トップページ > 環境レポート > 第65回「地域資源を活用した大学教育と地域貢献を連動させた持続可能な社会づくりのための環境学習の取り組み(東京学芸大学環境教育研究センター)」
2015.10.27
2012年度に開始した環境教育リーダー養成講座も、現代GPの授業がひな型になって始めたものだった。ただし、授業ではないから、単位にはならない。学生たちの自主的な取り組みで、いわばサークルに近いといえる。単なるサークルとの違いは、環境教育研究センターのプロジェクトとして進めている点にある。
「実習やゼミに近い内容ですが、単位にはなりません。受講している学生たちにとってのメリットは、自分の思いを展開できるというのが一つあると思います。それと、いろいろなところに連れていってもらえるというのもあるかもしれないですね。センターの事業として、予算を確保していますから、ちょっと遠いところはバスを使って移動することもできます。昨年度も、東北遠征にはバスを出しました。ただ予算もどんどん減ってきています。今年度も東北に行く予定にしていますが、おそらく現地集合になって、そこからの移動にバスを借りることになるかもしれません」
受講生は同大の全学生が対象。4年生は卒論が忙しくなるから、1~3年生の受講が主体で、環境教育専攻の学生が多いものの、それ以外にも英語や日本研究など多様な選修・専攻からの参加がある。地域内外のさまざまなフィールドに出かけ、活動主体である地域のグループ等に直に学ぶことで、自らの環境教育への学びへとつなげていく。また、地域の市民団体などが実施する小学校における環境教育の授業支援にも協働して取り組み、受講生の能力を向上させるとともに、地域における環境教育実践の充実を図っていく。
2014年度の講座は、下表のような内容で構成された。
「現代GPの授業がひな型になったのは確かですが、それに加えて、当時の現代GP事務局として雇用していた研究員が中心になって、授業以外のところでも自主的・主体的に参加できる機会を創ろうと、学生たちを募集し取り組んだのも一つのきっかけになったと言えます。学園祭のゴミ削減に取り組んだグループや、地域の農業問題を調べたグループもありました。農家にインタビューしに行って、その成果を映像にまとめて公民館のイベントで発表して地域に返すという活動でした。『野川生き物調査隊』というグループでは、野川の生き物調査をしながら、移動できるパネルを出しておき、通りがかりの人たちや近くで遊んでいる子どもたちを集めて調査結果について解説する“野外博物館”のような取り組みもしました。大学から野川まで15分くらいですから、学生たちが放課後にいろいろな道具をリヤカーに積んで出かけていくのです。近くで遊んでいる子どもたちが『何やっているの?』と集まってきて、説明が始まると『お~!』と喜んでくれて。これはおもしろいことをやったなと思いましたね」
現代GPのこうした取り組みをモデルにした環境教育リーダー養成講座も、地域に出かけて、学生たちに地域の環境活動を経験・展開してもらうことを重視している。
「大学と地域が連携しながらやっていくということはかなり意識してやっています。大学が地域に出ることによって、何らかの課題解決の機運が開けることを期待しています。大学の学生たちですから、卒業後はどこか別の地域で就職することが多いのですが、そのときに環境教育を展開する力を持ってもらうのが、この講座のねらいです。それとともに、学生たちが地域に出ていくことで、何かネットワークができていくことは十分にあるので、それも一つの地域貢献になっていくと思っています。学生自身がリーダーとしての力を持って行くのと、地域の活動に関わることによって、その地域のネットワークのレベルアップにつながることを意図しているわけです」
樋口教授は、講座のねらいについてそう説明する。
環境教育リーダー養成講座の第1講は、「森林保全活動 -森を体験しよう-」(2014年5月18日)。相模湖畔の若柳嵐山の森にて、NPO法人緑のダム北相模の定例活動に合流・参加した。
東日本大震災の被災地である宮城県南三陸町を訪れるフィールドスタディツアーでは、「ふゆみずたんぼ」(冬期湛水水田)の再生・復興に取り組む活動に参加した(2014年10月11日~13日)。
農園で収穫した稲藁を用いた正月飾りづくり体験(2014年12月10日)。この講座で学んだことを、翌週の小学校での授業支援に活かすのも目的の一つとして実施。
環境教育リーダー養成講座でもう一つ重視しているのが、学校の授業支援だ。東京学芸大学は教育系大学だから、教員養成が一つの特徴となっている。この講座でも、地域の小学校における環境教育の授業支援に取り組みながら、実践的な研修・実習につなげている。
「これまでいくつかの学校で授業の支援を実践してきました。学生たちがゲストティーチャーとなり、子どもたちのグループでの学習活動を支援するのです。ある学校では、学校近くの雑木林で継続的に体験や観察をしています。そこで、雑木林学習のときに出てきた子どもたちの疑問や質問を大学生が答えたり、発展的な学習を展開したりするサポート授業を実施しました。だいたい10人ぐらいの学生を連れていって、1グループ6人くらいの子どもたちの中に学生が2人ずつ入ってサポートするものです。グループ学習なので、学生たちもあまりプレッシャーなくできるのでしょうね。子どもたちの質問は、前もって大学の方に連絡がありますので、その答えとともにポイントとなるところをさらに深く教えようと、学生たちは一生懸命調べて、当日に臨んでいます。例えば、“ひっつき虫”と呼ばれる、かぎ状のフックやトゲなどをもち、動物の皮膚や衣類に引っかかったり貼り付いたりして運ばれる植物の種子について質問されたときには、携行式の実体顕微鏡とオナモミの実などを用意して、実物を観察しながらその構造について解説しました。教室の中での授業ですが、なるべく子どもたち自身が観察したり作業したりといった体験ができるように工夫を凝らしています。学生たちにとっては大変な作業だと思いますが、その分、よい学びにつながっていると思います」
小学校の授業支援は、リーダー養成講座の講師としてお願いした、小金井市環境市民会議など地域の人たちが学校と連携して実施しているものにお手伝い役として関わることが多い。前章で触れた、正月飾りのワラ細工講座でも、講座の1週間後に小学校の総合学習のサポートがあり、学生たちも参加・合流した。講座はその事前講習的位置づけとして実施されたものでもあった。
こうした学校の授業支援とともに、より主体的・自主的な活動をサポートしながら、教育実践の企画運営を学ぶ機会を提供する試みも重視している。
毎年秋(10月か11月頃)に開催される同大の学園祭(小金井祭)でも、環境学習のイベントを実施している。学園祭を訪れる地域の子どもたちをメインターゲットに企画するもので、牛乳パックを使った再生紙づくりなどを準備した。
「昨年度までは、どちらかというと教職員が主導して、スケジュールを立てたり内容の提案をしたりするなかでやってきましたが、今年度からはもう少し学生主体にして、出来合いのものをセッティングするのではなく、学生の方から意見を募って企画・実施するようにしています。小金井祭には今年度も引き続き出展しますし、その他にも、小平市の環境フェスティバル(2015年9月12日実施)へ出展した他、小金井市の生涯学習講座に関する企画を進めているようです」
国分寺市立第八小学校における、第3学年の総合的な学習の時間「ハケの学習」の学校授業支援を実施(2014年10月8日)。
第62回小金井祭(学園祭)における学生たちの企画展示(2014年11月2日~3日)。
リーダー養成講座の最後の回では「ふりかえりWS」のセッションが設定されている(上表参照)。次年度の講座に向けたアイデア出しや意見交換をするためのものだ。メンバーは学年もそれぞれだから、継続するメンバーもいる一方、卒論準備などで修了するメンバーもいる。新入学生をはじめとして新しいメンバーも入ってくるから、毎年、メンバー構成が変わっていく。特に昨年度からは学生の主体的な活動を尊重していく方針を打ち出したから、一年間の講座をふりかえりながら、それぞれが興味のあることについても意見を出し合ったという。
「東北のフィールドワークも、場所を変えて実施する予定ですが、行先も含めて、学生たちの希望を聞きながら計画を立てていく予定にしています」
現代GPのプロジェクトをモデルに発展してきた東京学芸大学の地域連携による環境教育の取り組みは、今後も継続していくことで、地域に根づいた取り組みとして力を発揮していきたいと樋口教授は話す。
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