トップページ > 環境レポート > 第60回「ゴミを拾うと社会が見えてくる ~拾うだけじゃないゴミ拾いの取り組み(NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム)」
2015.06.12
回収された散乱ゴミのトップ3は時代とともに変化してきている。かつては街中同様に河川敷でもタバコの吸い殻が数多く散乱しており、回収数は群を抜いていた。また飲料缶の回収も多かった。タバコの吸い殻はその後徐々に回収数を減らしていき、2005年にはトップ3から姿を消している。販売本数の減少とともに、喫煙者のマナー向上によってポイ捨てが少なくなったことも影響しているとフォーラムでは推察している。
入れ替わるように、2003年から回収数を一気に増やしたのが、レジンペレット【1】
だった。その後も数年間にわたって、レジンペレットや破片ゴミがトップを占める状況が続いた。さらに2009年以降、それ以上に回収数が増えてきたのが、先にも紹介したペットボトルだった。
「タバコの吸い殻が減っていったように、レジ袋の回収数も2007年をピークに減ってきています。ちょうどこの頃からレジ袋の有料化が進みました。一方、ペットボトルは2000年代に入ってから急激にその数を増やしてきています。1996年に小型ペットボトルの販売が解禁され、徐々に普及していった状況が、荒川のゴミにも表れているといえます。私たちのくらしの移り変わりと密接に関係し、“荒川のゴミが社会を反映している”といった状況があるわけです。川で拾われるゴミのほとんどが、私たちの身近な生活の中から出ているものばかりであり、私たちの生活から変えていかないと、川のゴミは減っていかないということを、参加者それぞれがゴミを拾いながら感じてくださっていると思います」
ペットボトルは、大きくかさがあるため回収した袋の数として全体の2割以上を占めている。中でも、約半数を占めるのが、水やお茶のペットボトル。河川敷で運動するときに飲むスポーツドリンクが多くなるとも思われたが、目立つほどではなかった。こうした回収ペットボトルの種類別集計は、全国の生産量データともほぼ一致する。つまり、散乱ゴミの状況が実社会におけるわれわれの生活を映す鏡になっているのだ。容積の多くを占めるペットボトルの散乱ゴミを減らすことができれば、荒川の散乱ゴミの状況は大きく変わるだろうと期待する。
とはいっても、ペットボトルの消費抑制を訴えていくものではない。飲料メーカーの“消費者の求める商品を提供する”ことに反対する立場にあるわけでもない。散乱ゴミの現状についてより広く伝え、飲み終わったペットボトルの処理に対する消費者の意識啓発を高め、飲料メーカー・流通を巻き込んだ仕組みづくりを実現することで、状況の改善を図っていくことをめざしたいと考える。そのため、ごみ・リサイクル系の団体に対してこれまでの蓄積の中で見えてきた情報を提供して、ともに社会を変えるための運動へと盛り上げていく一端を担うのが、現在事務局として取り組んでいることだ。
川のゴミは、その場で捨てられたものだけはない。別の場所で捨てられたものが多く流れ着いてくる。荒川のゴミをなくすためには、荒川だけでなく、ゴミ自体を減らす取り組みが必要と考えるようになってきた。
そこで、業界団体や消費者団体などとともにゴミのない社会をめざして取り組んでいくのに加えて、川や海に関わる人たちとの全国ネットワークを通じて、川ゴミ問題解決への道を探っていこうという取り組みも新たな展開として着手し始めたところだ。その一つとして、2015年1月に「第1回川ごみサミット」を荒川クリーンエイド・フォーラムが開催事務局となって呼びかけ、開催している。
2015年1月には川や海に関わる団体との全国ネットワークをめざした『第1回川ごみサミット』の開催を実現した。地道なゴミ拾い活動を継続することで一人ひとりの意識変革を促していくとともに、そうした地道な活動の結果を生かしてよりダイナミックな根本解決に向けた新たな一歩を踏み出しながら確実に進歩している荒川クリーンエイドだ。
「荒川クリーンエイドで記録しているデータを飲料メーカーに持っていっても、“荒川だけの問題”と言われてしまったこともありました。荒川だけではなくて、全国でも同じような問題があることを示していかないと、根本的な解決にはつながらないと感じています。そこで、川ゴミのネットワークをつくり、全国規模で川ゴミの問題を表面化させ、その解決につなげることを考え、その一歩として川ごみサミットを開催しました。
荒川クリーンエイドのような、『調べるゴミ拾い』をしているのは、海岸でのビーチクリーンアップの他には、山形県の最上川での取り組みなど、ごくわずかしか把握できていない。それぞれの川の状況やそこにあるゴミの種類は異なっても、拾った人がゴミ問題を考えて、ゴミのない生活をめざす、そんなゴミ拾いが全国に広まっていくことをめざしていきたいという。
海ゴミも、7~8割は川などの陸域由来といわれる。海ゴミをなくすためにも、川のゴミをなくさなければならない。
そして、川ゴミは川に来た人が捨てるだけではなく、むしろその多くは支流や用水路などを通じ、街の中から何らかの形で流れて来ていると考えられている。
海に流出したゴミは回収が一層困難となるため、川に流入するゴミを少しでも減らし、川に流れ着いていたところで少しでも多くのゴミを回収することが重要だ。さらに、海ゴミ関連の団体とも歩調を合わせて、川のゴミ、街のゴミを減らし、なくしていくための解決策を探っていくことをめざしたいという。
「20年間ゴミを拾い続けて、いつまでたってもゴミはなくならないし、ゴミは増えているんですか、とよく言われるんですね。でも、ゴミを拾い続けているところでは明らかにゴミは減っています。実施会場や参加人数が多ければそれだけ回収されたゴミも増えるわけで、荒川にはまだ拾いきれていないゴミが多くあって、新たにそのゴミを拾い始めたことでゴミ回収量が増えているというだけなのです」
長年ゴミが溜まり続けたところで新たにゴミ拾いを始めた会場と、数年間毎年ゴミ拾いを続けてきた会場とでは、歴然とした差が見られる。年に1~2回拾うことで、目に見えるほどの変化が起きているわけだ。ただ、まだまだ大量のゴミが溜まったままの状態のところも残っているため、そのようなところを片づけていかなくてはならない。
左:2014年4月葛飾区
右:2014年8月葛飾区
左:2015年5月墨田区(11回以上実施)
右:2014年5月足立区(7回以上実施)
新規会場と継続会場におけるゴミ密度の違い(2014年)。上段の新規会場では大きなゴミやペットボトルなどのゴミが一面に広がり、その下にも層をなしてゴミが大量に埋もれている)。一方、下段の継続会場では、新たに流れ着いたゴミが目立つばかりで、ゴミの密度や厚みに明確な違いが見られる。
「今何をがんばっているかというと、多くの方に荒川にいらしていただいて、たくさんのゴミを拾うのと同時に、拾った人たちがそれぞれの普段の生活の中でゴミを減らすことを考える、そんなゴミ拾いにしていきたいんです。“拾うだけじゃない ゴミ拾い”と言っていますが、ゴミがどこからやってくるのかを川のゴミを通じて感じ、考えて、ゴミ拾いに参加した人たちから荒川を変え、社会を変える行動を起こしてほしい。事務局としても、参加者の皆さんが調査してくださったゴミのデータを活用して、広く社会に対して発信しています。様々な機会に、多くの方々に川ゴミについて発信することで、一人でも多くの人が、活動に参加するきっかけとなり、荒川のゴミ、生活の中から出るゴミを減らすきっかけになればと思っています。私たちだけで拾えるゴミの量は限られていますが、参加した1万人以上の方が、それぞれの暮らしの中で、ゴミをできるだけ出さない生活に変わっていけば、荒川をきれいにすることにつながると信じています」
荒川クリーンエイド・フォーラム事務局長の伊藤浩子さん。年間で30会場ほど参加していて、春と秋の週末は荒川河川敷にいることが多いという。
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