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2016.07.08

第26回大田区:花をツールに、地域力を活かした活動を展開する「18色の緑づくり支援」事業

  「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」の助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。第26回は、大田区の「18色の緑づくり」支援事業について取り上げます。
 平成26年度から本格実施されたこの事業は、地域のみどりを守り育てることで、潤いとやすらぎのあるまちなみの創出をめざしています。区内に18ある特別出張所の地区ごとに、「地域の花」を選定し、特色ある景観をつくる取り組みとして実施しています。花を植える場所は、自治会や町会の会館前、商店街、学校、公共施設、駅前、個人宅の玄関前などで、18の地区それぞれの個性を活かした「18色の緑のまちづくり」をめざし、環境計画課では、他部局とも連携して取り組みの支援を行っています。ぜひご一読ください。

23区最大の区域を18か所ある特別出張所がカバー

 東京都東南部に位置する大田区は、東は東京湾に面し、西と南は多摩川が神奈川県との県境になっている。区の西北部に広がる丘陵地帯は武蔵野台地の東南端に当たり、田園調布付近の標高42.5メートルから次第に低くなり、区東南部の低地の広がりに続く。この低地部は、海岸や多摩川の自然隆起と堆積によってできた沖積地及び埋め立てにより形成された標高5メートルから1メートルの土地だ。
 海と川に面して、武蔵野台地の先端に位置する立地のため、古くから人が住みつき、交通の要衝として発展してきた。江戸期には農漁村として発達するとともに、東海道の街道筋として人馬の往来で賑わった。大正期以降には中小工場が数多く進出し、低地部を中心に商業・工業地域が形成されていった。一方、台地部では宅地開発が進んで、田園調布や雪谷、久が原など緑豊かな住宅地がある。また、臨海部の埋立地には、羽田空港をはじめ、トラックターミナルやコンテナふ頭などの物流施設や工業団地が整備されるなど、地域ごとに特色的な街の発展を遂げていった。
 大田区の面積60.66平方キロメートルは、23区内で最大。このため、区内には18の特別出張所を設け、住民票などの証明書発行といった基礎的な公共サービス・窓口サービスを行うとともに、特別出張所がハブになり、地域力の推進をめざした取り組みを、自治会・町会等と連携して進めている。
 「大田区は、町工場の集中する工業地帯もあれば、田園調布などの高級住宅街もあります。飛行場のある羽田地区は、東京や関東地方のみならず日本の玄関口として、日々多くの乗降客を迎えています。そんな18の地域ごとに特色を活かした取り組みの一環として、“地域の花”を、各地区の皆さんが決めて、公園・緑地や自治会や町会の会館前の花壇、学校や商店街、個人宅前など、人通りが多く、区民から見える場所に種から植えて育てていただきます。それによって、地域を彩り、地域力を活かしたまちづくりを応援しようというのが、『18色の緑づくり支援』事業です」
 環境計画課環境計画担当係長の篠木さんが、事業の概要について説明する。

地域の花(ジニア)の手入れ(矢口地区)。

地域の花(ジニア)の手入れ(矢口地区)。

ボランティアによる地域の花(ナノハナ)の育成(大森西地区)。

ボランティアによる地域の花(ナノハナ)の育成(大森西地区)。

 18地区が選んだ花は、下図のように同じ花を選んでいる地域もある。“18色の花”がきれいに揃うわけではないが、植える場所や関わる人たちなど、取り組み方は地域によって千差万別、まさに“18色”の取り組みとして花開いている。

地域の花(平成28年6月1日現在)。

地域の花(平成28年6月1日現在)。

2年目の平成26年度から、全18地区で本格実施した

 「18色の緑づくり支援」事業は、平成25年10月から各特別出張所で説明会を行い、平成26年度から全18地区の特別出張所管内で本格実施した。
 「当初は、1~2か所の特別出張所でパイロット事業として開始し、成功事例をご紹介しながら順次手をあげてもらい、広げていくというコンセプトでスタートしたのですが、平成26年度には全特別出張所管内で始まることになりました」

平成27年10月16日号に発行された「おおた区報」(環境特集号)では、18色の緑づくりについて一面に取り上げて、PRした。

平成27年10月16日号に発行された「おおた区報」(環境特集号)では、18色の緑づくりについて一面に取り上げて、PRした。

 “地域の花”は、こだわりをもって選ぶ地域もあれば、植えやすく長く楽しめる花を選ぶ地域もある。ほかの地域と重複しても構わないし、年次によって変えることもできる。春まきと秋まきで両方取り組む地区が多く、種類でいうとニチニチソウ(日日草)が6地区と最も多く、マリーゴールドとパンジーもそれぞれ3地区で選ばれている。
 また、“地域の花”として選ぶものの、その花だけを植えるわけではない。花壇の植え込みやプランターの寄せ植えなどの中に少しずつでも地域の花を混ぜてもらい、地域の花をキーフラワーにして18色の緑づくりに取り組んでほしいというのが事業のねらいだ。
 「“地域の花”として植えていただく花なので、なるべく丈夫で長持ちして、手入れがしやすい花を選び、植えていただくようお願いしています。せっかく咲いても数日しか花を楽しめないのでは、毎日心待ちにして見守る人や、タイミングよく花が咲いている瞬間に出会えた人にしか楽しめません。ですから、春まきと秋まきのどちらかでも、長い期間咲き続ける花を植えませんかと提案しています。最初の頃は、花の咲く期間の短いものを選ばれた地域もありましたが、長く咲き続ける花に変えた地域もあります。そうした観点だけでなく、“地域の花”に思いとこだわりを込めているところもあります。大森西地区ではコスモスと菜の花が地域の公園で大規模に植えられていることから、自然と地域の花もそれに合わせようと決まりました。また、蒲田東地区では、毎年実施している大蒲田祭(打ち水大会)のときにヒマワリを飾っているから“地域の花”もヒマワリにしたいという声があって決まりました。その他、花のあとに実が成って、種がいっぱい採れたから“地域の花”としてもらう種苗は別の花に替えたいという地区などもあります。実質的に平成26年度からスタートしてまだ3年目ですが、地域ごとに工夫しながら取り組んでいただいています」

 まちの中でところどころ咲いている花を地区全体として見たときに、“地域の花”として感じ取るものがあると効果は大きい。それとともに、同じ花を世話している地域の人たちの間で、“うちの花はうまくできたわよ”と、花づくりを通したコミュニケーションが生まれることで、直接知り合いではない人たち同士の会話につながっていくことも期待している。

18色の特色ある地域づくりの推進に向けて

 「18色の緑づくり支援」事業では、環境計画課から特別出張所を通じて、花の種、プランター、培養土などの支援用品を提供している。当初は各地域からの要望を環境計画課が取りまとめていたが、手続きが煩雑で届くまでに時間がかかった。このため、平成27年度からは特別出張所に予算を割り当て、必要な時期に必要な量の物資を手配できる体制を整えた。
 この事業は、物資による支援だけで進むものではない。地域活動の育成支援として、それぞれの花に合った育て方や種まきの基本などをテーマに、専門的に活動しているNPOに委託して、講習会を開催している。講習会では、実際に地域の花を用いて、プランターへの植え方や水やりの仕方などの説明・実演を行ったり、参加者から栽培の成功例や失敗例を聞き取って専門的なアドバイスをしたりしている。平成26年度の後半から、古い土の再利用の方法についても説明している。
 また、育てている現場を巡回調査して花の状況を把握し、アドバイスする体制も整えて、継続的なサポートを行っている。
 こうした各地の活動状況は、ホームページや区報などに掲載するほか、A1サイズのパネルを作成して各特別出張所に配付している。このほか、さらに活動の参加者を広げるための取り組みとして、緑に親しんでいる人やこれから取り組もうとしている人を問わず参加できる緑の講演会も年1回開催している。

嶺町地区で開催した育成講習会でニチニチソウの植え方を習う。

嶺町地区で開催した育成講習会でニチニチソウの植え方を習う。

育成講習会のテキスト。26年度後半から、古い土の再利用についても講習した。

育成講習会のテキスト。26年度後半から、古い土の再利用についても講習した。

緑に親しんでいる人やこれから取り組もうとしている人を問わず参加できる緑の講演会。

緑に親しんでいる人やこれから取り組もうとしている人を問わず参加できる緑の講演会。

 「18色の緑づくり支援」事業という名称の通り、環境計画課は地域の活動のサポート役に徹することを心掛けている。
 施策の根拠には、平成21年3月に策定された大田区10か年基本計画「おおた未来プラン10年」の後期5年間の取り組みとして位置づけられた18色の特色ある地域づくりの推進がある。18の特別出張所管内の地域ごとに地域力が発揮できる取り組みを推進し、地域の主体的な取り組みをまとめ、特色ある地域づくりをめざす。さまざまな事業が実施されている中の緑・環境分野の取り組みの一つとして、「18色の緑づくり」も位置付けられているわけだ。
 平成23年策定の緑の基本計画「グリーンプランおおた」でも、“地域力を活かし、笑顔につながる緑をみんなで育てる”ことを基本方針の一つとして位置づけているし、平成24年策定の「大田区環境基本計画」でも“人と自然の関係の再構築”のための取り組みの一つとして、地域の緑づくり支援活動を位置付けている。これらの計画に沿って実施している事業であり、“地域力”を活かした取り組みが事業のコンセプトになる。
 「地域力というのは、地域の方たちの力で進むもので、行政は地域の方々が活動しやすいようにサポートしたり、協力するものです。それは、環境清掃部だけでできるものではありません。都市公園を管理している都市基盤整備部とは、植える場所の提供、まちづくり推進部はグリーンプランおおた推進会議での意見を参考に、事業の進め方や広報での協力、特別出張所を所管する地域力推進部は、自治会や町会などの地域住民との窓口にと、それぞれの役割を担い相互に連携することによって18色の緑づくりを進めています。役所というと縦割りといわれることもありますが、共通の目標に向けた施策の一つとして位置付けているからこそ、連携した取り組みができていると思います」

大田区10か年基本計画「おおた未来プラン10年」(平成21年策定)

大田区10か年基本計画「おおた未来プラン10年」(平成21年策定)

グリーンプランおおた(平成23年策定)

グリーンプランおおた(平成23年策定)

大田区環境基本計画(平成24年策定)

大田区環境基本計画(平成24年策定)

花をツールにしたまちづくり

 大田区緑の基本計画「グリーンプランおおた」の効果的な進行管理及び、みどりのまちづくりの推進を目的に設置された「グリーンプランおおた推進会議」は、公募区民、緑化団体、業界団体、区職員の委員で構成され、定期的に会議を開催している。会議の席で、“18色の緑づくりは、花というツールを使ったまちづくり”という発言が公募区民委員からあった。
 「その委員さんが言うには、駅前の花壇に地域の花を植える活動を最初にはじめたところ、それまで商店街とはあまり交流がなかったのが、協力してくれるようになり、保育園や学校の児童・生徒さんたちもいっしょに手入れに参加してくれるようになったそうです。そうして手入れをしていると、街を通る人たちが花を見て、「きれいになりました、ありがとう」「和みますね」と声をかけてくれるようになったのです。結果として、まちづくりにつながっている、そんなお話でした」
 花を植えることで街がきれいになることも大事だが、それとともに、活動している人たち自身が成功体験や充足感を得たり、人と人とのつながりができたりといった効果の方が実は大きい。花の植え付けや手入れは、手軽に参加しやすく、効果も目に見えやすい。しかも、花づくりの活動にとどまらず、他の活動をしている人たちも巻き込みながら、地域の中でさまざまなつながりができている例が実際に出てきているということだった。

2015年10月23日発行のふれあいパーク活動ニュース(第15号)に、18色の緑づくりの種や土を活用した花の植え付けの活動が掲載された。

2015年10月23日発行のふれあいパーク活動ニュース(第15号)に、18色の緑づくりの種や土を活用した花の植え付けの活動が掲載された。

 地域によっては植える場所が少ないというところもある。都市基盤整備部の進めるふれあいパーク活動では、地域の都市公園で清掃や花壇づくりなどのボランティア活動を行っており、公園の一部を活用して、18色の緑づくりの種や土などの資材を活用した例もみられる。「ふれあいパーク活動ニュース」(第15号)には、矢口地区の下丸子公園愛花会の取り組みが紹介されている。

 地域主体の活動のため、地域によって取り組みに対する温度差もある。緑分野だけでなく、他の取り組みでも元気いっぱいに取り組んでいる地域は、学校を巻き込んで進めるなど、この「18色の緑づくり支援」事業でも活発な活動が始まっている。
 「学校が関わってくれると、子どもたちが参加するので、いろいろな形で波及していきます。ただ、どこも一斉に同じようにとは考えていません。そうするとやめる時もバッと終わってしまって、何のために予算をかけていたんだろうということになりかねません。細く長く続く地域力を活かした活動として続けていただくためのお手伝いがコンセプトの事業ですから今年何本植えて去年より何%増えたといったような単純な数値化ができない広がり方をしていると言えます」

 花を植える活動を通じて、地域の人たちが自然に交わり、喜んで、楽しみながら続けていく。それが広がった結果として、みどりが増えていくことになればそれが一番だと篠木さんは話す。
 「生活の中にみどりがあることがどれだけ人間生活・社会生活の中で大きな意味を持つのかということを皆さんが理解されてきたのだと思うんですね。いろいろな方に声かけをしたりお手伝いをしたりする中で、1が10にはなっていないかもしれませんが、徐々に広がりを見せてきているのかなと思います」

入新井地区におけるボランティアによる地域の花(シラン)の育成(左:入新井公園、右:山王小)

入新井地区におけるボランティアによる地域の花(シラン)の育成(左:入新井公園、右:山王小)

入新井地区におけるボランティアによる地域の花(シラン)の育成(左:入新井公園、右:山王小)



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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。