トップページ > 環境レポート > 第18回 地域の共有資産として“緑”を位置づける ~緑豊かな街をめざした緑のマップづくり(いたばしエコ活動推進協議会『緑のマップ・プロジェクト』)
2012.10.02
板橋区は、区域の北端を東西に荒川が流れ、河川軸に沿って荒川沖積低地が延びる。荒川を挟んだ北側は埼玉県戸田市。区境の東は北区、南は豊島区、西は練馬区および埼玉県和光市に接している。区域の中央部から南側にかけて荒川河岸段丘の崖線で一気に標高をかせぐと武蔵野台地が広がる。崖線の斜面には比較的樹林地が多く残っていて、これが板橋区の中で特徴的な自然の一つになっている。標高差30mほどの台地上は、荒川を本谷とする白子川、出井川、石神井川、谷端川などの河川が縦横に流れ、起伏に富んだ地形だ。
同区の緑被率は、平成21年度の調査値で19.3%と記載されている(注1)。23区の平均は約20%で、もっとも高い隣の練馬区が26.1%。板橋区は、23区の中ではトップ10前後に位置し、いわば平均的な姿といえる。
「高島平を中心とする低地は、標高3~5mくらいですかね、荒川の氾濫原ですよ。かつて、江戸時代には幕府の直轄地として鷹狩りが盛んだった。明治になって払い下げられて、田んぼになった。そういう土地です」
説明してくれたのは、『緑のマップ・プロジェクト』発起人の村上和生さん。板橋区に移り住んで、34年になるという。
「今は割と工場の多いところで、比較的緑の少ない地域。区内に残っている田んぼは、今や区立水車公園というところに小さな田んぼが1カ所だけです。農地としての田んぼは今はもうありません」──と、言葉を引き継ぐのは、同じくメンバーの小林良邦さん。小林さんも、板橋に住んで40年ほど。ただし、仕事勤めの間、家には寝に帰るだけだったという。
もう一人の鈴木和貴さんは、まだ現役で仕事をしている。85年に板橋区に越してきてから、もうすぐ30年になる。ただ、地域を明確に意識するようになったのは、緑のマップ・プロジェクトなどで歩くようになってからだったと回想する。
「崖線を登った武蔵野台地の上も、よく見るとわずかな地形の起伏があるんですが、その起伏の理由は街の歴史に刻まれています。つまり、今はなくなった川の痕跡などが、緑を追いかけていくことで浮き上がります」
お三方とも、板橋区の津々浦々を歩いて、地域に残された緑地を巡りながら『緑のマップ』と呼ぶ手づくり地図を描いている、『緑のマップ・プロジェクト』の面々だ。毎月第一土曜日の午前中を定例活動日に、134に分かれる同区の町丁を1箇所ずつ歩いてまわっているという。
話を伺った、いたばしエコ活動推進協議会「緑のマップ・プロジェクト」の
(左から)小林良邦さん、鈴木和貴さん、村上和生さん
『緑のマップ』とは、地域の白地図を片手に、自分たちが暮らす“よく知った”街を、「緑」という切り口で改めて見直しながら実際に歩き回って、感じたことや気付いたことなどを書き込んで作るお手製の地図だ。完成した緑のマップには、各自の緑への思いや気付きがふんだんに書き込まれ、そんなマップが参加した人数分だけできあがる。そして大事なのは、これらのマップをもとに、いっしょに歩いた参加者同士が語り合いながら、その地域の緑の特徴やそれぞれの思いと気付きを共有すること。それによって、自分たちの街の緑の再認識につなげるのが、『緑のマップ・プロジェクト』のねらいだ。
現在は、板橋区立エコポリスセンターを拠点として区と区民や事業者等が協働するための『いたばしエコ活動推進協議会』(注2)で、5つの部会のうちの1プロジェクトとして活動している。
村上さんは、緑のマップ・プロジェクトの趣旨について、次のように話す。
「地域には、それぞれ固有の地理的、歴史的、文化的背景があって、その上で今日の姿が成り立っています。それを、実際に街を歩きながら検証したり分析したりするための手段として、マップを書いているのです。街を歩き、緑のマップをつくりながら、“緑”の大切さとか、持続可能な社会づくりなどにも踏み込んでいければと思っています」
2010年5月に緑のマップづくりの活動を始めてから、今年で3年目となっている。
そもそものきっかけは、2006年から4年間にわたって実施した、『特定樹林地の自主調査』に遡る。樹林地に関する区の公表資料をもとに、現地を歩いてその現況を一つひとつ確認し、「消失」「残存」「減少」など区分で変化状況を整理したものだ。
「区では、1980年代以降、いろんなレベルで緑地の実態調査をしてきているのですが、調査当時から開発も進んで、緑がどんどんなくなってしまっていた。これはきっちり調べておかないとだめだなと思って、調べ始めたんですよ」
『板橋区の樹林地──区の資料と自主調査レポート②』(2010年3月発行)より抜粋。色別に塗り分けられている欄が、樹林地の変化状況を表す(赤が「消失」、黄色は「減少」、緑は「残存」など)。写真は、現地を踏査して確認した調査当時の現況。
区が公表している調査資料では、区内の300㎡(100坪)以上の一まとまりの緑地を『特定樹林地』として定義している。1987年の調査資料では、独立林を中心に区内66カ所が選定され、これらはその後も継続的に刊行されている調査資料でも面積推移などが追跡調査され、経年変化を追うことができた。当初の調査では、これら66カ所の残存地を中心に実際に現地を踏査して、自主レポートにまとめた。
ところが、レポートをまとめた直後の2007年に、湧水などの水系を中心とした『板橋区自然環境実態調査(水系調査)』が発行された。ここには、水源涵養や気候緩和などに関連する106カ所の樹林地についての調査報告を収録していた。66カ所の特定樹林地以外にも区の資料の中にさらに多くの“樹林地”があることを知り、既存資料の洗い直しと、それらをもとにした現地再調査を実施し、『自主調査レポート②』としてまとめたのが2010年3月だった。
調査方法は、区の資料からの一覧リストと住宅地図の樹林記号やGoogleの航空写真を参考にした地図を準備して、現地を歩いて目視で「300㎡以上で10mの高木を含む緑地」を樹林地として記録した。
「区の資料では、個人情報の関係もあって、必ずしも特定した形では出ていないんですね。ある程度住所を辿って、ここだろうというのを一つ一つ潰していくという地道な作業でした」
この自主調査グループは、レポートの発行と区への提出を区切りに、役割を果たし終えたとして解散したという。
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