トップページ > 環境レポート > 第48回 「人生の門出を木のおもちゃとともに! ~ウッドスタートで生涯木育を推進(東京おもちゃ美術館)」
2014.04.21
赤ちゃんに木のおもちゃを!と呼びかける取り組みがある。“人生のスタートを木のおもちゃ(ウッド・トイ)とともに”というコンセプトから、『ウッドスタート』と名付けられた事業だ。呼びかけるのは、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会。新宿区四谷にある旧四谷第四小学校の校舎を利用した『東京おもちゃ美術館』を運営するほか、おもちゃの専門家『おもちゃコンサルタント』の育成や、優良玩具『グッド・トイ』の選定など、遊びのコーディネートや手作りおもちゃの指導などを通じて、ヒトとモノをセットにした交流を促すことで良質な遊びを全国に広め、社会を豊かにする活動を支援している。
ウッドスタート事業は、そんな日本グッド・トイ委員会(以下、「東京おもちゃ美術館」)が木育【1】を推進するための事業の一環として始めたもので、同館が実施する主な7つの活動の一つに位置付けられている。
優良玩具 | グッド・トイ選定 |
---|---|
地域遊び | グッド・トイキャラバン |
子育て支援 | おもちゃの広場 |
高齢者福祉 | アクティビティ・トイ |
病児の遊び | 遊びボランティア |
市民立ミュージアム | 東京おもちゃ美術館 |
木育推進 | ウッドスタート |
ウッドスタートは、東京おもちゃ美術館が取り組む「木育」の行動プランの総称。中でももっとも象徴的なプログラムに、『誕生祝い品事業』がある。地域で生まれた赤ちゃんの人生の門出を祝って、地元の木工職人が地域産材で製作した木のおもちゃをプレゼントするというものだ。事業の実施主体は地方自治体が担い、東京おもちゃ美術館はおもちゃの監修やプログラムの提供など実現に向けたサポート役を担う。
例えば、2011年度に事業を開始した新宿区の場合、赤ちゃんが生まれて役所に届け出に行った際に、プレゼント対象の木のおもちゃのカタログが手渡され、その中から気に入ったものを選んでハガキに記入して投函すると、約1~2か月で希望した木のおもちゃが届けられるという仕組み。新宿区の場合は友好提携する長野県伊那市内にある『新宿の森』から伐り出した間伐材を主に、伊那市の職人が作った木のおもちゃが届けられる。こうして、その年にその地域で生まれた全ての赤ちゃんに木のおもちゃを届けることが可能になる。
「赤ちゃんが初めて出会う“ファーストトイ(初めてのおもちゃ)”として、木のおもちゃは最適です。木の肌ざわりや質感、においと色味などは、プラスチックや金属にはない温もりを与えてくれます。それとともに、両親をはじめとする家族にとっても、赤ちゃんと木のおもちゃで遊ぶことを通じて木や森への親しみや関心が芽生えてくれば、暮らしの中に国産材の製品を取り入れようという意識が芽生えてくることも期待できます。毎年一定量の木のおもちゃの製作が地場の木工職人の仕事を生み出すとともに、木製品の利用拡大は地場の木工業の活性化にもつながる好循環を生みます」
東京おもちゃ美術館事務局長の馬場清さんは、ウッドスタートのねらいと効果についてそんなふうに説明する。
新宿区の誕生祝品の例。木の質感や色合いを生かしたデザインと仕上げが特徴だ。
木をふんだんに使った『おもちゃのもり』。
東京おもちゃ美術館は、前身のおもちゃ美術館が1984年に中野区に開館したのち、2008年4月に現在の新宿区四谷に移転してリニューアルオープンした。戦前に建てられて廃校になっていた小学校の教室をそのまま生かした展示室では、ひらめきや発見満載の科学おもちゃで遊んだり、ままごと遊びをしたりする部屋、ボードゲームやテーブルサッカーなど世界のアナログゲームを集めて来館者同士やおもちゃコンサルタントと競って遊べる部屋、日本の伝統的なおもちゃを体験できる部屋など、国内外のおもちゃの世界にどっぷりと浸かることができる。
展示室の一つに、『おもちゃのもり』という国産材をふんだんに使った癒しの空間がある。靴を脱いで木を目一杯感じてもらう部屋にしようと、九州山地から伐り出してきたヒノキの無垢材を敷き詰めて、木の香り漂う空間の中に木製遊具や大型の木のおもちゃを配置した。『木の砂場』と呼ばれる、砂替わりの木のボール(直径3㎝ほど)約2万個を円形の枠の中に入れた遊具は、大の字に寝転んで体いっぱいに木を感じることができる人気の場所だ。
木をふんだんに使った『おもちゃのもり』。
木育キャラバンの会場の様子
この『おもちゃのもり』が、当時、木育推進のための施策の一環として、木づかい運動【2】を展開していた林野庁から注目されたのが、ウッドスタートの一つのきっかけになった。『おもちゃのもり』の取り組みに対して、国産材の活用を推進する具体的な事例の一つとして感謝状が贈呈されたことを受けて、2010年度に国産材を活用した木製玩具を広く日本全国へと普及するための木育推進の助成事業が採択された。
「そこからですね、本格的に木育の取り組みが始まったのは。おもちゃ美術館の展示品の中から木のおもちゃを選んで持って行って、小学校の体育館くらいの会場で仮設のおもちゃ美術館を開設する『木育キャラバン』というイベントを開催したり、木のおもちゃのセットを貸し出して地域で子育てサロンの活動を支援したりと、さまざまな取り組みをしてきました。木育キャラバンで運び入れるおもちゃは、1回当たり4トントラック1台分ほどを持ち込んでいます。週末など期間限定の開催で、仮設・撤収しては他の場所に移動していく。いわばサーカス一座が全国を転々とまわっていくような感じの、移動おもちゃ美術館事業です」
館内を回りながら、木育の取り組みが始まった経緯について馬場さんが説明してくれた。
木育の行動プランで進めるプログラムには、この他にも、地域で木育推進を担うスペシャリストである『木育インストラクター』の養成、森林・林業・林産業の関係者と子育て支援関係者や自治体担当者が一堂に会して地域の木育について議論を重ねる『木育円卓会議』の開催など多岐にわたる活動を通じて、地域の木育活動を推進する。こうした取り組みを通してめざしているのは、木を中心に置いた子育てや子育ち環境の整備によって、子どもを始めとするすべての人たちが、木の温もりを感じながら楽しく豊かに暮らしを送ることができるようにすること。ウッドスタートは、人生の最初のタイミングで、そんな日本の木のよさを感じてもらうきっかけを与えようというものだ。
0~2歳児限定の『赤ちゃん木育ひろば』。独特の肌触りと形状が特徴的なスギ材のおもちゃや遊具が並ぶ。
『おもちゃのもり』と並んで、木育推進に関わりの深い部屋が東京おもちゃ美術館にはもう一つある。0~2歳の赤ちゃん専用に開放する『赤ちゃん木育ひろば』だ。床には30mmの厚さの無垢のスギ板をふんだんに使っている。柔らかい材だから積木などのおもちゃが叩きつけられてできたへこみも目立つものの、赤ちゃんがゆったりするのに最適だ。全国各地のスギ材を使った木のおもちゃや遊具もたくさん置かれていて、木のおもちゃの肌触りや色、においなどを感じながら、親子でゆっくりと過ごすことができる。赤ちゃん木育サポーターも常駐していて、遊びや子育ての相談にも乗ってもらえる。
「『おもちゃのもり』は各方面から高い評価をいただいたのですが、部屋の中を走り回って遊ぶ年中・年長以上の子どもたちと、もっと小さい0~2歳の赤ちゃんの遊びがなかなかうまく両立できないという課題もありました。赤ちゃんがのんびりできる木の部屋をつくりたいよねと、もとは団体さんが遠足で来た時にお昼ご飯を食べたりする休憩室として使っていた部屋を改装して2011年10月にオープンしたのが、この『赤ちゃん木育ひろば』です。ここはもう0・1・2歳児オンリーで、3歳以上は入れない──親はもちろん入れますけど──ということで、赤ちゃんがゆっくりできるスペースにしています」
特に平日の日中、他の部屋はひと気がないときでも、赤ちゃん木育ひろばだけは満員で、入場制限をするほどの盛況だという。
「比較的空いている日なんかは朝から晩までずっといらっしゃる方もいます。赤ちゃんの方が疲れちゃうんじゃないかと思うんですが、親が居たいらしいんです。家にいると、子どもと1対1で向き合っていてストレスが溜まってしまい、何をするかわからなくなるといった話も聞きます。ここに来れば、他の人の目もあるし、来館者や子育てサポーターと話もできて、ストレスが解消できるそうなんです。最初、私たちは赤ちゃんのためのスペースとしてつくったんですけど、むしろ大人のために役立っているところもあるのかなと思います。いわゆる“公園デビュー”では、地域のいろんなしがらみや人間関係が引きずられることになります。ここにはいろんな地域の方が来ますから、そんなしがらみもなく、気軽に来て解放されるようです」
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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