トップページ > 環境レポート > 第31回「楽しもうという気持ちをメンバーそれぞれが持ち寄って ~「山中おやこエコクラブ」の取り組み(品川区立山中小学校)」
2013.06.03
屋上菜園から見下ろす校庭は、緑とエンジのラインを引いたラバーで覆われている。決して大きくはないこの校庭を校舎がコの字状に囲み、校舎のまわりに沿って小さな花壇がある。その花壇には、夏に向けてゴーヤなどを植え、日射を抑えるためのグリーンカーテンを育てている。昨年度は千成瓢箪(せんなりびょうたん)も植えた。実ったヒョウタンは中の果肉を腐らせて種抜きし、子どもたちの工作の素材などにも活用した。
ヒョウタンを栽培したのは、実は岸元さんが高校時代に作ったことがあったのがきっかけだった。20数年前のヒョウタンを大事そうに持ってきた岸元さん。酒を浸み込ませて、ほどよい色艶加減に仕上がっている。
「高校生の頃のものを大事に見せびらかすように持ってこられて、これはもうやってみるしかないよね!ということで植えたんです。100個以上成りましたが、種抜きの処理行程はすごい臭いで…。でも、一度やると病みつきになりますね」
齋藤さんは、そうからかうように話す。
屋上から望む校庭。校舎の脇に沿って、小さな花壇があり、ここでグリーンカーテンを育てている。
グリーンカーテンとして育てた、千成瓢箪。できたヒョウタンは子どもたちの工作の材料になった。
屋上菜園で育てたゴーヤのグリーンカーテンの実を当時の校長先生と収穫。影のない屋上で日差しを遮り、だいぶ過ごしやすくなった。
こうした、子どもたちや運営スタッフの“やってみたい”を実現していくことで活動を活性化していこうというのが、山中おやこエコクラブの特徴のひとつでもある。
今年はもうやめてくれといわれている、“巨大シャボン玉の中に入ってみよう”という企画もそんな中の一つといえる。子どもの背丈を超えて包み込む巨大なシャボン玉に入ってみて、どう見えるかやってみたい、それいいね!と企画してみたら、あとの片付けがものすごく大変だった。いつまで経ってもぬめりがとれず、ツルツル滑るという。このように誰かが音頭を取って、「それいいね!」というノリで実現していく。
活動の中で特に子どもたちの人気が高いのは、第二校庭での泥だんごづくり。「べっぴんさんコンテスト」といって、きれいにできた泥だんごの品評会をしたり、硬く固めた泥だんご同士をぶつけ合う「ガチンコ勝負」をしたり、坂道をコロコロ転がしてみたり…。子どもたちも、楽しみながら遊びを創っていく。そうやって土にまみれて身体を動かしながら、とりあえずゲーム機から離れて遊ぼうというわけだ。
「細かなルールも決めずにゆる~くやっています。毎回のイベントは、チーム員の中でもざっくり決まっているだけ。各自が何となく、自分なりに動いて、ともかく楽しむようにしています。“楽しもう”という気持ちさえ持ち寄っていられれば、何とかなるかなと思ってやっているんです」
そう話す齋藤さんだ。
エコクラブ活動のときも、作業そっちのけで自由に遊び出す子どもたち。この日も、板の坂道に木の実などを転がして競争させたり、足が生えてきたオタマジャクシなど水辺の生き物を捕まえて遊び出す子どもたちの姿が見られた。
保護者主体のエコクラブ活動がここまで活発に活動できている背景には、学校側の理解が大きい。
調理の準備などで家庭科室を使わせてもらっている。紙すきの前には、素人ばかりの親たちが繊維のほぐし方や試薬の調合などを試行錯誤しながら理科室を借りて実験したという。そうしてエコクラブ活動の当日に臨んでいる。屋上菜園や第二校庭なども自由に使えているのも学校の理解があるからだ。もちろん設備の使用だけでなく、運営メンバーの発意による自由な活動が実施できるのも、学校側の理解があってこそ。
「それなくしては成り立ちません」と、齋藤さんは断言する。
一方で、田邉校長は、保護者の献身的な協力への謝意を示す。年度初めの5月のエコクラブ活動では、全世界一斉の緑化活動であるグリーンウェイブ【4】に参加して、花の種まきや苗の植え付けをしている。プランターに植えて、学校の塀に掛けたり置いたりして、学校のまわりを花で飾っている。植えたあとの問題は水遣りだが、保護者メンバーの有志が会社前に学校に寄って、水を撒いて世話してくれている。
屋上菜園をはじめるときも、当初は地域の人の参加を求めていく方向性も検討されたという。当時PTA会長として相談を受けた齋藤さんは、その時のことを次のようにふりかえる。
「地域の力を借りてみたらどうかという意見が出たんですけど、当時の校長先生がおっしゃったのは、『そういう方向もあると思いますが、屋上菜園も最終的には子どもたちのものであってほしいと思っています。ですから、保護者の皆さんに関わっていただきたいのです』というものでした。それで、地域に開放する前に、まず親が頑張っていこうということになって、ガーデンマスターを募集することになったのです」
「これまでのエコクラブ活動は、PTAやすまいるスクールを中心に動いてきました。山中小学校の誇る活動なのですが、前の校長先生・副校長先生が関わることで接点ができていただけで、学校の教育活動とはほとんど接点がつくれていませんでした。それを、今年度から第二ステージと位置付けて、これだけ発展してきたエコ活動なんだから、それを学校の教育活動ともう少しリンクさせようと始めていくのが、土曜日に実施する『学年エコ活動』です」
これからのエコクラブ活動についてそう話すのは、田邉校長先生。品川区では、土曜日の授業日が年間20日設定されている。このうちの6回を学年エコ活動の時間に充てて、各学年が1回ずつ実施するわけだ。これまでの保護者が主体の活動に学校の協力を得て実施してきたエコクラブと並行して、教育カリキュラムに位置付けた学校主体の取り組みとなる『学年エコ活動』を併せて実施する。もちろん保護者サポーターも協力しながら、子どもたちだけでなく保護者の参加も募っていく。これらを両輪に、山中おやこエコクラブの活動をまわしていこうというわけだ。
そうして、この取り組みもまた山中小学校の大きな特色として育んでいきたいと意気込む田邉校長。
他方、PTA会長の岸元さんは、学校との連携に加えて、エコクラブの活動を通じた地域外の協力団体との関係によって、子どもたちに感じ取ってもらうものがあってほしいと話す。
「第二校庭の『まほうの森』でベンチを置きたいという話をしていたとき、たまたま知り合いを通じて間伐材を利用してほしい団体があると紹介してもらいました。それが、日の出町で活動している『みんなの森財団』。運営メンバーの有志に呼びかけて、日の出町の森まで出かけて行って、間伐材をもらってきてベンチを作りました。山から下ろすところから指導してもらい、それを車に積んで運んできたのです。山中小学校でのエコクラブのイベントにも、みんなの森財団のスタッフの方が参加してくれています。今後もそういったところとのつながりを深めていって、都市部に生きている私たちの生活が山や川とつながっていて、大きな自然界の中で生かされていることを、子どもたちにも知ってもらえればと思います。その上で、今後の社会のシステムをどう作っていくべきかといった将来像をそれぞれが考えて、自分たちなりの社会を築いていってほしいんです。もちろん、今すぐに理屈としてわかる必要はなく、感覚的につかんでもらって、将来になって何かしら感じてもらうものがあればと思います」
岸元さんの言葉を引き継いで、齋藤さんも今後の活動の展望を語ってくれた。
「そこが一番の課題なんですね。一回一回の“楽しい”という思いはすごく大切にしています。自然とふれあいながら『楽しかった!』という記憶が残れば、将来何か考えるときの原体験となって、次の時代につないでいきたいという思いが生まれていくと思います。ただ、今は単発のイベントだけで終わってしまっているので、もう少し年間を通して追えるようにしていきたいねと話しているんです」
楽しい活動を実現しつつ、何か心に残るものを残していく、そんな活動をめざす「山中おやこエコクラブ」の取り組みだ。
お話を伺った、(写真奥から)校長先生の田邉泰典さん、
PTA会長の岸元孝之さん、エコクラブリーダーの
齋藤千秋さん、副校長先生の束田嘉一朗さん。
グリーンウェイブ2013に参加して
植え付けたプランターを前に、
この日の参加者全員で記念撮影。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
オール東京62市区町村共同事業 Copyright(C)2007 公益財団法人特別区協議会( 03-5210-9068 ) All Right Reserved.