第15号 市民が主役!仲間と共に学ぶ「府中かんきょう塾」
府中市環境保全活動センター(府中市)

農工大キャンパスで環境と農業の関係性を学ぶ
音のない小雨が降ったり、薄雲から障子を通したような日差しが届いたり変わりやすい天気となった9月13日(日)、府中駅と国分寺駅の間にある東京農工大学府中キャンパスで、市民を対象とした講座「府中かんきょう塾」が行われました。
年7回の第4回にあたる今回は、「環境問題と農業との関係~自然栽培が面白い理由~」をテーマに、東京農工大学大学院農学研究院の准教授、澤佳成さんが講師を務めます。
府中市環境政策課が事務局を務める組織「府中市環境保全活動センター」が主催し、同市の環境団体「かんきょう塾ネット」が運営協力しました。なお、センターという名称ですが、物理的な施設はなく、ホームページを活用しながらバーチャルで運営しています。

年間を通じて継続的に環境問題を学ぶ塾生と、農業に関心があって参加した市民など、41名が参加しました。普段の授業とは異なる内容を聞きに農工大生も来ていました。
澤さんは環境哲学、農の哲学、合意形成論を専門に、研究や学生を指導する合間に、キャンパス内にある畑(ゼミ生による通称は「さわ農園」)で2022年末からさまざまな自然栽培に挑戦しています。澤さんは「農学部の教員であるにもかかわらず、自然栽培のことを何も知らなかった!」と話し、今回はその研究内容や過程を惜しみなく教えてくれました。
畑の見学を控え、まずは教室内での座学です。
なぜ自然栽培なのか。世界的にも注目が高まっているのは、農業が環境に与える影響が大きいからだといいます。化学肥料や農薬の発明、農業資材へのプラスチック利用などの農業の近代化は、世界で増え続ける人びとのいのちを支えてきた半面で、地球温暖化や自然環境の悪化に影響を及ぼしてもきました。
そこで、澤さんは農業由来の環境問題を緩和する自然栽培に着目しました。

澤 佳成さん
自然栽培とは?
では、自然栽培とは何でしょうか。単に化学肥料と農薬を使わないことではなく、「環境保全型の農法」だといいます。明確な基準はなく、さまざまな解釈がある中、いくつか栽培法の紹介がありました。
(表中の「草マルチ」とは、刈り取った雑草を地面に敷くことを指し、雑草の抑制効果、土の保温・保湿効果、将来的に分解され土壌の肥料となる効果があります。)
| 農薬・化学肥料 | 耕すか? | 草マルチ | ほったらかす? | 畝 | |
| 環境再生型農法 | × | 耕さない | 刈った草を敷く | 自然の力で栽培 | × |
| 菌ちゃん農法 (糸状菌農法) | × | 最初だけ耕す | 2~3年目から 刈った草を敷く | 自然の力で栽培 | ○ |
| 大地再生農法 | △ (天然由来の活性剤) | 緑肥を倒すときにトラクターを使用 | 緑肥を折って 分厚い草マルチ | 活性剤の力は借りる | × |
※上記は、異なる農家による栽培方法です。(注1)
地域の気候風土や規模、土の状況によって栽培方法はさまざまですが、共通するのは「団粒構造」です。団粒構造とは、土の粒が適度にまとまり、小さなかたまりになることで、水や空気が通りやすくなった土の構造のことです。土の中にある「菌根菌」が粘着性の物質を出して、団粒構造を作りますが、これがいわゆる良い土です。菌根菌などの微生物が活躍できる土壌は、労力の少ない栽培方法=自然栽培で保てることが、事例からわかってきています。
自然栽培は農業がもたらす環境問題がなかった頃の畑の状態といえます。化学肥料や農薬を使わないことで土壌を保全し、生きものが棲める環境になるうえ、プラスチック製のマルチング(通称:マルチ)から草マルチに転換することでマイクロプラスチックの流出の心配もありません。
これまで雑草は刈ったり耕したりして畑の表面から除いてきましたが、長期的には有機物の減少をもたらし、土が悪くなるとも言われています。そのため、団粒構造を壊さない”耕さない”農業は理にかなっているというわけです。雑草対策は、草をビニール製のマルチ代わりに敷いて代用しています。
自然栽培の畑を見学
教室を出て数分の場所に畑がありました。府中キャンパスは、温室や乳牛関連施設なども含めて約半分を農場が占め、その一角がさわ農園になっています。手法の異なる自然栽培でキュウリや枝豆など約15種類の野菜を育てており、畑の広い範囲は、草が生えているか、刈った草が地面を覆っていました。

澤先生自身が自然栽培に挑戦中で失敗も多いそうですが、ここで育てたスイカが人生で一番美味しかったと話し、手応えと恩恵を肌で感じる場面があるようです。
畑を実際に見た後、参加者から質問が多くありました。一部抜粋します。
Q. 自然栽培はどのくらい普及している農法なのでしょうか。
澤先生:自然栽培の野菜の収穫高は日本で0.0数パーセントと言われています。その中でも工夫して、慣行栽培と変わらない収量を確保している農家もおられます。
Q. 日本の食料自給率は低いですが、自然栽培が広まれば、食料不足から脱することはできますか。
澤先生:日本の人口を日本の農地で支えられるか考えた場合、耕作放棄地を含めても足りないと言われています。都市に暮らす人でも週末だけでも農業する人がいるといいと思います。そうした場合、ある程度ほったらかせるタイプの自然栽培は有効になってくると思います。種の自給率は食料自給率よりさらに低く、9%ほどです。輸入できなくなる未来を学生にも話しますが、危機感を持っている人とそうでない人、受け取り方の違いを感じます。
参加者は「圃場に行けて面白かった。自分が栽培するときのイメージが膨らんだ」「普段から自然農法を実践しているつもりだったが、話を聞いて手をかけすぎていると感じた」と話し、実際に自然農法を取り入れていきたいという方もいました。
ここからは、設立15年を迎える「府中市環境保全活動センター」に迫るよ!

市民・事業者・行政の三者で変えていく意識
府中市環境保全活動センターは2011(平成23)年、環境保全に関する学習・交流・活動の場を提供し、市民などの環境保全活動を支援することを目的に、開設されました。同センターへの活動にはサポーターとして登録し、イベント運営への協力や環境学習の企画提案、広報活動への協力など、多岐にわたります。すべてに参加しなくても、得意分野を生かして興味や関心に応じて参加することができます。
中でも看板行事といえるのが「府中かんきょう塾」。同センター設立前の2001(平成13)年に「エコ・リーダー養成講座」としてスタートし、年5~8回ほどの講座を開催しています。2025(令和7)年度は全8回の講座に延べ200名が参加しました。かんきょう塾ネット(サポーター登録団体)が企画を考え、府中市環境基本計画に基づき、ごみ、農業、生物多様性など幅広い分野を学べるテーマを設定しています。
かんきょう塾ネット代表の杉村康之さんは「10年ほど前に学生時代の先輩に誘われて参加しました。テーマ選定に関わるのも面白い」と話します。
昨年から参加する男性は「会社員時代は同じような関心の人に囲まれていた。学ぶ面白さと異なる関心の人と会えるのが魅力」と話します。
府中市生活環境部環境政策課環境保全活動センター担当の青木大地主任にもお話を伺いました。
「コロナ禍で縮小した活動が2~3年前からようやく持ち直してきたところです。ですが、サポーター登録者の平均年齢は70歳を超えて、うち活動参加者は3分の1程度です。そのため、令和8年度は市民・環境団体関係者・事業者などを交えて今後の在り方を検討する『市民でつくる環境保全活動センター検討・アイデア会議』を全3回の構成で実施しています。ワークショップ形式で、新たなセンターづくりを模索しています。」
意見交換を通じてどのようなアイデアが生まれ実現するか、今後の活動が楽しみです。
ボランティア活動と聞くと奉仕や支援をイメージする方もいるかもしれませんが、自分がやりたいことや興味のあることを勉強する機会と捉えると、ぐっと自分事になります。環境保全活動センターはその願いを叶えてくれる場所かもしれません。日々の暮らしで気になっている身近な環境問題を学び、共感できる仲間と出会ってみませんか。
府中市環境保全活動センター
開 設
2011年12月
住 所
東京都府中市宮西町2-24 府中市役所 おもや3階
サポーター数
76名(令和7年度)
活 動 日
特定の活動日はなく、イベント等に応じて稼働
活動内容
環境に関する講座の開催、イベントの運営や企画、情報発信、サポーター養成と支援など
◆ 注釈
(注1)自然栽培の実践者は以下の通り。
・環境再生型農法:福津農園の松澤政満(愛知県) 日本テレビ『every.特集』(2024年2月24日)【大注目】水も肥料やらない!? 甘くて美味しい野菜ができる"耕さない農業"とは
・菌ちゃん農法(糸状菌農法):吉田俊道(長崎県)
・大地再生農法:レイモンド・エップ(北海道) レイモンド・エップ「大地再生農業ー与え、分かち合ういのちの世界」

