トップページ > 環境レポート > 第63回「天からの恵みを暮らしの中に生かす ~墨田発、“雨水(あまみず)”活用の広がりをめざして(NPO法人雨水市民の会)」
2015.08.11
墨田区内には、現在500数十か所の雨水施設が設置されている。
「雨水利用の推進に関する法律が昨年5月に施行され、今年3月には基本方針が策定されて国の姿勢が示されました。基本方針の中には、自治体についても普及のための計画を作りなさいと定めています。墨田区はその前を歩んでいたわけで、その結果として今現在500を超える雨水施設が整備されているのです。この資源を何とか活用したいと、市民の会では今年度の事業計画として、区内各地の施設を訪問して、水質検査や管理状況の調査を計画しています」
墨田区内における雨水施設統計(平成27年度3月現在、墨田区の提供情報より抜粋・加工)
雨は、大気中の水分がまわりにある微粒子を核にして凝結し、雨粒となって落ちてくる。都市部は車交通も多く、排気ガス中の汚染物質も核になる。特に降り始めの雨は汚れが目立つという。タンクの壁面に黒っぽい煤などがつくこともある。
集水装置やその周辺に汚れていると、タンクの中にも汚れが入ることになる。例えば、屋上緑化をしていて土の成分等が入ってくるところでは、砂などの沈殿物がタンクの底に溜まって黒ずんでくる。ただ、重いものが沈んで、くっつくものが壁などに付着してしまえば、水自体はそれほど汚いものではない。蒸留水に近い水だから、有機物は少なく、水としては栄養分が少ない。フタをしてタンク内が暗くなっていれば藻も発生しないし、蚊が湧いたりすることもない。降り始めの初期雨水をカットできれば、不純物も大幅に減らせる。
初期雨水を排除するための装置。さまざまな方法が考えられるが、取水装置に小さな孔が開いているため一定以上の雨量にならないと取水できない「少雨排除タイプ」(左)と、降り始めの雨を一定量貯めた後、あふれた分を取水する「分離排除タイプ」(右)がもっともオーソドックスなタイプといえる。
雨水利用については、十分な実証がされてはいない面もある。大きいビルなどでは雑用水としての扱いになるため、検査項目も限られる。ただ、メンテナンスについては、砂ろ過を入れたり塩素で消毒したりするところも多い。
一方、一般の家庭で雨水タンクに貯めて活用する無処理の水については、水質に関するデータもあまり取れていない。
特に路地尊や天水桶などは、雨樋にも結構ごみが溜まっているから、汚れも入ってきていることは想像に難くない。有機物が少なければ長く貯めておいても、それほど水質は変わらないというが、その辺りも実証を兼ねて調査したいと話す高橋さんだ。
雨樋に切れ目を入れて、雨水を引き込むための金具「レインキャッチ」(頒価700円)。
すみだ環境ふれあい館で開催した「水のおもしろ実験」(2014年7月21日)。
2001年に小学校跡地を再利用して開設した区の環境学習施設『すみだ環境ふれあい館』は、2009年から市民の会が管理・運営を受託している。墨田区ならではの情報発信として、雨水に関するさまざまな展示や企画を行っている施設だ。
市民の会では、雨水活用に関する展示を整備し、雨や水に関する講座や実験などを企画・運営。雨について描いた絵本約1,000冊を集めて、幼児・小学生(低学年・中学年)向けの読み聞かせや工作・劇などを開催する「雨の絵本ひろば」も毎月第3日曜日に実施している。
ふれあい館の講座の導入などでも使っている「雨つぶぐるぐる すごろく」という環境学習教材がある。2014年に制作したこの教材が、スゴロクという誰でも親しみやすいゲームの型式で、地球規模の水循環や身近な暮らしの中の水循環を、“雨のしずく”になって体験する。
通常のスゴロクは、「ふりだし」から「あがり」への一方通行だが、「雨つぶぐるぐる すごろく」では、“雨のふるさと”である海がスタート兼ゴールになっていて、海から出発して海に戻るひと巡りをゲームの単位とすることで、ぐるぐると地球を回る水の循環を感じられるように設計している。
2014年9月20日に国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された「第7回いい川・いい川づくりワークショップ」では、「雨つぶぐるぐる すごろく」が「いい川ネットワーク賞」を受賞した。
制作のきっかけは、ある小学生が作った手描きのスゴロクにあった。小学校低学年の頃に「雨の絵本ひろば」に参加していた子が高学年になってスタッフとして加わってくれたときに作ったものだ。川を流れる水が浄水場を通って水道水などに使われ、最後には下水処理場で処理されたあと海に流れるというシンプルなものだったが、それをアレンジして環境学習の教材にしようと、メンバーが話し合いを重ねた。
ゲーム性を演出するため、ゴールの直前に「氷山でカチンカチンにこおって3回休み」というコマがあったり、スタート近くまで大きく戻るコマがあったりする。海を泳ぐ魚に飲み込まれた水が、その魚を食べた人の体の中に取り込まれるという設定だ。体の中に入った水分は、汗やおしっことして排出され、排水管から下水道を通って処理場を経て、川に流れて海に至るという、現実の水循環の流れをたどる。ゲームを楽しみながら、コミュニケーションを図り、水循環の意味について自然に考えを深めることができるのが特徴だ。
雨水活用の広まりを感じる一方で、その難しさもあると高橋さんは言う。
「先ほどタンクに貯めた雨水の水質の話をしましたが、日本で飲料適否の基準として使われているのは、水道法で規定している水質基準です。基準に照らし合わせると、雨水は飲み水としてはアウトになると思います。そうすると、適合していない水じゃないか、飲めないじゃないかと、一般的には言われちゃうんですね」
雨水について考えるときには、水の由来が大事だと高橋さんは言う。天から降ってくる雨水だから、屋根の汚れがある程度きちんと取れていれば、それほど不純物は入ってこない。ただ、自然の水だから細菌はどうしても入ってくる。それゆえに水道法の水質基準には適合しなくなる場合もあるわけだ。しかし、細菌なら沸かして使えば死滅する。自然の水という由来を知って、使い方さえきちんとすればそれほど問題ではないともいえる。
一方、大気汚染物質等の混入は、煮沸するだけでは排除できない。それでも、雨水を一生飲むわけではないだろうという話をしているという。例えば、災害などの緊急時に飲むということに限れば、水道の復旧やペットボトルなどの支援物質が届くまでの数日間の飲用だ。例えば発がん性などを気にする人も多いが、その基準は、人が一生飲み続けたことによる影響を評価するものだから、水の由来を知り、利用条件などを総合的に判断すれば、それほど深刻になる必要もないのではないかというわけだ。
「基準に合っているから使ってよい・使えないとよく言われます。でも、タンクを設置したときに、関わった地域の人たちにはその事情がわかっているはずですよね。その水がどういう由来の水なのかということがわかっている人たち自身が自己責任の下で判断するならば、何ら問題はないんじゃないでしょうか。今の人たちは、基準とか法律で守られているところがありますから、なかなか自分で責任をとって判断するという必要も経験もないわけです。でも、災害時などは、まさしくそうした法制度などが機能しなくなる場面ですから、自分で判断していかないといけない場面もいっぱい出てきます。そうしたときの判断力を鍛えておくことも大事だと思うんですよね。水質基準というのは、あくまでも水道水の基準であって、自然水の基準はありません。ですから、自然水を利用する場合、基本的には自己判断ということになるのですね。ただ、大きな施設などで不特定多数の人が使う水の場合、いわれを知らない人がきて、変な使い方をしてしまうと困るので、規制が設定されるのです」
実は高橋さん、かつては保健所に勤務していて、それこそ井戸水の水質基準などを測定して、飲料適否などの指導をしていたという。
井戸水だから、何も処理をしなければ水質基準に適合しないのはやむを得ない。そんなとき「飲まないでください」と指導するだけでなく、状況等によっては「飲むときには沸かしてください」などと柔軟な対応ができると雨水の活用もさらに進むだろうと話す高橋さんだ。
雨水市民の会の副理事長・高橋朝子さん。鳩の街商店街にある雨水市民の会事務所の前にて。玄関前に置かれた雨水タンク(天水桶)は、嘉永六年鋳造、ちょうど黒船来航に沸いた年だ。先祖代々受け継がれてきた天水桶が、関東大震災や東京大空襲などにより、引っ越し先に移設されていたものを、誕生地である墨田に里帰りさせたいと相談があって寄贈された。2015年5月に天水桶里帰りプロジェクトと銘打って移設作業を行い、錆落としと再塗装を行った。現在は、雨水市民の会事務所前に鎮座している。
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