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第74回「切られて捨てられている木を木工の材料に使うことで、新たな命を与えて生きかえらせる(しぶや木工塾が取り組む、小笠原母島のアカギ木工教室)」

東京から丸一日以上の船旅を経て到着する小笠原母島で毎年開催している木工教室

 東京港竹芝桟橋から約1000キロ離れた小笠原諸島の父島・二見港まで、約6700トンの大型貨客船「おがさわら丸」に乗って25時間半、今年6月に世界自然遺産登録から5周年を迎える小笠原諸島の玄関口に到着する。さらにその父島から約50キロ離れた母島・沖港までは、490トンの「ははじま丸」に乗り換えて約2時間10分。朝10時過ぎの出発から丸一日以上をかけた翌日午後にようやくたどり着く。7月からは、おがさわら丸・ははじま丸ともに現行船は引退し、大型化・高速化した新船の就航を開始する。
 母島に到着してすぐ、休む間もなく村立小中学校の技術室に道具を搬入して、さっそく夜の木工教室の準備がはじまる。
 遠路はるばるやってきたのは、講師役を務める「しぶや木工塾」のメンバーたち。父島で待つおがさわら丸が出航するまでの3日間、島中に分布を拡大して島固有種の森林生態系に深刻な影響を与えている“やっかいもの”のアカギを使った木工教室を実施する。
 2005年の12月に第1回の木工教室を開催して以来、ほぼ毎年実施してきたアカギ木工教室は、今年(2016年)2月12日~17日にかけての来島でちょうど10回目を迎えた。
 毎回、船便の到着・出発時間に合わせて実施しているアカギ木工教室のスケジュールは、概ね以下の通りになる。

1日目竹芝桟橋 朝10時発(おがさわら丸)
2日目父島・二見港 午前11時半到着(おがさわら丸)
父島 12時半発→母島14時半着(ははじま丸)
到着後に道具等の搬送及び木工教室の準備作業
19時~ 村立小中学校にて木工教室(3時間)
3日目木工教室(基本は午後~夜)
4日目同上
5日目母島・沖港 10時半発→父島12時半着(ははじま丸)
父島 12時半着(ははじま丸)
父島 14時発(おがさわら丸)
6日目竹芝桟橋 15時半到着(おがさわら丸)

 西葛飾にある「しぶや木工塾」の工房を訪ねて、第1回の小笠原アカギ木工教室から参加している関政泰(せきまさやす)さんと、古参メンバーの千野敏明(ちのとしあき)さん、入塾して3年目となる野松茂二(のまつしげじ)さんに話を聞いた。

小笠原母島で開催している木工教室の様子(しぶや木工塾提供)

小笠原母島で開催している木工教室の様子(しぶや木工塾提供)

小笠原母島で開催している木工教室の様子(しぶや木工塾提供)

製材所のない島で開催する木工教室、事始め

 しぶや木工塾が小笠原に関わるようになったのは、2005年12月にさかのぼる。当時、世界自然遺産候補になった小笠原諸島で、固有種の保護・保全のために駆除されていたアカギの有効活用策をさぐるための試みとして企画された「アカギ木工教室」の指導補助役に関さんが参加したのがきっかけだった。以来、12年間、環境省の実施する外来植物対策事業の一環として、ほぼ毎年開催している。現在は、関さんを中心にしぶや木工塾のメンバーが講師役を務めている。
 アカギは、名前の通り赤い材質の木だ。水分を多く含み、重くて堅く、割れや狂いも生じやすいから使いづらい材とされていた。しかも、島には製材所もないので、切り出した丸太から木工材料を用意するところから苦労が始まったという。
 木工教室の参加者は、木工道具を使い慣れている人たちばかりではない。むしろ道具の使い方から教えるから、ノミやカンナを中心にした手道具で作れる器づくりと箸づくりから始めることにした。
 参加者は、毎回新しい人たちが主体だ。母島は住民450人ほどの小さな島なので、毎回参加する人は多くはないが、参加者は皆、夢中になって一生懸命作っている。またそれとともに、アカギという木や小笠原の島内で起きている外来種問題について知ってもらうきっかけにもなっているのは、ねらい通りといえる。

アカギ木工教室で作った箸とスプーン。(しぶや木工塾提供)

アカギ木工教室で作った箸とスプーン。(しぶや木工塾提供)

子どもたちは、島の木の実の形を真似たバードコールを作った。(しぶや木工塾提供)

子どもたちは、島の木の実の形を真似たバードコールを作った。(しぶや木工塾提供)


木工教室の合間につくったベンチ。これらもアカギ材を使って作っている。(しぶや木工塾提供)

木工教室の合間につくったベンチ。これらもアカギ材を使って作っている。(しぶや木工塾提供)

 しぶや木工塾のメンバーたちは、木工教室の合間にベンチをつくって置き土産にしている。10回目を迎えて、船着き場には7台のベンチが並んでいる。これらもアカギ材で作った。

 今年2月の小笠原行きでは、もう一つ特別に依頼されたことがあった。それが「外来種除去装置」の製作だ。
 母島最南端の南崎など小笠原固有の陸産貝類がまだ豊かに残る自然度の高い地域では、遊歩道の入口にマットを置くなどして靴底の泥を落とし、新たな外来種を持ち込まないようにしてもらう。そのマット台とメンテナンス道具を収納するための箱が一体になったものをつくったわけだ。
 湿気の多い母島で長くもつようにと、デッキ材などに使われる人工木材で作ってほしいという依頼だった。
 島に渡る前に設計図に合わせて部材を加工して、仮組みまでしたうえで島に持ち込み、現地で組み立てて、設置した。

足拭き台と収納箱。湿度の高い小笠原の屋外で使うため、材料には人工木材を使っている。(しぶや木工塾提供)

足拭き台と収納箱。湿度の高い小笠原の屋外で使うため、材料には人工木材を使っている。(しぶや木工塾提供)

足拭き台と収納箱。湿度の高い小笠原の屋外で使うため、材料には人工木材を使っている。(しぶや木工塾提供)

一見すると緑豊かなアカギの森は、小笠原固有の自然が破壊された果ての姿

 ここで少し、小笠原諸島における外来植物・アカギと小笠原における駆除の現状等について紹介しよう。
 アカギは、トウダイグサ科アカギ属の常緑の高木で、樹高20メートル以上にまで生長する。中国南部や東南アジア、南西諸島などが原産で、もともと小笠原には自生していなかった。明治後期に導入されたのは、薪炭材利用を目的に試験的に植栽されたのが始まりだった。その後、放棄されて野生化すると、野鳥によって種が運ばれるなどして分布を広げていった。
 アカギは、他の植物の生長を抑えるアレロパシーと呼ばれる物質を放出して、排他的に占拠してアカギの純林を形成する。小笠原固有の生態系が破壊され、在来の動植物は存続の危機に瀕するなど甚大な影響を及ぼし、小笠原における外来植物の中でも特に侵略的な外来植物として、緊急かつ重点的な対策が求められてきた。日本生態学会が定める「日本の侵略的外来種ワースト100」の一つにも選定されている。
 これまでに侵入が確認されてきたのは、母島、父島、弟島、平島の4島。このうち弟島と平島では根絶しているが、最も猛威を振るっている母島では島全体の15%に侵入するなど分布域が広いのと、併せて民有地の地権者との連絡調整などの手続きにも難航し、根絶までの道のりはまだ遠い。
 アカギは切ってもすぐにヒコバエが生えてくるほど生命力が強いため、薬剤を注入して自然に枯らせることで駆除している。ただ、それだけではもったいないから、何か利用方法がないかということで、アカギ材を使った木材製品の可能性を探ることを目的に木工指導が始まった。さらに、島の至るところに繁茂して当たり前のように景色になじんでいるアカギの問題やその対策の必要性について普及啓発する副次的効果もめざしていきたい、そんな意図を込めたプロジェクトが、「小笠原アカギ木工教室」というわけだ。

薬剤によるアカギの駆除(母島)(2010年4月15日、版権:環境省)

薬剤によるアカギの駆除(母島)(2010年4月15日、版権:環境省)

アカギの実(2009年10月16日、版権:環境省)

アカギの実(2009年10月16日、版権:環境省)


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