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2013.10.22

第26回スマートシティーと電気自動車

大久保 智弘氏顔写真

清水 浩(しみず ひろし)

 1947年宮城県生まれ。1975年東北大学工学部博士課程単位取得退学。(博士号:工学博士)1976年国立公害研究所(現国立環境研究所)入所。1982年アメリカ・コロラド州立大学留学(14ヶ月)。1987年国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官。1997年退官後、慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。現在、慶応義塾大学名誉教授。主に環境問題の解析と対策技術についての研究(電気自動車開発、エネルギーシステム開発)に従事。1980年から電気自動車の開発を始め、以後30年間で10台の試作車開発に携わる。2009年からは電気バスの開発も手掛ける。著書に「脱『ひとり勝ち』文明論」(ミシマ社)等。

 地球温暖化、PM2.5や石油枯渇の問題は、化石燃料の大量消費によってもたらされました。しかし、太陽電池、リチウムイオン電池や希土類磁石の発明と実用化がなされ、これらを利用した新しいエネルギーと電気自動車の大量普及は遠いことではありません。これらとITが結び付くとこれまでになかったエネルギー社会ができます。これをスマートシティーと呼びます。その実現と世界への普及により、地球的問題が抜本的に解決されます。この時代を作るのは、多くの人々の理解と共感なのです。

1. はじめに

 今年も暑い夏でした。地球温暖化の影響は疑いないものになってきました。中国からのPM2.5の問題や石油枯渇の問題も将来を不安にします。そして、途上国では生活水準の向上でエネルギー消費が増え続けています。
 これらすべてが、化石燃料の大量消費と関係しています。
 この問題を抜本的に解決する道がスマートシティーという概念に集約されています。

2. 二酸化炭素はどこから出ているか

 二酸化炭素の発生構造は単純です。化石燃料を消費することによる二酸化炭素の発生源は、30%強が火力発電、20% が 自動車、10%弱が製鉄です。昔ながらの火を燃やして熱を得るための消費と合わせると、ほぼ95%になります。
 逆に、発生させたエネルギーを使う側から見ると、消費構造はとても複雑です。このため、消費側で排出をおさえようとすると、数えきれないほど多くの方法があり、どう対策したらいいかわからないことになります。このため化石燃料の消費を利用者の努力によって減らそうという試みは、過去に大きな成果が上げられませんでした。
 ところが発生源で解決しようと思えば方法は見えてきます。

3. 新しい技術が生まれた

 先に挙げた二酸化炭素の大きな排出源の発明は、18世紀です。発明以後、基本原理は変えずに技術者は改良を重ねてきました。1900年ごろの自動車と今の車を比べたら、比べ物にならないほどの進化を遂げています。火力発電、製鉄も同じことです。原子力も熱源に核分裂のエネルギーを使いますが、原理は火力発電と同じです。
 ところが、人類は20世紀に分子の中身がよく分かるようになったおかげで、大きな発明を生みました。エネルギーの分野もその例外ではありません。
 今後、地球を最も大きく変えるのは太陽電池でしょう。これは1954年に発明されてから長いこと、価格と効率の点で普及していませんでした。しかし、主に日本人の努力のおかげで少しずつ使えるようになって来ました。
 また、リチウムイオン電池が1986年に吉野彰さんにより、希土類磁石が1982年に佐川眞人さんにより発明されました。これらも日本人の手により実用的に使えるようになり、電気自動車への応用が始まっています。
 新しい発明に基づく太陽電池と電気自動車が、二酸化炭素を抜本的に減らす切り札になります。

4. 太陽電池と電気自動車のこれから

 太陽電池の最大の特長は、この技術だけで、未来永劫人類が使うすべてのエネルギーをまかなう能力を持っていることです。アメリカ合衆国の面積の5分の1に相当する地球の陸地の1.5%にこれを設置すれば、世界人口の70億人が、アメリカ人が今使っているのと同じだけの裕福なエネルギーを使えるようになります。しかも、価格は劇的に安くなっています。パネルだけの価格で考えると1kWの最大発電能力をもつものが10万円まで下がっています。このパネルの寿命が来るまで起こせる総電力量から発電コストを求めると、わずか5円という計算になります。設置にかなりの費用が掛かっているので今は割高ですが、広大な土地に設置されるのが普通になれば最も安い電気になります。価格はまだまだ下がる余地があります。
 現時点での電気自動車は、性能がこれまでの車に比べて低く、価格が高いために爆発的な普及には至っていません。しかし、私が開発に関与した電気自動車では試作品のレベルではありますが、極めて高い性能のものが作れる時代になっています。試作品から製品にするには信頼性、耐久性、安全性を十分に高める開発が必要で、それにはかなりの費用と時間がかかりますが、いずれはこのような電気自動車が商品になるでしょう。

地球上の太陽光エネルギー資源量の分布。黒点は、世界の主要エネルギー源を太陽光で十分賄うために必要な面積を表す。(出典: ウィキメディア・コモンズ)

地球上の太陽光エネルギー資源量の分布。
黒点は、世界の主要エネルギー源を太陽光で十分賄うために必要な面積を表す。
(出典: Matthias Loster ,2006)

5. スマートシティーの時代に

 2000年過ぎにスマートグリッドという言葉が生まれました。当初は停電の無い送電網を作るということが趣旨でしたが、次第に効率の良いエネルギーの使い方をするという意味に変わりました。そして、それを適用する場所として都市全体を効率よいものにしようという流れになり、スマートシティーという言葉も使われるようになりました。
 ここで使われる技術も、当初の火力発電主体から、自然エネルギーも含まれるようになり、次第にその重みが増しています。ここに電気自動車が入ってくるともう一つ社会が変わります。電気自動車はもともと効率が高いという特徴があります。これに加えて太陽電池でおこした電気で充電すると、全く二酸化炭素を出さないで走る車となります。
 すると、太陽電池のエネルギーでこれまでの電気の消費と熱エネルギーをまかない、さらに電気自動車の充電まですれば、論理的には全く二酸化炭素を出さない世界が作れます。ところが、発電できる時間と消費する時間が一致しません。このためにどこかに電気を蓄える必要がありますが、固定した電池の他に、電気自動車の電池も有力な蓄電装置になります。さらに、これから生まれる太陽電池の設置場所と大量の動き回る電気自動車という組み合わせになるとこれまでのような送電、配電網ではコントロールが出来なくなります。そこでITと通信網を組み合わせた新しい電力のコントロールシステムが必要になります。これが完成すると次の時代の本当の意味でのスマートシティーができることになります。
 これを実現するには大きな産業の変革が必要です。それには既存産業をスムーズに変えていくことや、大きなイニシャルコストがかかるなどの問題があります。それを克服して次の時代を作るには、まず多くの人々の理解が求められます。そしてこれが共感に変わり社会の大きなうねりになった時に大きな変革への発展へとつながるものだと思っています。

最高時速370キロを誇る電気自動車「エリーカ」

最高時速370キロを誇る電気自動車「エリーカ」
(出典: 清水浩)


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