トップページ > 環境レポート > 第13回 檜原村:森林資源に恵まれた地域だからこそ、環境について発信していく意味がある ~村域の93%を占める森林資源を生かした木質バイオマスの普及啓発の取り組み
2015.06.30
当プロジェクトの助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。
第13回となる今回、島嶼部を除く都内唯一の村・檜原村における木質バイオマス活用の取り組みについて紹介します。
平成21年度に策定した「檜原村バイオマスタウン構想」は、地球温暖化防止対策の一環として自然エネルギーの利用促進をめざす構想だ。平成24年度には、短期目標として掲げられた温浴施設への薪ボイラーの設置及び燃料となる薪の製造施設が開設し、順調に運営を開始している。
檜原村では、こうした木質バオマス活用事業の普及啓発の一環として、薪づくり体験イベントの開催や、毎年8月に村内で開催している「払沢(ほっさわ)の滝ふるさと夏まつり」の中で木質バイオマスのブースを設置して、パネル展等を通じた普及啓発を行っている。
薪づくり体験イベントについては、すでに活動紹介(第57回)で詳しく紹介しているが、これを含めた啓発事業の全体像と試行的取り組みを受けた今後の展望について、担当者の話を伺った。
檜原村では、平成24年度から秋と冬の年2回ずつ、薪づくり体験のイベントを開催している。村内で生産する薪製造施設の見学とともに、斧を使った昔ながらの薪割りを実際に体験してもらうものだ。村で製造する薪は、村営の温泉施設などに導入している薪ボイラーの燃料として活用しており、イベントでは薪割り体験でひと汗した後に、温泉に浸かってさっぱりするという至れり尽くせりのプログラム構成となっている。
薪づくり体験イベントは、檜原村の林業活性化及び木質バイオマスの利活用促進をめざした取り組みの一環として実施しているもの。そのそもそもの発端は、村最大の観光名所で日本の滝百選にも選ばれている払沢の滝(ほっさわのたき)で、毎年8月に開催している夏まつりの中でのブース出展の取り組みにあったという。メイン会場に設置した環境ブースで、“木に触れる体験”として実施した薪割り体験がかなりの人気を博していた。それならば、薪割りを目的にした独自のイベントを実施すれば、より効果的な木質バイオマスの普及啓発につながるのではないかということで始めたのだという。
イベントそのものについての活動紹介(第57回)の記事をご参照いただくとして、今回は主に体験イベントの背景やめざすところなどに焦点を当てて紹介したい。
斧を使った薪割りに汗する参加者たち(平成27年1月に開催された薪づくり体験イベントより)
檜原村は、93%が森林で、そのうちの66%がスギやヒノキの人工林という、まさに「木」の村だ。ただ全国の中山間地と同じように、林業を含む一次産業が衰退し、村内で林業として経営できているのは数軒しかないのが実情だという。
対策として、東京都の森林再生事業や村独自の補助事業などを活用した林業活性化の取り組みが進められてきた。
都の補助事業では、水源かん養【1】や土砂の流出防止、二酸化炭素の固定による温暖化の防止、野生動植物の生息環境の提供といった森林の多面的機能の保全を目的に、都が間伐費用を全額負担する「森林再生事業」や、花粉症対策の一環として間伐を進めたり花粉の出ない樹種に植え替えたりする「花粉対策事業」などを活用して、森林整備を進めている。
一方、村独自の事業として、地元の木を使って自宅を建てたときに一定の補助金を出す「地場産材利用促進事業」や、山から伐った木を市場に出した場合に赤字分を補てんするための「地場産材搬出補助」などを実施して、地元産材の搬出と活用の促進をめざしてきた。
それとともに、村立小中学校では平成16年度末に教室やトイレの内装等に村産のヒノキ材を使った木質化【2】を進めたり、公共施設等を中心に薪ストーブやペレットストーブなどを段階的に導入したりと環境への取り組みの一環としての木質資源の活用も進められてきた。
檜原小学校の木質化の様子
ウッドスタート宣言の調印式にて(26年12月18日)
平成26年12月には、東京おもちゃ美術館(東京都新宿区)と連携した「ウッドスタート宣言」【3】を公式発表している。檜原産の木から作った「清流のモビール」をその年に檜原村内で生まれたすべての赤ちゃんにプレゼントして、幼年時から“檜原の木”で包み込み、木に対する親しみや理解を深めてもらおうと進めていく取り組みだ。モビールに揺れる動物たちは、ヤマメやサンショウウオなど檜原村の清流秋川に暮らす魚や鳥などの生き物をかたどったもの。大きくなったらモビールのひもを外して遊ぶこともできる。木の伐採から製材、乾燥、そしておもちゃの製作まですべての工程を村の関係者が手がけた、まさにメイドイン檜原村のおもちゃだ。
檜原村のウッドスタートの木のおもちゃ「清流のモビール」
「もともと檜原村における木質バイオマスの活用を始めるに当たって、第4次檜原村総合計画(15年度)に基づく地域新エネルギービジョン(18年度)及び地域新エネルギー詳細ビジョン(20年度)の策定から、最終的には21年度に策定した檜原村バイオマスタウン構想としてまとめてきています。現在は、これらの計画を進めるための具体的な事業展開を図っているところです」
そう話すのは、檜原村産業環境課生活環境係・係長の藤原啓一さん。
こうした再生可能エネルギーの活用の方向性は、15年度に就任した坂本義次村長(現在4期目)の指示のもと、そもそもは環境施策の一環として始まったものだった。
「村長自身は、就任当初から『森林資源が豊富で自然に恵まれた地域だからこそ、環境について発信していくべきだ』と言っておりまして、環境対策にはかなり力を入れてきているといえます」
計画策定やそれに向けた調査を進めていく中で、檜原村でもっとも活用できる新エネルギー資源として、村域の93%を占める森林を生かした木材の活用が最適との結論に達した。村内には間伐が必要な森林がまだまだあり、間伐のできている森林でも切り捨て間伐が林内に放置された状況にある。こうした未利用資源を山から出して、利活用していこうというわけだ。
短期的な計画としては、まずは公共施設に薪ボイラーを設置して、その燃料として使っていくための基盤整備と仕組みづくりを進めていくこと。中期的には、村内外に薪ストーブを普及して、その燃料として薪を販売していくことをめざす。さらに長期的には、用材としての生産・販売を進めていく。外国産材に負けないような形で、檜原産の木材の価値を高め、活用を促進していく。
そんな短期・中期・長期の計画に沿って、具体的な事業展開を図っているのが現状だ。
木材バイオマスの利活用イメージ
平成21年度に策定したバイオマスタウン構想に基づいて、22・23年度の2か年に渡って薪の製造機器や薪ボイラーの導入など施設の整備を進め、実際に薪製造施設の稼働を開始したのは、24年の4月からだった。
25年度からは、檜原クレジット【4】という檜原村の独自認証として進めるカーボンオフセットの試行的な運用も始めている。数馬の湯に導入した薪ボイラーの利用によるCO2削減分をクレジット化して、販売する仕組みで、薪づくり体験イベントなどでの活用も進めてきた。
これまで、薪製造施設が開設し、村の温泉施設・数馬の湯に導入した薪ボイラーも稼働しており、短期目標については予定通り順調に進んでいる。当初の予定では、数馬の湯に加えて、やすらぎの里という福祉施設でも灯油を使った給湯と地元住民だけが使える温泉施設のボイラー運用があって、ここにも木質バイオマスを活用したボイラーの導入を計画に盛り込んでいる。数馬の湯の稼働状況を詳しく調査して、当初の予定通り薪ボイラーを導入するか、より燃焼効率のよいチップボイラーなどに切り替えていくかなどの検討を進めており、早期の導入をめざしているという。これと並行しながら、中期的な目標としても、薪の需要拡大をめざして、村内外における薪ストーブの普及や、木質バイオマスの利用促進と普及啓発を目的に、薪づくり体験イベントやシンポジウムの開催などを実施してきた。今年度は、新たに中期目標に基づく啓発事業を計画していると藤原さんは言う。
「木質バイオマスの普及啓発の取り組みとしては、これまで『払沢の滝ふるさと夏まつり』のような集客力あるイベントの中で実施してきましたが、今年度(27年度)は、独自のイベントとして秋口に2回の開催を予定しています。詳細はまだ検討中ですが、すでに予算も計上してあり、村内外の人たちに広く呼び掛けていきたいと思っています。内容としては、さまざまな種類の薪ストーブなどを展示して、機械ごとの性能や価格などの情報提供を通じて、薪ストーブの普及につなげていくことをめざします。併せて、薪燃料の供給先として村の施設を紹介していって、販売にもつなげていければと思っています」
檜原村における木質バイオマス普及に向けた取り組みは、構想策定から丸5年を経て、いくつかの課題はあるものの順調に進んでいる。とはいえ、まだまだ構想実現までの道のりは遠い。木や森を相手にした取り組みの特徴といえよう。
今後も長中期の展望のもと、これまでの事業の成果と課題を踏まえた軌道修正を図りつつ、しかし目的はブレずに進めていきたいと話す藤原さんだ。
檜原村の薪製造施設(左)と数馬の湯に導入した薪ボイラー(右)
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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