トップページ > 環境レポート > 第67回「生徒たちの委員会活動を通じて全校生徒に呼びかける環境への意識と行動が、作法として身に付いていく(都立つばさ総合高校ISO委員会)」
2015.12.24
カーボンオフセットを導入したそもそものきっかけは、つばさ総合高校ISO委員会の取り組みが高校生対象の環境コンテストで入賞したことにあった。
2013年12月14日(土)に開催された第2回「AEON eco-1グランプリ」【1】には、全国141校154件の応募の中から一次・二次審査を通過した14校が参加して、最終審査会のプレゼンテーションに臨んだ。つばさ総合高校も、首都圏ブロックの普及・啓発部門代表としてグランプリ大会に参加することになったのだ。
環境ISOの取り組み、中でもゴミステーション設置などの対策とそれによるゴミ排出量の大幅な削減等が評価された結果、見事、準グランプリに当たる「文部科学大臣賞」を受賞。副賞として、1泊2日で長野県黒姫の「アファンの森」【2】での体験プログラムの招待を受けることになった。審査の講評では、「高校生活で出てくるゴミについて極めて科学的な分析をし、削減につなげたことを高く評価しました。6分の1に減らした実績は、他の学校にも広がる期待を高めます」と最大限の評価を得ている。
校内に張り出された、第2回「AEON eco-1グランプリ」の入賞校を紹介する壁新聞。
「アファンの森での体験プログラムは彼らにとっても大きな経験になったようです。それですっかり、“森っていいな”とみんなで話すようになって、翌2014年の環境サミットでは『森が生み出すもの』というテーマで開催することになりました。その年の企画を練っていく中、森への支援活動の一環として、また同時につばさの取り組みを広げていくための一つの方向性として、カーボンオフセットを導入することになったのです。クレジットの購入先について話し合ったとき、彼らが候補として挙げたのは、すべて森林吸収系のクレジットばかりでした。きっかけが森の体験プログラムでしたから、迷いはなかったんですよね」
吉岡先生は、そう説明する。
この日の高校生環境サミットには、つばさ総合高校を卒業して進学した大学のメンバーとして参加した、つばさのOGもいた。
東京都市大学のISO学生委員会は、毎年、高校生環境サミットに出展している常連団体の一つ。今年度新入学生として加入した1年生の古賀光涼(みすず)さんは、高校在学当時には、つばさのISO委員会の中心メンバーとして活動。前年度の環境サミットは、主催者であるISO委員会委員長として、出展団体を迎え入れていた。
今年、立場を変えて里帰りすることになった古賀さんは、高校時代の活動と大学生としての活動について次のように話す。
「高校の時の活動は、先生方の全面的な指導と協力があって、企業や大学など外の団体との強力なコネクションが生かされた活動ができていたことを改めて感じています。それに対して大学のISO学生委員会の活動は、学生主体の活動ゆえに、より自立した活動が求められます。サポートがない分、自分たちで工夫し、切り拓いていかないと何事も始まらないんですね」
ともすると、身内感覚の活動になってしまっていることに、高校時代の恵まれた活動を懐かしく思い出すという古賀さんだったが、この日の高校生環境サミットや12月のエコプロダクツ展などの機会に、さまざまな団体の人たちと積極的に話をして、連携した活動を作っていきたいと話す。
同じく出展団体の一つ、工学院大学付属高校からは、リサイクル部と生徒会が共同で取り組む活動についてアピールする展示パネルを出して、来場者に説明をしていた。
1年生で今年初めて参加した、橋本直理さんは次期会長に立候補して、週明けにも信任投票がされるという。
「サミットに参加して、他校の取り組みを見て参考になるところもありました。ぜひ、自分たちの学校でも取り入れてやっていきたいと思っています。今、うちの高校でもゴミの分別を行っているんですが、分別作業は生徒会とリサイクル部の2つの組織でやっているだけです。そうじゃなくて、もっとクラスで生徒一人ひとりのゴミ分別や環境に対する意識を高めていきたいんですね。そのために、自分の代からは、ペットボトルのキャップを各クラスで外してもらいたいと思うんです。それくらいはやってもらってもいいんじゃないかなと思うので。これまでは集まったペットボトルから一つずつ外していく作業を2つの組織でやっていたんですけど、その取り組みもっと広く、各クラスにまで広げていきたいんです。他校のブースでも紹介されていたように、例えばそこで回収したキャップをワクチンに変える活動をしているところに出して、ゴミの分別や削減という環境の取り組みから枝分かれした国際協力などの活動にまで発展させていければと考えています」
生徒会副会長の松尾シオンさんは、後輩たちをサポートするのがぼくたち上級生の役割と、バックアップに徹する姿勢を見せた。
東京都市大学ISO学生委員会のメンバーたち。右端がつばさOGで前年にISO委員会委員長を務めた古賀光涼さん。
工学院大学付属高校の生徒会副会長の松尾シオンさん(右)と、1年生で次期会長候補の橋本直理さん(左)。
今年の高校生環境サミットが閉幕して、会場撤収作業にいそしむ中、つばさ総合高校ISO委員会委員長の森谷裕里さんに、今回のサミットの感想について聞いた。
「去年よりもいろんな団体の方々と話せたのがよかったですね。それも、1年前の今頃の自分にはなかった知識と経験が今はあるので、より深い話ができたと思います。ある学校のボランティア部の人と、エコキャップの活動【3】について話をしました。うちの学校でもやっているんですよ。でも、同じ活動なのに成果は全然違うんですね。あちらの学校の方も言っていましたが、うちの学校の方がたくさん集まっているんです。その原因も話をしていてわかりました。要するに、うちの学校のゴミ箱って、限られたところにしかないんですよ。各教室には置いていません。でも、向こうの学校では教室ごとに設置してあるから、回収率があがっていかない原因なんじゃないかと思いました。それと、貼り紙もあまり貼っていないらしく、生徒全員に対する環境教育自体をあまりやっていないと言います。うちの学校だと、1年生には必ず、ゴミの分別などについて詳しく説明しています。それが結構大きな違いになっていることがわかりました」
そんな森谷さんも、入学当初は環境に対して特別の関心や興味があったわけではないという。
「ISO委員会への参加動機は不純でした。1年生の時、ラクそうだと思って入ったんですけど…実際は、全然ラクじゃなかったですね。ただ、1年のときから役員になって、対外的な発表なんかはメンバーの中でも一番というくらいやっていました。それで、今年度は委員長をしています。半ば強制的にやらされたところもあるんですけど(笑)」
高校生ならではのはにかみと真摯さを併せ持ちつつ、充実した活動を満喫している様子を滲ませる森谷さんだ。
ISO推進委員会の中で生徒たちが担う役割には、構成員として会議等に出席するのに加えて、もう一つ大きな役割がある。それが、内部監査役としてシステムの運用状況をチェックすること。ただし、現役の在校生ではなく、大学に進学した卒業生のうち3~4人ほどに声をかけている。
「つばさ総合高校は2002年の開校で、昨春に卒業した子たちが11期生になります。在学中に委員会で中心的な活動をしていた子たちに声をかけて、大学在学の間、内部監査を引き受けてもらっています。高校を卒業した後、環境系の学部学科に進学したり、サークルなどで環境の活動をしたりする子も結構いますから、そうした子を1人は入れるようにしています。卒業生が内部監査に参加する今の形になってから5年ほど経ちますから、すでに2世代くらい入れ替わっています。今お願いしている3人も、3年生・4年生ばかりになって、ちょうど今頃の時期から声をかけていきますが、もしかすると3人とも就活や卒業で入れ替わることになるかもしれません」
監査役の仕事内容は、書類のチェックよりも、各担当者の仕事内容について計画及び達成状況等の聞き取りを行うのが中心となる。教職員でも校長でも、完全に対等な立場で話を聞く。ヒアリングの結果、“もっとこうした方がいいんじゃないか”と勧告がされたり、“明らかにここはISOのマニュアルに沿っていないところがある”と不適合の指摘がされたりする。
「内部監査を卒業生に任せるようになった最初の頃だったと思いますが、環境総括責任者である校長に対して『環境総括責任者としての役割を理解していない』と、不適合の審査結果を出してきたことがありました。そうしたところでは、かなり忠実に職務をこなしてくれていると言えます」
不適合については、是正のための見通しを立てて計画書を提出し、再度の審査を経て、最終的にきちんと是正されれば問題はない。
つばさ総合高校のISO14001認証の登録証(2013年度更新。3年間有効だから、今年度末に更新時期を迎えることになる)。
つばさ総合高校のISO活動が、委員会活動の一つであるISO委員会が中心になって実施できていることの強みはあると吉岡先生は言う。
「年ごとのクオリティの差はあるにしても、持続はしていけます。最低でも、すでにルーチンになっている活動はずっと続けていけるということですね。他の学校さんの場合、有志の活動だったり部活動としてやっていたりするところがほとんどなので、そもそもメンバーの確保から苦労しているところが多いようです。まして、高校生環境サミットのようなイベントを開催しようと思ったら、教職員など大人の力も必要になりますから、全校のコンセンサスが取れないとできません」
学校全体の活動として校内には共通認識がある。ただ、環境への意識が全体的に上がっているのかというと、必ずしもそうでもない面もある。
「今中心になって活動しているメンバーも、もともと環境に関心を持って入ってくるのではなく、あくまでも活動していく中で変わっていっています。もう一つは、委員会メンバーやそのまわりの友だちと、一般の生徒たちの間の落差もあります。聞いてみると、ゴミの分別も何でするのかきちんとわかっていなかったりしますから。でも、そういう子たちも環境行動に協力してくれないというわけではありません。よくわからないし、半ば強制されてやっていることかもしれませんが、やり続けていくことで習い性となって、それが作法として身についていくんですね。これについて、特効薬はないんですよ。環境問題に限らず、全員の前で一斉に話をすることって、やっぱり生徒たちの頭には残らないのです。じゃあ個別に、学年250人全員に対してぼくたちが一対一で話を触れてまわれるかというと、そんなことはできませんから、ある程度の落差が生じるのは仕方がないかなというふうには思っています。それでも効果はあると思っています。理屈はわからないけど、例えばゴミの分別や電気を最後の人が消すと言われているそのことが環境のためなんだ、というくらいはちゃんと結びついていますから、大人になって社会に出た時に、すっと馴染むと思うのです。今の世の中、環境への取り組みを全くしていない企業はありませんから。何となく、理屈はわからないけど環境と関係のあることをしているということだけはわかっている。それだけでも、それすらわかっていない状態と較べると、大きな違いになっていますよね」
話を伺った、吉岡先生(右から2人目)とISO委員会のメンバーたち(高校生環境サミットの会場にて)。
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