トップページ > 環境レポート > 第89回「木を切り萌芽更新させることにより若々しい林を次の世代に残していく(福生萌芽会)」
2017.11.06
このとき伐採した樹木はほとんどが樹齢50年を超える高齢木であったため、萌芽率は約30%と低かったが、前年のどんぐりからの実生や地中に眠っていた種の発芽などに助けられて、雑木林の更新は順調に進んだという。
2004年(平成16年)2月の伐採作業の様子 前会長の在原博さんの指導の下、会員自ら綱を引き、伐採した。(福生萌芽会提供)
伐採後。すべての木を切り払ったあとに「萌芽更新中」の看板を掲げ、八高線の乗客から見えるようにした。(福生萌芽会提供)
コナラの切り株から萌芽が伸びてきた。(福生萌芽会提供)
皆伐から2年半後の2006年(平成18年)秋に実施した調査の結果、樹高2.5メートルを超える木が、萌芽と実生を合わせて244本育っていた。(環境カウンセラー久野春子氏作成)
作業の開始に先立って挨拶する、現会長の生沼正さん。
現会長の生沼正さんは『福生萌芽会のあゆみ』【1】のなかで、次のように振りかえっていらっしゃる。
「平成14年当時は、文化の森を伐採して萌芽更新する必要性の有無、住宅地の中に昔ながらの雑木林を再生することは適切なのか、(中略)、色々な不安を抱えながら伐採に踏み切りました。会員みんなが切磋琢磨し、保全の仕方を体得しました。また、『自然の再生力の素晴らしさ』を実感し、様々なことを学びました。これらの経験から、里山の雑木林は人間が密接に関わり合ってできあがった自然だと知りました。その自然の中で人間、植物、そして昆虫がいい調和のもとで共生してきたのです」
皆伐から13年が経ち、若々しくよみがえった雑木林では、いろいろな変化がおこっている。
まず、近藤さんのところには「ここを歩くと、雑木林でカブトムシをつかまえた昔の子どものころを思い出す」とか「ここにくると、昔の子ども時代に帰ったような雰囲気になれる」という市民の声が届いているという。
2007年以降はできるだけ手を加えないことを基本に管理しているが、外来植物やつる植物の侵入も見られなくなり、武蔵野の雑木林らしい林になってきた。昔の武蔵野の雑木林を覚えている世代には、萌芽更新によってつくられた若々しい雑木林は、懐かしい原風景につながるのだろう。
また、生物多様性が豊かになってきたという。萌芽会では、専門家である環境カウンセラーの協力のもと、樹木調査と林床植生調査を行った。林床にはオカトラノオやメハジキ、オトギリソウなど伐採前には見られなかった花が咲くようになった。またカブトムシを初めとする虫たちの種類も増え、アカシジミやテングチョウ、ダイミョウセセリといった蝶たちも戻ってきた。
「萌芽更新で雑木林を管理していくと、虫やいろいろな生物、菌などもたくさんここで生きていけるし、後世に雑木林を残し、同時にDNAをたくさん残していけます」と近藤さんはおっしゃる。若々しい雑木林を次の世代に残したかったというメンバーの思いは確実に実りを見せつつあるようだ。
シイタケ栽培の原木の天地返しの作業。
落ち葉集積所を掘り返すと、カブトムシの幼虫がごろごろと現われてくる。落ち葉を分解し、土をつくって、雑木林の物質循環を担う。
若々しい雑木林、若々しい森をつくっていくことは、今の日本の森林にもっとも必要とされるテーマかもしれない。
日本全体で見ても、戦後の拡大造林によってつくられた人工林の多くは伐採時期をむかえているのだが、伐採はもとより間伐もされず放置されている森が多い。
日本は国土の約67%が森林におおわれていて、森の木々が温暖化の原因となるCO2をたくさん吸収してくれると思っているかもしれない。しかし、現在の日本の森林は壮齢林、老齢林が多く、CO2の吸収能力は低いといわれている。
ヒノキを用いた実験【2】によると、20年生の木と、60年生の木、104年生の木の光合成能力を比較すると、20年生の木がもっとも優れているという。若い木、若い林、若い森の方がCO2の吸収能力が高く、温暖化対策からも森や雑木林は若々しい状態を保つことが必要だとわかる。
福生市の文化の森も、もうすぐ次の萌芽更新の時期がやってくる。そのとき、市民のコンセンサスを得るためにも、今回の萌芽更新で集積された知見が存分に生かされることを願いたい。
福生萌芽会のこの日の参加メンバー。現会員は28名(2017年)になる。
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