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2015.02.13

第57回「山からり下ろした木を薪にして、燃料として使っていくことで森を整備するとともに、温暖化対策につなげていく(檜原村の木質バイオマスの取り組み)」

日曜の朝早く、ローカル線の終着駅に都内各地から集ってきた面々

駅からは貸し切りバスに乗って移動する

駅からは貸し切りバスに乗って移動する

 1月下旬の晴れた日曜日の朝、JR五日市線の終点・武蔵五日市駅には、都内各地をはじめ横浜・所沢など近郊地などから老若男女総勢24名が集まった。これから始まる『檜原村で薪づくり体験 ~数馬の湯の薪をつくろう!』の参加者たちだ。イベントの募集締め切り直前に新聞記事で大きく紹介されたことで応募が相次いだ。当初20名の募集のところ、バスの乗車定員ギリギリまで枠を広げたという。
 改札前で受け付けを済ませた後、駅からは貸切バスに乗って街道を20分ほど走り、旧南檜原小学校跡地(檜原村南郷地区)に開設している村営の薪燃料製造施設に向かう。辺りは、東京とは思えない山村の独特な雰囲気に包まれている。
 「このイベントは、今年で3年目、秋と冬の年2回開催ですから、通算では6回目になります。都市に住んでいると、50代・60代でも“薪割りをするのは初めて”という方も少なくありません。今回は特に若い人の参加も多いので、薪割り作業を存分に楽しんでいただければと思います」
 そう話すのは、コーディネーターの石山恵子さん。もともと木質バイオマスのコンサル会社で檜原村の担当として計画策定や機械導入などに携わった。今はフリーで山仕事や森づくり関係のイベントの企画・運営など啓発関係の仕事を主な仕事にしているという。

 薪燃料製造施設に到着してバスを降りると、丸太が積み上げられた作業場の前に輪になって広がる。地面には前の週に降った雪が白く残る。2台ある薪割り機の前で、石山さんがこの日の薪づくり講師3人、施設長の大谷正平さんと職員の山崎俊彦さん、東京チェンソーズという林業会社の青木亮輔さんを紹介する。
 「皆さん、おはようございます。雪の残る寒い一日になりましたが、薪割りで体を動かしてもらえば体も温まると思います。こちらに2台ある機械は、普段この施設で使っている油圧式の薪割り機です。大谷さんに機械の使い方をご指導いただきますので、半分の方はこちらに並んでください。もう半分の皆さんは向こう側で山崎さんと青木さんのご指導のもと、斧を使って体を動かして薪を割ってもらいます。では、どうぞ始めてください」
 端から数えてちょうど12人ずつでグループ分けして、さっそく作業にとりかかる。

旧南檜原小学校跡地に平成24年4月から稼働している薪燃料製造施設

旧南檜原小学校跡地に平成24年4月から稼働している薪燃料製造施設

旧南檜原小学校跡地に平成24年4月から稼働している薪燃料製造施設

薪は、斧の重さと厚みを生かして割る

講師の青木さんによる斧使いのデモンストレーション。奥は、同じく講師の山崎さん

講師の青木さんによる斧使いのデモンストレーション。奥は、同じく講師の山崎さん

 斧を使った薪割りは、3つの注意点があると、講師の青木さんは話す。
 「1つ目。自分の体を守ってください。斧を持ち上げて振り下ろすのですが、ねらいが外れて空振りすると刃が自分の体に向かって流れてきます。両足を肩幅に開いて、振り下ろした刃の延長線上に身体を置かないようにして構えてください。2つ目は、まわりの人の安全確保。手を滑らせて斧が飛んでいったりすることもありますから、近くに人がいないのを確認してから、薪割りをはじめるようにしてください。3つ目は、ねらいを定めるときに、気持ち手前側に照準を合わせてみてください。皆さんが思う以上に奥側を叩いてしまうことが多いんですね。空振りしないようにと思うとよけいにです。柄の部分が丸太に当たって折れて破損することもあります。道具は直せばいいのですが、思わぬ怪我につながることもあるので、注意してください。あとは、やってみながらということで、さっそく始めてみましょう」

 こわごわと振り下ろす斧は、力なく丸太に当たって、うっすらと傷跡を残しただけで弾かれる。この日は特に寒さで薪が凍って硬く割れにくくなっているという。
 「もう少し思い切って振りおろしてみましょう。一度で割ろうとしなくてもいいです。刃で付いた傷跡をめがけて当てていけば、割れてくれますよ」
 青木さんの言葉に励まされ、力を込めて斧を振り下ろす。振り下ろす時、持ち手を柄の端に寄せると、遠心力で斧先に力がかかると言う。持ち上げるときは重いから、片手は柄の真ん中を持って構え、振り下ろす時にサッと移動させるというわけだ。
 何度か斧を振り下ろしていくうち、ふいにスッと斧が通り、薪が2つに割れて倒れていく。思いがけず軽い感触が手の中に残る。
 「そう、それです。その感触を覚えておいてください」
 見守る人たちの間からも「おお~!」と歓声が上がる。スパンと割れる薪は傍から見ていても気持ちよい。
 続けて、さらに半分・半分と割っていき、ほどよいサイズの薪にしていく。何度も振り下ろすうち、次第に力加減のコツがつかめてくるようだ。

一人ずつ交代で薪割りを体験する。まわりでは順番を待ちながら、作業を見守る。薪割りのとき、両足を肩幅に開いて構えるのは、踏ん張りやすくするとともに、空振りしたときなどに斧刃が体に当たって怪我しないようにするためでもある

横から見ると、刃先から根元にかけてグイっとふくらむ刃の厚みがよくわかる

横から見ると、刃先から根元にかけてグイっとふくらむ刃の厚みがよくわかる

 薪割りグループは、青木さんと山崎さんの2班に分かれて、それぞれ順番に斧をふるっていく。
 山崎さんは、薪は“斧の重さと厚みを生かして割れ”と言う。
 「この斧は薪割り用としては軽い方ですが、それでも1.5㎏あります。木に当たって刃先が少しでも食い込むと、刃の重みとグイっとふくらむ刃の厚みで、木の繊維をメリメリっと裂き割っていきます。同じところをねらって当てていくようにしてみてください。あとは力を入れるタイミングですね。木に当たる瞬間に最大の力がかかるように、タイミングを取るのがコツです」

刃が食い込んで抜けないときは無理に引っ張らず、柄を押し下げるようにしてやるとテコの原理で抜けやすくなる

刃が食い込んで抜けないときは無理に引っ張らず、柄を押し下げるようにしてやるとテコの原理で抜けやすくなる

刃が食い込んで抜けないときは無理に引っ張らず、柄を押し下げるようにしてやるとテコの原理で抜けやすくなる

 ここで少し、参加者から参加の動機や普段の生活などについて話を聞いた。
 横浜から参加した女性は、住んでいるシェアハウスの共用スペースに薪ストーブがあるという。薪は、住宅のリノベーションなどをしているオーナーに連絡すると端材や廃材などを持ってきてくれるのだという。
 「薪割りをしたのは初めてです。シェアハウスの薪ストーブに使うとき、焚き付け用に小さく割ったりすることはありますが、丸太から割ったことはありませんでした。見ていると簡単そうですが、やってみると案外、難しいものなんですね」

 北区から参加した男性は、ダイナミックに薪を割っていく姿が印象的だ。
 「餅つきはしたばっかりです。なんか似ているじゃないですか」
 そう言って、にやりと笑いを見せる。
 「こんないい薪なんて、なかなか割れないですよね。もったいないくらいです」

大きく構えて、振り下ろす時に膝を曲げてしゃがみ込むようにすると予期せぬ怪我を避けることもできると力説する

 斧を振り下ろす時にしゃがみ込むようにすれば、絶対に怪我をすることはないと力説する。立ったままだと手元を中心に振り子のように自分の方に刃先が向かってくるが、しゃがむことで、力が下向きに方向づけられるというわけだ。

大きく構えて、振り下ろす時に膝を曲げてしゃがみ込むようにすると予期せぬ怪我を避けることもできると力説する

大きく構えて、振り下ろす時に膝を曲げてしゃがみ込むようにすると予期せぬ怪我を避けることもできると力説する

 所沢からやってきたという男性は、夫妻2人での参加。奥さんが新聞記事を見たのがきっかけだった。
 「薪割りは久しぶりにやりました。子どものとき以来、何十年もやっていませんでしたね。やる機会がないですよ。今日は、薪を割ってお風呂に入ってと、一日楽しめて、林業の勉強までできる。とても楽しみにしています」
 ちょうどこのとき、目の前ではある参加者が、大きな丸太を割ろうと苦戦している。
 「ワハハ! あれは大きいから、なかなか割れないよね!」

薪割りに汗流す参加者たち。きれいに割れると、傍から見ていても気持ちよい

外国製の油圧式薪割り機

 一方、大谷さんのグループでは、薪割り機を使った薪製作について、レクチャーを受ける。
 黄色い手動薪割り機はアメリカ製の機械。台の上に丸太をセットして、レバーを操作して刃を上げ下げする。油圧ピストンによる刃の押しつけパワーはなんと27トン。どんなに太い丸太でも、たちまち薪に割られていく。機械の脇には、あらかじめチェーンソーで長さを揃えて切っておいた丸太を積んでおき、どんどん薪に割っていく。薪割り機前後の処理を手動でこなすため、“手動薪割り機”と呼ぶのだという。

アメリカ製の手動薪割り機の油圧ピストンの押しつけパワーは、自動薪割り機の約5倍にもなる27トン

アメリカ製の手動薪割り機の油圧ピストンの押しつけパワーは、自動薪割り機の約5倍にもなる27トン

アメリカ製の手動薪割り機の油圧ピストンの押しつけパワーは、自動薪割り機の約5倍にもなる27トン

 赤い色が鮮やかな自動薪割り機は、フィンランド製。国内ではほとんど導入事例がないという特殊な機械だ。枝を打った原木を長いままセットして、レバーを下げると付属のチェーンソーが設定した長さに切断してくれる。レバーを一番下まで押し込むことで油圧ピストンのスイッチが作動して、切断した丸太を十字の薪割り刃へと押し込んでいく。4つ割にされた薪は、その先についているベルトコンベアで送り出されていき、機械の脇に積み上げられる。
 「今日、皆さんに割ってもらうこの木は、ヒノキです。やわらかい材質ですが、この機械ですと硬いもやわらかいも関係なく、どんどん割っていってくれます。ここに積んである木は、本来ですと薪にするにはもったいない、用材にできるくらいの木ですが、なかなか用材としては売れないですから、薪に加工して活用しています。こうして皮のついたまま積み上げておきますと、黒くシミがついてしまって、もう木材としての価値はなくなってしまうんですね」
 大谷さんは、そう説明しながら、機械の奥に積み上げられた原木をトビと呼ぶ道具(「薪鳶」ともいう)で引き寄せ、機械から伸びる台の上に載せていく。トビは、鳥のトンビのくちばしに似た形状から付いた名前で、かつては、伐った木を山から下ろす際に使われていたという。

自動薪割り機に原木を載せるのに使っている道具のトビ。トンビのくちばしに似た形状から名づけられた

自動薪割り機に原木を載せるのに使っている道具のトビ。トンビのくちばしに似た形状から名づけられた

自動薪割り機に原木を載せるのに使っている道具のトビ。トンビのくちばしに似た形状から名づけられた

 自動薪割り機は原木から処理できる便利な機械だが、逆に繊細な扱いを要することが、使っていくうちにわかってきた。チェーンソーで切断する際、無理な力がかかるとレバーが歪んでしまい、連動するチェーンソーがうまく入らなくなって途中で止まってしまう。その都度、代理店に修理を依頼することになる。最近になってようやく機械の使い方のコツがわかってきたという。
 また、丸太を包み込むようにして機械に送り込んでいくため、扱える木材の最大径は約30㎝までになる。薪割り機だから、普通はそれほど太い木を扱うことはなく十分なサイズなのだが、この施設では用材になるほど大きな伐採木も出てくるから、それらは物理的に扱えない。手動薪割り機なら、玉切りした丸太を台に載せて割っていくから、サイズの制約はない。油圧ピストンの押し付けパワーも自動薪割り機は5.7トンだから、手動薪割り機の方が5倍近い力で割ることができる。
 現在、この施設では、自動薪割り機と手動薪割り機の使用割合を、3:7くらいで運用している。

フィンランド製の自動薪割り機と講師の大谷正平さん。便利な機械だが、扱いは繊細だ。5.7トンの力で薪を割っていく

フィンランド製の自動薪割り機と講師の大谷正平さん。便利な機械だが、扱いは繊細だ。5.7トンの力で薪を割っていく

フィンランド製の自動薪割り機と講師の大谷正平さん。便利な機械だが、扱いは繊細だ。5.7トンの力で薪を割っていく

できた薪はパレットに積み上げて、そのまま自然乾燥させる。パレットのサイズが90cmだから、薪の長さは40㎝に揃えている。2列並べて積んでいくと、間に少し余裕ができる。パレットを並べて保管するため、外にはみ出さないように積んでいくのがポイントだ

左から、コーディネーターの石山恵子さん、講師の大谷正平さん(施設長)と山崎俊彦さん、青木亮輔さん(東京チェンソーズ)。大谷さんと山崎さんはこの施設の職員、青木さんは林業会社・東京チェンソーズで森の整備などをしていて、施設には間伐材などを運び入れる立場で関わっている

左から、コーディネーターの石山恵子さん、講師の大谷正平さん(施設長)と山崎俊彦さん、青木亮輔さん(東京チェンソーズ)。大谷さんと山崎さんはこの施設の職員、青木さんは林業会社・東京チェンソーズで森の整備などをしていて、施設には間伐材などを運び入れる立場で関わっている


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