トップページ > エコアカデミー一覧 > 第28回 大人も子どもも元気になる持続可能な社会/地域への学び(ESD)のヒント
2013.12.11
森 良(もり りょう)
1949年東京生まれ。子どもたちの自然教室のボランティア活動を10年、環境教育・環境まちづくり・市民参加を促進するNPO活動を20年実践してきた。NPO法人エコ・コミュニケーションセンター代表、認定NPO法人「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J)理事、としまNPO推進協議会理事などを務める。学習院大学、大東文化大学非常勤講師。主な著書:『コミュニティ・エンパワーメント (ECOM) 』『もりもりファシリテーション(まつやま書房)』。
近年、気候変動による災害が世界中で頻発しています。私たちはこれまでの省エネや創エネなどの環境教育を、社会のスタイルやライフスタイルの転換、自然への再適応といったより深い教育・学習に深化させ、地域ぐるみの学びあいにしていく必要があります。ESDはそのための視点と方法を提供してくれます。多摩地域での実践も紹介しながら、どのように取り組んでいったらいいかを提案します。
ESDとは、Education for Sustainable Development の略で、直訳すれば「持続可能な開発のための教育」です。意訳すれば「持続可能な社会(地域)を担う人づくり」ということになります。
私たちの地球社会には、このまま同じことを続けていったら地球も人間もダメになってしまうことがたくさんあります。戦争、貧困、飢餓、人権抑圧、人種やジェンダー・社会的身分による差別、エイズ、環境破壊などです。地球温暖化もその一つです。
温暖化の原因が化石燃料を大量に消費することによるCO2排出にあり、その原因を止めるために、省エネや創エネ、エネルギー源の転換などの教育・学習が必要なことはいうまでもありません。今後は、それに加えて、温暖化に適応していくための教育・学習も必要になってきます。つまり、石油文明から生命文明への転換、それにもとづく社会のスタイルやライフスタイルの転換、そして自然への再適応といった価値観や暮らしと地域のあり方にかかわる教育・学習を深めることです。
(図1)これまでの教育とESD
そうしたこれまでより深い、生活や地域を持続可能なものに変えていくための教育・学習を進めていくには、いくつかの特徴のある方法を駆使していく必要があります。
「持続可能な開発」とは環境・経済・社会・文化を含む包括的な考え方です。物事を個々バラバラにとらえるのではなく、つながり・かかわりでとらえるということであり、つながり・かかわりを通して学ぶということです。
人が一番良く学ぶのは、自分の興味・関心で動いて、気づきや発見があり、そこでの疑問や課題を追究していこうとするときです。地域や地球の課題を自分の問題としてとらえるきっかけを上手につくると、その解決に主体的に参画していくプロセスが生まれてきます。
地域には市民、事業者、行政、学校、研究機関などの様々な主体が関わっています。持続可能な地域を考えるとき、これらの多様な主体の連携と協働によって、学びあったり、問題解決のために協力しあったりするというマルチステークホルダープロセスをつくっていくことが必要です。
*1 マルチステークホルダー・プロセスとは、3者以上のステークホルダーが、対等な立場で参加・議論できる会議を通し、単体もしくは2者間では解決の難しい課題解決のために、合意形成などの意思疎通を図るプロセス。
(図2)ESDの特徴
中学生と地域との連携による炊き出し訓練(出典:多摩市教育委員会『ESD ですすめる 「2050 年の大人づくり」のための20 章』)
東京都の中で熱心にESDに取り組んでいるのが多摩市、稲城市です。ここでのESDの特徴は、第一に、教育委員会が音頭を取って、全校で地域との連携のもとに取り組まれていることです。第二に、地域探究学習を小学校・中学校の連携によって進めていることです。
たとえば、稲城市では中学生が地域の防災の担い手になることを目指して、小学校や地域と連携した系統的な防災教育や、まだ残る里山の暮らし・営みを地域づくりにどういかしていくかといった授業が行われています。
多摩市では、市民と学校の協働の場「多摩市みらい会議」を進めたり、ESD市民講座(永山公民館)などを行っています。そこからは市民の熱い思いや専門性も出てきています。たとえば、①「3代住めるまち」にするために、多摩市の財産である学校の跡地、緑、畑、公園、川、水、パルテノン多摩(複合文化施設)、サンリオピューロランド(屋内型テーマパーク)などを活用した教育事業を市民と学校が協同展開する(敷地内だけを学校と考えない学校規模の拡大)、②学校で生ごみを堆肥化し、それを活用した栽培活動を地域と協同で進めるなどの地域と学校の協働によるカリキュラムづくりなどです。具体的には、将来のまちづくりをお店やスーパーのあり方から考える授業が展開されています。
これらは、いずれも子どもたちが地域を知り、地域とかかわることによって地域の市民としての力を育てるとともに、地域の大人たちがかかわることによって地域の力をも育てていくものです。これこそESDの本当のねらいなのです。
では、これからESDに取り組んでいくにはなにから始めたらいいでしょうか。
まずは、教員や地域のリーダー、市民活動のリーダーに対する研修から始めることができます。
教員については、教育委員会が通常行っている年間の教員研修や、初任者研修などの中に組み込んで実施できます。今学校で取り組んでいる生活科、総合学習や教科学習をつなげていけば、充分にESDに取り組むことができます。
たとえば、小学1~2年生の生活科では、自然とのふれあいに取り組んでいる学校が多いと思いますが、これは自然に生活を適応させていく学習の基礎になります。自然とのふれあい学習で興味を持ったことを、3年生以上の理科・社会で深めていくことができます。また5~6年生になったら地域社会とのかかわりや自然を豊かにする活動にも参加できるでしょう。要は、学校や地域での良い取り組みを連携させ、つなげていけばいいのです。
このようにESDは、地域や学校ですでにある学習や活動を持続可能な社会/地域をつくるという視点でつなげ、それぞれに関わっている人たちが学びあい元気になっていくことを促すものです。
つなげていくためには、間に立ってつなぐ役をしてくれるコーディネイターが必要になります。授業・プログラムづくりやコーディネイターについてはESD-J(認定NPO法人「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議)に相談してみてください。
(図3)さまざまな立場の人たちを未来へつなぐコーディネイター
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