トップページ > 環境レポート > 第3回「頭で考えてはじめるよりも、熱中して取り組む中で感じ・気づくことを大事にする ~スポーツGOMI拾いの挑戦」(日本スポーツGOMI拾い連盟)
「ゴミ拾いはスポーツだ!」の掛け声で一斉にスタートを切る。
そろいのユニホームに身を包んだ3~5人のチームでゴミを拾う。
「ゴミ拾いは スポーツだ!!」 ──そんな掛け声を合図に、一斉にスタートを切る各チーム。
仲間や家族、職場の同僚など3~5人が組んでエントリーしたチームが、街の「ゴミ」を拾い集めるために散っていく。
走ると警告対象になるため、皆早歩きで移動する。チーム制の競技のため、先頭と最後尾が10m以内にまとまって行動することもルールに定められている。参加メンバーは、子どもから大人や年配者まで、年齢・性別もさまざまだが、ハンデは一切ない。同じ条件で誰でも参加できるのが、この競技の特徴の一つになっている。かといって、子どもだから勝てないというわけでもない。これまでの大会では、並み居る大人チームを押しのけて小学生チームが優勝したこともあった。地域を知り、ゴミを知り、それに沿った作戦をうまく立てていければ、体力的なハンデはほとんどない。
各チームは、揃いのTシャツを作って参加したり、スタート前の作戦会議で戦略を練ったりしながら、チームワークを高めていく。企業チームが一般にも馴染み深い会社のロゴ入り制服でエントリーしたり、草野球や少年サッカーのチームが揃いのチームユニホームを着込んでいるケースもある。開会式での選手宣誓や開会宣言で気持ちが盛り上がってくると、自然と雄叫びをあげるチームが出てくる。「えいえいおー!」と叫んだり、円陣組んだり。そうすると、ますます他のチームも闘争心が湧き上がってくる。
選手たちは皆、目をぎらつかせ、真剣勝負そのものだ。
どうも、普通のゴミ拾いイベントとは雰囲気がまるで違う。
「そう、この活動は“ゴミ拾い”の環境保全活動とか美化活動ではないんです。スポーツ競技なんです」
そう語るのは、『スポーツゴミ拾い』の生みの親、一般社団法人日本GOMI拾い連盟・代表の馬見塚健一さんだ。
「スポーツゴミ拾い」とは、一体どんなスポーツなのか、またその発想の背景にはどんなきっかけがあったのか。馬見塚さんに話を伺った。
「10年ほど前に九州から東京に出てきましたが、仕事も忙しく、あくせくしている自分に気づいたんです。それで、自分だけのゆったりした時間がほしいと、早朝のランニングをはじめました。気持ちのよい空間で、早起きをして、汗をかいて。でも次第に、せっかくの気持ちのよい空間なのに、それを乱している“街のゴミ”の存在が気になってきたんです」
そうして、ランニング途中で走りながらゴミを拾い出したのが、2007年頃のことだった。
走りながら、スピードを落とさないように掬いあげるように拾ってみたり、利き手じゃない方の手で拾ってみたり。
「あそこ、前方にビニールのゴミが落ちている──。あれ、右手で拾った方が素早く取れるか、左手の方がよいだろうか…。次の、あそこのゴミはどういう拾い方をしようか」
当初はただ汚いとしか見ていなかった“ゴミ”が、いつの間にか、どう効率的&格好よく拾っていくかという“ゲーム”のターゲットに変わってきていることに気が付いた。“ゴミ”が“ゴミ”じゃなくなっていく感覚が芽生えてきていた。ただのゴミ拾いが、“スポーツ”に転化した瞬間だった。
記念すべき第1回大会の様子。当日はあいにくの雨にもかかわらず、熱く激しい闘いが繰り広げられ、大いに盛り上がった。
「これまでも、街のゴミ拾いなどに参加したことはありましたけど、そこにこういったスポーツ的な要素を組み込めると、ただ“汚いだけのゴミ”を、仲間と楽しく向き合える対象として捉えることができるんじゃないかなって。それがはじめのきっかけでした」
2008年5月、第1回スポーツゴミ拾い大会を開催。最初はどうなるか予想もつかない中で、声をかけた大学生たちといっしょになって事務局を組織して、ルールづくりからはじめて、8大学対抗戦の開催に漕ぎつけた。準備期間はわずか1カ月ほど。でもそれが逆に、学生たちの結束力を高めて、モチベーションをあげることになった。このときに中心になって活動してくれたのが、武蔵野大学や早稲田大学の学生たちで、今も代替わりをしながら、本部事務局を担っている。
決められた競技エリア内で、60分間の制限時間の中で、チームが力を合わせて拾い集めるゴミの“質”と“量”を競い合う日本発祥の新たな競技、それが『スポーツゴミ拾い』だ。
ルールを細かく定めていて、例えば制限時間は60分。これもいろいろと試行錯誤した結果の60分で、過去には90分でやったこともあったが、子どもたちの集中力が続かなかった。60分だと、「もう少しやりたかった」「もうちょっと拾えばぼくらが優勝できたかも知れない」と、ほどよい充実感を得られるようだ。
各チームには、日本スポーツGOMI拾い連盟の指導を受けた審判員が1人ずつ帯同して、安全面を確保すると同時に、スポーツとしての競技性を盛り上げている。多くの大会で、競技エリアが街中になるため、通行人との接触や飛び出しの危険性に気を配るほか、踏み切りや道路の中央分離帯など危険な場所に入り込まないようにチームと行動を共にする。また、ルールブックに基づいた厳格な判定を行うのも審判の役割だ。走ったり、ゴミ収集所やゴミ箱から抜き出すようなスポーツマンシップにもとる行為に対して、ホイッスルを鳴らしたり、イエローカードを出したり、重大なルール違反の場合には減点・失格の対象にもなる。
目に付いたゴミは必ず拾うといったルールもある。拾うゴミは、種類ごとのポイント制になっていて、ポイントの高いゴミや低いゴミがある。だからといって、ポイントの高いゴミ(具体的には、タバコの吸い殻)だけしか拾わずに他のゴミをスルーするような行為はスポーツマンシップに反するということで、注意している。これが、「目に付いたゴミは必ず拾いましょう」というルールだ。
チームに帯同する審判員は、地元の人が担当。チームメンバーとのコミュニケーションも競技の楽しみの一つ。
協議中の様子。オレンジ色のビブスをつけた審判員がチームに帯同。
「ゴミ」は、種類ごとにポイントと子どもたちにもわかりやすい名称を定めていて、それぞれの重量×ポイントで計算して、総得点を算出することになる。
例えば、ビン・缶・ペットボトルは「リサイクルポイント」として計量される。
タバコの吸い殻は「マナーポイント」で、他のゴミよりも基礎点を高く設定している。
燃えるゴミや燃えないゴミは、購入時や使い方の工夫など、生活の中で減らすこともできるのでは?との問題提起の意味も込めて「Thinkポイント」と呼んでいる。
ペットボトルのキャップは、「社会ポイント」だ。選り分けたキャップは、途上国に送るポリオワクチンに替えているからだ。
地域ごとに独自のローカルルールを取り入れることもある。地域で異なるゴミや資源の分別方法を反映したルールにアレンジするほか、競技前後の選手の消費カロリーを測ってポイント化する「カロリーポイント」なんていうアイデアもあった。ゴミのポイントでは負けたけど、カロリーポイントは勝ったぞ!などと、競技性を高めるエッセンスになる。
集まったゴミは種類ごとに計量。発表されるデータに歓声が沸き上がる。
こうした独特の“ルール”が、スポーツゴミ拾いという競技の真剣みや充実感を演出するのと同時に、安全性など質の担保につながっている。
「簡単にやろうと思えばやれちゃうんですよ、ただゴミを拾っているだけだから。だいたいのニュアンスがわかって、やっちゃうところがあるかも知れない。でも、ぼくらのルールに則らずにやられて、例えば子どもが飛び出しちゃったりとか、事故に遭いましたということがもしあったりすると、それだけで“スポーツゴミ拾い=危険なスポーツ”というネガティブなイメージが付いてしまう。それが一番こわいんですよ」
ゴミを集めるときの行為や、拾い集めたゴミの処理にしても、きちんとしておかないと、大会参加者・関係者以外の周囲からは身勝手な行為と後ろ指さされることになりかねない。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
オール東京62市区町村共同事業 Copyright(C)2007 公益財団法人特別区協議会( 03-5210-9068 ) All Right Reserved.