっかりきれいになった花壇。
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