トップページ > エコアカデミー一覧 > 第65回 『メルボルンに参加しよう』-「路地をグリーンに」プロジェクト:オーストラリア、メルボルン市
2017.01.26
オーストラリアのメルボルン市は、エコノミスト誌のグローバル・リバビリティ・インデックス※1(世界居住快適性指標)で、2011年から2016年まで1位を堅持、全世界で唯一6連覇を達成しているオセアニア有数の都市です。「世界一暮らしやすいまち」を維持していくには、市民の関与が必至。市は多くの事業やプロジェクトに市民の協力と参加を得るために、「メルボルンに参加しよう」(Participate Melbourne※2)というプログラムを2013年から実施しています。このプログラムでは、ホームページで市が実施する各種プロジェクトや事業を紹介して市民ボランティアを募るだけではなく、プロジェクトごとに進捗状況や成果も掲載し、政策決定や計画策定に市民の理解と参画を促しています。本稿では、そのなかから「路地をグリーンに」(Green Your Laneway)プロジェクトを取り上げ、HPを介して市と住民との協働がどのように実現しているのかを紹介します。
オーストラリア、メルボルン市(Google Map)
※1 イギリスの経済誌『エコノミスト』の調査部門が毎年発表する指標で、世界140都市の安全、健康、教育、インフラ、環境などを比較して決定するもの。
※2 Participate MelbourneのHP:http://participate.melbourne.vic.gov.au/:さまざまなプロジェクトを紹介。
「路地をグリーンに」プロジェクトとは、その名の通り、市内に200か所以上ある「路地」を緑化しようとするプロジェクトです。そもそも「路地」に目を向けたのは、市の都市緑化戦略(Urban Forest Strategy)の対象が主要道路・街路に限られ、市内に200カ所以上ある路地が含まれていなかったためです。現在市内にある路地及びそこにある建物の壁面の面積は、合わせると210ヘクタール。それらが緑化できれば、多くの緑陰が生まれ、都市熱の吸収などにより都市の気温低下に貢献でき、また表流水の浸透を促し、洪水緩和につながるとも考えられました。それに加え、メルボルンの路地の中には、国際的に有名なストリートアートやカフェ文化の拠点となっているところも多く、グリーンで持続可能、快適な路地を増やすことが、文化の発信拠点としての路地の機能をさらに高めると期待されたのです。
本プロジェクトは二つのフェーズに分かれて実施されています。第一フェーズでは、パイロットプロジェクトの対象地域となる4か所の路地の選定。選ばれると、緑化事業に係る全資金を市が負担します。第二フェーズはその4か所それぞれの最終的な緑化デザインの決定と、その実現です。
パイロットプロジェクトを実施する4か所を選ぶにあたって、市は市内の路地の緑化ポテンシャル(潜在的可能性)を項目別(壁面緑化、路地緑化、公園設置、野菜栽培)に色分けしたマップを作成、HP上で公開しました。住民はそれを見て、パイロットプロジェクトに応募します。応募のあった個所は同じマップ上にマッピングされていきました。以下は「壁面緑化」のポテンシャル及び応募状況を示した地図で、青いマークが応募のあった路地。地図上の路地の色分けは、「緑」が壁面緑化のポテンシャルの高い路地、「赤」がポテンシャルの低い路地を示しています。
最終的には、2015年11月の締め切りまでに、800を超える応募がありました。それらは、①緑化ポテンシャルの大小、②緑化事業に対する周辺住民や事業者、訪問者の関心の高さ、③緑化アイデアの内容、④事業終了後の住民等からの支援が期待できるかどうか(植物の水やりなどへの参加)などによって評価され、最終的に10カ所に絞られ、HP上で紹介されました。その後、12月に、10カ所の応募者と市のプロジェクトチームとの打ち合わせが行われ、パイロットプロジェクトとしての適切性に対してのさらなる検討が行われた後、2016年1月に、以下の4路地がパイロットプロジェクト実施路地として決定、発表されました。
2016年4月には、選出された4か所の界隈を含むコミュニティの住民、事業主と、市のデザインチームによって、緑化デザインの最終案作成のためのワークショップが開かれました。そして、同年11月には、それをもとにできあがった最終デザイン案がホームページ上に公開されました。以下は、4か所のうちの、「Meyers Place」の図です。各ブルーのプラスボタンをクリックすると、見えにくい壁面緑化の図と、それに関する説明が現れます(赤枠のなか)。
デザイン案の公開は、多くの人々からフィードバックを得るためです。さらに、公開と同時に各路地で、仮設緑化も行われました。例えばMeyers Placeは、2016年11月3-14日の間、「仮設グリーン空間」に転換されました。住民は将来路地がどのように変わるのかを実際に体験することができ、デザインチームは自分たちのデザインを実際に試すことができたわけです。12日の日曜日には、ライブコンサートも行われ、来訪者とともに、路地のデザインについて実際的な議論する機会も得ることができました。
こうして得られたフィードバックをもとに、デザインチームは最終デザインを決定。2017年の早い段階で、各路地で実際の緑化工事が着手される予定になっています。
「メルボルンに参加しよう」(Participate Melbourne)プログラムのHPには、実にさまざまなプロジェクトがアップされています。たとえば、新規プロジェクトとしては、「公園の改修」と「市民による市内の樹木データ収集」があり、その他にも、既存プロジェクトの進捗状況の報告が、ここで紹介したプロジェクトのほかに、スケートボード利用、図書館の運営、児童虐待への対策、大学キャンパスのマスタープラン、廃棄物処理、気候変動適応対策、公共空間への太陽光の照射などを含む46のプロジェクトについてアップされています。それらを見ているだけで、市が実施している多彩な事業がわかり、さらに、各プロジェクトページからは、上位計画や戦略などの主要文書もPDFでダウンロードすることができるため、詳細な情報を簡単に入手することもできます。
気候変動対策や生物多様性の保全などの環境問題は、住民が自ら関わろうという気持ちを持つことがきわめて重要な課題です。「メルボルンに参加しよう」(Participate Melbourne)のような、住民が興味のあるテーマから入っていくことのできる、オープンで透明性の高い参加型プロジェクト推進方法は、市民意識を醸成するのに大きく寄与すると考えられます。このような、自分のまちの住みやすさについて、みんなでアイディアを出し合い考える、プログラムを実施するメルボルンだからこそ、6年連続で「世界一暮らしやすいまち」に選ばれてきたのかなと、妙に納得しました。
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