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第13回「かつて見られたヤマユリ咲き誇る里の風景の回復をめざして ~苦節7年で花開きつつある『八王子やまゆり咲かせ隊』の取り組み」(八王子やまゆり咲かせ隊)

市民の里親ボランティアの手を借りて

写真:インキュベーターにギッシリ詰まったヤマユリの種。

インキュベーターにギッシリ詰まったヤマユリの種。土と混ぜ合わせてビニールに入れている。1袋で1,000粒ほど入れてあり、これを30袋ほど恒温保管する。

 小俣さんの指導と田口さんたちの試行錯誤によって、ヤマユリ増殖のための技術は確立してきた。現在は、隊で大小2台のインキュベーターを購入して、毎年種の発芽を促進している。ビニール袋1つには土とともに種1,000粒ほどを入れていて、その袋が2台のインキュベーターに30袋ほど入る。これで合計3万粒の発芽種子を毎年育てられることになる。
 このヤマユリの種、八王子市内に自生する株から採ることにこだわっている。他所から持ち込むと生態系を撹乱することになるからだ。幸い、高尾山ケーブルカーの山頂駅のすぐ上の斜面にヤマユリ自生地があって、ケーブルカーの社員がきれいに管理している。隊では、毎年ここの種を分けてもらっている。

 毎年3万粒の種を隊員やその知人だけで育てようとすると大変だ。自宅で栽培できるプランターの数にも限界がある。そして何よりも、自分たちが鑑賞するだけでなく、里に植え戻して“やまゆりの里”を復活させようとすれば、より多くの人の理解と協力が欠かせない。いろんな人の手を借りて、活動を広げていくことが必要だった。
 そこで、田口さんたちは、ヤマユリを栽培してみたいという市民を広く募って、「里親ボランティア」として1人100粒ずつ無償配布して、自宅のプランター等で栽培してもらう仕組みをつくった。
 発芽した種子を100粒ずつの小袋に小分けして、配布できるように準備する。植え方・育て方のマニュアルを作って、種といっしょに手渡す。ヤマユリの咲く季節には、鑑賞会を兼ねた勉強会も開催している。実際にヤマユリ栽培に取り組む人たちだから、日々の悩みや工夫についての実践的な情報交換の場となる。「私はこういうやり方で失敗した」とか、「こうするとよかった」など体験談を話したり、持ってきた写真を見せ合って「育ちが悪いんですけど、何が悪いんでしょうか」などと相談したりする。プロの栽培家ではないボランティアだから、皆、勉強しながらの栽培だ。

写真:発芽種子の配布会の様子。

発芽種子の配布会の様子。100粒ずつに選り分けた発芽種子を1袋ずつ渡して、自宅で栽培してもらう。

 里親ボランティアは、新聞で呼びかけたり、老人クラブに声をかけて協力を呼びかけたりした結果、現在518人が登録している。毎年2月頃にハガキを出して、4月に発芽種子を配布している。ただ、毎年100粒ずつ増えていっても、とても育てきれないと、実際に配れているのは毎年200人ほど。残りは、隊員で手分けして栽培しているほか、農家の里山を借りて栽培実験もはじめている。

 「プランターから芽を出しているのを発見したときには、本当に感激しました」
 「やっと花が咲きました」
 里親ボランティアからは、そんなお便りも寄せられている。

ヤマユリとともに、キンラン・ギンランなど里山の草花が戻ってくる

 ヤマユリのプランター栽培による球根生産に一定のめどが立ち、現在は育てた球根を里に戻してヤマユリの里を復活させる活動にシフトしてきている。
 フィールドは、もともとの自生地、上川町の里山でまず始めた。昔はヤマユリがたくさん咲いていたが、寺が無住になって山が荒れて、竹やぶに覆われたりして全滅していた。草を刈って明るい草地にすると同時に、育てた球根を移植した。
 また、2010年からは戸吹クリーンセンター(清掃工場敷地内)のビオトープにも植えている。八王子市では、同清掃工場を緑の森にする計画があって、その一環として協力する形だ。山の斜面いっぱいに植えていて、今年はたくさん咲いて見頃を迎えそうだと田口さんは話す。

 これらの活動は、里親ボランティアとして球根を育ててくれた人たちの手による。隊の役割は、ボランティアが育てた球根の移植場所を確保することだ。移植作業の他、ヤマユリが好む環境を維持するための下草刈りも毎年5月と10月の2回ほど実施している。
 ボランティアによっては、自宅の近くの身近な公園に植えたり、学校や老人ホームに持って行く人もいる。公園の愛護会のメンバーが里親ボランティアに参加して、公園に植えるために育てているケースもある。いっしょに勉強して、それぞれのところでヤマユリを咲かせていく。
 「そうやって、いろんなところでいろんな活動ができていってくれるとうれしいですね。八王子市は広いので、私たちだけではとてもやり切れませんから」
 田口さんはそう話す。
 里山の管理でも、ヤマユリのために下草を刈っていくと、かつて里山に生えていたキンランやギンランなどの種も残っていて、芽を出したりしているという。見渡せるような明るい里山が増えていって、ヤマユリを象徴としたかつての里山の風景を取り戻すこと、それが隊のめざすところだ。

 一方で、今の課題はイノシシ対策だという。ヤマユリの花が咲くとその香りに誘われるように、イノシシがやってきて、球根(いわゆるユリの根)を掘り出して、食べてしまう。2,000植えた球根が、わずか一晩で1,000個も食べられてしまったこともあった。
 高尾山では、イノシシ対策として、地面にゴルフネットを張り巡らせているという。それでも、ネットを食いちぎって球根を食べちゃうこともあるらしい。
 上川やまゆりの里では、イノシシ避けの電気柵を張って、何とか被害を防いでいる状況とのことだった。

 ヤマユリが咲き誇る里の風景がよみがえるには、荒れた里山を整備してヤマユリを育てるのに加えて、イノシシなど里山の動物が人と共存できるような環境も必要なのだろう。そこまでは手がまわらないと苦笑する田口さんだったが、隊の活動で育ったヤマユリは、今年もまた花咲かせる季節を迎えている。

写真:上川やまゆりの里での下草刈りの作業の様子。

上川やまゆりの里での下草刈りの作業の様子。

写真:戸吹クリーンセンターの斜面でも、ヤマユリの移植を始めた。

戸吹クリーンセンターの斜面でも、ヤマユリの移植を始めた。

写真:咲いたヤマユリ(上川やまゆりの里)。

咲いたヤマユリ(上川やまゆりの里)。

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