トップページ > エコアカデミー一覧 > 第41回 次世代を担う子供たちへの「参加」型環境教育:スウェーデン、ヘルシンボリ市
2015.02.12
2015年を迎えました。昨年12月には、ペルーのリマにおいて国連気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)が開催され、2020年以降の枠組みに向けて各国が提出する約束草案等に関する決定が採択されました。その新しい枠組みを担うことになる次世代の子どもたちに希望を託し、今回は環境教育に熱心に取り組んでいるスウェーデンのヘルシンボリ市を紹介します。
ヘルシンボリ(Helsingborg)はスウェーデン南部のスコーネ県にあって、人口は9.7万人。スウェーデンではデンマークに最も近い位置にあり、日本でもよく知られる家具小売業イケア(IKEA)の本社機能を持つ都市でもあります。早くから環境問題に取り組み、エコシティとして知られている同市は、持続可能な都市やコミュニティを実現していく上で子どもたちが果たす役割の大きさに注目し、1989年にはすでに、彼らへの「参加型」環境教育として、ミルヨーベルクスタデン(Miljöverkstaden)という、「環境(Miljö)ワークショップ(verkstaden)」を提供し始め、25年たった今も継続しています。
環境ワークショップとは、参加型のアウトドア教育を積極的に取り入れた教育方法を導入した様々なプログラムを指し、浄水場、ゴミ焼却場、埋め立て地、森林、湿地帯、駅といった現場で主に実施されます。そこでは子どもたちのみならず、引率する先生を含めて、自ら好奇心や探求心を持って参加し、理解することが奨励されます。たとえば、生ゴミの埋め立て地はどんな匂いがするのか、木を植えるとは実際にはどんな作業を伴うのか、小川のせせらぎはどんな音がするのか等々、机上で知識を学ぶのではなく、子どもたちが五感を使って体験する中で、自ら考え、イニシアティブをとって物事の解決を図ろうとする姿勢を育むこと、そしてそこから、自分の行動が社会にどのような影響を与えているのか、また、それが将来どのような環境的意味を持つのかにまで思いを馳せることのできる子どもを育てることを目的としています。
環境ワークショップとは長期的な視野に立ち、小学校から中学生、高校生までの一貫した環境教育プログラムを準備しているものです。市内の学校の先生は、それぞれに参加したいプログラムに事前に登録し(メールや電話で簡単に登録できます)、子どもたちを連れて、ワークショップに参加することができます。
環境ワークショップのプログラムは、「Miljöverkstaden」のパンフレットに、以下の通り、学年ごとに学習テーマが紹介されています。また、パンフレットには、就学前の子どもたちに提供されているプログラムの紹介もあります。幼い子どもたちはまずは遊びを通じて、創造性を働かせ、環境に親しみ、小学校で学ぶことになる各種プログラムにスムーズに移行できるよう配慮されています。
学年 | テーマ | 内容 |
---|---|---|
1年生 | 安全 | 日常生活に不可欠な電気と交通に潜む危険性を考える。 |
2年生 | 成長 | 植物の成長について学ぶなかで、なぜ自分たちの生活に植物が必要なのかなどを考える。 |
3年生 | 生ゴミ | ゴミの再利用や再循環について学び、ゴミをどう減らすことができるか等を考える。 |
4年生 | 子どもたちの森 | 木を実際に植えるなどの作業を通して、森のなかのすべての生物がどのように関係しあっているか、どのような働きを担っているかを学ぶ。 |
5年生 | 重要な水 | 水循環と水の重要性を学び、水とどのように関わるべきかを考える。 |
6年生 | 賢明な移動 | 公共交通機関について学び、公共交通機関を使うことが環境にとってなぜ賢明な選択になるのかを、エネルギーの視点からも理解する。 |
7年生 | 新鮮な空気 | 大気汚染の問題だけではなく、様々な交通機関と大気との関係も理解する。 |
8年生 | 食料廃棄物 | 食品の廃棄物がどのように収集され、それがどうすれば新たな資源(エネルギー資源など)として活用され得るのかを学ぶ。 |
エネルギーについて学ぶ
就学前児童のプログラム
(上記共にヘルシンボリ市のHPから。©Ingemar Nyman)
さらに高校生に対しては、より専門的なプログラムも準備されており、それは主に市内に3か所ある自然学校の施設で実施されています。その施設とは、気候変動について考えるための施設「Atmos 2」、ソーラー発電などのエネルギー関連のワークショップが開催される「Energiverkstaden」、そして動植物の標本などがある事務所兼用の「Kansli/naturskolan」です。
このように、ヘルシンボリの子どもたちの多くは、5歳から高校を卒業するまでの長きにわたって、少なくとも年に一回は環境ワークショップ「ミルヨーベルクスタデン」に参加することで、環境への理解を深め、環境問題について考え、現代の生活様式を問い直すこと、日常生活のなかで自分たちの行動を常に環境との関連性において深く考察するようになることが期待されています。
ヘルシンボリ市で、このような「参加型」環境教育が実現できたのはどうしてでしょう。それは市が「持続可能な発展」を次のように定義しているところにヒントがあるようです。
「持続可能な発展とは、人的資源と自然資源の両方を、社会的、環境的、経済的側面を考慮しつつ、意識的にバランスよく活用すること」(ヘルシンボリ市環境計画2011-2015、p.40)。
さらに、市が持続可能な発展を遂げるために重視すべき分野として、環境計画のなかには、「インスピレーションと協力」、「持続可能な交通」、「持続可能なエネルギーシステム」、「持続可能な計画と維持」、「きれいな水」、「より健康なヘルシンボリ市」の6分野が挙げられていますが、最初の「インスピレーションと協力」の分野の目標として、以下の4項目が記載されています(同上、p.46-48)。
①市の職員は環境分野における高い能力を持つこと。
②市内在住や在勤の者は、良い環境的選択を行い、環境関連の取組においては支援を受けること。
③子どもや若者は環境的に正しいライフスタイルを選択するために必要な知識と指導を受けること。
④市はより効果的な環境への取組を実施すべく内外の組織と協働すること。
ヘルシンボリ市ではこのように、市に関わるあらゆる人々が高い環境意識と知識を持ち、正しい環境選択や行動が行えるようになることを、エネルギーをはじめとする自然資源に関わる環境課題の解決と同等に重要な環境問題だと捉えています。それが子どもたちの環境ワークショップ重視の施策へとつながっているようです。また、市の中核的計画のなかで、人的資源の有効的活用が環境政策としてきちんと位置付けられ、財源も確保されていることが、市の各部局、教育関係者、またワークショップに関わる様々な企業などの多様なステークホルダーが協力しあって、より良い環境ワークショップを提供できる土壌を作り上げています。ひいてはそれが、環境的視点に基づいた行動を選択できる人的資源を長期的に確保できるという実に効果的な環境投資ともなっているようです。
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