トップページ > 環境レポート > 第59回「研究者とは異なる立場で、自分が住む地域について誰よりも詳しくなることをめざして(城山トコロジストの会)」
2015.03.31
再び、2月末の定例会で実施した落ち葉アートの作品づくりに戻って、その様子を紹介しよう。
落ち葉拾いを終えた参加者たちは、朝集合した城山公園体験学習館の一室に戻って、いよいよ作業を開始する。体験学習館は、平成18年7月に開館した中央図書館と隣接する地域の文化拠点となる施設だ。公園の北端に立地し、駅からは徒歩5分ほどとアクセスもよい。
濡れた落ち葉を乾かすため、子どもたちはビニール袋に拾い集めた葉っぱを1枚1枚並べてテーブルいっぱいに広げる。その中から、自分の好きな1枚を選んで、薄い紙を上に乗せてクレヨンで落ち葉の模様をこすり出すように色を付けていこうという、フロッタージュ【2】というアート技法を用いたプログラムだ。作業について、箱田さんが説明する。
「今から、習字用半紙を皆さんにお配りしますので、葉っぱを下に置いて、クレヨンで色を塗ってみてください。葉っぱを触ってみると、表面よりも裏面の方が筋の凹凸がはっきりしていることがわかりますから、葉っぱの裏面を上にした方がきれいに模様が出ると思います。また、クレヨンは普通に使うよりも、横に倒して広い面で撫でるようにこすってあげるときれいに模様が出ると思います。クレヨンに巻いてある紙は破って構いませんから、試してみてください。それと、虫食いの跡とか、穴が開いているのもいっぱいあると思います。葉っぱの先のギザギザの具合とか、そういうのも模様がちゃんと出るか、気にしてみると面白い作品になると思います」
城山公園体験学習館の一室で、フロッタージュ技法を用いた落ち葉のアート作品づくりについて説明する箱田さん。
拾ってきた落ち葉をテーブルの上に広げて、いよいよ作業開始だ。
「この紙、描きにくい!」
薄い半紙だから、引っかかって破けてしまったようだ。隣のお母さんが、葉っぱの下に何枚か紙を敷いて、クッション代わりにする。紙の摩擦で滑りにくくなって、塗りやすい。しかも、茶色い机と比べて白い紙の上に葉っぱを乗せることでその輪郭が浮かび上がってきて、色を塗る範囲が明瞭になるという効果もあった。
葉っぱの上に半紙を乗せて、クレヨンをこすり付けて色を塗っていく。
時間を見て、箱田さんが声をかける。
「みんな、だいぶ慣れたかな? そろそろ完成品を作ってもらいたいなと思います。作るときに、たぶんみなさん、1枚の紙にいろんな色を試しながら、重ねてこすって書いていたと思うんですけど、そういうやり方で完成させてもいいし、あるいは、お父さん・お母さん、それぞれの写し取った葉っぱをハサミで切り取って、それを寄せ集めて1枚の絵にしてもらっていいと思います。ご家族に1枚、額縁をお配りしますので、ぜひ、今日のベストな1枚を選んでいただけたらと思います」
額縁と台紙の色画用紙は、みどり東京・温暖化防止プロジェクト助成金を受けている「稲城市民環境クラブ」からの提供だ。市環境対策課の工藤さんが補足の説明をする。
「台紙も、色画用紙がありますので、こちらもご使用いただければと思います。ただ、額縁のサイズがちょっと小さいので、これに貼ろうと思うと、少しレイアウトを小さめにしていただくような感じになります。額の裏面を外して、それに合わせて台紙の色画用紙に折り目を付けてサイズを合せると、うまく入ります」
プログラムの最後には、それぞれの作品をお披露目して、この日の作業のふりかえりとわかちあいをした。
「フロッタージュは、美術分野で用いられる技法なんです。それを使って落ち葉でやったり樹皮をこすり取ったりというのは、よく自然観察のプログラムとしてやられているので、今回はそれを応用してみたわけです。自然観察会で、『落ち葉を観察してみてね』と言っても、なかなか面白味がないんですよね。作品を作るという目的で作業をしていくと、葉っぱをさわった感触だったり、こすり取ったときの意外な模様が浮き出てきたりして、目で見るだけじゃないおもしろさが感じ取れるようになりますよね。落ち葉というものをじっくりとみてもらう一つのきっかけになるかなと思っています。今回も、落ち葉に目を向けるきっかけにはなってくれたんじゃないかなという気はしています」
翌月にはカエルの観察を予定しているという。この日、落ち葉拾いの合間に調べたカエルの卵塊は、これから1か月も経てば孵化してオタマジャクシになっているはずだ。月1回の定例会を楽しみながら、公園に対する見方が自然と変わっていってほしいと箱田さんは言う。
「同じフィールドなんですが、毎回目線を変えることで、新たな違う見え方ができるようになります。そうやってみんなで見ていきながら、年間を通じて、あるいは2年、3年というスパンで、この場所をより深く知っていく。この場所って、近所の子どもたちが必ず遊びに来る公園なんですよ。参加者の多くにとって、何度か遊びに来たことのある公園です。その公園の中に生きものがいるという意識が重なっていくことで、公園に対する見方も変わってくるのかなと思いますし、そうなってくれるとうれしいですね」
城山トコロジストの会は、城山公園を中心にした展開事例の一つといえる。この活動を先駆事例にして、トコロジストの取り組みに関心を持った人たちが、それぞれのフィールドで取り組んでいってほしいと箱田さんは言う。そうして広がっていくことで、地域ごとの“トコロジスト”が増えていき、市民による市民のための自然保護につながっていく。
最後に、自分の住む地域でこうした活動を進めたいと思った場合、どうやって進めていけばよいか、箱田さんのアドバイスを聞いた。
「公園などの地域の緑地で活動する既存の団体はたくさんあると思いますが、世代間ギャップなどもあって入り込むきっかけを見い出せなかったりもします。そうしたとき、一人でもまずは歩いてみて、自分がそこの場所の第一人者になってしまえばいいんじゃないでしょうかね。歩くときに特別な方法はありませんが、地図をうまく活用していくことで、結構、場所の見方が変わっていくんですね。そういうコツはあると思います。フィールドの地図を持って歩いて、『生きもの地図』を作ってみたりすると、見えなかったものが案外見えてきます。そうして歩いて、地図を作ったりして記録して、そこの場所のことが見えてくると、フィールドに対する“思い”が芽生えてきますから、その“思い”を、いろんな人に話してみる。最初は家族でもいいし、ぼくだったら幼稚園のおやじの会だったんですけど、そこで話してみるんですね。話すことで、反応してくれる人が必ずいると思いますから、そういうところから広がっていくんじゃないでしょうかね」
人を動かすような説得力ある話をするのは、簡単なことではない。でも、自分が実際に歩いて、自分の体験として見てきて、わかっていることだからこそ、そこから生まれた思いは、説得力のある話として響いてくれる。
まずは歩いて、フィールドの状況を把握するところがスタートなんだと、箱田さんは実感を込めて話してくれた。
話をお聞きした、城山トコロジストの会・箱田敦只さん(職場の日本野鳥の会事務所にて)。
日本野鳥の会『トコロジスト~自然観察からはじまる「場所の専門家」』(2014年10月発行)
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