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2019.03.05

第56回稲城市:外来生物のザリガニを捕まえ、調理し、食べて、考える一日(稲城市外来生物駆除ボランティア2018)

 「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」の助成金を活用した都内62市区町村の環境事業の取り組み状況について順番に紹介する「環境事業紹介」のコーナー。第56回は、稲城市が市内外でボランティア活動を展開している駒沢女子大学アクティ部と連携して実施する「稲城市外来生物駆除ボランティア2018」について紹介します。
 地元の大学との連携によって、自由な発想を生かした、多様な観点からの外来生物駆除を進めてきた同事業。アメリカザリガニの駆除では、ただ駆除するだけではなく、調理し、食べることで命を全うさせようというユニークな企画を進めてきました。
 今年度はさらに、市が緊急的に実施する特定外来生物のオオキンケイギクの駆除も試行的に実施。駆除したオオキンケイギクは、花びらを摘み取って、草木染めの材料として活用しています。
 事業の概要とねらい、その背景について、担当者の話をお聞きしました。ぜひご一読ください。

 ※本記事の内容は、2019年2月掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

他ではなかなかお目にかかることのない、珍料理が参加者たちを迎える

 真っ赤に茹で上がったザリガニをチリソースで絡めた、エビチリならぬ「ザリチリ」。甲殻類の濃厚な出汁が効いたザリガニの味噌汁。マヨネーズで和えたザリマヨもある。
 平成30年8月5日(日)、会場となった上谷戸(かさやと)親水公園内の上谷戸緑地体験学習館の一室では、テーブルの上にそんな珍しい料理が並び、参加者たちは驚きと喜びの表情を見せつつ自然の恵みを堪能した。平成27年11月の試行実施以来、今回で4回目となる大人気のイベント「稲城市外来生物駆除ボランティア2018」(以下、「外来生物駆除ボランティア事業」とする)の一コマだ。
 イベントでは、ザリガニ料理の試食に先立って、午前中に1時間ほど、親水公園の川でアメリカザリガニの駆除作業を体験した。若葉台と坂浜をまたいで立地し、市でも自然環境拠点と位置付けている上谷戸親水公園は、自然豊かな公園として地域住民に親しまれている。そんな公園の環境を守る一端を担うことになった参加者たちは、心地よい疲れの中、お腹を空かせながら、いただきますの時間を心待ちにした。

 「ザリガニが食べられるなんて知らなかったけど、案外いけるんだね!」「うまい!」
 初めて口にするザリガニ料理に、参加した子どもたちからは、そんな声も聞かれた。

甲殻類の濃厚な出汁が効いたザリガニの味噌汁

甲殻類の濃厚な出汁が効いたザリガニの味噌汁

エビチリならぬ「ザリチリ」

エビチリならぬ「ザリチリ」

マヨネーズで和えたザリマヨ。

マヨネーズで和えたザリマヨ。

ザリガニの塩茹で。

ザリガニの塩茹で。

地域の生態系に影響を及ぼすアメリカザリガニは、“悪もの”なのか?

まずは、稲城市の自然および外来生物に関する講義を実施。当初は市職員が話をしたが、平成29年度からは駒沢女子大学アクティ部の学生たちが講師役を担っている。

まずは、稲城市の自然および外来生物に関する講義を実施。当初は市職員が話をしたが、平成29年度からは駒沢女子大学アクティ部の学生たちが講師役を担っている。

 外来生物駆除ボランティア事業は、開催当日の朝10時から昼を挟んで14時までを基本のスケジュールとしている。
 集合場所となる上谷戸緑地体験学習館の中で、まずは駒沢女子大学アクティ部【1】の学生による「稲城市の自然および外来生物」に関する講義がある。アメリカザリガニによる在来生物への影響など駆除の意義と必要性について説明するとともに、もとは食用として導入されたウシガエルのエサにするためヒトが持ち込んだアメリカザリガニを、在来生物に悪さをするからと駆除することについて、「本当に悪いのって、アメリカザリガニなの?」と疑問を投げかけながら、外来生物問題の実態とその根幹にあるヒトの影響について知り、考えてもらっている。導入された当時、ウシガエルだけでなくアメリカザリガニも食べられていたという話をすると、「へえ、食べられるんだ」などという反応とともに、保護者の中には昔食べたことがあるという人もいて逆に驚かされたという。ちなみに、養殖池から逃げ出したウシガエルも全国各地で深刻な影響を与えている。ともに、外来生物として防除の対象となっているのは、彼らにとっても悲劇といえる。

 講義の後は、いよいよフィールドに出て、アメリカザリガニの駆除活動だ。最初の年は小学生のやる気と勢いに任せて自由に捕らせてしまったが、翌年からはあらかじめ小学生と大学生による3つのチームを編成して、チームごとに行動して駆除に当たる方式をとることにした。大学生がいっしょに行動することで保護者にも安心してもらえるとともに、チーム対抗で競い合ってもらうことで子どもたちのやる気をもりあげようというねらいだ。
 もっとも多く捕獲したチームには「一番地域を助けたで賞(しょう)」、捕ったザリガニのサイズを比べて一番大きかったチームには「一番大きかったで賞(しょう)」、もっとも元気よく駆除してくれたチームに「一番元気だったで賞(しょう)」と、どのチームもいずれかの賞を取れるようにして、駆除作業を楽しんでもらうための工夫とした。

スルメイカをエサに釣り糸を垂らして、川に棲みつくアメリカザリガニを捕獲。

スルメイカをエサに釣り糸を垂らして、川に棲みつくアメリカザリガニを捕獲。

駆除作業の後、捕獲数やサイズなどに応じて、各チームに賞が授与され、それぞれの健闘を称え合った。

駆除作業の後、捕獲数やサイズなどに応じて、各チームに賞が授与され、それぞれの健闘を称え合った。

生物多様性保全の担い手の確保と育成を目的として

 捕獲活動のあとは、お昼を兼ねて冒頭に紹介したザリガニ料理の試食会、このイベントのクライマックスだ。
 アメリカザリガニをはじめとする外来生物による環境への影響を抑えるため、市としては積極的に駆除を進めている。その反面、ザリガニたちを一方的に悪者扱いするのではなく、ヒトが連れてきたことで起きている問題であるということを伝えるため、最後は命を全うさせるという意味で、ザリガニを食べるところまでをプログラムに組み込んでいる。
 ただし、泥抜きの処理や衛生管理上の問題などもあり、捕まえたアメリカザリガニの調理は難しい。そこで、北海道阿寒湖で特定外来生物として駆除され、食用に販売されているウチダザリガニを取り寄せて、当日調理をして、食べている。いわば、地域のザリガニを駆除するだけでなく、別地域のザリガニを食べることで駆除に貢献するという意味で、2倍の効果を生んでいるともいえるわけだ。
 調理に当たっては、管理栄養士を養成する健康栄養学科の学生もいる駒沢女子大学アクティ部のメンバーの存在が心強い。4回目の実施となってやるべき手順もはっきりと見えてきて、スケジュール管理や役割分担など効率化を図れるようになってきた。

別食材のウチダザリガニ。フランスでは高級食材として使われている。

食材のウチダザリガニ。フランスでは高級食材として使われている。

調理の様子。最初の年はスケジュール管理や役割分担がうまくいかず、調理に時間がかかってしまった反省を踏まえて、翌年は作る料理を決定した後、調理方法を確認し、役割分担を行ったうえで、全員に事前共有して効率化を図った。

調理の様子。最初の年はスケジュール管理や役割分担がうまくいかず、調理に時間がかかってしまった反省を踏まえて、翌年は作る料理を決定した後、調理方法を確認し、役割分担を行ったうえで、全員に事前共有して効率化を図った。

 ザリガニ料理の試食会の後、参加した小学生から一言ずつ感想を聞く。「楽しかった」「おいしかった」などの声とともに、生態系や外来生物対策についての感想も聞かれた。低学年と高学年では理解度も感じたことも違いはあっただろうが、それぞれに気づくことや考えることがあっただろうことがうかがえたという。

食事の様子。数々の珍しい料理に、参加者たちは驚きと喜びの表情を見せた。

食事の様子。数々の珍しい料理に、参加者たちは驚きと喜びの表情を見せた。

講座の最後には、必ず参加者からの感想を聞く時間をとっている。

講座の最後には、必ず参加者からの感想を聞く時間をとっている。

平成30年度からは、オオキンケイギク駆除作戦も開始

 アメリカザリガニの駆除で実績を積み重ねて外来生物駆除のノウハウの蓄積ができたこともあり、平成30年度からはオオキンケイギクの駆除も開始している。前年度(平成29年度)に市職員で駆除作業をしてみたあと、平成30年5月に駒沢女子大学アクティ部との共同事業として試行実施した。翌31年度からは市民も参加できるイベントとして実施し、持続可能な形で防除作業を継続していくことをめざしている。
 オオキンケイギクは、北アメリカ原産の宿根草で、地上部が枯れても根っこ部分は生き続け、再び発芽して花を咲かせる。もともと鑑賞目的で導入されたが、野外に定着したことで、現在は外来生物法の特定外来生物に指定されている。市内でも幹線道路沿いや公園内などで目立つようになってきており、一部では大群落を形成するなど、重点プロジェクトとして位置付けている対象だ。鮮やかな黄色い花が一斉に咲くため、とても目立つとともに、市民参加のイベントとして実施するのに比較的同定しやすい種として、シンボル的な意味としても、かねてから取り組むタイミングを計っていたという。

 オオキンケイギクの駆除に当たっても、アメリカザリガニ同様、駆除するだけでなく、命を全うするための活用を重視したプログラム構成とするため、草木染めを実施することにした。
 実施場所は、市内の大繁殖地の一つで、役所からも歩いて行ける距離にある堅谷戸緑地という住宅地にある谷戸の斜面。ちょうど5月の連休明けが一斉に咲き出す時期に当たり、これに合わせて実施するのが効果的だ。稲城市環境学習センターをベースに、外来生物と生物多様性の事前学習から始めて、汗をかきながらの駆除作業、さらに環境学習センターに戻っての草木染めまで、一日がかりのイベントとなった。
 一年草ではないから、駆除するには根っこごと引っこ抜くのが重要となる。一方、草木染めの染め材として使うのは花びら。摘み取った花びらを鍋の中に入れて、煮出して、エコバックの絞り染めに挑戦した。
 「学生さんたちが入るといろいろなアイデアが出てきて、面白いですね。われわれだけですと、染めるといってもエコバックくらいしか思いつかないんですけど、『アクセサリーを作ってみても面白いんじゃない』『ハンカチを染めてみたら使えるものになる』など、いろいろなアイデアが出てきました。市民の方といっしょにやるイベントへと昇華していく段階で大学生に入ってもらえると、企画としても非常に面白いものができてくるなという印象を受けました」と稲城市環境課環境政策係長の木村嘉孝さんは言う。


オオキンケイギクの駆除作業。根こそぎ引っこ抜くのが重要。

オオキンケイギクの駆除作業。根こそぎ引っこ抜くのが重要。

オオキンケイギクによる草木染めの様子。

オオキンケイギクによる草木染めの様子。

オオキンケイギクの駆除現場とした堅谷戸緑地。作業前は、一面花畑のように鮮やかな黄色い花が咲いていた。

オオキンケイギクの駆除現場とした堅谷戸緑地。作業前は、一面花畑のように鮮やかな黄色い花が咲いていた。

オオキンケイギクの駆除現場。作業を終えたあと、黄色い花は見当たらなくなった。

オオキンケイギクの駆除現場。作業を終えたあと、黄色い花は見当たらなくなった。

駆除したオオキンケイギクを詰めた袋を前に、草木染めしたエコバックを持っての記念撮影。

駆除したオオキンケイギクを詰めた袋を前に、草木染めしたエコバックを持っての記念撮影。

稲城市における生物多様性の課題と外来生物対策

 外来生物駆除ボランティア事業は、平成27年3月に策定された「生物多様性いなぎ戦略」(稲城市の生物多様性地域戦略)及びその上位計画である第二次稲城市環境基本計画に基づいて実施しているもので、同市の生物多様性関連では代表的なイベントの一つだ。
 生物多様性いなぎ戦略では、目標実現に向けた「4つの基本方針」と「35の施策」を立てており、施策のテーマに「(1)今ある自然を守る」の⑤「外来種対策をはかる」を掲げている。その背景として、稲城市における生物多様性の課題について、国の生物多様性国家戦略でも指摘される4つの危機と、これらの危機に対する情報の不足という5つの観点から整理をしている。

  • 第1の危機:開発など人間活動による危機
  • 第2の危機:自然と人との関わりの変化による危機
  • 第3の危機:人が持ち込んだものによる危機
  • 第4の危機:地球温暖化による危機
  • その他の課題:市内自然環境に関する情報の不足

 外来生物駆除ボランティア事業は、このうち第3の危機「人が持ち込んだものによる危機」への対策として実施するものだ。化学物質による汚染や海外を含む地域外から持ち込まれた動植物による生態系のかく乱などによる危機としてあげられるもので、稲城市でも多くの外来生物が確認されていて、地域の野生動植物(在来種)に与える影響が特に懸念されるとしている。動物としては、アメリカザリガニ、ガビチョウ(鳥)、アライグマ、ウシガエル、アカボシゴマダラ(チョウ)、また多摩川流域ではオオクチバス、コクチバス、ブルーギル、ミシシッピアカミミガメなどが具体的にあがっている。さらに植物では、オオキンケイギク、オオブタクサ、ハリエンジュなどが確認されており、特にオオキンケイギクは川沿いや道沿いなどで目立つ存在となっており、一部では大群落を形成していると明記している。

生物多様性いなぎ戦略の最終目標イメージ

生物多様性いなぎ戦略の最終目標イメージ
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 これとともに、その他の課題「市内自然環境に関する情報の不足」では、「生物多様性を保全していくためには、地域に生育・生息する生きものの情報を継続的に把握していくことが必要です。また、地域の自然環境を守るためには、地域の人による関心、理解が何よりも重要です」と記して、地域の自然に関する情報の収集・蓄積・活用・発信のための仕組みづくりの必要性について言及している。外来生物駆除ボランティア事業を通じて駆除の効果を測るとともに、市民に向けた情報発信の機会創出をめざして取り組んでいこうというわけだ。

市の鳥・チョウゲンボウが生息する森を守るためにも継続的な取り組みが重要

 アメリカザリガニの駆除を実施している上谷戸親水公園に流れている上谷戸川では、地元住民のグループがホタルを育てている。事業を開始した当初、ホタルの幼虫や幼虫がエサにしているカワニナをアメリカザリガニが捕食すること、またホタルだけでなく、水草を切ったりして川の環境を汚してしまうことなどの問題への対策として、アメリカザリガニを駆除して、ホタルの育つ環境を守っていくことを掲げて、事業を開始した。

市の鳥に指定されたチョウゲンボウ

市の鳥に指定されたチョウゲンボウ

 事業を始めた背景として、市の計画に基づく生物多様性保全、ことに外来生物駆除を進めていくことが目的にあったのはもちろんだが、それとともに、そのための担い手をいかに確保し、育成していくかというのも課題としてあったと、木村係長は言う。
 「駒沢女子大学のアクティ部さんとは、もともとは市内でごみ拾いなどのご協力をいただいていました。市としては、生物多様性保全の担い手の確保と育成が課題でしたし、アクティ部さんとしてもさらに活動を発展していきたいという希望がありましたので、連携した取り組みとして始めることになったのです。ザリガニ駆除を実施している上谷戸親水公園は、駒沢女子大学からも歩いて行けるくらいの近い場所にあって好都合でした」

 外来生物対策は、継続した取り組みが重要だ。数多く生息しているときには影響が深刻な一方で、捕獲などの防除も比較的順調に進む。ところが、効果を上げて生息数が減ってくると、捕獲は困難になる。そこで防除の手を緩めてしまうと、わずかな数からでもすぐにまた数を増やすことも少なくはない。侵略的外来生物と呼ばれるものはもともと天敵がいない新たな環境に適応したことで、少ない数の個体から一気に数を増やしていった種だからだ。
 早期発見・防除の体制を構築していくためにも、地域住民の理解と協力が欠かせない。駒沢女子大学と協働することで、サークル活動の一環としてこの取り組みが継続し、受け継がれていくことを期待していると木村係長は話す。

 平成28年11月、稲城市では市制施行45周年を記念して、これまでの市の歩みを象徴する存在となる「市の鳥」をチョウゲンボウに決定した。ハトくらいの大きさで、高い木の上などに営巣し、市内ではここ上谷戸緑地付近で繁殖していることが確認されている。生態系の頂点に立つ猛禽類だから、まわりの豊かな自然環境に支えられて生きている。そうした自然を守っていくためにも、外来生物駆除ボランティア事業は重要な意味を持つわけだ。

注釈

【1】駒沢女子大学アクティ部
  • 駒沢女子大学・駒沢女子短期大学の運動系部活動の一つ。屋外でのボランティア活動やさまざまなアクティビティを通して「頭で学べば知識になるが、身体で学べば知恵になる。知恵は生きてく糧になる!」をモットーに、2007年に有志7名により結成された。
  • 福島の高齢者住宅の除雪作業や、稲城市の小学校でのジャングルジム制作ボランティア、稲城市内の三沢川遊歩道清掃活動などを行ってきたほか、平成27年度からは稲城市と協働して、外来生物駆除ボランティア事業の企画・運営にも協力している。

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