トップページ > 環境レポート > 第6回 港区:区民の森の整備によって搬出された間伐材を活用して、環境イベントで配布する啓発品を製作(みなと区民の森づくり)
2014.11.11
当プロジェクトの助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。
第6回は、港区が整備する「みなと区民の森」の間伐材を活用した普及ツールの製作・配布について紹介します。
手つかずだった森の整備・育成によって、二酸化炭素を吸収・固定して地球温暖化対策につなげようという「みなと区民の森づくり」事業。平成19・20年度で間伐作業は一段落し、その後は下草刈りや自然観察のフィールドとしての活用に移行していますが、間伐材を活用した啓発ツールの製作と、区主催の環境イベント等を通じた区民への配布が今年度も実施されました。
事業のねらいや啓発ツールの実際と併せて「みなと区民の森」の概要および活用方法などについて、担当者に話を聞きました。ぜひご一読ください。
あきる野市戸倉字刈寄谷(とくらあざかりよせだに)地区にスギ・ヒノキ植林を中心にした、あきる野市の市有林がある。手つかずのまま放置されていた面積約20haのこの森林を、港区が借り受けて、間伐や下草刈りなどの整備を開始した。港区とあきる野市の協定に基づく『みなと区民の森づくり』の始まりだ。
「事業が始まったのは、2007(平成19)年4月です。あきる野市とは、2005年頃から隔年で互いの地域を訪問する環境交流事業を実施しています。例えば、区内にドイツ大使館がありますが、環境先進国の取り組みということで施設を見学させていただいたり、海のないあきる野市民の皆さんにお台場海浜公園で干潟の生物観察や地引網やシーカヤックを体験してもらったり、六本木ヒルズの施設見学に招いたりしています。一方、港区の区民は秋川渓谷で魚のつかみ捕りや川遊びをしたり、紙すき体験や野菜の収穫体験をしたりと、都市部と山間部のそれぞれの特徴を生かした交流事業をしてきました。同じ東京でも環境が全然違うんですね。港区にも河川がありますが、とても入れるような川ではありませんから。そうした延長線上で開始したのが、みなと区民の森づくりの事業でした。大都会の港区は“コンクリートジャングル”と揶揄されるように、森と触れ合う機会は少ないものですから、自ら森を整備して二酸化炭素の削減に寄与しつつ、子どもたちの環境学習ができるフィールドを整備したい、そんな思いがありました」
そう説明するのは、港区環境リサイクル支援部環境課地球環境係の岡本和也さんと北野澤由香さん。話を伺った港区立エコプラザ(港区浜松町)は、区民の森の間伐材を活用して、天井や床や壁などの内装材とともに机やイスなどにもふんだんに使った、木のぬくもりに包まれた施設だ。
港区が整備をはじめる前の森は、手入れがされずに荒廃が進んだスギ・ヒノキの人工林だった。荒廃した森林は、樹木が込み入って森の中に光が入らなくなり、十分な生長ができなくなる。二酸化炭素の吸収・固定や酸素の供給、雨水の貯留・浄化や土砂の流出防止などの森林の多面的機能が十分に発揮されなくなるとともに、花粉の大量発生の原因にもなる。
みなと区民の森づくりの目的は、こうした森の整備を進めることで、森を元気にして、二酸化炭素の吸収・固定など森本来の機能を回復することで、都市部にある港区からの二酸化炭素排出量を相殺して、排出削減につなげようというもの。区民の森の整備・育成によって、年間約182tの二酸化炭素吸収を見込んでいる。
間伐前の「みなと区民の森」。木々が鬱蒼と生い茂り、林内は暗く込み入っている
間伐後の「みなと区民の森」。間伐前に比べて、明るく開けた様子がわかる
間伐作業の様子。作業自体は地元の森林組合に委託している
東京都心の港区から、山間部のあきる野市にある「みなと区民の森」までは、公共交通機関を乗り継いで約2時間、車でも高速道路経由で1時間50分ほどかかる。
環境課地球環境係では、区民の森や周辺地域をフィールドに、年間10数回の環境学習講座を開催している。区民を対象に、港区役所からバスをチャーターして出かけていき、都心ではなかなか体験できない林業体験や動植物の観察などを通じて自然と触れ合い、森の生長過程を観察しながら、自然の大切さを学ぶ機会にしてもらおうというものだ。
区民の森のエリア内には清流「刈寄川(かりよせがわ)」も流れ、ヤマメやサワガニなどの姿も見られる。間伐材をふんだんに使った拠点施設も設置し、作業や休憩スペースに使っている。
「環境学習講座は港区役所からバスをチャーターして行くため、定員40人ほどで実施していますが、だいたい定員オーバーになって抽選しています。地球環境係からも毎回必ず1名以上の引率がついていますが、区民の皆さん、特に子どもたちと直接触れ合う機会として貴重な経験です。朝来た時と帰るときでは顔付きが変わってくるのです。リピーターも多く、顔見知りになって、『この前、広報番組に出ていたでしょ』などと声をかけられたりします。結構、区の情報をキャッチしてくれている人が多いんですね。区の広報誌で募集していますが、細かい記事を毎回チェックしていて、楽しみにしてくださっているようです」
区民公募の講座以外にも、児童館や保育園など施設による利用も昨年度は24回ほど実施した。現地の対応は、地元のNPO法人あきる野さとやま自然塾に講師をお願いしている。プログラムの内容は、植樹体験とミニ登山、里山散策や炭焼き体験など、季節に応じた組み立てにしている。
区民の森担当になって天気予報、特に台風情報などが気になるようになったと岡本さんは言う。
「ここ数年はだいぶ地盤も固まって落ち着いてきていますが、整備をはじめた頃は台風の被害を受けて山が崩れたこともありました。委託先のNPOに現地のパトロールもお願いしていますが、台風の都度、現地に問い合わせて安全の確認をしています。今年のように何度も台風の直撃があると、強風や大雨で木が折れたり土砂崩れがあったりしないかと心配になるんです」
沢散策と川魚のつかみどり
広葉樹の苗木の植樹体験。植樹の一連作業を通して、森の仕組みと林業の大切さについて学ぶ
みなと区民の森環境学習施設には、炭焼き窯も設置してあり、炭焼きも体験できる
間伐作業自体は2007~08年(平成19・20年)の2か年で終了し、今は伐(き)れる木がない状態になっているため、森に入るのも自然観察が主になっている。
「当時は、かなり大々的に間伐しました。この先10年くらいのスパンでもう一度くらい間伐する必要があるそうなんですが、ここ数年間は下草刈りなどの育林作業になります。数年前に切った間伐材は、すぐ隣の檜原村にある森林組合の倉庫にストックしてもらっていて、区有施設などの内装材などに加工して、活用してきました。ここ港区立エコプラザでも、天井、床、壁などのほか、机やイスにも間伐材をふんだんに使っています。その他、公園の補修で使ったり、区立保育園で使う木のおもちゃなどを作ったりもしました。今はだいぶストックも減ってきて、内装材などに使えるような大きな材はもうありません。今は、残った端材などで、啓発用のツールを作ってイベントなどで配っていますが、それもそろそろ底を尽きそうです」
間伐材から作った啓発ツール。写真の左前列から、マウスパット、ウチワ(裏)と箸、携帯ストラップ、まな板、後列左からウチワ(表)、携行鏡(丸型・角型)。係内でアイデアを出し合い、加工場にイメージを伝えて製作している。
今回、約1m3分を使って作ったのが、間伐材ウチワだ。4,000枚ほど製作し、5月のエコライフフェアMINATOで配ったり、環境学習のツアーに出かけるときに渡したり、夏の打ち水のイベントなどでも配布したりした。
「夏場にいろんなイベントを実施していますが、そんなときにこの間伐材ウチワをお渡しすると、その場で使ってもらえて、興味を示していただけるんですね。それで区民の森の紹介や、森の整備と間伐材の活用の話をするきっかけになりますから、啓発ツールとしてかなり役立っています」
写真で紹介したもののほかにも、シャープペンやボールペン、冷蔵庫などに貼り付けるマグネットなどもこれまで作成してきた。係内でアイデアを出し合って、加工場にイメージを伝えて製作してもらう。まな板は一端に回転式の台座を設置してあり、独立して立つようになっている。主婦の意見を取り入れて作ったものだ。2007年度に間伐してからずっと作ってきているから、これまでにさまざまなアイテムが誕生してきた。
日本の森が荒廃している背景には、国産材の需要低下が指摘される。1955年に94.5%もあった日本の木材自給率は、1965年には71.4%、1980年には31.7%へと低下し続け、2011年時点で24.0%にまで落ち込んでいる。コストがかさむうえ、販路がなくなっていき、適正な伐採もされないまま放置される森林が全国各地で増えている。
みなと区民の森づくりのパンフレットでも、森林の荒廃への対策として、(1)「植える」→(2)「育てる(間伐や枝打ちなどの手入れをする)」→(3)「上手に使う(木材の利用促進)」というサイクルを回し続けていくことの必要性を説いている。
そんな思いを込めた、間伐材を活用した啓発ツールの製作というわけだ。
この日話を伺った港区立エコプラザも、みなと区民の森の間伐材をふんだんに使っていて、木のぬくもりに溢れている。
港区では、区有施設における間伐材の活用から発展して、区有施設だけにとどまらず民間の建築物等でも国産木材の使用を推進している。
「“みなとモデル”と呼んでいる制度があって、この事業から派生したというわけではないのですが、趣旨は国産木材の利用を活発にという意味で、港区内にある民間の建築物等にも国産木材の利用を促すものです。2011年10月1日の開始で、建築物を造るときに使用された国産木材量に相当する二酸化炭素固定量を港区が認証する制度です。この制度では、伐採後の再植林を保証する協定を港区と結んだ自治体の木材を推奨しています。2013年度末時点で69もの自治体と協定を結んでいて、10月31日にさらに7自治体増えます」
正式名称は、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」。区内に建てられる建築物等に国産木材の使用を促すことで、区内の二酸化炭素固定量の増加と国内の森林整備の促進による二酸化炭素吸収量の増加を図り、地球温暖化への貢献をめざすという意欲的な制度。この制度自体は地球環境係の所管ではないが、みなと区民の森づくり事業や間伐材活用の取り組みの延長線上から生まれたものといえる。
対象となる建築物は、延べ床面積5,000m2以上のもので、着工前に「国産木材使用計画書」の提出を義務付けるとともに、床面積1m2につき0.001m3以上の国産材の使用を求めて、その使用量に相当する二酸化炭素固定量を認証するというものだ。5000m2未満の建築物でも自主的に取り組むことで認証書の発行を受けることができる。
区民の森のように自ら整備する森林を増やすのには限界もあるが、そうして得た森の現状に対する理解と実感をもとに、全国各地の森林整備や木材利用につながる事業を進めることで、日本の森を守り、地球温暖化防止に貢献することになる。
啓発ツールの配布や環境学習事業を通じて、そんな森の問題や港区の取り組みの背景について理解してもらえるよう呼びかけていきたいという岡本さん、北野澤さんだ。
話を伺った港区環境リサイクル支援部環境課地球環境係の北野澤由香さん(左)と岡本和也さん(右)。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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