トップページ > エコアカデミー一覧 > 第32回 花粉の少ない森づくり運動
2014.04.25
宮林 茂幸(みやばやし しげゆき)
東京農業大学教授(長野県生まれ)61歳。
各地の村おこし事業を支援し、森林・林業・山村の再生をすすめている
東京都森林審議会委員、埼玉県森林審議会委員、神奈川県森林審議会委員、美しい森林づくり全国推進会議事務局長、大日本山林会理事、日本森林技術協会理事、全国源流の里協議会理事、東京都スギ花粉対策委員など。
スギ花粉症の方には忌々しい季節がようやく過ぎようとしています。スギ花粉は一日の平均温度が10℃くらいになると飛散を開始しますので、一般に2月下旬頃から3月にかけて最も花粉量が多くなります。30~40μミクロン(30~40/1000mm)という微細な形状で、殻に包まれた楕円形で、その殻に微小な突起があり、風に乗って数十kmから、時には200km以上も飛散するといわれています。ですから関東地方のスギ花粉時期が終わる4月下旬ごろ(ヒノキ花粉は5月)までは油断ができません。その他、ヨモギ,カモガヤ,ブタクサヒノキなどの花粉によるアレルギー症状が検証されています。ブタクサの開花シーズンは10月まで続きますので、花粉アレルギー保持者にとって、わが国は気が抜けません。
スギ花粉発症者数は定かではありませんが、2010年度の厚生労働省推測によると29.8%であり、およそ3人に1人の割合で発症していることになります。しかも、その数は上昇する傾向にあるといわれています。
こうしたスギ花粉症が社会問題となったのは1980年代の中頃からであり、1990年度に「スギ花粉症に関する関係省庁担当者連絡会議」が設置され、1994年度より「スギ花粉症克服に向けた総合研究」が実施されました。その後、2004年度には会議の名称が「花粉症に関する関係省庁担当者連絡会議」と改められ、2005年度から無花粉スギや少花粉スギなど、スギ花粉が飛びにくい品種への転向がすすめられています。また、東京都では2006年度より花粉の発生源である森林への対策を取りまとめ、多摩地域のスギ林の伐採および花粉の少ない品種のスギや広葉樹への植え替えなどを行い、2015年度までの10年間で花粉量を2割削減する事業が進められています。このような中で、そもそも日本の森林は現在どのような問題を抱えているのか。また、循環型社会における私たちの暮らしにとって森林とは何か。そして、これからのスギ人工林の位置づけについて一私論を述べることとしました。
東京都の森林面積は約79,000haで、総面積の約4割を占めています。そのうち多摩地域に約53,000haがあり、スギヒノキを中心とする人工林が30,600haと60%を超えています。このような森林は、木材の供給をはじめ、小河内ダムや多摩川の水源涵養(かんよう)や秩父山系に接する急峻な地形における国土の保全や災害の防止、温暖化防止のための二酸化炭素の吸収・蓄積、さらには森林体験や環境教育体験など多面的な機能を有し、都民生活に大きく貢献しています。
ところが、都民生活に欠かせない森林は、現在、最大の危機に瀕しています。その要因の一つは、1950年代に植林された人工林の大半は伐採期を迎えていますが、1980年代と比較してスギ材価格が約30,000円/m3から2013年の約10,000円/m3へ、ヒノキ材価格も同様に約60,000円/m3から20,000円/m3へと1/3に下落したことです。このことによって林業が不振となり、保育間伐など森林管理が滞り、線香のように脆弱な森林が増加しています。人工林は、植林-保育-伐採-植林という循環利用によってはじめて成立するもので、その循環が損なわれると森林荒廃へと進み、森林の多面的機能は失われることになります。事実、最近の局地的豪雨などによって小河内ダムの濁りが長期化するとともに、土砂崩れも多発しています。
二つは、計画的に伐採が進まないと、森林を構成する樹種の樹齢が高まり、森林の高齢化が進むことです。手入れが滞り、高齢化が進むと森林の多角的な機能は低下し、将来的には土砂災害防止や水の安定供給、あるいは二酸化炭素の吸収機能などが損なわれることになります。また、間伐など適正な保育が滞ると立木本数が減らないことから花粉量も増加させることとなります。加えて、森林は藪のようになり、鳥獣の絶好の生息地となり、地域に多くの鳥獣被害をもたらします。
三つには、東京は全国的にみて最大の木材消費地であるにもかかわらず、地場産の多摩産材使用は極めて少ない現況にあります。木材は、1m3当たり約0.6t-co2 の二酸化炭素を固定するといわれています。したがって、多摩産材をより多く使うことは、都市部に森林を造成することに近い効果が期待できます。2020年には東京オリンピックとパラリンピックが開催されます。地域材を活用した木による「おもてなし」を期待するものです。
東京の森林は、安心・安全な都民生活に欠かせない財であるといえます。森林の循環利用を進め、持続的に、健全な森林を創ることとは、みどり豊かで、健康的な循環型社会を創るために大切なことであるとともに、次世代に対する責任であるともいえます。
そのためには、一つは、都民の共通財産である森林を都民全体で守ることです。花粉は生命を持続し、子孫を繁栄するために欠かせない役割を有しています。したがって、花粉を悪者とするのではなく、健全な森づくりを進めることこそが大切であるといえます。産・官・学・民などあらゆるセクターが参加し、関わりを持つ関係=森林化社会を構築することといえます。森林化社会とは、森を守り、森に学び、森に生きることです。
二つには、木材の地産地消による街づくりということです。地元産の木材を使うことは、温暖化防止に役立つと同時に、カーボンオフセットにつながります。これからの街づくりは、限りなく環境を重視し、「量」より「質」を優先とすることといえます。木材の需給バランスでいうと100%を東京産の木材で賄うことは無理であることから、国産材を使用した、最も住みやすく、環境に優しい「木の都=東京」という街づくりを都民参加によって進めることです。
東京都は2007年よりスギ花粉症対策を一つの柱として森づくりを積極的に進めてきました。今後とも都民の共通財産としての森づくりという視点から多摩川上流域と下流域のような流域や農山村部と都心部、あるいは企業と山村などでの交流・連携といった中で展開することを期待するものです。
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