トップページ > 環境レポート > 第25回 小金井市:雨や風など身近な自然の力を活用して快適な住環境を創り出す(環境配慮住宅型施設「小金井市環境楽習館」)
2016.06.20
当プロジェクトの助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。第25回は、小金井市が設置した環境配慮住宅型研修施設「小金井市環境楽習館」を取り上げます。
この施設は、雨水の循環や風を使った気化熱、太陽熱など自然のエネルギーをそのまま冷暖房に利用する技術を取り入れて、CO2排出ゼロを達成する、環境配慮住宅型のモデルハウスとしての機能を持っています。現在は、環境関連の会合・研修などに貸し出すほか、環境学習イベントなどを開催して、市民活動の活性化や人材育成、環境配慮技術等の普及啓発に役立てられています。ぜひ、ご一読ください。
JR中央線武蔵小金井駅から徒歩15分ほど、連雀通りと新小金井街道が交差する小金井警察署前交差点から南に折れて、新小金井街道が「ハケ」と呼ばれる国分寺崖線【1】の急な崖を抜けるトンネルに入る手前から細い脇道に入っていくと、街道沿いとは思えない閑静な住宅街の一角に、「小金井市環境楽習館」が建つ。公共バスなら、武蔵小金井南口発の東府中駅行きで「小金井警察署前」停留所を降りて1~2分ほど。敷地のすぐ隣には、武蔵野の風情と地形を生かした「ハケ(崖線)と湧水」のある庭園として知られる滄浪泉園(そうろうせんえん)が広がり、周辺は武蔵野台地に連なる国分寺崖線の段丘崖地形の上に位置する。
一見すると、ただの民家のようにも見える平屋建ての白壁のこの建物は、太陽の熱・光や雨と風など身近な自然の力を活用した環境配慮住宅型研修施設として、2011年9月に完成した。
小金井市環境政策課環境係 係長の碓井紳介さんと専任主査の荻原博さんから、施設の概要や活用状況などについて話を聞いた。
「東京都の地球温暖化対策等推進のための区市町村補助制度を活用して設置した施設です。もともと市民団体からの提案が先にあって、市ではそれを受けて事業化したという経緯があります。2009年度に公募による市民参加のワークショップで基本構想を策定して、翌2010年度に施設の設計をまとめて建設工事に着手したこの施設のコンセプトは、電気を作り出すよりも、雨水の循環や風を使った気化熱、太陽熱など自然のエネルギーをそのまま冷暖房に利用することにあります。2011年度には竣工した施設を使って建物の熱環境に関する性能と温室効果ガスの削減効果の計測・検証を行い、大幅な削減効果が出ていることが明らかになりました。太陽光発電による削減効果を加えると、実質的にCO2排出ゼロを達成できているという結果が出ています。現在は、主に環境に関する情報の発信や環境学習の場の提供を通じて、市民活動の活性化や人材育成を推進する場として市民の皆さんにご活用いただいています」
ハケの上に立つ、小金井市環境楽習館。屋根から壁に張り出しているのは太陽熱温水器。自然のエネルギーをそのままの形で冷暖房に利用することをコンセプトにした施設だ。
室内はパーテーションで2つに仕切れる研修室のほか、台所やトイレ・風呂など、生活できる設備が一通り揃っている。
環境楽習館は、床面積130平米ほどの小さな平屋の建物だが、環境配慮設備に関するさまざまな技術を取り入れて、モデルハウス的にその効果を実感してもらうのがねらいだ。
「夏には雨水タンクにためた水を汲み上げて、屋根裏でしずくにして風を通して気化させると、まわりの空気から気化熱を奪って気温を下げますから、その冷気を循環させて建物全体を冷やします。一方、冬にペレットストーブを点けますが、暖気を取るというよりも温水をつくって床下に通して、床暖房にすることで建物を暖めます。電気の使用を最小限にして、冷暖房がなくても一年中快適に生活できるという設計です」
荻原さんがそう説明する。
使った水も、そのまま下水に流すのではなく、家のまわりに掘った水路を通すことで、植物などによって汚れた水が浄化され、さらに浄化水をポンプで汲み上げてトイレなどに使っている。生ごみもコンポストで分解していて、ゼロエミッション化をめざす。
かつては、庭で食べられる植物を植えていた。スパイラルガーデンと呼んだそのスペースは、小さな土地面積を有効に活用していたという。現在は、手入れが追い付かず撤去してしまったというが、意欲的にさまざまな取り組みを取り入れた環境配慮住宅型施設は、官公庁等を含む見学・視察も少なくはない。
家の前の水路には、水草を植えて水を浄化する。最初10匹を放したクロメダカは、だいぶ数を増やしている。
壁際に置かれたペレットストーブは、部屋の中に暖気を放出するためであるよりも、温水をつくって床下に通し、床暖房として建物を暖めるために使っている。
床にはガラス窓が取り付けられていて、床下の配管などを覗くことができる。
小金井市では、施設が完成した当初、1年間ほどかけて、効果測定と検証のためのデータ取得を行ってきた。雨水の循環と風の気化熱や太陽熱など自然エネルギーをそのままの形で冷暖房に利用する技術を駆使した全体の効果を総合すると、一般家庭と比較してどの程度の地球温暖化対策につながるのかを実測・検証する試みだ。計測データを市民が活用できるように、計測モジュールの作成を行うとともに、市民の啓発活動に活用できるようなマニュアルも作成している。
計測項目は、気象観測データとして、気温・気圧・降雨量など、室内温熱環境データとして、壁面・天井・床下部などの温度測定、太陽光発電や温水パネルのデータ、エネルギー収支関連データとして、電気やガスの消費量、そして生活環境負荷データとして、下水排水量や廃棄物発生量など。夏季、秋季、冬季には集中計測期間を設けて、施設に数名が宿泊滞在して一般住宅と同様の生活を行いながら、これらのデータを記録していった。
夏季集中計測開始直後には、連日気温が30℃を超える真夏日となり、湿度も90%を超える期間が長くなっていた。天井部の冷却板からの蒸発散が不十分な状態で、夜間はかなり蒸し暑く寝苦しいとの報告もされた。これを改善するため屋根裏部の断熱材表面の改修等を行ったことで、湿度が下がって冷却効果も機能するようになり、不快感は解消された。
冬季集中測定では、施設の断熱・遮熱性能の高さが立証される結果も得られた。室内温度は安定し、一般家屋が冷暖房の入り・切りによって急激に上下するのと比べて緩やかな温度変化だったことがわかった。
検証の結果は報告書にまとめられているが、結論から言うと、標準住宅モデルのCO2年間排出量4,022kg-CO2に対して、2,294~3,186kg-CO2となり、57.0%~79.2%の削減が実現されたことになる。太陽光発電の実績値は、ほぼ300kWh/月となり、これによる削減効果を加えると、トータルの削減効果は91.2%~113.4%となり、ほぼゼロCO2を達成しているという結果になっている。
現在も、部屋の所々にセンサーを設置して、室内の温熱環境を計測している。
効果計測・検証の結果をまとめた報告書(概要版)
現在は、定休日の火曜日を除いて、毎日朝9時から夜の21時まで開館して、会合やイベントなどに使ってもらったり、来館者に環境配慮住宅の様々な技術を取り入れた快適さを説明して、実感してもらったりする。
市主催の環境学習講座も開催しており、平成27年度については、年に一度の環境フォーラムの会場にも使用している。
2012年度には市民公募で愛称を募集して、全国から寄せられた90通の応募の中から、「環境楽習館(かんきょうがくしゅうかん)」に決定した。“地球環境保全を楽しく学習し、研修する中核施設を表現”するという思いが込められている。
管理運営を受託するNPO法人が田んぼの活動をしていることから、ワラ細工など伝統文化の暮らしへの活用などをテーマにしたクラフト講座も実施している。12月には「稲ワラで作るしめ縄飾り」づくり、1月は「ヒンメリ」と呼ばれる北欧の伝統的な麦わらのモビールづくり、2月はトウガラシを使った飾りものづくり、3月はワラで編んだ台の上に折り紙の二人雛を乗せた「流し雛」づくりなど、月替りのテーマを決めて、身近にある材料や土にかえる自然素材を使った簡単なクラフト講座を開催している。
館内の壁には、線路を越えてすぐのところにある東京学芸大学と連携した展示が張り出されている。授業「理科における環境教育」を受講した学生が、日頃の生活や環境問題について疑問に感じたことを探求し、自らの調査を踏まえて制作したポスターだ。外来生物や光化学スモッグ、地震雲など、多岐にわたるテーマのポスターが並んでいるのを見ることができる。
「本施設では、かつては喫茶店も開いていました。諸事情があって現在は閉鎖していますが、喫茶目的で訪れる人もいて、賑わいを見せていました。近くには野川公園や滄浪泉園などもあるので、たまたま立ち寄った人が覗いていくこともあるのですが、施設の名前に『環境』と付くとどうしても敷居が高くなってしまうようです。喫茶店がよいのかどうかは議論も必要ですが、気軽に足を運んでもらえるような機能を取り入れて、より活用しやすくする必要もあるだろうと課内でも話をしているところです」
より多くの市民に施設のことを知って、理解してもらい、活用してもらいたい ──そんなふうに話す荻原さんと碓井さんだ。
壁に張られたポスターは、すぐ近くにある東京学芸大学とのコラボ展示として実施しているもの。「理科における環境教育」という授業を受講した学生がそれぞれのテーマでまとめて、制作した。
入り口付近を中心に、そのときどきのイベント告知ポスターも貼られている。
クラフト講座で作る「流し雛」。ワラなどの身近な自然素材を使って、かつて生活の中にあった伝統技術を習うことができる。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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