トップページ > 環境レポート > 第24回「高齢者が育てるみどりのカーテンを、“豆記者”たちが取材に訪問 ~子どもと高齢者のうりとも交流(東京新都心ロータリークラブ&新宿区立環境学習情報センター)」
2013.02.06
もともとは、節電やCO2削減を目的に始めたみどりのカーテンプロジェクトだったが、参加者からの報告の中には、ゴーヤを育てたことで家の前を通る子どもたちが「これなあに?」と声をかけてきたとか、近所の人と話す機会が増えたといった、つながりやコミュニティができたことを強調するものが多かったという。そんな報告の中から御所窪さんがいくつか紹介してくれる。
「高齢者施設でもゴーヤを育ててくれているんですけど、中にいつも独りでいてまわりの人たちとほとんどしゃべらなかった方がいたそうです。ゴーヤの水やりをお願いしたところ毎日やってくれるようになって、そのうちに世話している植物について話をするようになったというんですね。それは、たぶん土から受けるものとかゴーヤから受けるエネルギーなどいろんなものがあって、それらの作用が変化をもたらしたんじゃないかなと思うんです。ある意味で、その人にとって人生を変えるきっかけになったといえますよね」
みどりのカーテンを育てていると一軒家の場合は道路際に出て世話をしたりするから、通りかかった人から声がかかったりする。アパートのベランダなどでプランターに植えていても、カーテン状に張り出すから遠目でも目立つ。そこから広がっていく話が結構多いという。独り暮らしの高齢者にとっても外に出るきっかけとなっている。
ちょっと旅行に行くときに近所の人に水やりのお願いをすることもある。お礼代わりのお土産を買って帰ったことがきっかけになって近所づきあいが復活したという報告もあった。暑くなるとともに実がたくさん成る。ゴーヤ料理のレシピをさまざま紹介しているものの、どんどん成るから食べきれない。それを近所に配って、つき合いが深くなっていった。あるいは、いつもは野菜を送ってもらっている実家に“新宿産のゴーヤ”といって送った家族もあった。
新宿区のこの事業は、苗や資材を配るだけでなくて、みどりのカーテンに取り組む人たち同士の交流の機会を設けたり、やってみた中で湧き上がってきた疑問や悩みを解消するための専門家のアドバイスを提供したりする辺りが特徴的だ。しかも、その環のつながりは取り組む当人たちの間にとどまることなく、次第により大きな環へと広がっていって、みどりのカーテンを軸に地域の人たちを巻き込んだ環へと大きく発展しているのが興味深い。
当初、5年間の期間限定プロジェクトとして2012年度で事業が終了する見込みだったみどりのカーテンプロジェクト。予算が付かなくなるとプランターなどの資材はもちろん、苗も配ることができなくなるからと、3年目の後半頃からは、成った実から採った種を保存して自分たちで苗を作れるように方向転換を図っている。
ただ、種採りして育てた苗でみどりのカーテンを作った人たちの報告書の中には「今年は実が少なかったのが残念」などといった感想も見られた。葉っぱで日陰を作って、節電やCO2削減につなげたいというお題目がある一方で、成った実を食べたりご近所さんに配ったりして楽しむということが、やっている人たちにとっては大きな動機づけになっているということを改めて実感したという。
実がたくさん成る固定種に苦労していると語る御所窪さんだったが、その後予算もついて、2013年(6年目)も事業を継続できることになったと喜ぶ。
「子どもと高齢者のうりとも交流」は、みどりのカーテンプロジェクトの取り組みをベースに、子どもと高齢者との交流促進につなげるねらいで発展させたプロジェクトだ。
豆記者を務める子どもたちが、ゴーヤを育てる高齢者のお宅を訪問してインタビューするというのが大筋の流れだが、子どもたちにとっても高齢者にとっても、3世代でいっしょに暮らすことは近年はなくなってきているから、双方にとってよい交流のきっかけになっている。
取材を受ける高齢者にとっては、丹精込めて育てたみどりのカーテンの話を子どもたちが熱心に聴いてくれることが、社会の中で一役を担えているという実感や手応えを生むことにもつながっている。特に一人住まいの高齢者にとっては、日常的に話をする相手もいないことが多く、豆記者の子どもたちとの交流は生活に張りをもたらしてくれる効果もあったという。
何度か取材の訪問を受けて、豆記者の子どもたちと打ち解けてくると、みどりのカーテンの話だけにとどまらず、地域の歴史や文化のこと、自宅で育てている他の植物のこと、戦争中の様子など、いろいろな話へと広がっていった。電話番号を交換して、お祭の時などに声をかけ合っていっしょに出かけたりという交流もできた。ゴーヤの育成を通じた核家族世帯と高齢者世帯の交流は、取材期間を終えた今も続いているという。
8月末には、取材協力していただいた高齢者の方々を招いた交流会を開催して、ゴーヤを使った料理に舌鼓を打ちながら楽しいひと時を過ごした。
「今年は、かわいいお嬢さんたちと思いがけなく楽しくさせていただきました」
そう喜ぶ高齢者もいれば、一方では「自分のおじいちゃん・おばあちゃん以外と接する機会もなかったので、声をかけてもらえてとてもうれしかった」とわが子の様子を紹介したり、「お訪ねするたびに冷たいお茶を出していただいたと喜んでいました」と高齢者の心遣いに感謝するお母さんたちの声も聞かれた。
ゴーヤ料理に舌鼓を打った、「うりとも交流会」。
初年度の2011年度、春に始まった事業が終了したのは、秋も深まった11月。ロータリー年度は7月から6月の一年間だから、途中で役員の入れ替えもあった。2011年3月の東日本大震災では、ロータリークラブでも被災地支援に資金をまわしていた。それでも地元新宿への支援も大事だと、予定通りの事業実施が決まるという経緯もあった。
2012年度も、ロータリークラブ支援によるこの事業は継続している。ただ、やり方は少し変えている。初年度は、手探りでのスタートだったこともあって、センターに関わりのある人たちを中心に企画への参加募集の声掛けをしたが、せっかくなら近所の子どもたちに豆記者として来てもらい、通学時の声かけなども含めた日常的なつながりへと発展させたいという意見が出てきた。初年度にもコーディネーターとして関わった地元町内会の白井道美さんが地元の西戸山小学校の校長先生と相談し、学校を通じてプリントを配ってもらって、希望者が自発的に手を挙げて参加するという形で実施することになった。
低学年を中心に10数組の参加があり、みどりのカーテンを育てる高齢者宅への取材を実施した他、夏には同小学校の家庭科室でお茶会を開催して、親睦を深めた。
話を伺った、新宿区環境学習情報センター長の御所窪和子さん。
2013年度には、うりとも交流プログラムも3年目を迎える。他の地域からも、高齢者や子どもたちの保護者からを中心に「うりとも交流」のような取り組みを実施してほしいという要望がある。
センターとしては今の段階で手を広げるだけのマンパワーはないものの、これまで5年間のみどりのカーテンプロジェクトを実施してきた中で、各地に核になる人たちも出てきている。その人たちが中心になって、各地域なりの取り組みができるようになってきている。
「そろそろセンターの役割もだいぶ完成に近づいているかなと感じることもあります。いろんな地域で、その地域らしい活動が育っていってくれればうれしいですね。全体を牽引しつつ、そうした各地の自発的な活動をサポートしていきたいと思っています」
そういって笑顔を見せる御所窪さんだ。
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