トップページ > 環境レポート > 第56回「大都市東京に眠れる未利用資源を掘り出す ~年間20万トンが捨てられている家庭の廃食用油を資源として活用(TOKYO油田2017)」
2015.01.30
TOKYO油田2017の技術的な柱がVDFの開発とすれば、ソフトの柱となるのが、使用済み食用油を回収する仕組みづくりにあった。
“油田”開発とはいえ、油の消費を増やしたり、使用済み油を多く集めたりするのがよいわけでは必ずしもない。食用油だから、できれば食べて使い切ってもらいたい。それでも捨てる油が出るのであれば、VDFに加工して、エネルギー資源としてリサイクルしていこうという取り組みだ。静脈産業といわれる再資源化用途を太くしていくための取り組みであって、闇雲に増やしていこうというものではない。同時にVDFをエネルギー資源として活用するだけでなく、油の回収とともに取り組むことが重要だ。アースデイ東京や目黒川みんなのイルミネーションなどでも、単にイベントに使う分のVDFを化石燃料からVDFに転換するだけにとどまらず、地域の住民や事業者に協力してもらって、使う分の油を集めることで、資源循環の取り組みになる。
「2006年のアースデイ東京で『てんぷら油リサイクル大作戦』を展開したのが一つのきっかけになりました。エコのイベントなので、化石燃料などを使わずに環境負荷の少ないエネルギーを使いたいとVDFを使っていただくことになったのですが、ただお金を出して燃料を購入するだけでなく、地域の人たちに協力してもらって集めた油を原料にして燃料ができたらいいよねということで始まったプロジェクトでした。2日間で使用する予定の約1トンのてんぷら油の回収を目標にしましたが、2日間のイベントに持ってきてもらうだけでは足りそうになかったので、イベント前の2か月間、回収の協力を呼びかけたのです。すぐにカフェや雑貨屋さんなど8か所に回収ステーションが設置されることになりました」
この時は、イベントのための原料集めを目的に設置した回収拠点だったが、イベント後も引き続きやりたいという声が上がった。それだけでなく、知り合いにも薦めたいという人もいた。
「これまで来なかったようなお客様が油を持って来店してくれるようになったと言うのです。てんぷら油の資源回収が軸になって新たなつながりができたんですね。そこで、回収ステーションをその後も続けることになりました。私としてはアースデイ東京のイベントへの協力として始めたことだったので、回収費用のことはあまり考えなかったんですが、きちんと経費を取って永続的な仕組みにしないといけないと皆さんの方から言ってくださって、では1回千円くらい、1か月に1回の回収で、年12回だと1万2千円だけど、切りよく1万円でという設定になりました。お店としても回収ステーションを設置することのメリットが見い出せると、喜んで協力してくれたのです」
現在、回収ステーションは、東京近郊(東京・千葉・埼玉・神奈川)に約500か所が設置されている。中には、渋谷区や葛飾区、所沢市など自治体の資源回収の一環として公共施設などで集めているケースもある。
「葛飾区では、イトーヨーカドーが区内全店で回収ステーションを開設してくれています。神奈川県内のファミリーマートでも、3店を展開しているフランチャイズ店のオーナーさんの協力で3店すべてで回収ステーションを設置してあります。これまでの回収拠点は、カフェや雑貨店など個人商店の協力で設置させていただいていて、エコに関心の高い方々がわざわざ持ち込んでくださっているようなイメージでしたが、コンビニやスーパーに回収拠点を置いてもらえるようになって、より幅広い層の人たちが買い物ついでに持ち込むなどさらに気軽に参加してもらえるんじゃないかと期待しています」
スーパーなどでは、すでに牛乳パックやトレイなどの回収をしているところも多く、そうした流れで取り組みやすい。しかも小売で扱っている商品だ、買ったところへ戻す仕組みは、小売店の取り組む環境対策として消費者にもアピールできるだろう。
イトーヨーカドーの油回収(ヨーカドー油田)とイオンレイクタウン店の油回収(レイクタウン油田)
都内を中心とした近郊地なら、廃食用油の回収やできたVDFの輸送・給油などにも無理はないが、遠隔地の場合は輸送コストがかさんでしまい、現実的ではない。そこで取り組んだのが、どこでも地産池消の燃料製造を可能にするVDF製造プラントの開発だった。
VDFの生産・販売だけでなく、VDF製造プラントを提供することで、全国各地の“油田”を有効に活用できる仕組みを作ろうというわけだ。現在、製造容量等のタイプ別に数種類のプラントを扱っている。
さらに最近は、油をVDFに加工しなくても、生の油のままで燃料として使えるような仕様の発電機の開発・販売をはじめている。地域で集めた使用済み油をそのまま使えるから、輸送等のコストやエネルギー消費が削減できる。
出力10kWの発電機の場合、1時間で3リットルの油を消費する。家庭の電力消費量がだいたい5kWほどだから、10kWの出力は2軒分に相当する。24時間稼働させるには72リットルの油が必要になり、大口の排出源と組むなど、毎日コンスタントに集める仕組みも必要になる。
たまプラーザ(横浜市青葉区)では、「たまぷら油田」と名付けたプロジェクトが動き始めている。地域住民から集めた油で発電した電力を売電し、その収益を原資にしてコミュニティバスを運行するという事業計画を立てている。生油発電機はこうしたケースでの利用が想定できる。
「『TOKYO油田』はキャッチーなコピーとして掲げているものです。“東京の廃食用油を一滴残らず集める”といえば、環境にそれほど関心のない人にもやっていることの内容や意味がわかっていただけるんじゃないでしょうか。私は油屋なので、油──それも新品の油ではなく使用済みの油──を通して循環型社会の一つのモデルを社会に示していきたいというのが、このプロジェクトの真の目的です。だんだん回収拠点も増えてきて、油を集められるようになってきましたが、まだまだ十分ではありません。目標年の2017年まで残り2年間となりました。その3年後に控える2020年東京オリンピックも社会変革のターゲット年としてよい契機にできるんじゃないかと思います。今後はより戦略的に進めていきたいと思っています」
染谷さんはそんなふうに、今後の展望を話してくれた。
廃食用油の再資源化の柱となるのはVDFなど燃料への活用だが、ユーズでは他にも再資源化商品を開発している。中でも最近のヒット商品は、廃食油キャンドルだ。
回収した油を精製し、固化してできるロウソクだ。固める際、芯になる糸を垂らしておけば、芯のまわりのロウが溶け出して燃えるキャンドルができあがる。容器に入れて形を作ったり、色や飾りを付けて装飾したりすれば、かわいらしいキャンドルができあがる。
ワークショップで自分だけの廃食油キャンドルを作るプログラムでは、水を入れて膨らませた風船を型にして固めたアウターを用意して、その中に好きな色の溶かしたロウを流し込んで芯とともに固めて作る。
染谷さんは、そんなワークショップを地元の小学校を始め、年に15校ほど呼ばれて実施している。これからの社会の担い手になる子どもたちにも、「TOKYO油田」の意味と意義を知ってもらいたいと、染谷さんの取り組みは続く。
地元の八広小学校の子どもたちを対象に実施した環境学習
ロウで作ったアウターに溶かしたロウを流し込んで作る廃食油キャンドル
東京スカイツリーのソラマチイースト5階にある「すみだ まち処」でも、てんぷら油からできたキャンドルや石けんの販売をしている
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