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2015.01.23

第8回日の出町:都会に残る自然空間を軸にした、里山保全及びごみ減量への取り組み

 当プロジェクトの助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。
 第8回は、日の出町の取り組みについて紹介します。助成事業としては、ダンボールコンポスト等の普及事業や資源回収補助など主にごみ減量対策として実施していますが、今回は特にちょうど今、日の出町で基本計画づくりに取り組んでいる「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」とその整備状況についても併せて紹介します。
 同公園は麓のバス停から、ほんの30分ほど歩けば尾根の上まで登りきることができる、里からほど近い山林です。尾根上は細く伸びた木々が眺望を遮っていますが、所々開けた場所もあって、JR五日市線沿いに発達する市街地の広がりが眼下に広がります。今まさにその活用の仕方について検討しているこの里山林の整備状況と、ちょうどごみ有料化がはじまって変革期に差しかかる同町のごみ減量対策についてお送りします。

 ぜひご一読ください。

かつて薪炭林として使われていた里山の再生

バス停から徒歩5分ほど、「(仮称)野鳥の森・こども自然公園入口」の標識が見えてくる

バス停から徒歩5分ほど、「(仮称)野鳥の森・こども自然公園入口」の標識が見えてくる

 JR福生駅からバスで約20分、圏央道の高架道の下をくぐってすぐのバス停「尾崎」で下車してほどなく、「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」の看板と標識が見えてくる。かつて“ぼうず山”と親しまれていたこの里山林は、30~40年前までは薪炭林として日々の生活の中で活用されていた。その後、使われなくなって荒れていた山を、日の出町が買い上げて、平成21年度から昔あった古道をもとに散策道の草刈や33か所の道標の設置を開始し、安全に利用できるように整備してきた。“公園”とはいえ、遊具や施設が作ってあるわけではない。貴重な自然環境を保全するとともに、自然豊かな里山林の素晴らしさを満喫する場にしようというのが目的だ。

 散策道には入り口が4か所あって、途中で分岐しながら、総延長距離は約10㎞になる。麓から尾根上までは概ね20~30分ほどと軽いハイキング気分で里山の中の散策を楽しめる。
 「尾根上は木々が大きく生長しているため眺望はききませんが、所々に開けた場所もあって、展望台として整備しています。天気の良い日には富士山や陣馬山の眺望が楽しめたり、大岳・御岳・日の出山など奥多摩山塊が見渡せたり、眼下に市街地が広がったりするのを見ることができます。名称に(仮称)が付いている通り、本格的な森づくりはこれからになります。平成26年3月に基本構想を策定して、ちょうど今、具体的な保全や活用の方策等について検討を進めているところです」
 説明してくれたのは、日の出町まちづくり課都市計画係の佐藤太郎さん。基本構想ができて、今は構想を具体的に進めていくための基本計画の策定を進めているところだ。正式名称の決定、トイレや管理棟といった施設整備など、具体的な計画に合わせて検討していきたいという。

きれいに整備された散策道を登っていくと、20分ほどで尾根に出る
きれいに整備された散策道を登っていくと、20分ほどで尾根に出る

尾根から望む、平井市街地
尾根から望む、平井市街地

近隣の小学校の児童たちが植林した苗木
近隣の小学校の児童たちが植林した苗木

市街地に近い“みどり”として、里山の恵みを生活に取り入れられるような拠点施設をめざして

 草花丘陵【1】の一端、町東部に位置する(仮称)野鳥の森・こども自然公園。周辺は、北に都立羽村草花丘陵自然公園(1,335ha)、南に都立秋川丘陵自然公園(553ha)など類似の大規模な里山緑地が連なる、関東山地の東縁部にあたる。
 かつて昭和の終わりから平成初頭にかけて、この地で大規模住宅開発が計画されたが、バブルの崩壊とともに計画はとん挫。土地の買収を進めていた企業がその後倒産して、競売に出されることになったこの土地を町が購入したのは、平成20年10月のことだった。
 町では、宅地開発ができなくなった土地の利用と管理のあり方について、地域の合意形成を図りながら住民参加による検討を進め、自然環境活用拠点として活用していこうと打ち出したのが、「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」構想だった。

「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」散策マップ

「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」散策マップ
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 基本構想では、『誰もが豊かな里山の恵みを楽しみ交流が促されるエコツーリズムを通じた豊かな里山の継承と持続的な地域活性化』を基本理念としている。これを踏まえて、上流から下流までの変化に富んだ景観や自然を一体的に楽しむとともに、水環境や生き物の生息地となる尾根に囲まれた流域をもとに4つのゾーンに区分して、基本方針に沿った具体的な展開を図っていくことをめざす。
 「散策路の整備をして、歩けるようになって、それなりに利用者もいらっしゃるようです。一方、過去の調査からは里山の動植物が生息・生育している形跡が見られます。サンショウウオなど希少種も生息しているようですが、それらの水棲動物を捕食する外来種も増えていて、どう対応するかが課題になっています。市街地に近いみどりですから、里山の恵みを受けながら生活してきたかつての暮らしについて捉えなおすような活用につなげるとともに、観光の拠点にもしていきたいと思っています。そんな活用イメージにふさわしい名称についても、これから議論していく予定です」

広域における周辺地域資源(基本構想より)

広域における周辺地域資源(基本構想より)
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 活動の拠点となる施設等の整備についても、現在、基本計画づくりの中で規模や内容、位置などを含めて検討が進んでいる。トイレなどのインフラは最低限必要になってくるし、管理などのための資機材の収納スペースなども必要だ。その上で、基本構想では、地域の自然や歴史などの魅力について発信し、地域の人たちと来訪者が憩い交流できる場となる「情報・交流拠点」、水田跡地を利用した農体験や、緩傾斜地で自然素材を生かした森の中の遊び場や雑木林の生き物とふれあうための「体験活動拠点」、沢沿いに水辺の生き物の保全や環境学習のための「保全活動拠点」などの整備について言及している。全体として想起される活動例としてあげられた、町民ボランティアの参加型調査やガイド付きエコツアー、探鳥会やシンボルツリー探し、道や坂のネーミングと散策路の設定、周辺農家などとの地域連携、大規模商業施設や温泉施設などを含めた町内観光連携、見どころマップづくりや花暦づくりなどの活動を展開していくには、それにふさわしい拠点施設等も求められる。

近隣地域の特性(基本構想より)
近隣地域の特性(基本構想より)
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四季折々の魅力を活用したイベント案(基本構想より)
四季折々の魅力を活用したイベント案(基本構想より)
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都会に残る自然空間ゆえ、最終埋立処分場として切り拓かれる山林

 日の出町は町域の実に約70%を森林が占める自然豊かな地域。そんな豊かな自然環境の一部を、里山林として保全・活用するために整備するのが「(仮称)野鳥の森・こども自然公園」というわけだが、一方で都内に残された自然空間として別の使い方がされることもある。その一つに、日々の暮らしの中から排出されるごみの埋立処分場としての使途がある。
 日の出町では、同町大久野字玉の内にある二ツ塚処分場で、多摩26市町から排出されるごみを受け入れ、セメント化処理によって再生資源を生み出すとともに、山林を切り開いた処分場で不燃ごみや焼却灰の最終埋立処分を行っている。同処分場の稼働前にも、平成10年に埋立を終了した谷戸沢廃棄物広域処分場(日の出町大字平井字谷戸)に埋立処分がされてきたが、これらの処分場に、日の出町内から排出されるごみは搬入されていない。日の出町のごみは、隣接するあきる野市にある第2御前石最終処分場(西秋川衛生組合)に搬入され、あきる野市・日の出町、檜原村及び奥多摩町の1市2町1村のごみを処分している。そして、多摩地域にある内陸型埋立最終処分場は、この2か所だけしかない。

 埋立処分量の削減による処分場の延命を目的に、各地でごみ減量の取り組みがされている。日の出町でも、町内会やPTAなどが実施する資源集団回収の推進事業を始め、家庭で生ごみを処理するためのダンボールコンポストの提供や家庭用生ごみ処理機の購入費補助などを実施して、町内のごみ削減をめざす。
 「日の出町では、2014年春からごみ有料化を開始しました。日の出町のごみは西秋川衛生組合で処理していて、搬入量に基づいて負担金を支払っています。それをどれだけ減らせるかが課題になっているんです。ごみの総量をこれ以上減らすのは容易ではありませんから、まずは出た中からどれだけ資源に回せるかというところを今年は重点的に広報しています。紙や布類などを可燃には入れず、資源として出してもらうなど、資源化に向けて協力を呼び掛けています。生ごみ処理機の購入補助やダンボールコンポスト、集団回収の補助事業などはそうした取り組みの一環としてやっているものです」
 そう説明するのは、生活安全安心課環境係の木﨑洋美さん。所属係ではごみ関係や環境啓発、犬猫対応や公害関係などの業務を担当している。  各家庭から排出されたごみは、回収されて清掃工場に持ち込まれ、分別後に一部を資源として回収し、残りの大部分が焼却されたあとに最終処分場に埋め立てている。処理の過程でかかる費用は、年間で約2億5千万円。これを町民1人1日当たりに換算すると、約42円になる。その一部を、有料化によって負担してもらうことで、ごみの減量化に積極的に取り組む人とそうでない人との間での公平性を図り、ごみ発生抑制をめざすわけだ。

集団回収の様子
集団回収の様子

集団回収の様子

産業まつりでダンボールコンポストやエコバッグを配って、ごみ削減を呼びかける

 ダンボールコンポストやエコバッグは、毎年11月の第1土曜日・日曜日の2日間にわたって開催している「日の出町産業まつり」などを中心に配布した。会場は、平井川沿いの町民グランドで、日の出町の地場産業ブース・日の出町の友好都市のブースや多くの飲食店ブースなど約100店が立ち並ぶ。ステージでは歌や踊りなども催され、毎年8千~1万人ほどの来客があるという。
 環境係では生ごみ処理機の購入補助事業も実施しているが、これまであまり利用がなかったこともあり、2014年の産業まつりでは、生ごみ処理機に対する興味や需要について、アンケートをとって調査した。アンケートに参加してもらった人にはレジ袋削減を目的に作成したオリジナルのエコバッグを配布して、ごみ減量をアピールする。
 当日はあいにくの雨天模様だったこともあり、ダンボールコンポストは予定していた個数が配布しきれず、現在も役場の窓口前に置いて、役場を訪れる人に配布しているという。ダンボールコンポストは、容器となるダンボール箱と土(専用コンポスト基材)、虫よけネットがセットになっている。ごみを入れる都度、土を被せて混ぜ込む。分解力が強く、投入した生ごみの質量は10分の1になるという。箱ごと覆える虫よけネットを被せて、3~4ヶ月間、ごみを投入していく。
 「毎年、エコバッグやダンボールコンポストは人気も高く、産業まつりに出すとすぐになくなっていましたが、今回は雨天だったこともあって、ダンボールコンポストの方が配り切れなかった残りが結構ありました。これらは役場の窓口に保管していて、転入者の方などに声をかけて配っていますが、“庭付き一軒家だからいらない”という方も多く、まだ残部があります。ダンボールなので、使用期限の目安は3~4ヶ月くらいと限定的ですが、いきなり生ごみ処理機を購入するのはハードルも高いので、まずはダンボールコンポストで試してみて、自分に合っていると思えば、生ごみ処理機の購入費補助を利用していただくように、つなげていってもらえればいいかなと思っています。アンケートに回答してくれるような人だからということもあるかもしれませんが、アンケート回答からは生ごみ処理機に興味も関心もあるとの結果が出ています。ぜひ多くの方々に活用していただきたいと思っています」

産業まつり2014の出展ブース。ダンボールコンポストの配布と、アンケート回答者にエコバッグをプレゼント

産業まつり2014の出展ブース。ダンボールコンポストの配布と、アンケート回答者にエコバッグをプレゼント

産業まつり2014の出展ブース。ダンボールコンポストの配布と、アンケート回答者にエコバッグをプレゼント

役場の窓口前に置かれたダンボールコンポスト
役場の窓口前に置かれたダンボールコンポスト

 ごみ有料化が導入されたこともあって、ごみの回収量は減っている。ただ、これまでは産業廃棄物として処分していた福祉施設から出る紙おむつを可燃ごみとして受け入れるようになって、その分が統計上は増えている。
 ごみ有料化が導入されて、ごみ袋が高くなったと苦情が寄せられている一方で、戸別回収になったことで“家の前に出せるようになってよかった”とわざわざ声をかけてくれる人もいるという。有料化を導入することになった意味を理解してもらい、ごみ削減に向けた地道な呼びかけをこれからも続けていきたいという木﨑さんだ。

お話を聞いた、日の出町生活安全安心課環境係の木﨑洋美さん(左)と、まちづくり課都市計画係の佐藤太郎さん(右)

お話を聞いた、日の出町生活安全安心課環境係の木﨑洋美さん(左)と、まちづくり課都市計画係の佐藤太郎さん(右)

脚注

【1】草花丘陵
 東京都西部、あきる野市草花から日の出町北部にかけて帯状に広がる標高200~300mの丘陵。多摩川の南岸に沿って連なり、マツや雑木林に覆われた一帯は、羽村草花丘陵都立自然公園に指定されている。
 円形の尾根は、麓からみるとこんもりとした森のように見え、尾根上からは関東平野を一望することができる。

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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。