トップページ > 環境レポート > 第50回「四角い箱が別の形に生まれ変わって動き出す ~パッケージクラフトへのいざない(一般財団法人日本パッケージクラフト協会)」
2014.06.16
高橋さんを先頭に協会は、菓子メーカーや食品メーカーなどと協力してパッケージクラフトの映像を制作し、パッケージクラフトのおもしろさを映像で表現できたら、その楽しさと同時にメーカーの商品PRが同時に叶う、より効果的な発信になると考えた。それまでにも高橋さんが独自に地元のスーパーなどで展示会やワークショップを開催してきた実績もあったから、そうした過去に縁のあった企業や製品のメーカーなど、可能性のありそうなところを訪ね歩いて、パッケージクラフトを使ったキャンペーンの魅力と可能性について相談した。
「そんな地道な営業活動を1年ほど続けてきましたが、ともかくサンプルCGを作って、どんな効果が期待できるのかを実際に見てもらった方が説得力を増すよねという話をしたんです。パッケージクラフトの持つアナログ的なおもしろさが、デジタルの映像の中で動き出していくことでより鮮やかに伝わるんじゃないか。見てもらえれば一目瞭然なことも、言葉だけだとなかなか伝わらないじゃないですか」
まさに、百聞は一見に如かず。四角い形のパッケージが、平面に展開されて部品ごとに切り分けられ、再び寄り集まってきてある造形を創り出す、そんなトランスフォームするパッケージクラフトのおもしろさをCG映像で示したサンプル映像を持っていくつかのメーカーをまわったところ、少しずつ応援メーカーがあらわれた。
ちょうどカレーの新商品の開発を進めていたハウス食品株式会社からは、こだわりの新商品に合わせた上品で落ち着いた作品ができないかと前向きな提案があった。そうしてできたのが、深緑と黒が基調のクラシックカーだ。また、年末のクリスマスパーティーで子どもたちに振舞うスナック菓子の食べ終わった後のパッケージを使って、パーティーを盛り上げるための工作としてデザインしたクリスマスツリーも新たにラインアップされた。
一方、サンプルCG映像に感動して、主力の菓子商品のプロモーションに使うことを決めたのは株式会社明治だった。小さな動物たちやロボットをはじめとするコミカルで親しみやすいデザインの作品、OLなど若い女性向け商品のスタイリッシュな“くろねこ”など、バラエティに富んだ「お菓子パッケージ変身ムービー集」は、パッケージクラフトの楽しさと不思議さを強調する。
さらに、書籍への協力では、花王株式会社、日清シスコ株式会社、王子ネピア株式会社、味の素株式会社、井村屋株式会社、株式会社トンボ鉛筆、江崎グリコ株式会社、森永製菓株式会社など菓子メーカーをはじめ食品メーカー、家庭用品メーカーが賛同。さらなる広がりをみせている。
若い女性をターゲットにしたキャンディーのパッケージからは、スタイリッシュな“くろねこ”が生まれた。あまった部分でできるシルクハットもおしゃれさを演出する。
ミニチョコ音楽サーカス隊のスペシャルムービーのトップ画面
きのたけ運動会のスペシャルムービーのトップ画面
パッケージクラフトは、本来の商品は別に存在していて、中身を取り出した後には捨てられる運命にある空き箱(パッケージ)を素材にして作るものだ。そんなパッケージが形を変えていく変化のプロセスを、子どもたち自身が手をかけて工作する。創造性を育む遊びであり、教育効果もある。さらに、子どもたちだけで作りには手に余ることもあるから、両親や祖父母など大人と子どもとのコミュニケーションのきっかけにもなる。
もう一つ、協会として担っている役割に、展示会やワークショップの際のサポートがある。CG映像も大きな反響を呼び、さまざまな方面から高い注目と評価を得るようになって、展示会やワークショップへの引き合いも増えたし、規模も拡大してきた。これに伴い、子どもたちに安全に楽しく工作してもらうためのオペレーションとして、協会がサポートに入ることになった。徐々に協会としての役割と体制が整備されている。
2013年のゴールデンウィークに開催したワークショップでは、まず映像を見せてから工作に取り組むという流れをつくり、工作のときには協会のメンバーがマニュアルに沿ってインストラクターとして子どもたちのサポートをするようになった。映像を見ることで子どもたち自身、これから自分が取り組むこと、やってみたいことが明確になり、がぜんやる気と盛り上がりが増していった。
こうしたワークショップ運営のマニュアルづくりやインストラクターの養成に力を入れていくとともに、高橋さんに次ぐパッケージクラフト・アーティストが出てきてほしいという思いもある。将来的には、パッケージクラフト・コンテストのような形で、いろんな人たちが箱を使った工作を楽しんでいくことが一つの趣味の分野として確立していくこともめざしている。平らな紙から何かに生まれ変わる折り紙のように、立体折り紙と言われるような“日本の文化にしたい!!”という思いがある。それによって、真四角なものを自由な発想で別の形に変えるという、遊び感覚の変身工作とともに、その中に包含している大事なコンセプトを世界にも発信していくのがねらいだ。
パッケージクラフトの作品には、5分程度で完成するものから、5時間以上かかる高い技術と微細な細工を必要とするものまでさまざま。工作好きの人の中には、難易度が高いほど自分でも作ってみたくなる人もいるから、協会ではそんな人たちを中心に、パッケージクラフト・コンテストを呼びかけていくことを検討している。
冒頭で紹介したパッケージクラフトのルールには、制約が創意工夫の源になるという先に触れた理由とともに、もう一つ、高橋さんがパッケージクラフトを生み出すことになったそもそものきっかけである箱に対する思いも込められている。
もともと美術系の学校で学んでいた高橋さんが、課題の中でゼロからの創作をしていくのにつまずくことがあった時、既存の箱を眺めては、その美しさに魅せられ、感動を覚えたという。そんなところから生まれたパッケージクラフトだから、自分の作品の持つ創造性に加えて、むしろそれ以上に他人の作ったものへのリスペクトと愛情を見出して、すでにあるものの魅力を引き出すところがパッケージクラフトの重要なポイントになっている。
協会のメンバーで、自身も美術系出身という城内笑さんは、パッケージクラフトの魅力と可能性について次のように説明する。
「パッケージクラフトのルールには、“1パッケージで1作品”、“パッケージは出来るだけ使い切る”、“デザインやロゴを活かす”と並びますが、そこには、素材である箱が作品に変わっていったということをきちんと認識して、箱に対する興味へとつなげていってほしいという思いがあります。このルールがあることで、箱ってこういうふうにできているんだといったことも感じてもらえたらと思うんです。ロゴマークの色や形の美しさを感じたり、成分表にはこんなことが書かれているんだと読み取ったりと、そんな気付きが得られるかもしれません」
多くの場合、子どもたちは、箱からできたというそのことだけをおもしろがったり、工作の充実感で満足していたりすることが現状ではまだまだ多い。もう一歩踏み込んで、箱そのもののデザインや機能の素晴らしさを感じてもらえるような伝え方をしていきたいというのが、今後の課題だという。
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