トップページ > 環境レポート > 第12回 青梅市:地域で親しまれている川における幼少時の体験が、大人になって次代へ引き継ぐ意思と行動につながることを願って(おうめ水辺の楽校(がっこう)の取り組み)
2015.06.05
当プロジェクトの助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。
第12回は、青梅市と市民団体が協働で進める「おうめ水辺の楽校」について紹介します。
平成24年7月に開校式を開催して、今年度は4年目を迎えているこの取り組み。夏の期間を中心に年10数回のイベントを開催して、延べ数百人もの参加者を数えています。
イベントの概要と協働で実施している各市民団体の特徴、事業を通じてめざすところなど、豊かな水資源に恵まれた青梅市ならではの事業展開について、ぜひご一読ください。
生活排水の流入もあって、かつて「死の川」と呼ばれることもあった多摩川は、下水道の普及・整備とともに水質が改善し、近年は毎年春先に数百万尾もの稚鮎の天然遡上も確認されている。
大正2年に日本で初めてアユが放流されたのは、実は青梅市内の河原からだったという。青梅市大柳町にある釜の淵公園に建てられた記念碑には、その経緯が記されている。
曰く、「…日本最初の放流地奥多摩川大柳河原を記念するため奥多摩漁業協同組合を中心とした全国同好のもの多数の浄財により若鮎の像を建てました(昭和四十八年二月二十日 若鮎の碑建設委員会)」。
月日を経て、今日、多摩川上流域の青梅周辺では、途中に複数箇所ある取水堰が妨げになって、まとまった数の遡上は見られていない。昨年度(平成26年度)、羽村取水堰~御岳の区間で確認された標識アユ【1】は、わずかに18尾と報告されている。標識なしのアユやそもそも釣られずに戻ってきているアユもいると思われるが、下流域で確認される遡上数と較べると歴然としている。
より多くのアユが青梅に戻ってきてほしいという願いを込めて、5月10日(日)に開催されたのが、『がんばれ!あゆっ子2015 稚鮎の放流と多摩川生物の生態系調査』。青梅市環境政策課が事務局を務める「おうめ水辺の楽校」の親水事業の一つに位置づけられたもので、毎年この時期に開催している恒例のイベントだ。青梅市環境政策課管理係の担当者に話を聞いた。
「平成24年7月に開校式を迎えた『おうめ水辺の楽校』は、市内を中心に親水活動に取り組む4団体と市が協働で実施する事業です。昨年度は夏季を中心に年間11回のイベントを開催し、のべ人数716人もの参加がありました。今年度も、アユ放流のイベントを皮切りに、全10回のイベントを予定しています。毎回、参加する子どもたちが生き生きと楽しんでいる様子がとても印象的です。保護者の皆さんもよい表情をしていますね」
がんばれ!あゆっ子2015のアユ放流と集合写真
青梅市は、多摩地域西北部の都市で、都心部からは西へ40~60km圏に位置する。秩父多摩甲斐国立公園の玄関口に当たり、市域の約6割を占める豊富な森林と東西を貫く多摩川は、市民に憩いと潤いを与えるとともに、首都圏における観光・レクリエーションの場として賑わいをみせる。
『おうめ水辺の楽校』は、多摩川および荒川水系の豊かな水という地域資源を生かして、子どもたちが自然と環境の大切さを体感することができる機会の充実を図るとともに、豊かな人間性を育むことをめざす取り組みだ。
環境政策課では、平成20年に市内の川の活動をしている団体との間で「水辺連絡会」を設置し、23年度には『青梅市子どもの水辺協議会』を立ち上げて親水事業を実施してきた。翌24年2月、文科省・国交省・環境省の連携による『子どもの水辺再発見プロジェクト』に沿って『おうめ水辺の楽校』を登録し、同年7月に『おうめ水辺の楽校』開校式を開催している。
運営に当たっては、市民団体、地域の行政、教育関係機関等からなる運営協議会を設立し、毎年4月の総会で年間計画や予算の審議・承認を経て事業を展開している。
「協議会ができて、市内で川の活動をしている団体との横のつながりが、今だいぶできてきています。イベントも当初よりいくつか増えてきていますし、切り口を変えて実施しています。そうした事業の広がりも出てきていますし、各団体でお互いに手伝ったりイベントに参加したりもしていますから、相互交流という意味で大きな効果が生まれてきていると思います。これまではどうしても、各団体が単独で実施してきていましたから、個人的なつながりはあったものの、一堂に会する機会などはありませんでした。協議会をきっかけに交流はかなり盛んになったと言えます」
平成24年7月のおうめ水辺の楽校開校式のテープカットの様子。
開校式後には、第4回多摩川まるごと遊び塾を開催。写真は、開始前の集合写真。
【表】26年度おうめ水辺の楽校親水事業一覧
※クリックでPDFが開きます(PDF:111KB)
平成26年度に開催した、「おうめ水辺の楽校」運営協議会の主催イベント(全11回)は、右表の通り。
協議会を構成するのは事務局の青梅市と、NPO法人奥多摩川友愛会、青梅・多摩川水辺のフォーラム、霞川くらしの楽校、美しい多摩川フォーラムの4団体。各団体は、設立の趣旨や経緯、活動内容も異なる。
「NPO法人奥多摩川友愛会は、もともと漁業組合関連の団体で、釣りの愛好者が作った団体です。子どもたちに釣りを体験してもらい、川や魚を通して青梅の自然を感じてもらう活動をしています」
7月の『やってみようか昔懐かしい子どもの釣り体験教室』は、子どもでも簡単に釣れる方法で魚釣りを体験してもらう。河原の石をひっくり返して見つける川虫をエサにして、エサ捕りから始める釣り体験だ。10月の『親子魚釣り体験教室』は、御岳渓谷の管理釣り場でマスを釣る。親子で参加してもらうことで、親子の共体験や絆づくりを重視している。
「お父さんが子どもに教えるということって、今の時代なかなかないですよね。親子で参加してもらうことで、お父さんにいい恰好をしてもらおうという意図が実はあるんです。われわれの子どもの頃って、お父さんの威厳が強くて、お父さんから教わることも多かったと思うんです。そんな親子のコミュニケーションのきっかけにしてもらいたいと思っています」
やってみようか昔懐かしい子どもの釣り体験
御岳渓谷での親子魚釣り体験
「青梅・多摩川水辺のフォーラムは、7月に『ガサガサ水辺の探検隊』、9月には『多摩川まるごと遊び塾』と、水辺の生物を捕ったり、いけすに放流した魚をつかみ捕りして焼いて食べたりして、子どもたちに川で遊ぶ体験をしてもらいます。それとともに安全教育を重視した活動をしているのが特徴です。川の中の危険箇所、足回りや服装などの注意事項などについて、講師が紙芝居などで伝えていくんですね。サンダルを履いて川に入ると、脱げて流されたときに取り戻そうとして溺れることが多いので、川に入るときにはそもそもサンダルを履かないこと、仮に脱げて流されても追いかけないことなどを伝えるとともに、保護者にもサンダル等をなくして泣いて帰ってきても怒らないでほしいと伝えています」
説明のあとは、実際にライフジャケットを装着して、川に入って飛び込んだり泳いだりと、ダイナミックな川遊びをしている。
ガサガサ水辺の探検隊
「外来種も結構捕れているんですね。そんな多摩川の状況も伝えています。それと、この団体は水辺の楽校以外でやっている事業もあって、植物や野鳥観察などもしていますから、多摩川の生物全般についてもよく調べています。近くの小学校とのかかわりも強く、そこのPTAの協力もあって、学校の先生やPTAの参加が多いのも特徴のひとつです」
多摩川まるごと遊び塾
美しい多摩川フォーラム(事務局は青梅信用金庫)は、“多摩川”をシンボルに掲げ、「美しい多摩づくり運動」を展開している団体である。青梅市内だけでなく、多摩川本・支流域全体での活動を展開している。おうめ水辺の楽校としては、『子どもカヤック体験教室』と『炭焼き体験と水辺の交流会』を協働で開催している。
「カヤックというのはカヌーのことです。青梅はカヌーのメッカで、平成25年の東京国体ではカヌー競技の会場になっています。このイベントは、子どもたちにもカヌーを体験してもらおうと実施しているものです。みんなたいていは初めてのカヌー体験ですが、すぐにコツをつかんでスイスイ漕いでいきます。8月の『炭焼き体験と水辺の交流会』は、フォーラムさんが奥多摩フィッシングセンターの近くに建てた手作りの炭焼き小屋で、竹炭づくりを体験し、竹を割るところから、窯に詰めるところまで行い、炭を焼く間、川で魚をつかみ捕りして、捕った魚をさばいて、竹炭を利用して焼いて食べたり、ライフジャケット浮力体験をしたりする親子参加型のプログラムです」
子どもカヤック体験教室
炭焼き体験と水辺の交流会の参加者たち
4つ目の霞川くらしの楽校は、荒川水系の支川で市内を流れる霞川を舞台に活動している団体である。霞川は、防災対策としてコンクリート擁壁の2面張りの護岸工事をしていて、普段は立ち入れないようにフェンスで囲われている。そこを開放して遊んでもらおうとして活動をしている。この団体は、川を始め霞川流域の畑や山で多種多様な体験活動を一年を通して実施しているが、おうめ水辺の楽校では、川に関する活動を協働で開催している。
「昔、私たちが幼少期にしていた川遊びを今の子どもたちにも体験してもらおうという活動です。かつて、街中の小さい川で、網や虫かごを持って遊んでいた、そんなイメージの川遊びです。まわりには畑と田んぼもあって、実際に農業用水も取っている川ですから、本当に昔私たちが遊んでいたような街の中を流れている身近な川です」
霞川は護岸につけられたハシゴから河原に下りるようになっていて、入りやすいアプローチがない。このような事業をなるべく多く企画して、身近な川に親しんでもらいたいと活動している。一年中、自由に遊べる環境をつくっていきたいというのが団体の願いだという。
いかだで遊ぼうin霞川。いろんな材料を用意しておいて、それぞれが工夫を凝らした手作りのいかだをつくって、川下りを楽しむ。
霞川は、普段の水量が少ないため、西多摩建設事務所の協力により、土嚢を積んで堰き止めている。
溺れたときの対処方法を、消防署員の指導のもと、子どもたちが自ら体験。
青梅市では、平成27年3月に第2次環境基本計画が策定された。平成27年4月1日から平成36年度末までの10年間を計画期間に、青梅市の環境特性を生かした環境への関わり方を見直した計画である。
その目標達成に向けた施策および環境行動指針の一つとして『自然と親しめる水辺の再生と創出』が示され、水辺空間の整備とともに、親水事業の充実が明確に位置付けられている。
「親水事業は、改定前から重視してきた施策の一つです。自然と親しめる場をつくっていくということを続けていくことで、川や水、動植物への慈しみの気持ちが生まれてくることを期待しています。水辺空間を整備しても、もしそれが使われなければ、地域に根付いたものにはなりません。親水事業を充実させていくことはとても重要なのです」
平成27年3月に改定された第2次青梅市環境基本計画の表紙と、基本方針および取り組みの方向性
イベントでの体験を通じて、普段の遊びの中でも川遊びをする機会も増えていく可能性はある。
「今はまだそれほど目に見える変化はありません。川の中で遊ぶ子がものすごく増えたかというとそうとも言えません。ただイベントに参加して川で遊ぶ体験を持つだけでもいいと思います。子ども時代に体験したことが、心の中に育っていって、大人になったときに、環境への意識を持ったり、理解したりすることがあればいいと思っています」
「自分が親になった時、こういう体験をしていれば子どもに言えるじゃないですか。体験していないと、引き継げないんですよね。昔は親御さんが川で遊ぶ時はこうだとお子さんに教えてましたよね。それがいま希薄になってきてますから、こういうイベントを通じて教えていくことも必要になってきているのかなと思います」
事業自体は、細かな点で変えていくことはもちろんあるものの、基本的な方向性としては、同じことを毎年やることになる。
同じ事業を続けることがいいのかと議論になることもあるというが、やっている方は変わっていなくても、参加者の子どもたちは年々変わっている。初年度に2年生だった子は4年の月日が経って6年生に、6年生だった子は高校生になっている。そう考えると、新しいことを打ち出していくのとともに、続けることが必要な事業もあると気持ちを新たにしているという。
親水事業を進めると同時に、イベントでは毎回安全指導を必ずしている。川で遊ぶ上で、川の怖さもきちんと伝えていこうというわけだ。
「安全にしていれば安全に遊べるんだけど、ちょっとしたことで危険なものに変わってしまうということは教えています。それを踏まえて、川で安全に遊んでほしいと思っています」
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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