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第14回「森について教わったすべてを忘れ去ったあとに残るもの ~森の子コレンジャーの学びの取り組み」(森林レンジャーあきる野)

いろんな人たちとの関わり(コーペレーション)が、コレンジャーの体験を豊かにする

写真:左から、森林レンジャーの“かせちゃん”、“パブロ”、“さっさー”、“たいちょう”と、自然学校長の“しのき”

左から、森林レンジャーの“かせちゃん”、“ぱぶろ”、“さっさー”、“たいちょう”と、自然学校長の“しのき”

写真:昔道の散策。
写真:昔道の散策。

昔道の散策

 森の子コレンジャーの活動では、森林レンジャー4人だけが子どもたちと関わるわけではない。子どもたちから“しのき”と呼ばれる、小宮ふるさと自然体験学校の校長の篠木眞さんは、各地の里山で子どもたちと自然体験活動を実践してきた人だ。名刺の肩書には「写真を撮る人・子どもと遊ぶ人」と記され、あくまで子ども目線に徹している。長年の経験と知識と人間性で強力なサポートを得ていると、加瀬澤さんも頼りにしている。
 市の職員も、全体の安全管理を担う“かちょう”(環境政策課の課長・吉澤桂一さん)をはじめ、緊急車両の手配など裏方作業を担当する“ジョージ”(環境の森推進係の大久保丈治さん)、コウモリセンサーなどの機器を駆使して生き物をとらえる“さくちゃん”(環境の森推進係の櫻澤さん)の3人が毎回の活動に出てきて、子どもたちとも直接関わる。
 自然学校の向かいの森の所有者の大須賀さんも、都合がつく限り顔を出してくれている。もともと自分の子や近所の子に自然を体験させたいと森を買ったという。山の上の方に行くのに森を通らせてほしいとお願いに行くと、「だったら自由に使って構わない、一緒にやりましょう」と言っていただいた。

 旧小宮小学校の周辺の人たちも、閉校して子どもたちの姿が見られなくなって寂しいと、森の子コレンジャーの活動に協力的だ。地域の整備などでお手伝いできることがあれば、森の子コレンジャーの活動でうまく関わりを持てるとよい。

 「森の中で作業をしたり、生き物を見つけて観察したりということも大事ですけど、森と共に生きる人たちの暮らしにも触れてほしいと思っています。森林レンジャーとして地域の人たちと関わってきて私たちが学んだことを、子どもたちにも届けたいと思っています。森林レンジャーが伝えられることと、地域の人たちが伝えられることとはまた違ったものがあると思います。そういう場もつくっていきたいですね」

 森の散策では、時に昔道を通る。炭焼き窯の跡地など、森と人との関わりの痕跡、今も現役で使っている人の暮らしの断片を見て、そうした暮らしとの関わりを、今後みんなで考えていく森づくりのヒントにしてほしいと、加瀬澤さんは言う。

昼と夜の境目を感じてもらいたい

写真:小宮小から上流に向かって、出発。

小宮小から上流に向かって、出発。

写真:石垣の排水パイプの中をのぞき込んで、生き物を探す。

石垣の排水パイプの中をのぞき込んで、生き物を探す。

 冒頭で紹介した7月の「夜の森の散策」は、夕方6時に小宮ふるさと自然体験学校を出発、森林レンジャーのパブロを先頭に、養沢川の右岸沿いの道を歩く。子どもたちの間に森林レンジャーや職員が入る。時折車が通るから、道の左側を一列になって歩くようにと指示がある。
 途中、石垣の排水パイプの中に隠れているカエルを発見する。
 「こういう隙間にいろんな生き物がいるんだ。昼間だったらヘビなんかも入り込んでいる」
 そんな説明に、パイプの中を一つひとつのぞいていく子どもたち。
 「カブトムシの死骸があった!」「ガがいたよ」と、いろんな発見がある。

写真:対岸の森で飛び立つアオサギ。

対岸の森で飛び立つアオサギ。

 川を挟んだ対岸の森の木の枝に、大きなアオサギが止まっているのが見える。しばし立ちどまって、対岸を眺める。子どもたちは、少し進んでは立ち止まってのぞき込んだり眺めたりと、好奇心の赴くままに行動するから、列は縦に長く伸び、最後尾と先頭は大きく離れてしまう。

 学校を出てから20分ほどで、横根峠に向かう登山道の入口に到着する。全員が到着するのを待って、森林レンジャーから登山の注意点をもう一度、話して、山に入っていく。
 日も陰ってきて、木々が茂る森の中の小径に踏み込むと、だいぶ薄暗くなる。ただ、ライト点灯の指示は出ない。一人で歩くには心細いが、森林レンジャーや仲間と一緒におしゃべりをしながら歩けば不安もない。

写真:ホオ葉のお面をつくる。

ホオ葉のお面をつくる。

森の中では、普段、森林レンジャーが定点観測しているムササビの巣穴がある木を眺めて話を聞いたり、タヌキの溜め糞場を見たりする。草笛の吹き方や草鉄砲遊びも習ったし、大きなホウの葉のお面の作り方も教えてもらって、さっそく被ってみる。

 峠を越えて林道に出てから、全員が集まる。“さくちゃん”がコウモリセンサーを取り出してきて、人の耳には聞こえないコウモリの超音波を捕捉してみせる。
 「コウモリの種類によって声の高さが違うんだ。今みんなが聞いたのは、20kHzだから…町によくいるコウモリじゃないんだけど、実は、コウモリは、シャッターの間とか屋根の中とか、そういう隙間が大好きなんだ」

写真:夜の森で話を聞く。

夜の森で話を聞く。

 すっかり暗くなった中で、ライトを消して静寂の時間を感じる時間を取る。予定では1人ずつ離れてしゃがみ、3分間じっくりと静かに過ごす時間を取るつもりだったが、少し時間が遅くなったため、1分間に短縮する。
 子どもたちを集めて、しのき(自然学校長の篠木さん)が話をする。
 「みんな、腰掛けられるかな? うん、しゃがんで見て。ライト消してくれる? はい、ライト消して! ご協力、お願いします」
 しのきが、本のページを開いて、子どもたちに見えるように掲げる。翼をひろげたフクロウが巣で待つ雛のもとにネズミをくわえて戻ってきた瞬間を大きく写した、写真絵本だ。
 「本を持ってきました。フクロウがネズミを捕まえて、子どものところに運んできたところです。これ、しのきが写しました。フクロウは、夜にエサを採って、夜活動する生き物でしょ。それなので、この写真を撮るために、ちょうど今のみんなと同じように、静かに音を立てないようにして一人で暗い森の中にいました。」
 撮影の準備を終えたのが夕方の6時。それから写真を撮った11時45分までの約6時間、物音一つ立てずに、じっとフクロウを待ったという。
 「音を出したり懐中電灯を照らしたりしていると、フクロウに気が付かれます。一切、音を出さないで待っていました。(小声になって)そうして待っていると、巣の近くの止まり木に、エサを持ち返った親のフクロウがス~ッと飛んできて、『フイッ、フイッ』(そちらは大丈夫ですか?)って声を出すのが聞こえたんです。そしたら、木のうろの中の子どものフクロウも、『フイッ、フイッ』(大丈夫ですよ)って合図を返したんです」
 両方の音が消えて、一瞬静寂に包まれた。フワッと、まったく音のしない状態で、親鳥がうろの中に入り込んでいったという。

写真:沢に降りてホタルを観て、本日のプログラムはすべて終了!

沢に降りてホタルを観て、本日のプログラムはすべて終了!

写真:ヘッドライトで手元を照らして、メモを取る。

ヘッドライトで手元を照らして、メモを取る。

 「今日は、その練習をします。1分間、な~んの音も出さないで、静かにしてみてください。はじめるよ。もう、音の出ない姿勢にしてください。ガサゴソいうようなのはダメですよ」
 スタートとつぶやくしのきの声が静かに響く。子どもたちは皆、声を押し殺してうずくまる。
 「30秒…(シーン)…51、52…。(ささやくように)はい、60秒間、ありがとうございました。こういう状態で、5~6時間待っているんです。今日は時間があまりないので、詳しい話はまた今度しますね」
 皆立ち上がり、ヘッドライトを点けて、出発準備をする。

 林道を歩きながら、つい今しがたの1分間について話を聞いてみる。
 「あのときね、音を出しそうになって、ぐっと(息を止めて)ガマンしたの。時計があったから見てたら、あと10秒だったから、何とか堪えて、プハーッって、ちょうど1分の時に出して、大丈夫だった」
 そう言って、息を止めるように話をしてくれる。

 夜の森散策のクライマックスは、沢床に降りて見るホタルの舞だ。
 ザーザーと沢の水音が響く中、対岸をふわりと飛ぶ緑色の光が見える。
 「あ、あそこにもいた!」
 「こっちにもいるよ」
 「すっご~い。初めてだ、こんなの!」
 点滅しながら飛んでいるホタルがそこかしこに見られる。

 加瀬澤さんは、今回の「夜の森の散策」のねらいをこう話す。
 「夜の森をずっと歩くわけではなくて、昼間と夜の境、その中での山道や森を感じてもらいたいんです。肝試しみたいな感じで子どもたちは盛り上がっていたし、あまりじっくりと感じられるような人数ではなかったですけど、でも夜の森を歩くという体験自体が彼らにとってよい経験になったと思っています。何かを学ぶというよりも、やったということで感じてもらうのでよいのかなと思っています。もちろん、こっちの気持ちとしては、夜の音を体感してほしいとかあるんですけどね。まあそれぞれに感じてもらえることがあればと思っています」

 夜の森での体験も、一年間の森の子コレンジャーの体験も、すぐに子どもたちの身になるものばかりではない。むしろ、大きくなっていった時に、原体験として何か残るものがあればよい、そんな思いだろう。
 野帳にメモした生き物の名前や森林レンジャーに教わったことの多くを忘れてしまったとしても、あきる野の森でコレンジャーの仲間たちと過ごした日々のことを忘れることは決してないのだろう。

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