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2017.03.24

第67回シェアリングエコノミーの最先端都市:韓国、ソウル特別市

 環境に大きな負荷をかける大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会システムからの脱却が模索される中で、「シェア」という概念への関心が高まっています。これは「カーシェアリング」などに代表されるように、個々人による単独所有から、多くの人の間で共同利用する非所有型の経済活動で、インターネットやソーシャルメディアを活用することで、急速に拡大してきています。シェアすることでモノの数が減り、資源やエネルギー消費を減らし、CO2排出が低減されると同時に、ライフスタイルの変化も、環境負荷低減に貢献すると考えられています。
 本稿では、都市政策として「シェア」を取り入れている、世界有数の「シェアリングシティ」ソウルを紹介します。ソウル市長の朴元淳(パク・ウォンスン)氏は、2016年11月にスウェーデンのヨーテボリ持続可能発展賞を、「世界で初めて大都市の都市政策としてシェアリングエコノミーを取り入れた」として受賞しています。

※Gothenburg Award for Sustainable Development:持続可能な未来のために革新的な貢献をしたり、優れた成果を上げた個人や組織に与えられる賞で、韓国人としては初の受賞。日本では2006年にトヨタのPrius開発チームが受賞している。

大韓民国、ソウル特別市(Google Map)

大韓民国、ソウル特別市(Google Map)

「共有都市(シェアリングシティ)・ソウル」計画

ソウル市は2011年に朴氏が市長に就任した後、2012年9月20日に「共有都市(シェアリングシティ)・ソウル」を宣言し、「共有都市・ソウル推進計画」を発表しました。これまでの都市政策が、道路、駐車場、学校、図書館などのインフラ建設に集中してきたのに対し、これからは空間や物、才能などの「遊休資源」の活用を高めるための、共有インフラを構築しようとする計画です。

ソウルには、ひっ迫する財政問題、急激な都市化による共同体意識の希薄化、さらに過剰消費よる資源の枯渇や環境破壊という課題があり、これらを、「共有」の概念を政策に取り入れることで解決を目指したのです。さらにソウルは、超高速インターネットとスマートフォンの普及が進み、人口密度もきわめて高く、シェアリングエコノミーの発達に有利な条件を備えていると考えられたのです。実現には、民間領域の力を尊重し、それを促進する政策を重点的に実施する一方、公共部門がリーダーとなって公共資源を市民に公開して共有するという政策も並行して行うこととなりました。

ソウル市による制度の基盤構築

まず、法的根拠を設けるため、2012年12月31日に、「ソウル特別市共有促進条例」が制定されました。これは公共資源の共有原則宣言、「共有団体」や「共有企業」の認定および行政・財政の面からの支援、「共有促進委員会」の設置などが主な内容でした。また、ソウル市の「社会革新担当官」に窓口を一元化し、所轄の部署がわからないという不便さを解消しました。

さらに、共有企業や共有団体が個別にサイトを持つと、参加を希望する市民がどこにアクセスすればよいのかわからず、情報も分散するため、共有関連情報や共有プラットフォームに関する情報を一元化した「ソウル共有ハブ」を2013年6月にネット上に開設しました。「ソウル共有ハブ」を通じて、「共有都市」という言葉を検索するだけで共有に関する情報や共有プラットフォームが簡単に見つかり、市民の共有活動への参加がより容易になったのです。(http://sharehub.kr

「ソウル共有ハブ」はこのような情報の公開・蓄積(アーカイブ)・案内の機能の他にも、国内外の共有関連団体、企業、メディア、社会の様々な領域とのネットワークを作り、各機関との連携を支援する役割も果たしています。また、共有を拡大するために市民キャンペーンを展開し、創業希望者や市民、公務員などを対象に教育も実施しています。

共有団体や企業への支援

ソウル市はシェアリング文化を根付かせるために、各種シェアサービスを提供する民間の「共有団体」や「共有企業」に対し、一定の条件を満たせば市が「共有団体・企業」として認定する「共有団体‧企業認定制度」を実施しています。これにより、市民の事業者に対する信頼度を高め、安心して共有活動に参加できるようにしています。2016年までに70の企業や団体が認定され、これらの団体や企業には、共有都市のBI(Brand Identity)の使用権が与えられるのに加え、サービスについて市民に広く知らせるための広報やソウル市の関連部署との協業事業などの支援が行われています。

さらに、認定された共有団体や共有企業のうち、市民の生活と密接な関連のある事業の一部には、事業費も支援しており(2013年までに18機関、3億2,100万ウォンを支援)、対象事業の公募はその後も継続されています。また、共有経済関連の創業を促進するため、ソウル市の創業支援プログラムと連携して、共有事業での創業を準備している人にオフィス、コンサルティング、活動費などを支援しました。(2013年までに約20社の創業を支援)

2013年8月には、共有都市・ソウルの展示会および博覧会を開催し、一万人以上が参加。10月から11月までは、共有企業と協力して都心における共有都市・ソウルの体験イベントを開催し、好評を得ました。その他にもソウル市の様々なメディアを通じて共有都市に関する広報を総合的に行うことで、シェアすることをソウル市民がより身近に感じ、心理的な壁を乗り越えることができるよう、様々な政策を実施しています。

共有都市基盤:ソウル市+シェアハブ+認定団体・企業 (http://english.sharehub.kr/how-it-works/)

共有都市基盤:ソウル市+シェアハブ+認定団体・企業 (http://english.sharehub.kr/how-it-works/

共有都市・ソウルで行われているシェア事業

では、どのようなシェア事業が行われているのでしょう。「ソウル共有ハブ」のサイトには、ソウル市が認定した団体や企業の数が2013年は37だったのが、2016年には70にまで倍増していることが紹介されています(下記図参照)。

ソウル市による認定団体及び企業数とその内訳

ソウル市による認定団体及び企業数とその内訳

この内訳は、①技術・経験・時間の共有:23団体・社、②未活用スペースの共有:31団体・社、③モノの共有:15団体・社、④情報の共有:1団体・社で、具体的には以下のようなサービスが提供されています。

◎技術・経験・時間の共有:地元の人が案内する旅行サービス、必要とされる知恵や知識やスキルを持っている人を派遣するサービス、プログラマーやデザイナーなど、専門家を短期間必要とする人に派遣するサービス、自分が撮り貯めた写真を提供するサービスなどがあり、その他、学習支援、外国語支援なども実施されています。さらには、聴力や視力に障害のある人を支援するための点字媒体作成や読み上げサービスなどがあります。

◎未活用スペースの共有:自宅の空き部屋や庭のスペースを短時間提供するものから、店舗の一部の未活用部分や会議室、空き店舗の提供、駐車場の共有、さらには、日本で「民泊」と呼ばれている外国からの旅行者向けの宿泊場所の提供サービスなどが含まれます。また、住居空間に余裕のある高齢者と、住居空間が必要な若者が同居し、若者は高齢者のための生活サービス(買い物、外出の支援、掃除など)を提供するなどの事業。さらには、本棚の貸出などもあります。

◎モノの共有:普段あまり使わない旅行用のカバンやトランクのシェアから、カーシェアリング、子供服や就職試験用のスーツ、本棚や書籍、舞台道具や装置のシェア、工具の貸出などまで、さまざまなモノがシェアされています。また、食事を共有するサービスもあります。

子供服や不用品のシェアサイト

子供服や不用品のシェアサイト

◎情報の共有では、映画の上映会や、クリエイティブコモンズのもとでの作品のシェアなどが行われています。(※クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)とは、著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための様々なレベルのライセンスを策定し普及を図る国際的プロジェクト及びその運営主体である国際的非営利団体の名称。)

市は「公共資産」の活用も積極的に進めており、業務時間外や休業日における公共庁舎の会議室・講堂、駐車場を開放。公共Wi-Fiを設置、市に関するデータをオープンデータ化するなど、シェア意識を市民に根付かせる様々な取り組みも行っています。それらが功を奏して、2014年から2016年には、「共有都市ソウル」への参加者がほぼ5倍になっています(以下図参照)

参加者数の推移(2014年から2016年)

参加者数の推移(2014年から2016年)

ソウル市は、これらの取り組みにより、資源や情報技術などを効率的に活用して経済・環境面での課題を解決するだけでなく、新たな雇用を生み出し、所得を増やし、さらには急速な都市化と産業化により失われたコミュニティを再生することを目指してきました。行政が政策としてシェア文化を主導するという、世界にもあまりない例のない取り組みが、今後どのように展開していくのか、これからも注目していきたいと思います。


参考


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本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。