トップページ > 環境レポート > 第35回「人生の記念日に、世界に一本の“わたしの樹”を植える ~プレゼントツリー・プロジェクトの取り組み(認定NPO法人環境リレーションズ研究所)」
2013.08.01
プレゼントツリーを贈られた人の手元に届く「植林証明書」と、植栽地ごとにデザインされたリーフレット。森づくりの背景や植栽地の地域特性、植えられる樹種、協働先などを解説している。もちろん、贈る人から贈られる人へのメッセージも寄せられる。
プレゼントツリーは、“人生の記念日に樹を植えよう”をスローガンに、森林再生と地域振興につなげるための仕組みを構築するプロジェクト。ただ、苗木をもらったり、それを自分で植えたりするわけではない。森づくりを必要とする土地に植えられた多数の苗木の中の1本ずつを「わたしの樹」として見守り、その苗木代や下草刈りや獣害被害対策など育樹の管理費用等を負担する“里親”になるのが、プレゼントツリーの参加方法だ。
「日本人は潜在的な環境意識が非常に高いのが特徴です。森を守ろう、森を再生しようという呼びかけに、反対する人はいないでしょう。でも、どこから手をつけたらいいのかわからないまま手をこまねいているというのが、大部分の人たちの実情ではないでしょうか。高い意識にもかかわらず、実際の行動にはなかなか結びついていかない。そのギャップはどこから生まれているのか、どうすれば意識と行動とを結びつけることができるのか。そんな発想から生まれたのが、『プレゼントツリー』でした」
そう話すのは、プレゼントツリーの企画・運用を担う認定NPO法人環境リレーションズ研究所の事務局長・平沢真実子さん。
プレゼントツリーの参加者は、全国各地の協定林の中から思い入れや共感をもとに支援する植栽地を選んで、大切な誰かもしくは自分自身の『人生の記念日』のプレゼントとして、“世界に一本の自分の樹”を贈ることができる。申し込みを完了すると、植林証明書や植栽地ごとにデザインされたリーフレットとともに、贈り主からのメッセージカードが届く。リーフレットには、森づくりの背景や植栽地の地域特性、植えられる樹種、協働先などが解説され、突如贈られることになった“自分の樹”への愛着とともに、森全体に対する共感や思い入れも持ってもらうための情報提供をしようというわけだ。
立木の所有権は土地に帰属し、物質的・経済的な意味で贈られた人の手許に残るものではない。受け取ることになるのは、森を育て・地球を守る行為に与するという重要かつ特別な機会と役割だ。森や地球のことを想いつつ、“自分の樹”を見守ってほしいという贈り手の気持ちが心に響くプレゼントといえる。
環境行動への第一歩を踏み出すための、“間口が広く、敷居の低い”入口を提供するのが、プレゼントツリーのミッションだ。
森林整備協定締結式の様子(岩手県宮古市)。
プレゼントツリーには、その仕組みを支える3つの特徴がある。
最大の特徴が、“世界に一本だけのわたしの樹”を特定するための、苗木1本ごとの管理だ。プレゼントツリーを贈ったときに届く植林証明書には、現地の樹1本1本に取り付けてある番号プレートと連動した樹の管理番号、苗木の里親となる人の氏名(証明書の宛名)、植栽した場所や樹種などが記されている。“わたしの樹”が特定できることで、プレゼントされた樹に対する愛着を感じてもらおうというわけだ。
特徴の2つ目は、長期の維持管理を実施していること。大事な『記念樹』として預かるわけだから、植えて終わりではなく、地元の森林管理機関によって、植栽後も下草刈りなど最低10年間の保育管理をして、森になるまで育てていく。10年後、20年後、30年後…、森はきちんと再生し、地域が元気になっていく。1本1本の樹に託された思いが結集することで生み出される結果だ。
こうした長期にわたる維持管理を担保する体制を構築しているのが、3つ目の特徴になる。プレゼントツリーを運営するNPO法人環境リレーションズ研究所だけの単独事業として実施するのではなく、森林所有者、行政(市町村等)、地元の森林管理施業者という4者の間で10年間の森林保育管理のための協定を締結し、万が一、4者のいずれかがなくなったとしても、森の保育・管理が継続できるような体制をつくっている。
植栽地に植えられた苗木の1本ずつに取り付けている樹の管理番号。これによって“自分の樹”を特定することができる。
プレゼントツリーでは、国内外23箇所の森で活動している(うち海外の森は2箇所)。それぞれの森ごとに、森づくりを必要とする特別な理由がある。
植栽地の様子(北海道雨竜の研究林)
当初、林業関係者にはプレゼントツリーのコンセプトがなかなか理解してもらえなかったという。
「森林施業において、植栽地の苗木を1本1本個別に管理するというのは、まずあり得ないオペレーションなのです。2005年1月に始めた最初の植栽地は、インドネシアのカリマンタン島でした。『国内の森はないのか』と多数お問い合わせをいただいて、国内第一号として協力していただけることになったのが、北海道雨竜郡幌加内町にある北海道大学の雨龍研究林でした」
ここでは、人と自然の共生をテーマとした教育研究が行われている。もともと毎木調査・観察による管理をしていたから、プレゼントツリーの求める、苗木1本1本の管理にも無理はなかった。北海道北部では、台風などの風倒被害等により笹地となった土地が目立つようになり、厳しい気候によりこうした笹地が自然の力だけで森林に戻るためには、非常に長い年月がかかる。そこで、研究林内にある笹地での森林再生に関する研究をサポートするため、2006年10月にスタートしたのが「プレゼントツリー in 北海道(雨竜)」だった。
植栽地の様子(新潟県佐渡島)
新潟県の佐渡島では、野生復帰をめざすトキが営巣するための森づくりに協力することになった。その名も「トキの羽ばたく森づくり」。2008年7月にスタートした。
トキの営巣に適しているとされるのは、横枝が張り出したマツ。佐渡では、近年松くい虫被害が深刻になり、巣づくりに適した樹が激減していた。松くい虫被害を受けた森林が自然の力だけでもとに戻るには、かなり長い年月を要する。そこで、地元植生の「ニイガタセンネンマツ」や「アテビ」を中心にした森づくりに取り組んでいる。
植栽地の様子(宮崎県高原町)
南九州は林業が盛んな土地だが、木材を産出するために皆伐した後、再植栽をしないまま放棄される土地が多くなっていた。放棄するなら地元の植生に合った広葉樹の森を再生させ、森林の持つ公益的機能を復元させようと、例えば、熊本県球磨村では2007年11月に、宮崎県高原町では2009年3月に取り組みがスタートした。
2012年5月にスタートした、山梨県甲府市の「甲斐善光寺の森」も、松くい虫の被害を受けたアカマツの人工林跡地での取り組みだ。枯れたアカマツを伐採し、もともとあった優良広葉樹を残しつつ、ヤマザクラやコブシ等を植え、かつて里山林だった頃のように、景観が豊かで自然の移ろいが実感でき、たくさんの生物が棲息できる森をつくっていこうと取り組んでいる。
山梨県甲府市の「甲斐善光寺の森」。左は植栽前の松食い虫被害の状況。
右は植栽後の様子。これから里山林の回復をめざす。
植栽地の様子(岩手県宮古市)
東日本大震災の被災地となった東北エリアでの取り組みは、昨年(2012年)から始まった。岩手県宮古市のやや内陸部に位置する川井地区が対象だ。宮古湾に注ぐ閉伊川(へいがわ)の水源に近いところで、20年前に廃業した牧場跡地(現在は宮古市の所有地)に、宮古市内外からの参加者とともに第一回目の植栽をした。いったん牧場になった土地は簡単には森に戻らない。そこで、地元植生の広葉樹を植えて森をつくろうという取り組みだ。やがて育った樹々が水源涵養(かんよう)の森となって豊かな水の源になれば、漁業の復興・活性ひいてはまちの復興につながる。そんな思いで取り組んでいる。「森・川・海」とひとが共生する宮古市では、多くの市民が森づくりに共感を示してくれた。
それぞれのストーリーを持った各地の森の中から、“自分の樹”が植えられることになる植栽地を自由に選ぶことができるのも、プレゼントツリーの特徴だ。
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