トップページ > 環境レポート > 第20回 「家のすぐ横を流れる川を、遊べて泳げる身近な川にするために ~『目黒川で泳ぎ隊』の挑戦」(目黒川で泳ぎ隊)
2012.11.01
川の資料館の見学。目黒川流域を床地図で確認中です
屋外での講習会。この日は外部講師をお呼びして様々な救助法を学びました
イベントの最後は、その日のふりかえりをして、閉会となる
この地域には、小学校が3つあり、地域の人たちは普段から仲のよい付き合いをしてきた。イベントのチラシも、全校生徒に配布してくれるから、3,000枚くらいすぐに配れる。イベントに参加する子どもたちは、ボート体験や魚釣りなど楽しい企画のある日には100人以上集まるときもある。もっとも清掃だけの日になると20人だったりと、なかなか現金な反応だ。
一方、大人の参加者たち対象には、がっつり勉強してもらう。
「例えば、目黒区にあった川の資料館──今年3月に閉鎖になっちゃったんですけど──に行って、目黒川全体のいろんな施設の勉強などもしました。なんで三面張りになっているのかとか、もともと玉川上水とつながっていた歴史を紐解いたり。目黒川は、ちょうど武蔵野台地の末端に位置するんです。武蔵野台地が終わるところにあって、玉川上水の方から世田谷の烏山寺町の方につなげると、もともと水が流れていた旧川に沿って、ちょうどすり鉢状に土地が窪んでいる。江戸時代の後期には、このすり鉢状のところに水が集まってきて、そこに田んぼができていた。なるほど合理的なんだねと、一同、納得しました」
と原さん。こうした内容は、“大人対象のイベント”というと人が集まらないから、“子どもの安全のために必要な指導者養成”という位置づけにしているという。ボートの講習もやるし、心肺蘇生法の講習もある。目黒川の歴史・文化についても勉強する。
こうしたイベントと指導者講習会を月に1度ほどのペースで実施してきた。
「ただ、この活動は、基本的に手弁当でやっているものですから、活動資金を確保するのが大変です。昨年度は助成金が取れていたから、子ども向けのイベントか指導者講習会かを月1回は実施してきましたが、今年は助成金もなく、厳しい状況です」
毎回のイベントは参加費を取っていないし、現在は会費もない。そのねらいについて、原さんはこう説明する。
「品川だけじゃなく、目黒区や世田谷区の人たちともいっしょにできるといろんな知恵も出てきますよね。そんな枠組みができるまでは、会費などが足枷になってしまわないように、うちのNPOの方で工面したりしながら、何とかやり繰りしています」
もともとまちづくりの視点からはじまったものだったから、商圏という捉え方での活動の展開も検討している。
「目黒川の場合、流域に数多くの商店街や企業の本社が身近にあるんです。イベントのときにも来てもらっていますし、準備にも関わってもらっています。これらの商圏の下支えになるような活動が展開していけると、可能性も広がると思うんですよ。そのときに、品川だけでなく、目黒の人たちが参加してくれれば今までのノウハウもたくさん持っていますし、住民の多い世田谷にも参加してもらいたい。経済とうまく絡んだ形で展開できるとよいなと思っています」
これは、最初に堀江さんと話したときにも出てきた話だったという。
具体的には、例えば“流域マップづくり”が一例だ。目黒川の上流から下流までつながったマップがあれば、源流を見てみようとか、河口に行ってみようという人も出てくるかも知れない。このとき、流域の各地にある商店街が紹介されていれば、ついでに寄ってくれる人もいるだろう。お店を紹介するのではなく、商店街を目標物として捉える。それらの商店街をつなぐようにスタンプラリーを仕掛けてみたりと、そんな取り組みが新しい経済の動きを生み出す可能性があると、原さんは言う。
「今の時代、品川もどこも商店街は厳しい状況にありますよね。イベントに来てくれる住民たちは、商店街で買い物をしていて、その商店街がなくなったら困るんですけど、どこかピンと来ていない現実もあります。商店街に足を運んでもらい、少しでも買い物をしていく人が増えるきっかけになれば…。そうしたところで連携しながらうまく絡めていけるとおもしろいんじゃないかと思っています」
目黒川の活動で、一番最初に注目されたのは“泳ぎ隊”という名前の通り、この目黒川で泳ごうというイベントだった。年に一度、毎年8月に実施していて、今年(2012年)で3度目を数える。最初の年は、警察や消防がずらりとやってきたし、マスコミにも取り上げられた。
きれいになってきたとはいえ、底にはヘドロが溜まっているし、底にどんなゴミが引っかかっているかわからない。都市河川独特のニオイもする。大方の見方は、「こんなところ、泳げるの!?」と
これまでのところ子どもたちには泳がせず、隊員の中から志願のあった精鋭メンバー6~8名ほどがライフジャケットを着用して、事前の安全講習を受けて臨んでいる。安全講習では川の泳ぎ方や流されたときの対処方法や溺れたときの救助の仕方なども習う。上下流の両側には地元船宿も協力してくれて万が一の事故等に備える。泳いだあとは身体をきれいに洗い流して、1週間ほど毎日体温を測って体調変化の兆しをとらえるという念の入れようだ。
最初の年は、JR五反田駅近くから河口付近までの3.2kmを泳いだが、1時間半以上かかったため、2年目以降は約500mに短縮した。それでも1時間弱かけてゆっくりと、隊員を中心に6~8人ほどが川の流れに身を任せて漂う。両岸では子どもたちがゴミを拾いながら、川流れの様子を見守る。
「今年の夏は、まとまった雨がそれほど降らなかったから、泳ぐには比較的よい条件でした。両岸の子どもたちといっしょに、水中部隊も川の中のゴミを拾いながら進むんですが、今年は区の職員の方もいっしょに水に入ってくれたんですよ」
防災船着場で泳ぐ前の最終レクチャー。
この日は品川ケーブルテレビも来ていました
泳ぎ始め
荏原神社の前を泳ぐ隊員たち。
川の中のゴミを拾いながら進む
目黒川を泳ぐ大竹隊長
まわりの反応──特にマスコミなどでの扱い──は、「こんな川で泳ぐの!?」と奇特な眼差しだが、本人たちは至極まじめに、楽しみながら取り組んでいる。“今泳がないと、誰も注目してくれなくなっちゃう”という危機感もあるが、むしろ泳いでみることで見えてくることもあるだろうと前向きで自然体な様子が伺える。
目黒川を泳いだことは、地元の人たちに対しても一つの転機になった。 「3校の学校は、今は本当に協力してくれています。1年目はそうでもなかったと思うんですけど、そのひとつのきっかけが、泳いだことを報道されたことだったと思います。それもプラスのイメージではなく報道されたことが。『こんな汚い川で泳いでいるよ』って言われて、何くそという地元意識があったんじゃないですかね」
今年の6月17日(日)、アサリを使った東京湾の水質浄化大作戦に向けた実験を開催した。ビン容器の中に、塩水と海の汚れに見立てた米粉を入れ、片方にアサリを入れて、時間とともに変わっていく様子を比較観察するという内容だ。アサリの放流を前に、その理由を多くの人たちと共有するために企画した。
アサリを使った水質浄化実験
この話を学校にしに行くと、全校生徒にチラシを配ってくれただけでなく、「これ、おもしろそうだから参加してみたら」と先生が言ってくれるようになった。これはそれまでにないことだったという。
話を伺った、『目黒川を泳ぎ隊』副隊長の原一宏さん
11月には港湾局の許可をもらって、千葉産のアサリ200kgを子どもたちに撒いてもらう予定だ。
アサリを撒くというのが、この地域の親たちにとっては好印象を持ってもらえた一つの理由だったという。
「今の小学生の親世代は、皆、この地域でかつてアサリを採っていたという事実をよく知っています。実際に見ていたわけではありません、生まれたときにはすでに埋め立てがはじまっていましたから。その下の世代になると、そうした事実そのものもしらないようになってしまうのかも知れません。それと、現役で携わっていた方も生存していて、お話ししていただけるという方もいらっしゃいます。その意味で、今が大事なんだろうと思っています」
今を大事に、これからの目黒川に期待しながら、楽しく活動していきたいと話す原さんたち『目黒川で泳ぎ隊』の活動は、一歩ずつ着実なステップを踏んでいっているようだった。
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