トップページ > 環境レポート > 第53回「生きものをただ見つけるのではなく、その生態や生きものどうしのつながりを知ることで、公園の自然を守っていく意識を育てたい ~月に一度の自然観察会を100回以上にわたって積み重ねてきた井の頭かんさつ会の取り組み」

2014.09.08

第53回「生きものをただ見つけるのではなく、その生態や生きものどうしのつながりを知ることで、公園の自然を守っていく意識を育てたい ~月に一度の自然観察会を100回以上にわたって積み重ねてきた井の頭かんさつ会の取り組み」

週2回の保全活動で、外来種防除をめざす

 井の頭かんさつ会の活動は、月1回の観察会がベースだが、これに加えて、週2回の保全活動を実施している。水曜・土曜日の11時から14時頃まで、現在は主に池の外来種防除を目的にした作業だ。
 「井の頭公園では、池に関わる環境問題が2つあります。一つは餌やりの問題、もう一つが外来種の問題です。餌やり自粛を呼びかけるキャンペーンでは、多くの方々の協力を得て、今ではほとんど餌やりをする人もいなくなるという大きな成果を得ることができました。ところが皮肉なことに、このことでカイツブリがまともに繁殖できない池の状況が明らかになったのです。井の頭池の中は外来種だらけで、在来種が壊滅的な被害を受けている状況だったのです」
 カイツブリは、水中に潜って餌のモツゴやスジエビなどを捕るが、餌やりをする人がいなくなって、カイツブリの餌捕り行動が見られないことに気付いたという。会では、人が投げ与えてきた餌に依存してしまったカイツブリが、自力で餌を捕ることをしなくなってしまったのではないかと推測。理由は、外来種の影響によって餌不足の状況に陥っていることが考えられる。餌にしていた在来生物は壊滅状態で、代わりに増えている外来魚は動きが素早く十分な量を捕獲できないからだ。
 水面下で起こっていた大きな問題に直面することになったのが、外来種防除作業の取り組むきっかけだった。
   現在、池の中に設置したワナには、ブルーギルが年間総数10万匹もかかっている。ところが、捕獲数に変化は見られない。要するに捕獲する先からどんどん増えているわけで、まさに、焼け石に水状態だ。
 だからこそ、かいぼりを実施して根絶するしかないと公園当局に働きかけてきたと高野さんは話す。実現まで何年もかかったが、今年春先になってようやく実現できたかいぼりは、いわばこれまでの外来種防除活動の集大成といえる。
 一度のかいぼりですぐに効果が出るわけではない。今後、2回目、3回目と実施しながら効果を検証していく。1回目は不完全だったが、水の透明度が上がって、水草が生えるようになってきた。かいぼり前にはコイやザリガニなどの雑食性の外来生物が食べ尽くしていたと考えられる。水草の存在は、生態系の多様性を保持するとともに、過剰な窒素やリンなどを吸収して水質の改善にも役立つ。

かいぼりで外来魚の捕獲をする井の頭かんさつ会のメンバーたち。

かいぼりで外来魚の捕獲をする井の頭かんさつ会のメンバーたち。

かいぼりで外来魚の捕獲をする井の頭かんさつ会のメンバーたち。

かいぼりで外来魚の捕獲をする井の頭かんさつ会のメンバーたち。

かいぼりで外来魚の捕獲をする井の頭かんさつ会のメンバーたち。


自分の楽しみから人に喜んでもらえることの悦び

 井の頭かんさつ会は、立ち上げ前から公園で観察をしている人たちのネットワークがあって、そんなつながりが母体となってできあがったという。
 「私自身も、主に鳥を追いかけて井の頭公園に通っていました。身近な公園ですが、よくよく見ると奥深く、なかなかおもしろいんですね。そんな井の頭公園の自然を守っていきたいと思いましたし、それは普段から公園を見ている私たちがしなくてはならないことだという使命感もありました。方法としては、井の頭公園の自然の現状についてきちんと伝えていくことが必要かつ有効です。そのためには、単発的に実施するイベントではなく、定期的な観察会を継続していくことが重要だと思ったんですね」
   園地内を流れる玉川上水付近は特に自然度が高い。それに隣接するように、公園の中でも木が一番多く生えている「小鳥の森」があったり、反対側の「御殿山」の雑木林があったりして、それらが一体となって、ある程度の面積が保全できている。観察会もこのエリアで実施することが多いし、そもそも、ここの自然を守りたくて活動しているという側面も多分にあるという。
 この森では、猛きん類も観察できる。オオタカは狩場や塒(ねぐら)として使い、ツミという日本で一番小さい鷹が繁殖することもある。
 ツミが子育てするには、年間で800羽のシジュウカラやスズメなどの小鳥を必要とする。餌として狩るわけだ。その800羽の小鳥が生息するには、どんな環境が必要になるか、観察会ではそんな質問をしている。シジュウカラの場合、イモムシに換算すると1羽が1日で250匹を食べていることになる。掛け合わせると20万匹のイモムシが毎日生まれてくるような森がないとツミは子育てができないことになる。逆にいえば、それだけのまとまりある自然があれば、1つがいのツミがやってこられる。では、2つがいが繁殖するにはどれだけの森が必要になるか…。そんなふうに問いかけながら、猛きん類が生息する森を支える生きもののつながりについて、感じ・考えてもらう。
   保全作業をしていてよく聞かれるのが、“生態系の復活はわかるが、いったいいつの時点に戻そうというのか”ということだ。近代の生物は移入・帰化の繰り返しだし、すでに絶滅してしまった地域個体群も少なくはない。例えば、井の頭自然文化園にある水生物館には、在来のタナゴやイトヨ・トミヨなど、かつてこの周辺に見られた在来魚が展示されている。昭和30年代には普通に生息していた在来の淡水魚だが、そんな生態系を取り戻そうとしたときに、遺伝子構成の異なる地域個体群を導入することがよいことなのかという議論が付きまとう。
 「私たちがいつも話しているのは、カイツブリが普通に暮らしていける池をめざしたいというシンプルなビジョンです。カイツブリは、かつて井の頭公園の池の鳥の代名詞のような存在でした。背中に幼鳥を乗せて子育てしている姿が間近に見られ、いろんな種類がある鳥類図鑑に掲載されているカイツブリの写真も、実はほとんどが井の頭公園で撮られたものばかりなんです。それが、2005年頃を境に、井の頭池にもブラックバスやブルーギルなどの外来魚が急速に増えてきて、それと反比例するようにカイツブリの繁殖の成功例は目に見えて減少していきました。在来魚が壊滅状態だったのと、水の透明度が低下していったことで、子育てに必要なだけの餌が捕れなくなっていったんですね。ブルーギルは動きも速くて捕りにくいし、カイツブリには大きくて食べにくいようなのです。繁殖に成功したのは2006年が最後で、近年はもう失敗ですらなく、繁殖をしなくなっています。それを解決したいというのが一番の想いで、そんな情熱をもって活動をしているんです」
 今はブルーギルが再び爆発的に増えてきていて、とにかく捕らなきゃという必死の想いで池の保全活動を続けているという高野さんたちだ。

ガイドする、井の頭かんさつ会の高野丈さん(写真中央、緑色のアウターをまとい、肩に三脚付のフィールドスコープを担ぐ)。
ガイドする、井の頭かんさつ会の高野丈さん(写真中央、緑色のアウターをまとい、肩に三脚付のフィールドスコープを担ぐ)。

同(写真右端、木の脇に立って、自然解説をする)。
同(写真右端、木の脇に立って、自然解説をする)。

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