トップページ > 環境レポート > 第62回「“子どもが主役”の学びを創る、多摩第一小学校のESDの取り組み(多摩市立多摩第一小学校)」
2015.07.17
6月下旬のある朝、心配された雨もちょうどこの日を避けてくれたかのように空が晴れ渡った。ここ、多摩市立多摩川第一小学校は、ちょうど多摩川とその支流の大栗川に挟まれるように立地する、川沿いの学校。校庭の裏門を抜けると、そこは多摩川土手がもうすぐ目の前にある。
この日の午前中、同校4年生の総合的な学習の時間を使った、多摩川学習が行われた。年間70時間のうち50時間を使う『わたしたちの多摩川』の学習だ。この日のフィールドは、学校から土手沿いに徒歩5分ほど、大栗川との合流地点に当たるちょっとした広場。
担任の先生の指示で整列し、この日の講師役を務める羽澄ゆり子さんに挨拶をする。
「おはようございます。今日は、鳥の専門家の羽澄さんに来てもらって、野鳥観察の仕方を教えていただきます。(全員で)よろしくお願いします! はい、そしてもう一人の先生は、多摩川のプロフェッショナル・棚橋校長先生です!」
振り返ると、麦わら帽子を被った校長の棚橋乾先生がちょうど河原からあがってくる。朝から下見のため水位を確認するとともに、草刈り機で子どもたちが河原に下りるための道を切り広げていたため、すでに汗びっしょりだ。
迎える子どもたちは全員、長靴と帽子を着用し、クリップファイルに挟んだ記録用紙と筆箱を脇に抱えて、肩からは水筒を下げて、準備万端。
これからクラスごとに、棚橋校長といっしょに河原に下りて石の観察をするグループと、土手に残って羽澄さんと野鳥の観察をするグループに分かれて、時間を区切って入れ替わる。2時間の授業時間で、石と野鳥の両方の観察体験を順番にするわけだ。
校庭の裏門から、道を挟んですぐの土手に向かう、多摩第一小学校の4年生たち。
多摩川と大栗川の合流地点の土手の上にて、講師の羽澄ゆり子さんに挨拶をする。この後、土手下の河原から棚橋校長も登場する。
棚橋校長といっしょに石の観察をするグループは、土手から河原に降りて、ムンムンとする草いきれの中、背丈ほどに伸びた草むらの道を分け入って、石河原へと出る。
「石って、硬いし、痛いし、石コロなんて言われていて、あんまりおもしろくもないと思うかもしれないけど、実はじっくり見ていくといろんなことがわかるんです。今日はそんな話をします。
さて、今からしばらく時間をあげるので、1人3つずつ、石を拾ってきて、この白いシートの上に持ってきてください。置くときに、似たような石は近くに置いてください。それぞれに“これだ!”と思う石を探してくるように!!」
子どもたちは、遠慮がちに広がっていきながら、足元の石を拾い始める。
「もっと遠くに行っていいぞ、見える範囲なら!」
棚橋校長の声が響く。抱えるほどの大きな石を持ち上げようとする子、誘い合わせて水の近くに石を探しにいく子…。それぞれが思い思いに散らばっていく。
河原で石の話をする棚橋先生。
石を探しに、河原中、思い思いに散らばっていく子どもたち。
子どもたちが拾ってきた石を前に、棚橋校長の話が始まる。
「さあ、ノートと鉛筆を持って、このまわりに座ってください。さて、みんなが石を選んだ時、何を基準に、どういうことで“この石がいい”って思ったのかな? …模様、そう。他には? 形ね…。みんな、メモしておいてね。音!? ああ、ぶつけたときのとかね。それから何かある? 触った感じ…、色…、大きさね。
だいたいそんなところかな。実は、これらの中で、石を研究している人たちも石の見分けに使っていることがあります。1つは色。2つ目は模様。そしてさわり心地。石って、もともと石ってわけではないんだな。別のものが石になっているんです」
そう言って、シートの上から子どもたちが拾ってきた石を一つ取り上げる。
「例えば、この石。触ってみると、ザラザラしているでしょう。たくさんの砂が集まっているようにも見えるよね。これ、名前があります。砂石(すないし)? …う~ん、ちょっと違う。砂の岩と書いて、砂岩(さがん)と言います。海に砂が溜まっていってできたものです。それも1mとか2mじゃない。50mも100mも溜まっていくと、ギューっと固まっちゃうんだね。
なんとこの砂岩は海の底でできたものなんだ。不思議だね。ここはどこ? そう、川だよね。なんで海の石がここにあるんだろう。ヘンだよね。でもそれが大事なんです」
拾い集めてきた石は、似た者同士で分類しながら置いていく。
次に取り上げたのは、白いツルツルした石だ。
「この石はすごいんだよ。貝殻やサンゴ礁などの生きものが死んで、海の底に溜まっていって、またぎゅ~っポン!とできた石です。昔の生きもののミイラ石だね。この白い石の名前は、石灰岩(せっかいがん)と言います。みんな、普段から大変お世話になっているものです。多摩一小は、立派な校舎があるけど、これ、何からできているか知っている? そう、コンクリート。
この石を粉にして、熱い蒸気で焼くとセメントになる。セメントに水と砂利や石を混ぜればコンクリートだ。この石灰岩という石はセメントの原料なんだね」
もう一つ海でできた石があるという。赤い小さな石を2個、取り上げて掲げる。
「今度は赤い石。チャートって言います。こういう赤い石を探して、石同士で叩いてごらん。(石を叩いてみせて、隣の子の鼻先に近づける)どんなニオイがする? 火薬っぽいだろう。このチャートという石は、珪藻【1】の堅い殻が固まってできたものなの。なぞは、ここは川なのに、なんで海の石があるのか…?」
訥々と語る棚橋校長と、神妙な表情の子どもたち。河原にゴロゴロしている地味な“石コロ”だが、その意外な歴史に、子どもたちは次第に引き込まれていった。
続いて、ごま塩模様の石を手にする。
「これは、今はさわれるけど、もともとは真っ赤に焼けたマグマだった。マグマが冷えて固まって、こんなふうになったんだね。花崗岩(かこうがん)と言います。これは海ではできません。どこでできるか? 山でできるんだ。ここは山だっけ? …おかしいよね」
一呼吸置いて、子どもたち一人ひとりの表情を見渡す。
「いろんな石を探しながら、順番にパズルのようにつなげていくと、多摩川がどうやってできたのかがわかってきます。石の中に、多摩川の歴史が詰まっているんだよね。地味だけどおもしろい、石の世界です」
疑問を投げかけ、あえて答えは教えずに、子どもたちに“?”と思う気持ちを湧き起こさせたまま、この日の授業を終える。
土手の上に立つ、『大栗川左岸 多摩川からOkm』の標識。
棚橋校長が河原の石の話をしていた同じ頃、土手に残った野鳥観察のグループの子たちは、講師の羽澄さんの話に耳を傾けていた。
「みんなが“多摩川”って言うとき、どこからどこまでが多摩川になるのかな? そう、山梨の源流から東京湾まで、線のようにつながっているのが多摩川だよね。じゃあ、幅はどうかな? どこまでが多摩川? 川の水が流れているところ? じゃあここは? 大栗川は多摩川? 違うかな? そこに何か書いてあるよね。『大栗川左岸 多摩川からOkm』…0ってことは、合流しているってことだよね。ということは、この辺も多摩川なのかな? みんなが“多摩川のことを調べるよ”と言ったときに、どんなふうに考えていったらいいんだろう」
子どもたちを見渡しながら、羽澄さんは話を続ける。
「はい、今日、私は鳥のお話をしようと思うんだけど、“多摩川にいる鳥”といったときに、あそこの水のところにいる鳥だけが多摩川の鳥なのかな? ちょっと違う気もするよね。鳥たちはそれぞれ好きな場所、必要としている場所があって、飛んできます。向こう岸に見える河原から、すぐそこの崖の上までも含めて、ここにいる鳥を“多摩川の鳥”として見ていきたいと思います。
目で確認することができる鳥がいます。でもそれだけじゃないよね。他にどんな方法があるかな? そう、鳴き声。それから? 巣があるかもしれない、そうだね。他に何か思いつく? インターネットで調べる? でもそれって自分の情報じゃないよね。自分で確かめるにはどうしたらいい? そうか、エサを食べにくる鳥がいるはずだから、こんな魚がいたらこんな鳥がくるんじゃないかなと予想することができるよね。そうです、考えつく方法はいろいろあると思います。他にもあるよね。足跡っていう方法もあるかもしれない。今度、川岸に下りたときにやわらかい砂のところを探してみると、足跡が見つかるかもしれないよね。
はい、それではこれから1分間、目をつぶって、どんな音が聞こえるか、鳥の鳴き声かなと思ったら、何種類くらいの鳥の声を聞き分けられるか、チャレンジしてみましょう!」
羽澄さんの言葉で、目をつぶって集中する子どもたち。
後ろの方の森の中からは、“ホーホケキョ”という鳴き声が聞こえてくる。頭上では、“カーカーカー”とカラスが数匹、鳴きながら飛んでいく。
ヨシ原の中からは、チャッチャッチャッチャ…と短い鳴き声が響く。スズメほどの大きさのセッカという鳥だという。ギョギョギョギョギョ…と鳴いているのは、オオヨシキリ。同じくヨシ原に巣をつくっている。
ピチピチピチという、ヒバリのさえずりも聞こえてくる。
「はい、じゃあ目をあけてください。どうだった? 何種類ぐらい聞こえたかな? じゃあ、2種類の人!」
ポツポツと手があがる。「カラス!」「ホーホケキョ!」と子どもたちが口々に声を上げる。
「3種類の人! 4種類は? じゃあ、5種類! 6種類? 7種類以上の人…!」
羽澄さんの問いかけに応じて、順番に手があがる。7種類以上という声に手をあげる子も何人かいた。
この後、「鳥って何のために鳴くのかな?」「一年中いつでも鳴いている?」と子どもたちに質問を投げかけながら、鳥の鳴き声の意味などについての話を展開する。1人1つずつ渡した双眼鏡を覗き込みながら、野鳥観察の仕方を教えていった。
1人1つずつ双眼鏡を首にかけて、野鳥を観察。まずは見たい対象を視野に入れるところからじっくりと教わる。
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