トップページ > エコアカデミー一覧 > 第64回 「仮想発電所」構想始動!公民連携で展開します(横浜市)
2016.12.27
岡崎 修司(おかざき しゅうじ)
横浜市は2015年4月に公民連携組織である横浜スマートビジネス協議会(YSBA)を設立し、横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の「実証」で培った技術やノウハウを活かした「実装」の取組を推進しています。その取組の一つとして、2016年7月に横浜市・東京電力エナジーパートナー株式会社(以下、東電EP)・株式会社東芝(以下、東芝)の3者連携による「スマートレジリエンス・バーチャルパワープラント構築事業」を展開しています。
横浜市は、2010年に経済産業省から「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に選定され、2014年度まで横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)実証事業に取り組んできました。家庭や業務ビルをはじめ、大都市「横浜」という既成市街地におけるエネルギー需給バランスの最適化に向けたシステムの導入などを、日本を代表するエネルギー関連事業者や電気メーカー、建設会社等34社と連携して取り組んできました。HEMS※1や太陽光パネル、電気自動車の導入を進めながら、CEMS※2の開発やデマンドレスポンス※3実証実験を行うことで、低炭素社会を実現する地域エネルギーマネジメントを検証してきました。約3500世帯を対象に行った家庭向けデマンドレスポンス実証では、約15%、29拠点の業務ビル部門では約22%のピークカット効果が確認されました。
【図1:YSCPの全体像】
2015年度からは、新たな公民連携組織である横浜スマートビジネス協議会(YSBA)を設立し、YSCP「実証」で培った技術やノウハウを活かした「実装」の取組がスタートしました。参画企業と連携しながら技術・システムの国内外への展開を進めるとともに、環境性のみならず防災性・経済性にも優れたエネルギー循環都市を目指しています。
YSCP「実装」の取組の1つとして、2016年7月から公民連携による「スマートレジリエンス・バーチャルパワープラント構築事業」を推進しています。
市内の小中学校に蓄電池を設置し、仮想発電所(バーチャル・パワープラント=VPP)として利用することを目指します。この取組が実用化されると、電力が多く使われる時間等に、本来電力会社が発電した電力の代わりに蓄電池の電力を(仮想的に発電した電力として)需要家が消費することで、電力の安定供給を維持することができます。また、蓄電池の電力を防災用電源として活用できます。蓄電池を設置する小中学校は地域防災拠点となっているため、災害時の情報・通信等を確保することが市民の安心・安全にもつながり、防災性の面から見ても大きな意義があります。
【図2:VPPの考え方】
2016年 7月6日に横浜市、東電EP、東芝の3者間で基本協定を締結しました。公民連携で事業化を目指した実証を行います。
今回の協定の目的として、横浜市は、公共施設の防災性向上や環境教育を推進すると同時に、将来的に蓄電池の利用拡大を通して、再生可能エネルギーの普及を目指します。一方、管理・運用面を担う東電EPは、蓄電池を利用したデマンドレスポンス技術の確立や、蓄電池をセットにした新たな電気料金プランの創設等を目指します。そして、システム開発を担う東芝は、蓄電池群の最適な充放電制御システムの開発、ネガワット取引(後述)に活用する技術の事業化検討、IoT技術※による新たなビジネスの実証と展開等について検証を進めます。
※ Iot:「Internet of Things」コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信すること
【図3:3者の役割分担】
【図4:プロジェクトの仕組み】
また、今回の実証事業は、経済産業省の補助事業に申請し、事業採択を受けています。
2016年10月以降、順次、横浜市内18の小中学校(各区1校)に10kWhの蓄電池を設置し、それぞれの蓄電池の充放電を遠隔操作により統合的に監視・制御する実証を行い、平常時と非常時の機能や、事業性、有効性を評価していきます。設置工事が完了し、18校全ての小中学校が運用実証に入るのは、2016年12月末頃になる見通しです。実証は2018年3月末まで行い、事業化に向けた蓄電池の群制御の土台を固めていきます。
【図5:蓄電池設置イメージ】
今回の蓄電池設備による電力は比較的小容量のため、実証事業では、蓄電池から放電された電気は送電網に流さず(逆潮流は行わずに)、各小中学校が利用します。それによって、電力の需給ひっ迫時等において送電網から小中学校に供給する電力量の抑制につなげます。
また、防災用電源として、今回の実証事業では、非常時に情報をやり取りする防災無線の充電等に使用します。蓄電容量は、大災害時に電力が復旧するまでに要する日数である4日間程度の電力供給を目安にしています。
横浜市は、今回の実証事業が2017年度に開設予定のネガワット取引市場の形成にも貢献することを目指しています。市場では、需要家側が節約した電力(ネガワット)の売り買いを行います。従来は、供給側(発電所)を整備することで電力の需給バランスをとっていましたが、ネガワット取引市場の形成によって、新たな需給調整が可能となります。
横浜市では、この取組を、公共施設をはじめとした市域の施設に展開するとともに、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用も含めた「あかりの途切れない拠点づくり」を目指します。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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