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2013.05.02

第29回「40万本の花咲かせるチューリップ畑が、地域の水田を保全する ~チューリップまつりを核とした地域一体の取り組み(羽村市)」

市内小学校の水田体験学習など、地域の一体的な取り組みの場となっている、根搦み前水田

 根搦み前水田は、一部に市所有の田んぼもあるものの、9割ほどが民有地。それぞれが生産緑地の指定を受けているが、ここの水田地帯も含めて市域のほとんどは市街化区域であるため、相続が発生するたびに市に対して買ってほしいと申し出があるという。市でも、財政をにらみながら、極力購入しているというが、すべてを買い切るだけの財力はない。平成14年の水田面積62,853m2に対して、平成24年は59,090m2(固定資産概要調書調べ)となっており、顕著な減少はないものの、一部には住宅が建ってきているのも実情だ。そうした中で、チューリップの栽培を通して生まれるさまざまな人々とのかかわりや、チューリップまつりで多くの人が訪れるようになったことなどが、当地の水田を維持し、保全していくための動機づけにもつながると柴田さんは言う。
 例えば、市内にある小学校全7校で、チューリップ栽培や表作の稲作も含めてこの水田での体験学習を実施しているなど、根搦み前水田を取り巻く地域の一体的な取り組みへと発展してきている。
 「羽村市は、東京都の市としてはもっとも人口が少なく、面積も狛江市、国立市に次いで3番目に小さい市です。特別な自然景観もなく、知られている観光名所といえば、玉川上水の羽村取水堰くらいのものです。“羽村ってどこなの?”という方がほとんどじゃないでしょうか。そうした中、チューリップまつりをきっかけにメディアに取り上げていただくことで、非常に大勢の方にお出でいただける。観光の振興もそうですし、そこでお店を出している商業者の方々の活性化にもつながります。それとともに、チューリップ球根の植え付け・掘り取り、水田での稲作を通して、教育委員会では子どもたちの体験学習の場の提供を受けていますし、学校はそこへ参加をして「総合的な学習の時間」の中で、子どもたちのさまざまな体験につなげています。学校以外でも、地域の子どもたちが参加する青少年対策地区委員会という組織が小学校区ごと7地区にあって、その団体が1月にどんど焼きの企画・運営をして、この水田で採れたお米を粉にして団子を作り、それをどんど焼きの火で炙って、一年間健康でいられますようにと食べるのです。行政、教育委員会、地域が一体になってのイベントですし、体験学習になっています」

田んぼの前に掲示されている、「羽村市稲作体験水田」の看板。
田んぼの前に掲示されている、「羽村市稲作体験水田」の看板。

学区ごとに設置されている青少年対策地区委員会が企画・運営して、毎年1月実施される羽村市のどんど焼き。水田でつくったお米を粉にして、団子を作って火で炙って食べると一年間無病息災で過ごせると言われている。
学区ごとに設置されている青少年対策地区委員会が企画・運営して、毎年1月実施される羽村市のどんど焼き。水田でつくったお米を粉にして、団子を作って火で炙って食べると一年間無病息災で過ごせると言われている。


話を伺った、羽村市観光協会事務局長の柴田満行さん。
話を伺った、羽村市観光協会事務局長の柴田満行さん。

 チューリップの植え付けと球根の掘り取りでは、多くの市民ボランティアの参加もある。植え付けも掘り取りもすべて手作業のため、2.5haのチューリップ畑をつくるのは大変な労力だ。特に、球根の掘り取り作業では、大きさによって選別が必要となる。一定以上の大きさにならないと翌年の植え付けに使えないためだ。小さいものは土といっしょにすき込むことになり、その選別の手間も大変だ。平成24年度には、約700人の市民ボランティアがチューリップ生産組合の農家さんといっしょに作業したという。
 さらに、学校でも根搦み前水田にある市所有の田んぼで稲作体験(市内の全7校が参加)やチューリップの植え付け体験(平成24年度の参加実績は近隣の4校)を実施している。4年生の11月にチューリップの掘り取りを体験したあと、5年生になって春の田植えと秋の稲刈りを体験するわけだ。
 子どもたちが稲作体験に使っている田んぼは農家さんが日常的な世話や管理をしている。田植え後の草刈りや肥培管理はプロでないとなかなかできないから、面倒を見てくれる農家さんの存在は欠かせない。遠い学校の場合、田んぼにやってくるだけでも時間がかかるから、1時間の単元の中だけでは間に合わない。
 ただ、採れたお米は各校に20kgずつ配って、学校での食育の時間に使ってもらい、自分たちが作った米を味わうという。
 「農家の方に言わせると、“魚沼産のコシヒカリよりも美味しいよ、羽村の米は”という方もいらっしゃいます。現実に美味しいんですよ、食べてみると」

 花いっぱい運動からチューリップまつりへと発展していく過程で、地域のさまざまな人たちの関わりが生まれてきた。6月の田植えから9月の稲刈り、11月の球根植え付けや1月のどんど焼きを経て、4月にチューリップまつりが開催され、終わるとすぐに花を落として、5月に球根の掘り起こし作業がある。こうして一年を通じた田んぼのサイクルが、地域の様々な取り組みの中で結びつくようになってきた、羽村市の取り組みだ。

根搦み前水田での稲作体験(春の田植え作業と、たわわに実った秋の田んぼ)

根搦み前水田での稲作体験(春の田植え作業と、たわわに実った秋の田んぼ)

根搦み前水田での稲作体験(春の田植え作業と、たわわに実った秋の田んぼ)

根搦み前水田での稲作体験(春の田植え作業と、たわわに実った秋の田んぼ)。

チューリップ球根の植え付け作業(左)と、チューリップ球根の掘り取り作業(右)

チューリップ球根の植え付け作業(左)と、チューリップ球根の掘り取り作業(右)

チューリップ球根の植え付け作業(左)と、チューリップ球根の掘り取り作業(右)。

チューリップまつりが終わって数日後、市民ボランティアや地域の子どもたちが集まっての花摘み作業。花びらが残っている花も、散ったあとの花も、根元の子房ごとポキリと折っていく

チューリップまつりが終わって数日後、市民ボランティアや地域の子どもたちが集まっての花摘み作業。花びらが残っている花も、散ったあとの花も、根元の子房ごとポキリと折っていく

チューリップまつりが終わって数日後、市民ボランティアや地域の子どもたちが集まっての花摘み作業。
花びらが残っている花も、散ったあとの花も、根元の子房ごとポキリと折っていく。

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