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2017.09.05

第87回「昔ながらの米づくりを体験して、「苦労を楽しむ」を学ぶ(府中市郷土の森博物館のこめっこクラブ)」

サポーター制度を取り入れて参加者が増えた

 佐藤さんのお話では、4年ほど前までは、参加者は4年生以上の小学生と中学生に限っていたという。小学校も高学年になるといろいろと忙しくなるためか、徐々に参加者が減り始めた。ちょうどそのころ大人もやりたいという声があがり、1年生から参加できるようにするかわりに大人がサポーターとして入るサポーター制度を設定したところ、参加者が増えて活性化したそうだ。
 「少し前までは親の世代なら普通に体験してきたことが、今は親の世代も知らなくなっています。皆さんもやりたいのだと、勝手に解釈しています。1年生から参加している子はもう4年くらい、毎年きてくれるので、楽しいんだと思いますよ」と佐藤さんはおっしゃる。
 今年は、応募者が多くて、久しぶりに抽選になったとのこと。その結果、こめっこの登録は35名、サポーターは38名で、大人だけで登録している人もいる。
 こめっこクラブの活動でおもしろいのは、昔ながらの農具を使うことである。今回の草取りでは田掻車(たかきぐるま)という農具を使っていた。これは明治のはじめに登場したものである。古い農具を使うのは博物館ならではのこと。
 田起こしに使う鋤や鍬はもちろん古い農具だ。脱穀に使う千歯こきや、臼型のもみすり機も準備しているという。

 
田掻車を押す5年生の男の子。「重いけれど、慣れれば簡単。地道にウキクサをすくうより楽しい」という。
田掻車を押す5年生の男の子。「重いけれど、慣れれば簡単。地道にウキクサをすくうより楽しい」という。

田掻車を押す5年生の男の子。「重いけれど、慣れれば簡単。地道にウキクサをすくうより楽しい」という。


田起こし(提供:府中市郷土の森博物館)。

田起こし(提供:府中市郷土の森博物館)。

田植え(提供:府中市郷土の森博物館)。

田植え(提供:府中市郷土の森博物館)。


昔ながらの米づくりを知って、「苦労を楽しむ」を学ぶ

 府中市の中央部には、古多摩川が武蔵野台地をけずってできた崖(府中崖線)があり、これを「ハケ」と呼ぶ。ハケの北側の台地上はハケ上といい畑作が多く、一方、南側の平地はハケ下といい、水田が広がっていた。今も用水路のあるところでは水田が見られる。
 こめっこクラブの米づくりは種まきから始まり、その時期、いっしょに田起こしをする。
 「実は前年の稲刈りのときにレンゲをまいて、これで新しい土ができますよと話をしています。すると、次の年にはその土がどうなっているか見たいと参加してくれます。そういう流れをつくりたいのです。ここでの体験を通してお米の成り立ちを知ってほしいし、楽しいんだけれど実はたいへんなんだという苦労や、イネからお米になるまでどんな仕事があるのか、昔はどうやっていたのか知ってもらえたらいいですね」と佐藤さん。
 さらに、「田掻車は重いです。だから子どもたちはあまりやらない。千歯こきもコツがいる。それを知るだけでもいい。稲刈りに使うノコギリ鎌なんて、下手に扱うと指も切れてしまいます。それでもあえて、危険であることを承知で体験してほしいですね」とつづけてくださった。
 確かに、イネが米になるまでにどんな作業があり、どんな苦労があるのか知って食べると、米の味はさらにおいしくなるだろう。食べ物の生産現場と消費の場がどんどんはなれてしまっている今、グルメをもてはやす一方で、食べ物への愛着が薄れている気がする。食品の大量廃棄の問題も、生産を知ることで少しは解消されるのではないだろうか。苦労を知ることは決してマイナスではない、そこから得るものも多いのだ。
 さらに佐藤さんは、「サポーターの皆さんは、積極的に楽しんでやっていただいている気がします。『苦労を楽しむ』のが、皆さんが求めているところかなと思います」と感想を聞かせてくださった。
 最後に、今後の方向性についてお聞きすると、
 「今は、最初にここで米づくりを体験したこめっこたちが、自分たちの子どもを連れてやってくるのを待っています。最初の年に参加した子が当時10歳だとしたら、今もう40歳です。子どもがいてもおかしくありません。待っています」というお話が返ってきた。
 開館当時ここで米づくりを体験した子どもたちが大人になって戻ってくるとしたら、これ以上楽しみな収穫はないだろう。いつかそんな日がおとずれることを心から願いたい。

この日の作業に参加したこめっことサポーターのみなさん。川崎平右衛門像の前で。

この日の作業に参加したこめっことサポーターのみなさん。川崎平右衛門像の前で。


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