トップページ > 環境レポート > 第32回「子どもたちの放課後を救って、社会で子どもを育てる! ~日本の放課後改革をめざすアフタースクールの取り組み(NPO法人放課後NPOアフタースクール)」
2013.06.17
NPO法人放課後NPOアフタースクールでは、現在のところ都内2校および名古屋市内の1校の合計3小学校で常設のアフタースクールの運営に携わっている。いずれも私立校で、対象は各学校に通う児童のうち、希望する児童たち。年間の登録料金と、選択するプログラムごとの月謝がかかる。
最初の常設アフタースクールは、2011年度に中野区本町にある新渡戸文化小学校で開校した。同校は、創立以来1学年1学級、全校児童240名の小規模な小学校だ。このうち100名ほどがアフタースクールに登録している。母体となる学校法人新渡戸文化学園は、前身の「女子経済教育専門学校」が昭和初期に設立され、初代校長を新渡戸稲造博士が務めた。幼稚園(こども園)から短期大学までを整備している、歴史と伝統ある学園だ。
学園では、放課後の子どもたちが、安全でイキイキと過ごせる場所づくりをめざすとともに、創立時の女性支援の精神を現代に生かした、キャリアマザーを応援する施設としての開設を計画していた。学内でもずいぶん検討をしていたようだったが、先生方も忙しく、任せられる適切な委託先もなかったため、計画は中断していた。そんな頃に、NPOとの出会いがあった。
一方、NPOの方でも、4年半ほど各地の学校で単発的な出前講座としてのプログラム提供をしてきていたが、より本格的・恒常的なアフタースクールの運営に移行したいと考えていたタイミングだった。さらに、学園理事長と平岩さんが、知人を通じた知り合いだったという二重の縁もあった。理事長が家族同然に付き合っていた親友の息子さんが、平岩さんと同級生だったのだ。そんな縁もあって、双方ともに運命的な出会いとして受け止めて、話はトントン拍子に進んだという。
新渡戸文化アフタースクールの一日の流れは、下図のようになっている。
新渡戸文化アフタースクールの一日
日替わりプログラムのメニューと、月ごとの特別プログラムなどが、アフタースクールの壁一面に張り出されている。
アフタースクールの預かり教室の入口を入ってすぐの壁に貼り付けてある退室予定時間帯のマジックテープ。
地元パティシエによる公立小でのデザートづくり。
授業が終わった児童は、小学校棟から路地を挟んだ向かい側に建つアフタースクール専用棟に向かう。音楽室や図工室などの教室は通常の授業でも使っているから、皆、勝手知った馴染みの場所だ。子どもたちは玄関を入って階段を上がった2階の預かり部屋で自分の名前と写真の入った登録カードを受付デスクに渡して受付を済ませる。カードにはICチップが内蔵されていて、受付時に保護者宛ての入室メールが配信されるという仕組み。受付デスクの向かいの壁面には退室予定時間帯ごとにマジックテープが貼り付けられていて、受付後にカードを該当する時間帯に貼り付けるから、どの子がいつまでいるのか、一目瞭然。退室時間にもこのカードを提出すると、退室メールが保護者宛てに配信されるから、保護者も安心だ。
預かり時間中、まずは宿題に取り組み、おやつも出る。そのようなところは学童保育とほとんど変わらない。大きな特徴は、日替わりで毎日実施されている1~2時間ほどのプログラム。年間を通じて、曜日ごとのプログラムが日に3~4つほど設定されていて、子どもたちは自由に選べるようになっている。プログラムの内容も、英語やそろばんなどの習い事のようなメニューもあれば、体を動かすスポーツもある。スポーツでは「サッカー」や「ドッチビー」「ダンス」などの他、「スポーツタッキング【3】」や「ふうせんバレー」といったマイナーなものも数多く取り入れている。サッカーなどはプロチームの選手やコーチが指導に来ているという。南極探検隊の隊員として南極に勤務した人を招いた「南極大陸の不思議」というプログラムでは、南極大陸の本物の氷に触れる機会を得て、身近な地球温暖化の影響を感じたりもした。架空の「ポムポム星」から届いた手紙をもとに、環境破壊の物語を子ども目線で語って、環境破壊が起きている状況やその解決に向けた話し合いをするプログラムなど、環境をテーマにしたものも実施している。身近な問題からアプローチして、子どもたちに楽しく、主体的に、わかりやすく環境のことを理解してもらうことをめざしたプログラムだ。
毎週の日替わりプログラムのほか、月ごとの特別プログラムも毎週水曜日に実施している。地元の大工さんが棟梁となる「建築」プログラムや、チャンピオンなどが先生になる大道芸やけん玉、日本舞踊などのプログラムがある。また、弁護士による模擬裁判や東京大学工学部によるロボット講座など、地元の企業や大学等の関係者が先生になって実施するものもある。
週末には食のプログラムの一環で、農園に行って農作業体験やイベントなども開催している。学期ごと、年に3~4回はアフタースクールの発表会を開催している。毎週習ってきたことや、作ったものなどを保護者たちにも発表するための機会になる。
地元の大工さんが棟梁になってつくる公立小での家づくりのプログラム。
「アフタースクールの活動は、いろんな人の力を巻き込む仕組みです。人を巻き込んで、社会の問題を解決するという、まさにNPOならではの活動ですよね。そういった地域市民や各界の専門家、地元企業などに学校が直接交渉していくのは時間的にも労力的にも難しいですから、私たちNPOが間に入ってコーディネートしています。それによって幅広い内容の充実したプログラムの提供ができるわけです。学校との関係も、最初の頃に比べると格段によい関係が築けています。続けてきた中で、子どもたちの変化が目に見えてきたと言うのです。ストレスの溜まっていた子が、アフタースクールに参加するようになって落ち着いてきたと言われたこともありました。ストレスの発散ができているんでしょうね。子どもたちからは、『アフタースクールが楽しくて学校に行くのが楽しみになった』『友だち関係がよくなった』『夢中になれる体験ができた』などの感想が寄せられています。それとともに、アフタースクールがあることで学校の評価が上がったと言われる側面もあります。参加世帯の保護者からも『安心して仕事ができる』『親子の会話ができた』など、非常に好評です」
サッカーやドッチビーなどのスポーツプログラムもある。
2011年度に新渡戸文化アフタースクールが開校した後、翌2012年度には自由学園(東久留米市)、さらに2013年度に椙山女学園(すぎやまじょがくえん)(名古屋市)と立て続けに学校を拠点としたアフタースクールが開校してきた。
「現在運営している3校は、資金的な面での課題もあって、すべて私立小学校での実施になっています。プログラムの参加費用はもちろん、運営経費なども参加者の負担によって賄っています。充実した内容のプログラムを提供できている反面、経済的に余裕のある世帯でないと参加できないことにもなります。私たちの理念としては、誰にでも手の届くアフタースクールにするということがありますから、公立校で公的資金の支援を得ながら実施していきたいという思いがあります。公立校にこだわる理由はそうしたところにあります」
スタッフの秋山さんはそう話す。
現在、来年度の公立校での開校に向けて準備を進めていて、それなりの手応えを感じているという。
放課後NPOアフタースクールが直接関わって実施しているアフタースクールのほかにも、全国に広がりをみせてきている。
山形県では、県庁職員がアフタースクールの活動に興味を持って問い合わせてきたのがきっかけとなって、『地域の放課後づくりモデル事業』という新規事業を2012年度に立ち上げて、地域のNPOに運営を委託して実施している。
漁協の協力で実施した「漁業プログラム」では、イカの一夜干しづくり体験やセリの見学と水産加工品の販売体験などをした。子どもたちの元気な声と笑顔が地域の大人たちを元気にすると喜びの声が聞かれた。
商店街で商品の流通や陳列を学び、チラシを作って、子ども駄菓子屋を出店するという「商店プログラム」もあった。商品の仕入れから陳列の方法、チラシづくりなど、子どもたちの活発な意見を取り入れながらプログラムが進んだ。
印刷会社の協力で実施した「印刷プログラム」では、絵本作りの技術を学び、自分の想いを形にする喜びを体験した。参加した子どもの中には「学校に行きたくない!」と大変な時期を迎えていた子もいたが、作業の後には絵本づくりの楽しかったことなどを話すようになり、学校の時のこわばった顔がほぐれていくのがわかったと保護者からの感謝の感想もあった。
アフタースクールのコンセプトは、「社会で子どもを育てる」ということ!
また、宮城県南三陸町でも、復興支援団体と地元のNPOが連携してアフタースクールの開催をはじめている。かつて、南三陸町では『ふるさと学習』という取り組みがあったという。教育委員会が実施していたこともあったが、その取り組みを震災の復興を機に復活させようというのだ。『ふるさと学習』とアフタースクールのコンセプトが似ていたこともあって、問い合わせが入り、運営の支援をすることになったという。
いずれの取り組みも、実は学校内でやっているものではない。公民館などの施設で週末を中心に実施するものだが、土日も放課後の一部と位置づけられる。社会で子どもを育てるというコンセプトは共通するから、広い意味ではめざすところに違いはない。こうした事例も含めて、全国への展開をめざすというアフタースクールだ。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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