トップページ > 環境レポート > 第57回「山から伐り下ろした木を薪にして、燃料として使っていくことで森を整備するとともに、温暖化対策につなげていく(檜原村の木質バイオマスの取り組み)」
2015.02.13
平成24年4月に開設したこの薪燃料製造施設は、シルバー人材センターに業務委託して年間84日の稼働で約150トン(パレット数で約500台分)の薪を製造している。原料となる原木は1トン当たり5000円の買取価格で年間約167トンを受け入れている。薪の販売価格は、1パレット(約0.7m3)6000円。採算ギリギリの良心価格だ。
できた薪は、パレットに積み上げていく。パレットごとフォークリフトで移動して、別の場所にある薪置場に運んでそのままの状態で半年から1年ほどかけて含水率20~30%をめざして自然乾燥させている。ここまで乾燥すると、ほぼ完全燃焼するよい薪燃料になる。
この薪製造事業は、平成21年に策定した村のバイオマスタウン構想に基づくものだ。檜原村は、村域の93%が森林。そのうちの約7割がスギ・ヒノキの人工林だが、用材としての利用は安価な輸入材に押されて芳しくはない。そこで、燃料として活用していこうというわけだ。
檜原村産業環境課生活環境係・係長の藤原啓一さんは、バイオマスの利活用について、次のように話す。
「檜原村では、平成21年にバイオマスタウン構想を策定し、22・23年度に薪製造のための重機や薪ボイラーなどを導入して事業化の準備を進めてきました。24年度から薪燃料製造施設が稼働して、本格的な事業の運用ができるようになっています。現在、製造した薪は公共施設に導入している薪ボイラーの燃料として活用しています。第2段階の目標として現在進めているのが、薪ストーブ等の普及による村外を含む薪燃料の販売促進です。今回の薪づくり体験イベントも、そうした薪の普及の一環として実施するものです。多くの方に檜原村の薪を知っていただき、使っていただきたいと思っています」
さらに長期的な将来目標としては、薪燃料としてだけでなく、用材としての活用を進めていくこと。薪燃料としての活用はあくまでも間伐材の有効利用であって、その目的は森の整備を進めてよい木材を生産することにある。最終的に山から伐り出してくる木材が適正な価格で販売できるようになってこそ、持続的な森林管理・経営につながるというわけだ。
木質バイオマスというと、薪の他にもチップやペレットなどとしての利用もあるが、村では、製造工程でもっともCO2排出量の少ない薪としての製造・活用にこだわっている。この他、現在は使い途のないバーク(木の皮)をストックしたり、オガクズを近隣の畜産農家に提供していく方向で調整を進めたりと、さらなる木質バイオマスの活用をめざしている。
もう一つ、村で進めているのが、カーボンオフセット【1】の取り組みだ。森林整備によるCO2の吸収・固定や、木質バイオマスの活用による化石燃料の削減効果によって生み出されるオフセットクレジット(排出権)を都市部の企業などに販売し、その企業が事業活動等を通じて排出するCO2量を消し込むことに使うことができるという仕組みだ。販売益は、森の整備やバイオマス活用にかかる資金として使われることでよい循環を生み出してくれる。
国のJクレジット制度【2】を活用するほか、村独自の認証制度「檜原クレジット」の取り組みも始まっている【3】。
今回の薪づくり体験イベントも、参加費の一部でクレジットを購入するカーボンオフセットイベントとして実施している。クレジットによって、檜原村の森づくりに貢献するとともに、参加者1人当たり6日分相当のCO2排出量を削減してくれる。
檜原村産業環境課生活環境係・係長の藤原啓一さん
午前中、みっちりと薪づくり作業を体験して心地よい汗をかいた後、午後のプログラムでは、こうして製造した薪を活用するために導入した薪ボイラーを見学する。
向かった先は、バスでさらに山奥に向かって20分ほどに位置する、檜原温泉センター・数馬の湯(数馬地区)。途中、人里(へんぼり)地区にある薪の保管施設(旧南秋川小学校跡地)を車窓から眺める。
当初の予定から時間も押してお昼の時間を過ぎ、お腹もすいてきた。天井の高い広間に入って、まずは山菜やキノコなど檜原産の食材をふんだんに使った檜原特製釜飯に舌鼓を打つ。広間には薪ストーブが設置され、部屋中を温めている。小窓からは赤く揺らめく炎が見えている。
お腹を満たした後は、いよいよお楽しみの温泉に浸かる。
露天風呂は壁が高く眺めはそれほどないが、内湯にはジャグジーや圧注浴などが設備され、露天風呂やサウナと水風呂もある。
平成8年にオープンした、ここ数馬の湯に薪ボイラーが導入されたのは、平成24年のこと。出力80kWの薪ボイラー2基で5000リットルの貯湯タンクに蓄熱し、熱交換によって源泉の湯温28℃を42℃まで上げている。
スイス製のこの薪ボイラーは薪をフルに充填して約3~4時間燃え続ける。途中、3回ほど薪を詰め直して、1日でパレット1台分の薪を消費する。毎朝、手付による火入れが必要で、燃料投入も自動化できないため手間はかかるが、薪利用をアピールしていくことで利用者からも好評を得ている。
薪燃料の乾燥がよく調整されていることもあって燃焼効率がよく、灰として残るのはわずか1%ほど。ただし、薪ボイラーは立ち上がりの加温には向かないため、灯油ボイラーを併用して加温やバックアップ用に使い、温度が上がった後の保温に薪ボイラーを使うという運用方法をとっている。これにより熱量全体の3分の2ほどを薪ボイラーで代替し、年間100~120トンのCO2削減効果が見込めるという。
同じタイプの薪ボイラーは八王子市にある北野清掃工場にも導入されているほか、奥多摩町やあきる野市の温泉施設でもチップや木くずを燃料にする木質バイオマスボイラーが導入され、それぞれの地域特性を生かした木質バイオマスの利用が進められている【4】。
檜原村におけるバイオマス利活用のイメージと流れ
貯湯タンクは5000リットルのお湯に蓄熱し、熱交換で温泉をあたためる。右は、制御盤
林道脇に積み上げられた丸太は、林道開設の際に切り倒された木々。これらの木が、薪燃料製造施設に運び込まれていく。
この日の最後に向かったのは、五日市方面に戻った馬場(ばんば)地区にある森。檜原村で代々林業を営む田中林業株式会社によって、きちんとした生産林としての施業が行われているスギ・ヒノキの植林地で、「遊学の森」と呼ぶ森林見学のフィールドに位置づけられている。
秋川沿いの谷間に延びる林道を登って森に向かう。この辺りは日照時間が短く、この時期の日照時間は10時から14時頃までと短い。林道を歩きながら、コーディネーターの石山さんが森の木々や森林整備のことなど、話をする。
「この林道ができたおかげで、山の木が伐り出せるようになりました。この山の奥には40~50林齢【5】の森があるので、あと2~3年はずっと奥まで工事が続いて、林道を延ばしていきます。これだけ山があっても、道がないと木材を出してくることができないのです」
この森では、なるべく太くてよい材を育てるための整備を行っている。長伐期施業【6】という育林方法だ。
林道の脇には丸太が積み上げられている。林道を切り開いていったときに切り倒された木々だ。こういった木が、午前中に作業した薪燃料製造施設に運び込まれて、檜原産の薪として加工されるわけだ。
林道から、急斜面の散策路を登って森の中へと踏み込んでいく。
「東京の山って、見ていただくとわかるように斜面が急なんです。35~40度が平均、30度くらいの斜度だと緩いなあといわれるほどです。ちなみに東京に森林がどのくらいあるか、皆さんご存知ですか? 東京の森林面積はだいたい3割です。そのほとんどが多摩地域と島嶼部にあるんですね。地方の方からすると、東京に山があるというイメージはないとおっしゃいます。それとともに、東京に村があるというと非常に驚かれます。東京なのに村があるんですか!?って。この辺りの山村風景も東京というイメージからはかけ離れていますよね。東京には8つの村がありますが、そのうち7つが島嶼部で、本土にある村は、ここ、檜原村だけです」
林道や森の散策路を歩きながら、石山さんから森の話を聞く
森から帰ってきて、地元酒蔵の酒粕から作った甘酒の差し入れをいただいての休憩。熱々の甘酒で体も心もポカポカと温まる
今回の参加者の中には、実際に薪ストーブを使っているという人もいた。
青梅市から参加した男性は、11月に自宅を建て替えた際に、薪ストーブを入れることにしたという。
「工務店の人がえらく熱心に薪ストーブを薦めるんですよ。私も興味があったから、じゃあ入れてくれって言ってね。ただ、薪集めが大変なんですよね。知り合いに声をかけて伐採木をもらって自分で薪割りもしているんですけど、なんせ生木だから、今シーズンはまだだめじゃないですか。まあ、来年の冬の分の燃料ですよね。この冬は仕方ないので買っているんですが、ホームセンターなどで入手しようと思うと高すぎて、えらい贅沢品になってしまいます」
薪ストーブ(数馬の湯の広間より)
2月に家が完成するという男性も、新築宅に合わせて薪ストーブを入れるという。今は、薪ストーブを使う日を思いながら薪の手配をしているところだ。
「檜原村の薪は有名なんですよ。インターネットで探してみたら、ここが一番安かった。ただ、ここで扱っているのはスギ・ヒノキで、広葉樹の薪はない。火力は同じくらいあるらしいんだけど、すぐに燃えちゃうから、次から次へと継ぎ足していかないとならないんです。ただ燃えやすいから火付には最適ですよね」
薪集めは大変だし、薪をくべたりするのも手間はかかる。でもそうした苦労をしながら燃やす暮らしも楽しみの一つと、お二人の話は弾む。
「火のある暮らしっていうのが、ぼくは夢だったからねえ」
そうつぶやく横顔は、喜びと充実感に満ちていた。
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