トップページ > 環境レポート > 第27回 小平市:市民と協働で推進する環境家計簿の取り組み(小平市地域エネルギービジョン推進事業)
2016.08.30
「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」の助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。第27回は、小平市が進める地域エネルギービジョン推進事業について取り上げます。
平成21年2月に策定した「小平市地域エネルギービジョン」は、平成32年度までを計画期間とする12年間の計画として定められました。その後、平成23年3月11日に発生した東日本大震災や、平成26年に統合報告書が公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)【1】の第5次評価報告書などの社会状況等の変化を受けて、平成28年3月に中間見直しがされています。
この地域エネルギービジョン推進のための重点プロジェクトの一つが、今回紹介するWEB版環境家計簿事業「楽しく省エネ!ECOダイラーくらし宣言」です。
事業の内容と現状の成果や課題について、担当者の話を聞きました。ぜひ、ご一読ください。
小平市は多摩地区の武蔵野台地上にあって、雑木林や屋敷林、農地、用水路など豊かな自然環境が残る。特に江戸時代の新田開発による地割として街道沿いに屋敷林と短冊状の農地、雑木林が連続する土地利用形態は、多摩六都の中では小平市と清瀬市に残るのみとなっている。市域は東西が9.21km、南北が4.17kmと東西に長く、面積20.5km2は26市の中ではほぼ中間的な大きさと言える。都心から26kmに位置するベッドタウンとして、現在の人口は約18万人、約8万6千世帯が暮らしている。
今回紹介する環境家計簿事業『楽しく省エネ!ECOダイラーくらし宣言』は、市民や事業者に毎月の電気・ガスなどの光熱使用量を記録してもらい、それぞれのCO2排出量を見える化して、環境への意識を高めてもらうことを目的としている。
「環境家計簿は、平成17年に市民団体のエコダイラネットワークさんと協働で始めました。エコダイラネットワークは、平成14年度に策定した小平市環境基本計画に基づいて、市民生活や事業活動における環境配慮行動に関する提案書『市民版環境配慮指針』を作成するために公募で集まっていただいた市民が母体になった団体です。現在は作成された指針に基づいて、環境家計簿の普及や環境学習の企画運営などさまざまな活動を市と協働して行っています。当初は紙版のオリジナル環境家計簿を作成し、配布していました。ただ、100世帯ほどの登録にとどまっていたため、普及啓発の効果が十分でないということもあり、平成26年度にWeb版の環境家計簿を構築して、PCや携帯電話、スマートフォンなどからも登録できるようにしました」
環境家計簿事業の取り組みについて、小平市環境政策課計画推進担当の米山昇吾さんがそう話す。平成28年7月現在の登録数は、763世帯。第二次環境基本計画に掲げた目標では、平成33年度までに1000世帯の登録をめざすとしており、これまで毎年度目標を上回る登録があったという。
小平市の環境家計簿「楽しく省エネ!ECOダイラーくらし宣言」(WEB版)のトップ画面(左)と記録画面(右)。
『小平市地域エネルギービジョン』は、『第二次エコダイラ・オフィス計画』とともに、『小平市長期総合計画』及び『小平市環境基本計画』を上位計画とする地球温暖化対策部門の個別計画として定められ、地球温暖化対策の実行計画(区域施策編)【2】として位置づけられる計画だ。一方、『第二次エコダイラ・オフィス計画』は、その『地域エネルギービジョン』と対になる実行計画(事務事業編)として位置づけられ、市が一事業者として率先して取り組んでいくための計画となる。
計画策定の背景や環境家計簿事業の位置づけについて、環境政策課・課長補佐兼計画推進担当係長の佐藤恵美さんは、次のように説明する。
「地域エネルギービジョンは、平成21年2月に策定した、平成32年度(2020年度)までの12年間の計画です。策定後、東日本大震災が発生し、IPCCの第5次評価報告書が発表されるなど、社会情勢や環境問題を取り巻く変化があったことから、昨年度(平成27年度)に中間の見直しを行いました。見直し後の計画は平成32年度までの向こう5年間を計画期間としているため、内容は大きく変えないことを方針として、当初のエネルギービジョンで定めていた42の取り組みを10の重点プロジェクトと16のその他の取り組みに再構築しました。これらについて、市民の皆さんや事業者の皆さんといっしょに、改めて地球温暖化対策を推進していこうと発信しており、見直し後の重点プロジェクトの一つに、環境家計簿の取り組みを位置づけています」
こうした行政計画上の位置づけがある一方で、協働実施を担うエコダイラネットワークでは、市民版環境配慮指針の普及啓発のためのツールとしてこの環境家計簿事業を位置づけている。平成16年に作成された市民版環境配慮指針『変えよう私たちの暮らし方』は、9年を経た平成25年度、再び公募市民により、月1回の学習会やワークショップが実施され、全16回に及ぶ検討会(延べ127人が参加)での議論を重ねて、新しい市民版環境配慮指針『小平流暮らしの工夫』として取りまとめられた。イラスト中心にまとめられた新指針は、小学生のうちから環境に配慮した行動が自然とできるように学んでもらいたいという考えから、小学校への出前授業でも活用している。
行政計画である地域エネルギービジョンと、市民版環境配慮指針が一つになって進めているのが、環境家計簿事業というわけだ。
小平市地域エネルギービジョン(中間見直し)
新しい市民版環境配慮指針『小平流暮らしの工夫』
環境家計簿事業では、市が登録手続きや広報などの実務を担当し、エコダイラネットワークが普及啓発の企画内容や広報の仕方などのアイデアを出しながら、ともに進めている。
「現在の課題は、新規の方を増やすということと、一度登録していただいた方に継続していただくことです。市では、太陽光発電システムとエネファーム(燃料電池)を新規に設置した方に助成金を出しています。交付条件として、環境家計簿の登録をお願いしています。また、緑のカーテン用の苗を毎年配布していますが、これも新規登録を増やすための方策として位置づけたらというエコダイラネットワークさんの発案を受けて、環境家計簿に協力していただける方へ優先的に配布するようにしています。もともと登録している方にも配布していますが、半分以上の方が新規に登録していただく方々になっています。一方、継続していただくことも重要です。効果的な方策について、エコダイラネットワークさんとアイデアを出し合っているところです」
一つの工夫として、毎年7月から12月の6か月間を省エネ月間として設定し、この期間中に電気とガスの二酸化炭素排出量が、前年度比5%削減を達成した登録者には、年度末に開催している「環境フォーラム」の中で表彰するとともに記念品を贈呈している。
表彰は、省エネを継続的に取り組んでいただけている方々に報いる方策のひとつだが、取り組みの初期には大幅な削減ができても、何年も継続していく中、さらに削減し続けるのは難しい。
「そこが今一番の課題です。家の照明もすべてLEDに替えて、電気ポットもやめて、徹底して省エネに取り組んでいる方がいます。“もう絞るだけ絞っていて、これ以上は無理!”とおっしゃる方もいらっしゃいます。そんな方にもモチベーションを持って続けていただくための工夫を何とかしていきたいと、エコダイラネットワークの皆さんと話し合っています」
年度末に開催している「環境フォーラム」では。環境家計簿の表彰もしている。
小平市は、自然環境に恵まれた地域であるが、一方で、環境問題への危機意識はむしろ薄いと米山さんは言う。
「環境問題でも、国レベルや世界レベルの問題になると大きすぎるため、市民意識としてはなかなか実感しづらいように思います。問題が目に見える形で迫ってきてこないのでしょう。そうした中で、市民の方に環境問題について知って、取り組んでいただくためにも工夫しながら取り組んでいるところです」
近年のゲリラ豪雨の多発など、地球温暖化の影響を具体的にイメージできるような現象が身近になってきたとはいえ、まだどこかニュースの世界という意識が拭えずにいるのではないかと佐藤さんも補足する。
「環境の問題について、市民一人ひとりが自分自身の問題として捉えてもらうことが一番大事だと思っています。その意味で、環境家計簿や市民版環境配慮指針を通じて、一人ひとりが取り組んでいくことという意識をもってもらうため、地道に発信していますが、なかなか大きく変わるものではありません。地域エネルギービジョンで公表しているCO2の排出量も算出結果が出るのは2年後のため、今これをやってどうなったというのがすぐには見えてきません。一人ひとりの努力がどう結果に結びつくのかを伝えるのに、常々苦労しているところです」
今年度、WEB版環境家計簿を進化させたアプリの制作に向けた予算化を図っていると佐藤さんは言う。最近は、パソコンからの入力が減っていて、若い世代を中心にスマートフォンの利用が多くなっている。操作性にすぐれたアプリが提供できれば、すそ野の広がりも期待できるのではないかという、エコダイラネットワークの提案を受けてのものだ。そうした工夫もしながら、より使いやすい環境家計簿にしていき、地域エネルギービジョンおよび市民版環境配慮指針の推進・浸透をめざしていきたいと、佐藤さんと米山さんは話す。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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