トップページ > 環境レポート > 第67回「生徒たちの委員会活動を通じて全校生徒に呼びかける環境への意識と行動が、作法として身に付いていく(都立つばさ総合高校ISO委員会))」

2015.12.24

第67回「生徒たちの委員会活動を通じて全校生徒に呼びかける環境への意識と行動が、作法として身に付いていく(都立つばさ総合高校ISO委員会)」

高校生の、高校生による、高校生のための“環境サミット”

 2015年11月22日(日)。天気はすっきりとしない曇り空に覆われていたが、どうやら雨の心配はなさそうだ。
 蒲田駅からバスで10分ほどのところにある都立つばさ総合高校の校門をくぐると、『高校生環境サミット』の大きな看板が出迎えてくれる。立て看板や壁の案内矢印に従って校舎内に入ると、机を並べた受付が設置されている。すでにメイン会場となるホールでは、高校生環境サミットの開会式が始まっていた。この日は、2004年の第1回から毎年この時期に開催される、第12回高校生環境サミットの当日を迎えた。
 「本日はお忙しい中、高校生環境サミットにお集まりいただき、ありがとうございます。今回のテーマは、『教育の中の環境』です。学校教育の中でさまざまな環境問題について知り、知識を深め、意識を育むことで、個人個人の将来的な環境活動につながると考えています。ただ、それには課題もあります。環境問題だけを知るだけでなく、自然の仕組みや人間の関わりと影響、つまり環境問題と人の生活について深く学び、自然が共に生きるものと知ることが大切だと思います。この環境サミットでこれからの環境問題の課題について議論をし、結論に少しでも近付けたらと思います。また、環境問題のために私たちができる活動は、単にリサイクルやリユースだけではありません。まだまだ多くの活動があります。参加者や参加団体の間で情報交換を行い、新しい知識を持ち返り、さらに別の視点でそれぞれの活動につなげていきましょう!」
 主催者を代表して登壇したISO委員会委員長の森谷裕里(もりやゆうり)さんが、高らかに開会の宣言をした。

つばさ総合高校の校門に設置された「高校生環境サミット」の看板。
つばさ総合高校の校門に設置された「高校生環境サミット」の看板。

開会式では、主催者を代表してISO委員会委員長の森谷裕里さんが開会のあいさつをする。会場の大ホールは、200人ほどの来場者・関係者で埋まった。
開会式では、主催者を代表してISO委員会委員長の森谷裕里さんが開会のあいさつをする。会場の大ホールは、200人ほどの来場者・関係者で埋まった。

会場に張り出されたスローガン。毎月の目標としてISO委員会が企画し、全校生徒に呼び掛けている。
会場に張り出されたスローガン。毎月の目標としてISO委員会が企画し、全校生徒に呼び掛けている。

 都立つばさ総合高校は、多摩川の下流域、河口から数kmほどの川沿いに位置し、2002年に東京都立としては2校目となる総合学科設置校として、旧都立羽田高等学校と旧都立羽田工業高等学校が発展的に統合して開校した。
 2004年には都立高校として初となるISO14001の認証を取得。校内に設置したISO推進委員会が運営主体となっている。このISO推進委員会の中に、生徒会執行部及び委員会活動の一つであるISO委員会の役員が参画して、教職員や保護者とともに、構成員としての役割を担っているのが、つばさのISO活動の特徴の一つになっている。そして、このISO推進委員会の下に、全教職員及び生徒が位置づけられ、学校全体としてISO14001の環境マネジメント活動に取り組んでいる。
 この日開催された高校生環境サミットは、ISO推進委員会が定めた環境目標の項目の一つとして、“高校生の視点で環境を考える”ことを目的に実施される、年1回の恒例イベントだ。
 ISOの取り組み自体も生徒主導で進める部分が少なくはないが、このイベントはまさに生徒たちが主体になって、企画・運営に大きな力を発揮している。

つばさのISO活動の中心的な役割を担う、ISO委員会

つばさ総合高校では、各クラスのゴミ箱を排除して、階ごとにゴミステーションを設けて分別回収の協力を呼びかけている。
つばさ総合高校では、各クラスのゴミ箱を排除して、階ごとにゴミステーションを設けて分別回収の協力を呼びかけている。

 生徒によるISO活動を取りまとめ、率先するのが、ISO委員会だ。学習指導要領において特別活動の中に位置づけられた生徒会活動の一環として行っている委員会活動の一つ(例えば、風紀委員会とか図書委員会、保健委員会などと同じ位置づけ)だから、毎年の年度初めに、各クラスから2名以上が選出されてスタートする。今年度(2015年度)のメンバーは総勢48名。3学年の合計は18クラスなので本来なら36名になるが、“私もやりたい”という人たちがいて増えているのだという。
 「ISO委員会は、他の委員会の中でも比較的人数が多い方です。生徒たちの中には2通りの考えがあるようです。1つは、前の年もやっておもしろかったから、今年は中心になって活動したいという人たち。もう1つは、実は面倒くさそうな委員会でもあるので、人数を増やして乗り切ろうという考えです。例えば、保健委員会なら毎月1回集まって石鹸の交換をするのがほぼ活動のすべてになります。それくらいの活動量が通常の委員会活動なのですが、ISO委員会の場合は、月に1度は朝早くに来て全校生徒に対して宣伝をしたり、毎週1回ゴミステーションの前に立って分別の注意をする当番があったり、毎週木曜日には集まったゴミの分別をさらに細かくきれいに整理したりとさまざまな仕事があります。ですからプラスアルファの人員を出すことで、各クラス2人に回ってくる当番を交代でこなしていこうという、そんな目論見もあるようです」
 同校の環境管理責任者としてISO推進委員会事務局を担当する、商業科・国際文化理解科教諭の吉岡大介先生がそう説明する。

 こうしたISO委員会の“仕事”の内容は、ISO推進委員会が定める環境目的・目標に位置付けられたものだ。
 「環境目的・目標として8項目を立てています。今年度は、4月24日の第1回ISO推進委員会で決定しましたが、内容的には前年までと大きくは変えていません。逆に言うと、昨年度これらの目的・目標に沿って活動した結果が有意義だったということが言えます。これらを達成するために学校の環境活動を組み立てていくわけです。8項目の中で、特に生徒のISO委員会が関わるものとしては、まずは本日開催している高校生環境サミットが「3.環境に関する他校との交流」に当たります。それから「6. 省エネルギーの推進」の実施も基本的に生徒たちです。「7. ゴミの再資源化と減量」も、枠組みは大人が作りましたが、中身で動いているのは完全に生徒たちです。そのほか、「4. 環境関連情報の発信」については、ホームページからの発信は私が担当していますが、それと別に『USO800』という紙の広報誌を生徒たちが発行しています」

平成27年度の「環境目的・目標」
平成27年度の「環境目的・目標」
※クリックで別ウィンドウが開きます(PDF:61KB)

ISO委員会が発行する広報誌『USO800』。毎月の目標を掲げ、ISOの活動に楽しく取り組んでいけるようにと発信している。
ISO委員会が発行する広報誌『USO800』。毎月の目標を掲げ、ISOの活動に楽しく取り組んでいけるようにと発信している。


高校生環境サミットの開催によって排出されるCO2量をカーボンオフセット

 今回の高校生環境サミットで力を入れた企画の一つに、カーボンオフセットの取り組みがあった。サミットの開催に伴って排出されるCO2量を計算し、それに相当するCO2吸収量を森林の整備・育成によって生み出したクレジットの購入によってまかなうことで相殺して、差し引きのCO2排出量をゼロにする仕組みだ。しかも、クレジット購入先の森への支援にもつながる。
 オフセットの対象となるのは、前年度のサミット開催で使用した電気やガス及び参加者の移動距離から計算したCO2の排出量だ。制度を推進している団体の協力を得て勉強会を重ねながら計算した結果は、0.92トンのCO2排出と算出された。これをオフセットするため、1トン分のクレジットを購入するのだが、そのクレジット購入先を、サミット来場者等の投票によって決めようというのが、つばさならではの工夫だ。
 午後のセッションの高校生実践発表では、つばさ総合高校のカーボンオフセットの取り組みについて、ISO委員会副委員長の田中杏実(あみ)さんと鶴田彩矢香(あやか)さんが、これまでの経緯説明と他校への広がりをめざした呼びかけを行った。
 「私たちは、CO2排出量削減のために、2004年度から学校の電気使用量の抑制に取り組んできました。照明や空調をこまめに消すといった、無駄遣いを防ぐ行動や、クールビズ・ウォームビズといった節電のための工夫を全校に呼び掛けています。また、先生方にも空調の温度設定や照明の点灯箇所の検討などについてお願いをしてきました。この結果、年間の電気使用量を約35%削減し、今もその水準を維持しています。ですが、使用量の削減には限度があります。それに“減らせ・節約しろ”ばかりではみんな飽きてしまいます。何よりも活動してきた私たちが、よくないものを減らす活動だけでなく、いいものを増やす活動をしてみたいと思うようになってきました。そんなある日、先輩たちがカーボンオフセットという仕組みを見つけてきたのです」
 ISOの取り組みを通じた、CO2削減の効果と課題について、田中さんがそう説明する。
 「クレジットを購入することで、自然豊かな地域とつながりができて、楽しくてかけがえのない体験ができるかもしれません。期待が高まりました。ただ、学校の出すCO2の全量をクレジットで帳消しにするお金はありません。そこで、対象を限定し、代わりに他の学校にも少しずつカーボンオフセットに取り組んでもらうよう呼びかけていって、広めていくことを考えました」
 カーボンオフセットに取り組むことになった経緯と、今回の発表を通じた呼びかけについて、田中さんはそう話す。オフセットの対象は、毎年開催している高校生環境サミットに決めた。ちょうど1トン分のクレジレットを購入すれば、オフセットは完了する。ちょうど森への関心が高かったこともあって、クレジットの購入先には森林保全の取り組みを行っている団体を選んだ。
 「ですが、森林保全による削減量を販売している団体はたくさんあります。それらの中からどこを選ぶのがベストの選択になるのか。しかも、ただ単に“カーボンオフセットをしました”と発表したところで、あまり関心を持ってもらえるとは思えません。そこで、クレジットの購入先を投票によって選ぶことで、カーボンオフセットの取り組みをアピールするとともに、支援先のアピールにもつなげることを考えました。購入先の候補をいくつか用意し、11月にある次回の環境ミットでどこのクレジットを購入するのがふさわしいか、参加者に投票してもらって選んでもらうのです。予行演習を兼ねて、9月の文化祭でも投票を実施しました。投票を通じて、多くの人に強い関心を持ってもらい、カーボンオフセットが広がってくれればと思ったのです」
 クレジット購入先の候補として、地方公共団体を中心に4つの団体を選んだ。いずれも間伐や植林によって森林の保全や育成に取り組んでいる団体だったが、その分、東北や中部と東京からの距離は遠くなった。当初は各団体を実際に訪問して取材することを計画したが、時間や費用の面から断念。代わりにアンケート調査と送ってもらった資料をもとに展示パネルを作成した。
 そうして迎えた、9月の文化祭と11月の高校生環境サミット当日。展示パネルの前にメンバーが常駐し、訪問者に直接説明して、アピールと投票の呼びかけを行った。結果を、サミットの閉会までに取りまとめて、発表。順位が発表されると歓声が起こり、“今回の高校生環境サミットで排出したCO2もまた、次回のサミットでオフセットしたい”という表明に、会場は拍手で湧きあがったという。

高校生環境サミットでつばさ総合高校ISO委員会が発表したカーボンオフセットの取り組み。当日のCO2排出量を計算すると0.92トンと算出された。
高校生環境サミットでつばさ総合高校ISO委員会が発表したカーボンオフセットの取り組み。当日のCO2排出量を計算すると0.92トンと算出された。

カーボンオフセットについて説明するオリジナルの漫画本を作成・配付。投票してもらうクレジット購入先候補の紹介も展示パネルにした。
カーボンオフセットについて説明するオリジナルの漫画本を作成・配付。投票してもらうクレジット購入先候補の紹介も展示パネルにした。


 新年度からの展開について、鶴田さんが発表を引き継ぐ。
 「こうして2014年度の取り組みは終了しましたが、いくつか課題が残りました。まず、投票した方々の声を振り返ると、知名度に基づく人気投票になっていた面があります。投票数も多いとは言えませんでした。これは、候補が4つとも森林関係だったことと、私たちの情報提供が不十分だったことが原因だと考えています。現地への取材に行けず、それぞれの取り組みの実際や魅力を自分たちの中で十分に消化しきれなかったからでした。さらに、隠れた目的であった購入先との交流も、クレジットを購入しただけで、結局は何もできませんでした」
 これらの課題を踏まえて、2015年の高校生環境サミットにおけるカーボンオフセットの取り組みが始まった。
 「まず、今回選んだ購入先候補は、東京近郊の地で、直接訪れて、活動の様子を見たり話を聞いたりできることを重視して選びました。加えて、違いをわかりやすくするために、今回はCO2の削減・吸収に関して、異なる取り組みを行っている団体を候補として選びました」
 候補となった3団体は、住宅における太陽光発電設備の導入促進によるクレジット創出をめざす「NPO法人ちがさき自然エネルギーネットワーク」(神奈川県茅ケ崎市)、山岳地帯の地域特性を生かした小水力発電とカーボンオフセット付農産物の開発・販売を進める「山梨県南アルプス市役所」、そして薪の製造と薪ボイラーの導入による木材・木質バイオマスの活用によってクレジットを創出している「東京都檜原村役場」。夏休みには、ISO委員会メンバーが手分けして各団体を訪問し、現地を見て、担当にインタビューして、それぞれの団体が守り・育てようとしているものの魅力や関わっている人たちの想いに触れ、交流する機会をつくった。
 今回のサミットでは、そんな肌身で感じた各団体の活動の内容と魅力をまとめて紹介用の展示を作成し、来場者に直接話しかけて投票を呼びかけていった。
 「カーボンオフセットの取り組みを広げようと苦労してきた私たちですが、実際に取り組んでみて、カーボンオフセット自体は案外簡単で、しかも思ったほど大きな負担もなく始められることがわかりました。排出量の計算は、高校生でも十分できます。単価は、1トン1万円くらいですから、例えば、文化祭の出し物で出たCO2をオフセットしてクレジット購入費を生徒会費から出すということも難しくはないと思います。また、文化祭の中でそのことをアピールしたり、環境に関する掲示などを行ったりすれば、“環境に配慮した文化祭”として発信することができます。皆さんの学校でも、ぜひやってみませんか、カーボンオフセット!!」
 鶴田さんはそんなふうに発表を締めくくった。

高校生環境ミットの実践発表で、カーボンオフセットの取り組みについてプレゼンする、ISO委員会副委員長の田中さんと鶴田さん。
高校生環境ミットの実践発表で、カーボンオフセットの取り組みについてプレゼンする、ISO委員会副委員長の田中さんと鶴田さん。

カーボンオフセットの取り組みについて紹介するつばさ総合高校ISO委員会の展示。クレジット購入先候補となる3つの団体をアピールし、投票を呼びかけるメンバーたち。
カーボンオフセットの取り組みについて紹介するつばさ総合高校ISO委員会の展示。クレジット購入先候補となる3つの団体をアピールし、投票を呼びかけるメンバーたち。


このページの先頭へ

本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。