【第38回】ミツバチのための環境創造が人のためにもつながる ~NPO法人みつばち百花の取り組み

2013.09.20

 去年(2012年)は、高嶺ルビーというソバの一種を相当な広さに植えた。ソバの花だから、冷涼な土地でないと蜜を出さないんじゃないかと言われていたが、予想に反してものすごい勢いでミツバチが飛来してきて、花粉や蜜を集めていったという。

国立市谷保にある、「くにたち蜜源ガーデン」
(NPOみつばち百花提供)
2012年7月1日、大豊作のジャガイモを茹でて、初のガーデンパーティを開催(NPOみつばち百花提供)
2012年9月30日の秋の収穫祭
(NPOみつばち百花提供)

 ミツバチの来訪状況は、目視もできるし、みつばち百花の理事でもある玉川大学ミツバチ科学研究センターの中村純教授が学生の研究フィールドに設定していて、飛来したミツバチを捕獲して腹部を圧迫して吐き戻させたり、開腹したりして、今花から吸ったばかりの花蜜の糖度を調べ、どんな蜜でミツバチを惹きつけていたのかも評価することもできる。
 「カボチャの花は蜜源としてはものすごく有力な花です。滴るくらい蜜が出ます。ただし、早朝──せいぜいが9時くらいまで──しか咲かなくて、そのあとはしぼんでしまうんです。ズッキーニも去年と今年でやっていますが、ミツバチのおかげで大豊作です。ズッキーニの花はカボチャよりもさらに花の開きが早くて、なかなかミツバチの訪問を見ることはできずにいます。ただ、農家さんに聞くと、ズッキーニの実の成りは昆虫の作用が大きくて、ダメなところは人手をかけて人工授粉しているそうなんです。私たちの畑では、何もしなくても成って成って困るというくらいたくさん実がつくので、朝早くからミツバチたちがお仕事していたんだろうねと話しています」
 一方で、シソ科のハーブを植えたところ、ミツバチが盛んにやってきているものの、吸ったばかりの花蜜糖度を調べると、思ったほどは甘くはない(それでも糖度30%近くはある)ことが判明したこともあった。
 「これだけわんさか来ているのに、いったいどういうわけなんだろうって。その理由はあまりよくわかっていないんです。糖度が低くても香りに特徴があればミツバチが覚えやすいということもあるだろうし、逆に糖度が高くてもあまりやってこない花もあります。それこそミツバチのみぞ知るところです。同時期に咲く花の中には、歴然としてミツバチたちが好む花の優先順位があるようなのです。その辺は謎ですね」
 有名な『8の字ダンス』という情報伝達の方法も、実際に目撃することがある。ただ、ミツバチ自身はこれにたより切っているのではないそう。最近の研究によると、ミツバチたちは案外に唯我独尊的で、最新情報よりは自分の経験を優先する傾向があり、かつ全員が一斉に同じ行動をとるというわけでもないらしいのだ。『私、今日はここでいいや』と他のミツバチたちとは違うところで蜜を採っているような個体も結構いるのだという。ミツバチの生態はわからないことばかり、まだまだ謎も多い。そんなところも魅力のひとつだという。

ミツバチは本当にラベンダーがお好き。群がっています。
そばで作業をしていたら、羽音がすごい。
(NPOみつばち百花提供)
ネギ坊主も大人気。必死に頭を突っ込んで蜜を吸っている。(NPOみつばち百花提供)

 ミツバチガーデンとともに、みつばち百花が力を入れているのが、「ハニーウォーク」。身のまわりにミツバチやミツバチたちが利用する蜜源・花粉源の植物がどれくらいあるかを歩きまわって調べる活動だ。イベントとして実施することもあるし、一人で散歩がてら歩いてまわるのでもよい。規模や方法を問わず、ミツバチやミツバチの利用する植物に目を向けてみようと呼びかけるものだ。

2007年5月に代々木公園で実施したハニーウォーク(NPOみつばち百花提供)
2010年9月、国立で実施したハニーウォーク
(NPOみつばち百花提供)
みつばち百花が提供する「蜜源・花粉源データベース」※クリックで別サイトを開きます
「ミツバチ来てたよ、大調査」の閲覧画面
※クリックで別サイトを開きます

 ミツバチの活動をしているというと、多くの人たちから「ミツバチって減っているんですか?」と聞かれるという。そんな風潮こそが、科学の視点を欠く見方だと朝田さんは指摘する。
 「落ち着いて考えてみてください、セイヨウミツバチって、野生ではなく家畜なんですよ。家畜が減っている、増えているっていうのはおかしくないですか。例えば、牛や豚が増えている、減っているなんて話は、家畜業者でもない限りしないじゃないですか。多くの場合、そこの時点で背景がごそっと抜け落ちたまま、なんで減っているのかということを自分の頭では考えないで、聞いた話を鵜呑みにしているのです。だから、『減っている=農薬』くらいにしか結びつかずに終わってしまう。でも、その背景は、かなり複雑で、そのほとんどにわれわれの暮らしが加担しているのです」
 2008~9年に新聞を騒がせた“ミツバチ不足”は、世間一般に「ミツバチが減っている」と混同させることになったが、その主な原因の一つにオーストラリアからの女王蜂の輸入の停止があった。日本では、秋から需要が増す花粉交配用のセイヨウミツバチを仕立てるために、その時期に繁殖期を迎える地球の裏側から多数の女王蜂を輸入して充てていたが、その輸入がストップしたから、交配用ミツバチの市場が崩れ、ミツバチの供給に支障をきたした。それを教訓にして、現在は、女王蜂を国内生産して賄いきっているという。決して減っているわけではないのだ。
 「日本におけるミツバチによる生産性を考えると、実は生産高の9割以上が、農作物の受粉利用で、ハチミツなど巣箱から生産されるものはほんのわずかです。例えば、イチゴはクリスマス需要を満たすように11月から4月まで主にハウス内で栽培されますが、この時期、かつ閉鎖されたハウス内ということもあって、受粉のためには農家がミツバチをハウス内に導入するしかありません。ミツバチにとっては、イチゴの花粉と花蜜だけが栄養源になるのです。ひとつの栄養源に頼って、しかも限られた空間の中に閉じ込められているわけですから、春になった時点でもうへとへとになって、回復できないくらいに弱ってしまうのです。弱ったミツバチ群は、病気にかかりやすく、他のミツバチへの病気の感染源にもなるので、多くの場合、焼却処分されています。つまり、使い捨てにされているというのが実情です」
 世界で最もイチゴの消費量が多いのが日本。イチゴ以外にも、メロンやスイカなどもミツバチが受粉に役立つ。受粉の間だけ生きればよいと、簡素なダンボールの巣箱に働きバチだけが入れられる。次世代の働きバチを産んでくれる女王蜂もいないから、本当の意味での “使い捨て”にされることもあるという。
 そうした犠牲のもとに私たちの食糧があるという、ミツバチを取り巻く現実を伝えていこうというのが、みつばち百花の役割だと朝田さんは言う。
 「ミツバチをハチミツなどの生産物から捉えるのではなく、私たちを広大な自然界の不思議へと導く案内役として、また、ともに地球上に生きる仲間として位置づけながら、持続可能な社会をめざした活動をしていこうというのが、『みつばち百花』のめざす活動なのです」

ミツバチのおかげで豊作になったイチゴ
(NPOみつばち百花提供)
キュウリの花で熱心にお仕事中のミツバチ
(NPOみつばち百花提供)

 みつばち百花の活動の最大の特徴は、“科学の視点”を持って、ミツバチの生態を見つめること。設立当初から玉川大学ミツバチ科学研究センターの中村教授ら、ミツバチの世界の権威ある専門家といっしょに活動していることの利点を生かした活動を目指してきた。専門家としての先生の話を一般向けにわかりやすく、でも正確に伝えるインタープリター(通訳)としての役割を担っている。

「ハチミツひとつとっても、むちゃくちゃな情報が流れています。例えば、ハチミツには多種のビタミンやミネラルが含まれていますが、ネットなどではいかにも量として豊富に含まれているというニュアンスで書かれてしまう。でも、一日に必要なビタミンやミネラルをハチミツで摂ろうと思ったら、一日に1kg~2kg食べないと意味がありません。ほかにも、非加熱を強調した商品があります。ただ、国産ハチミツでは、加熱したハチミツはほとんどありませんから、あえてそれを強調して『うちのハチミツは非加熱で、ピュアです』という宣伝をすることは、実態のない差別化になってしまいます。それを突き詰めていくと、非加熱の証明を出せということにもなりかねません。そのコストを誰が負担するかというと、結局は消費者が負担することになるわけです」

任意団体の時代も含めて、リコリタを始めてから10年が経つ。年を重ねたせいか、心境の変化もあるという。
ミツバチと関わるようになってさまざまなことを学んだという朝田さんだが、その最たることの一つが、科学的で冷静な視線を持って、多角的に物事を見ることの大切さを実感したことだったという。

宵闇迫るころ、ランタンに蜜蝋キャンドルを灯してみました。(NPOみつばち百花提供)
ミツバチガーデンで採れたハチミツ。右は夏採れたもの、左は春。(NPOみつばち百花提供)

注釈

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