トップページ > 環境レポート > 第36回「ハーブを育て、花ある生活を感じる気持ちを育てる ~チャリティハーブガーデンプロジェクト(NECソフト株式会社)」
2013.08.15
新木場駅前ロータリーの緑地帯に造成したハーブガーデン。ラベンダーは6月中旬~下旬が花のピーク。一番花の刈り取り後にも、伸びてくる二番花を摘み取る。なお、花壇の木枠は、地域の木材会社から提供してもらったもの。“木の街”新木場ならではの地域連携だ。
江東区の臨海部に位置する新木場は、その名の通り「貯木場」のある街だ。かつて隅田川河口部にあった深川の木場が埋め立てられ、1972年に荒川河口の東京湾14号埋立地に移転して誕生した、新しい“木場”。当初は、海路から搬入された原木の貯木場として賑わったが、近年はその役割を終えつつある。替わって進出してきたのが、物流関連の拠点施設などの他産業。大企業のオフィスビルなどの開発も進み、臨海部のビジネス街として栄えてきている。
一方、貯木場には空きが目立つようになっているものの、周辺には今もなお材木商の事務所や木材加工場、合板工場などが建ち並び、周辺を歩くと木のかおりが漂ってくる。2001年には、環境省の「かおり風景100選」の一つにも選定され、木のある風景は今も新木場の大きな特徴になっている。
そんな新木場の駅前ロータリーの一角に、面積約2,600m2の緑地空間がある。桜並木をバックに、駅利用者にとって憩いの空間にもなっているが、夢の島公園や辰巳国際水泳場、ライブ・イベントスペースやプロレスリングなどの娯楽施設が多いため、週末や夜間を中心に多くの人で賑わう。その分、イベント後のごみのポイ捨ても少なくはない。
道を挟んだすぐ向かいに本社ビルが建つNECソフト株式会社では、このごみのポイ捨てを地域の課題と捉えて、CSR活動の一環として、2005年度から社員による地域清掃活動を開始することになった。地域住民がいない分、地域に立地する企業が地域社会の担い手にならなくてはという思いだ。
同社CSR推進部のCSR推進エキスパートの森元正さんは、社員による地域清掃活動がハーブガーデンプロジェクトへと発展していった経緯について、次のように話す。
「新木場駅周辺で、当社社員による清掃活動を実施していますが、いくら拾ってもごみは絶えません。拾うだけではなく、ごみが増えないようにするにはどうしたらいいだろうと考えたのが、花壇を作って街をきれいにすることでした。駅前ロータリーの緑地は、それまで管理者である都港湾局が年に2回ほどの草刈りをしていましたが、雑草が繁茂してくると、ごみを投げ捨てやすい環境になっていました。ここをきれいに整備すれば、ごみが投げ捨てられないような環境ができるという発想です。それと、せっかく植えるなら、植えたものを活用できるような取り組みにしたいと、花壇にはハーブを植えることにしました。こうして、2006年3月にハーブガーデンプロジェクトを開始したのです」
ハーブガーデン構想のねらいの一つは、地域への貢献にある。花壇を楽しんでもらうとともに、育てたハーブを使って匂い袋などのハーブクラフトを作って、それを江東区民まつりなどの江東区内のイベントで販売し、その収益をチャリティー活動に活かそうというもの。チャリティーの対象は、地域の花いっぱい運動を進める団体や江東区内の自然保護活動などに加えて、2011年度からは東日本大震災の被災地支援にも寄付を送っている。2006年から2012年の累積で、約190万円の寄付を生み出してきた。こうした活動に社員が取り組むことで、社会の一員としての共感を持って“共助の社会づくり”をめざすというのが、社会貢献活動としてのチャリティハーブガーデンプロジェクトといえる。
ねらいのもう一つには、社員のための活動という意味合いもあった。
「弊社はIT企業ですから、四六時中、机の前に座っている社員も多く、ストレスも溜まりやすい業態です。作業に参加することで気分転換ができるのと同時に、ハーブの効能としての癒し効果への期待もありました。本社ビルのエントランスには、ハーブの乾燥を兼ねたディスプレイ棚を設置して、通りかかる人の視覚と嗅覚に訴えて、活動をアピールしています」
森元さんの説明を引き継いだのは、プロジェクト開始当初から関わってきて、現在は社員有志で組織するハーブガーデニングサークルのメンバーにも名を連ねる人事総務部の寺田佳代さんだ。
本社ビルエントランスに設置された、乾燥兼ディスプレイ棚。新木場の木材会社に依頼して、専用の棚を製作したという。
プロジェクトのパートナーとして立ち上げ時から活動を支えるのは、NPO法人Green Works。造園業や植栽コーディネートなどの専門業務を担う団体でありながら、メンバーはそれぞれの居住地で地域の市民として「みどりのまちづくり」活動に携わってきた。そんな経験を活かして、プロの視点と市民の視点を併せ持つ団体として、社員や地域を巻き込んだ活動をつくるためのコーディネート役を担う。地域貢献活動を始めようと、NECソフト株式会社が区に相談したところ、中間支援団体を介して紹介されたのが、最初の縁だった。
「ハーブガーデンを作りたいというのは決まっていましたが、われわれ社員だけでは、ノウハウもありませんから、花壇の育成も育てたハーブの活用の方法もわかりません。Green Worksさんの存在があってこそ実現できたプロジェクトです」
CSR推進部の森元さんは、全幅の信頼を寄せる。取材に訪れた日も、刈り取ったハーブを乾燥させるNPOメンバーたちの作業に立ち会っていたという。一週間ほどエントランスの乾燥棚につるした後、食器消毒保管庫で、カビや虫が発生しないよう仕上げの乾燥を行う。庫内に熱風を送り、運転温度と時間を自由に設定して、乾燥させるのだ。60℃で5分間程度温風乾燥させると、香りを保ってほどよい状態になる。
NPO法人Green Worksにとっても、チャリティハーブガーデンプロジェクトへの取り組みは、よいきっかけになったと、代表の牧野ふみよさんは7年目を迎えたこれまでの活動を振り返る。
「ちょうど団体を立ち上げたばかりのところにお声かけいただいたプロジェクトで、私たちにとっても第1号のパートナーさんでした。いわば、このプロジェクトといっしょに育ってきた団体です。今は、いろんな都立公園等の花壇ボランティアの活動をコーディネートして、花壇を育てながら花壇の担い手も育てるという活動をしています。私たちの活動は、緑地を作り出すものですが、ただ緑を作るだけでなく、質の高い緑地や、人が関わることのできる福祉的効果を持った活動をめざしています。公共緑地はボランティアの関わりを前提としていますから、関わり甲斐のある緑地にしたいというのが、設立当初から掲げている目標です。チャリティハーブガーデンプロジェクトもそんな思いを持って、社員の皆さんに関わってもらいながらいっしょにハーブを育てています」
刈り取ったハーブは、エントランスの乾燥棚にかけて乾燥させた後、60℃で5分間温風乾燥をする。仕上げ乾燥に役立つのが写真の機械。切り揃えたラベンダーの穂を輪ゴムで束ねて、カゴに入れて温風乾燥させる。本来は食器などの加熱消毒による保管のための装置で、庫内の温度と運転時間を自由に設定できるから、まさにハーブの乾燥におあつらえ向きだ。
ハーブクラフト。スティック状の「ラベンダーバンドルズ」は、生の枝を折り返してリボン等を編み込んで作るから、生枝が採れる時期にしか作れない。室内の香りの飾りになるほか、枕元に置くとか引き出しの中に入れると、よい香りがほのかに楽しめる。
ハーブガーデンには、ラベンダーを主体に、ローズマリーやセージ、タイム、チャイブなども植えている。ハーブだけだと花が咲いていない時期には地味なことから、ビオラやノースポールなど一年草の草花も植え付けている。
「ここの緑地は芝が植えられていましたから、芝を剥がして花壇を造ろうと思ったのですが、実は芝の下からは砕石がゴロゴロ出てきました。最初の“開墾”は本当に苦労しました」
とは、牧野さんの言葉だ。最初の土壌改良が功を奏し、苗を植えた後のハーブは順調に育った。ラベンダーは、初年度に植栽した苗株が大きく育ち、株分けして花壇を増設した。大きくなった後は、ハーブの収穫が手入れも兼ねるようになる。挿し木用の枝を切り取れば、枝がすいて、風通しがよくなる。花壇の脇にはコンポストを設置して、落ち葉や雑草などを腐葉土としてリサイクルしている。
こうした花壇育成の作業計画は、Green Worksが企画して、ランチタイムや勤務時間外に収穫や花がら摘みなどの作業を中心に社員にも参加してもらっている。また、近隣の幼稚園児の花育【1】として収穫体験をしてもらったり、地域に呼びかけて合同のラベンダー摘み取りイベントを開催したりしている。
毎月第1・3水曜日の勤務時間外には、「ハーブ講習会」を開催している。帰社途中の社員や地域の人たちを対象に、ハーブの手入れや活用の仕方などを伝授して、ハーブの魅力を伝えている。イベントには、毎回参加してくれる常連さんも現れてきて、最後まで残って片付けなどを手伝ってくれていた。これらの常連さんを中心に、社員がプロジェクトにかかわる仕組みを作るため「ハーブガーデニングサークル」を立ち上げた。社内外に仲間を募って、自立的な活動をしていけるようにというわけだ。現在、登録メンバーは50名ほどを数えるようになっている。
ハーブは花を楽しむだけでなく、ハーブクラフトづくりも人気だ。スティック状の「ラベンダーバンドルズ」は、生の枝を折り返してリボン等を編み込んで作るから、収穫したてのラベンダーが採れる6~7月の時期にしか作れない。リボンの色やスティックの長さと大きさなど、さまざまなバリエーションが楽しめる。
ハーブ石けんは、フレーク状の石けん素地にお湯で煮出したハーブの抽出液(濃いめのハーブティー)とオリーブオイルやハチミツをビニール袋に入れて、耳たぶくらいの硬さになるまでこねて、形を作ったり、型抜きしたりする。イベントで参加者が作るワークショップなどを実施して、好評を博している。
匂い袋は、毛糸を編んだり、布で袋を作ってリボンをかけたりして作っている。中に詰めた乾燥ハーブによって、自然に香りが広がる。
これらのハーブクラフトは、社員や地域の人たちが製作に多数参加してくれている。材料の布や毛糸、型紙、中詰め用の綿などをキット化して、自宅で夜や週末に作業できるように用意して、持ち帰ってもらう。関わる人が増えてくるとともに、Green Worksのメンバーだけではキット製作の準備が間に合わなくなって、今では、ハーブガーデニングサークルの恒例の活動になった。
気仙沼市本吉町大谷の仮設住宅に住んでいる人たちがコミュニティ活動及び集会所の活動・運営資金に充てるために作っていた“復興のアクリルたわし”にハーブを詰めた、マンボウ型の匂い袋。現地の人たちのアイデアをもとに協力した連携事例の一つだ。
ハーブ石けんは、フレーク状の石けん素地にお湯で煮出したハーブ抽出液(濃いめのハーブティー)とオリーブオイルやハチミツなどを入れて、こねて形を作る。好きな形に整形できて、ハーブの香りも心地よい。
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