トップページ > エコアカデミー一覧 > 第15回 グリーン経済の動向を考える
2012.11.09
松下 和夫(まつした かずお)
京都大学大学院地球環境学堂教授、国連大学高等研究所客員教授、国際協力機構環境社会配慮助言委員会委員。専門は、環境政策論、環境行政、環境経済。
昭和47年より環境庁勤務。大気規制課長、環境保全対策課長等を歴任。OECD環境局、国連上級環境計画官も務める。地球環境戦略機関等を経て平成13年より現職。著書に「地球環境学への旅」「環境政策学のすすめ」「環境ガバナンス」「環境政治入門」など。
本年6月の「リオ+20」会合では、持続可能な開発を実現するための「グリーン経済」が議論されました。この結果を踏まえ、我が国としては、環境未来都市の構築や、自然と共生する回復力のある地域や産業づくりを通じてグリーン経済の具体化を各国と協調して進めることが必要です。今後各地で再生可能エネルギーの拡大、省エネルギー、産業振興、環境に配慮したまちづくりなどを進め、その経験を世界と共有していくことが望まれます。
本年の6月20日から22日まで開催された「リオ+20」会議は、191か国、98名の首脳、閣僚など約4.5万人が出席する大会議となりました。
リオ+20は、20年前の地球サミット(リオ・サミット)で採択された「アジェンダ21」の実施状況をレビューし、今後の持続可能な開発に向けた課題を検討し、課題の克服に向け首脳レベルでの政治的コミットメントを確保することを目的として開かれました。
日本の野田首相、そしてアメリカのオバマ大統領やドイツ、イギリスの首脳などは欠席しましたが、中国・韓国・ロシア・インド・南アフリアなどの首脳は出席し、新興経済国(BRICSなど)の存在感が高まった会議でした。
会議の中心テーマは、①持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済、②持続可能な開発のための国際的制度枠組み(IFSD)、であり、その成果は「私たちの望む未来」と題した「成果文書」にまとめられています。
とりわけ「グリーン経済」については、「持続可能な開発を達成する上で一つの重要なツール(手段)」として位置づけられ、「グリーン経済のツールボックス(道具箱)およびベスト・プラクティス(優良事例)を各国で共有する」という方向が打ち出されました。しかしながらEUなどが求めていた「グリーン経済」を具体的に定義することや、2030年までの目標を作りその達成へのロードマップ(工程表)を策定することや、国別戦略の策定については、合意に至りませんでした。
ではそもそもグリーン経済とは何を目指すものでしょうか。国連環境計画(UNEP)によると、本来、グリーン経済とは、環境と生態系へのリスクを大幅に減少させながら人々の厚生と社会的公正を改善する経済(UNEP,2011) 1)です。健全な生態系と環境を将来世代へ引き継ぐこと、エネルギー消費、資源集約度、そして汚染を減らすこと、再生可能エネルギーや自然資源などグリーン分野への重点的投資が求められます。これらを通じて、環境保全と雇用確保と経済の発展を図ることを目指しています。
ところがグリーン経済には、途上国から様々な懸念が出されました。その背景には歴史的な経緯から先進国に対する根強い不信感がありました。グリーン経済が途上国の開発の権利の制限につながったり、環境を名目としの新たな貿易上の制約にあることが懸念されたのです。成果文書ではこれらの懸念に配慮し、グリーン経済は各国の状況に応じて多様な取り組みが可能であることが明記され、社会的公平性とすべての人に利益が行き渡る包摂的なアプローチをとることが強調されています。
今後、先進国では人間開発の成果を維持しながら環境に与える影響(エコロジカル・フットプリント)をできる限り減らし、途 上国では貧困からの脱出を優先して国民の生活水準を上げながら環境への影響を抑える、という取り組みが必要です。
具体的な分野としては、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの拡大、自然資源の活用(農業、林業、漁業)、資源効率性向上、廃棄物の削減、水(飲料水、排水処理)などがあげられます。こうした取り組みにより、以下のような効果が期待されます。
(1)効率性の向上:自然資源の効率的で少ない使用による高度な発展
(2)新たな市場の拡大:クリーンな技術とグリーンな雇用の拡大する市場
(3)レジリエンス(災害などからの回復力・強靭性)の向上:自然的・人的災害に対する抵抗力・対応力を高め、食糧・水・エネルギー安全保障の強化
(4)多面的便益:環境・経済・社会面での便益(地域的かつ地球的、そして短期的かつ長期的便益を含む)
(5)持続可能な生活基盤の構築:農村の貧困層や脆弱な地域社会の生活基盤となっている生態系の保護。
グリーン経済に関連して韓国の動きが特に注目されます。
韓国ではリーマンショック後の2008年度にグリーン成長に関する大統領委員会を設け、2009年度には経済刺激予算の80%をグリーン成長事業にあてました。2013年までの5カ年計画では、GDPの2%をグリーン成長にあてています。それによって2030年までに国土全体にスマートグリッド・システムを広げ、再生可能エネルギー比率を11%に上げ、2020年までにグリーン住宅100万戸を建設することとしています。
韓国が設立した「グローバル・グリーン成長研究所」(GGGI)が、リオ+20を機に国際機関として正式に発足することとなりました。またGGGIと、世銀、OECD、UNEPと共同で、グリーン経済に関する知的プラットフォームも発足することになりました。このように韓国はGGGIを梃とし、グリーン経済のノウハウや知見の集積を目指しています。
GGGIでは現在エチオピア、カンボジア、ブラジル、ガイアナ、カザフスタン、モンゴル、パプア・ニューギニアなどの途上国での「グリーン成長計画」策定に協力しています。
リオ+20で、日本政府代表の玄葉外相は,(ア)「環境未来都市」の世界への普及,(イ)世界のグリーン経済移行への貢献,(ウ)災害に強い強靱な社会づくりを3本柱とする「緑の未来イニシアティブ」を表明しました。環境未来都市構想は、東北地方の復興プロセスを踏まえ、日本の都市や企業の取り組みを活かし、ジャパン・デーなどを通じて発表されました。
リオでは、東京都や北九州市、横浜市などが、3Rや省エネ・創エネを進める都市づくりの先進例として紹介されました。アジアの都市との交流を通じて世界の持続可能な都市づくりに貢献していくことは、リオ+20 の成果を活かし世界の「グリーン経済」を進めるうえでも重要です。
昨年の3.11東日本大震災および原発事故を経て、我が国では地域の歴史や文化、そしてコミュニティーのつながりや、エネルギーや食糧の自立性を高めた地域づくりが注目されています。また、里山里海など自然と共生する回復力のある地域づくりの具体像を各国と協調して築き、途上国との信頼を醸成することも重要です。
リオ+20を契機とし、今後再生可能エネルギーの拡大、省エネルギー、産業振興、環境に配慮したまちづくりなどの一体的推進を通じたグリーン経済実現を図り、その経験を世界と共有していくことが不可欠です。
仙台市と石巻市という宮城県の2大商業圏の間に位置するベッドタウン。サステナブルな成長力と安心・安全な生活都市を目指している。「東松島市復興まちづくり計画」を策定中。
環境に関しては、太陽光、バイオマスを中心とした再生可能エネルギーによる自立分散型電源の構築、建築物の低炭素化、EVの普及などが特徴として挙げられる。超高齢化に関しては、CASBEE健康チェックリストを活用した健康住宅の推進、マルチメディア端末を活用した見守り、医療サービス等の推進が特徴として挙げられる。
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