トップページ > 環境レポート > 第53回「生きものをただ見つけるのではなく、その生態や生きものどうしのつながりを知ることで、公園の自然を守っていく意識を育てたい ~月に一度の自然観察会を100回以上にわたって積み重ねてきた井の頭かんさつ会の取り組み」

2014.09.08

第53回「生きものをただ見つけるのではなく、その生態や生きものどうしのつながりを知ることで、公園の自然を守っていく意識を育てたい ~月に一度の自然観察会を100回以上にわたって積み重ねてきた井の頭かんさつ会の取り組み」

2017年に控える都立井の頭恩賜公園の開園100周年に向けた水質改善及び外来種駆除作戦

 今年(2014年)1月から3か月間かけて、都立井の頭恩賜公園では外来生物駆除やごみ掃除などを目的とした池の水抜きが行われた。当サイトのエコアカデミーでも紹介している、「かいぼり」【1】と呼ばれる環境管理作業だ。
 池の中からは、ブラックバスやブルーギルをはじめとする外来魚など、2万匹を超える魚が捕獲された他、230台以上の自転車も引き上げられるなど、テレビや新聞などマスコミにも報道され、大きな注目を集めた。
 その井の頭公園を舞台に、観察会を毎月開催しているのが、今回紹介する「井の頭かんさつ会」。
 「111回目となった7月の観察会では、“かいぼりの検証”として、池がどう変わったかをテーマにしました。水を戻してから3か月が経って、池の様子もかいぼり前との違いが見え始めてきました。そこで、かいぼりでできたこと、できなかったこと、新たな課題になったことを実際に現地を調べながら、いっしょに考えてみようという意図でした。実は、今回のかいぼりは2月の大雪の影響もあって、池底の乾燥が十分にできないまま池の水を戻していましたから、泥の中に稚魚や卵が残るなど、少し不完全なところもあったのです。それでもやはり一定の効果は出ていて、水の透明度は上がっていました。透明度が上がることで餌が捕りやすくなった効果もあると思うんですが、野鳥のカイツブリが、かいぼり後に3ペア繁殖しているのが確認できています。かいぼり前には、在来魚が壊滅状態だったのと、水の透明度が低かったせいで餌も捕れず、ずっと繁殖ができない状態になっていましたから、これが一番わかりやすい、目に見える効果といえます」
 そう話すのは、設立時からのメンバーでもある高野丈さん。2005年4月に、現在代表を務める田中利秋さんと小町友則さんの3人で立ち上げた「井の頭かんさつ会」は、現在運営メンバーが13人に増えている。野鳥や昆虫、植物、天体などそれぞれの専門性を生かした観察会を企画して、毎回40名前後で、多いときには60名ほどの参加者が集まってくる。それ以上になるとオーバーユース【2 】になりかねないから、申し込みを締め切って断ることもある。
 かいぼり作業の真っ最中だった2月の観察会(第106回)では、水を抜いた井の頭池をテーマに観察会を実施した。4つのグループに分かれて、普段は水の中にあって目にすることのできない状況を見て回り、最後は全員が集まって水のない池底での集合写真を撮影。参加者からは、2017年までに2回予定されている今後のかいぼりにはぜひ参加したいとの声も聞かれるなど、将来の活動につながるきっかけにもなった観察会だったと高野さんはふりかえる。

井の頭池を覗きこむ観察会の参加者たち。
井の頭池を覗きこむ観察会の参加者たち。

網で捕れた外来生物を覗き込む観察会の参加者。
網で捕れた外来生物を覗き込む観察会の参加者。

鳥の姿を求めて木の梢を見上げる。
鳥の姿を求めて木の梢を見上げる。

料理に使われている野菜を当てる、ミニクイズ。(写真提供:つながってミール)
かいぼりで池底が露出していた時に撮った集合写真(2014年2月23日)。


“知っていると思っていたけど、生態を知らなかった”──そんな参加者からの感想も聞かれる

 毎月定例の観察会では、さまざまなテーマで井の頭公園の自然を満喫する。最近1年間のテーマを以下に抜粋してみると、バラエティーに富んだテーマ設定が伺える。開催時間は、土日祝の10時~12時を基本に設定しているが、夕方から夜にかけて実施することもある。夕暮れの鳥たちや、昆虫を始めとする夜行性の生きものなどの観察もあるし、ときには天体観測なども実施する。夜のうちに渡ってきて、午前中早い時間に飛び去っていく鳥を見るため、朝7時開始の早朝探鳥会を催したこともあった。
 「毎回の観察会は2時間ほどで終了します。集中力が持続するのはそれくらいが限界なんですね。テーマは、野鳥や昆虫、植物などさまざまです。下見でどの辺りに何がいるか、当たりをつけておいて、その時に見られるものすべてを観察するようにしています。池の生きものの場合は網を投げたりワナを引き上げたりして、捕獲した外来種の駆除など普段やっている保全作業の様子を見てもらっていますが、昆虫観察などの場合は捕獲せずに目視での観察を心掛けています。都立公園でやっているということもありますが、環境と生きものに極力インパクト【3】を与えないように、見て楽しむだけにとどめています」

ここ1年間の観察会のテーマ(井の頭かんさつ会のサイトより抜粋)
開催日 テーマ カテゴリ
112 2014/08/09 「ドキドキ、ワクワク 夜の生き物かんさつ」 生き物全般
111 2014/07/19 「かいぼり後の池」~かいぼりでどう変わったか~総合
110 2014/06/29 「クモ~のぞいてみよう不思議なクモの世界~」 生き物全般
109 2014/05/10 「春の野鳥観察会」 野鳥
108 2014/04/13 「井の頭公園 花を愛でる観察会」 ~花と生きもの~生き物全般
107 2014/03/15 「あなたはどんな時に春を感じますか」~井の頭公園で春をさがそう~ 生き物全般
106 2014/02/23 「池の中かんさつ会」水を抜いた井の頭池を観察する 総合
105 2014/01/12 「冬の野鳥観察会」 野鳥
104 2013/12/21 「井の頭で天体観測 星の一生を観よう」 天体
103 2013/11/23 「秋の実り 公園の果実と種子を楽しむ」 植物
102 2013/10/20 「公園のキノコ ~ キノコという生きものを知ろう」 菌類
101 2013/09/23 「恒例!渡りの夏鳥を探そう!!秋編」 野鳥
100 2013/08/10 「真夏の神秘体験! 夜の生きものウオッチング」 生き物全般

 数十人がぞろぞろ歩いてまわると、園路をふさいでしまうので、10~15人ほどの小グループに分かれてまわることにしている。それぞれメインとサブのリーダーが付いて解説をする。
 観察会の後、年に数回は懇親会も催している。夏の夜の観察会の後には納涼会、年末のトワイライトウォッチングの後には忘年会、春先には野外で花見の会など、スタッフだけでなく、希望する参加者も出席して喉を潤す。そんな“楽しい活動”に魅了されて、参加者として関わっていた人がいつしかメンバーになっていることも少なくはないという。
 「観察会に参加する人たちですから、もともと関心の高い人が多かったと思うんですが、より環境そのものの大切さに想いを強くする方も多いようです。『鳥のことを知っていると思っていたんですが、実はその生態を知らなかったことがわかりました』とおっしゃる方もいました。観察会ですから、珍しい生きものやおもしろい生態について知って、見ていただきたいのですが、そんな生きものを見つけたり、行動を見られたりして良かったというだけの観察会で終わらせず、ここ井の頭公園にそうした生きものが暮らしていける背景や生きものどうしのつながりなどについても考えてもらうための投げかけを大事にしています」

池の畔で観察会。。
池の畔で観察会。

ときには夜の観察会を実施することもある。
ときには夜の観察会を実施することもある。

観察会後にメンバーや参加者も出席して催す懇親会も楽しみの一つ。
観察会後にメンバーや参加者も出席して催す懇親会も楽しみの一つ。


注釈

【1】かいぼり
 「掻い堀り」と書く。もともとは、農閑期である冬場に、溜め池の水を抜いて底に溜まった土砂やヘドロを取り除くための作業。水を抜くときに取り残された魚を捕獲するのも楽しみになっていた。
 今回の井の頭公園でのかいぼりは、水質改善及び外来生物の駆除を目的に実施したもので、今後2017年までに2回の実施が予定されている。
 池の排水後、大勢のボランティアといっしょに魚を捕獲し、外来魚の記録や来園者への解説などを行う「かいぼり隊」、干しあがった池の水たまりに入って魚を捕まえたり、陸上での作業を手伝う1日限定のボランティアとして参加する「おさかなレスキュー隊」などを募集して、多くの人に作業を体験してもらったり、かいぼりについての情報を満載した「かいぼり新聞」を発行して周知と理解の促進を図るといった取り組みも行われた。

エコアカデミー(第31回)「かいぼり」 で守る、池の生態系(NPO法人生態工房 事務局長・佐藤方博さん)

【2】オーバーユース(overuse)
 日本語に訳すと、「過剰利用」もしくは「使い過ぎ」といった意味合いで、自然環境の利用者集中によって、さまざまな悪影響が出ている状態をいう。特に山岳地帯などで問題になることが多く、登山道の踏み付けによる植生破壊や土壌の浸食や裸地化の問題、トイレ等のし尿処理やごみ投棄などがあげられる。
 都市公園でも、利用者の集中によって、自然生態系への影響等が考えられるほか、園路をふさいで混雑を招いたりする心理的影響なども指摘される。
【3】インパクト(impact)
 生きものの生活や生態系に及ぼす、主として人間の行為によってもたらされる外的営力のことを「インパクト(impact)」という。
 環境影響評価では、こうした人為的なインパクトと、それに対する生き物の反応(レスポンス)、それらの集積としての効果(effect)を含めたすべてをもって生態系への影響として扱う。

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