トップページ > 環境レポート > 第82回「マジックの不思議と驚きを通して、エコの世界に目を向けてもらう(プロマジシャン・ミヤモによる「エコ・マジック」の取り組み)」
2017.03.27
転機になったのは、翌2011年3月11日の東日本大震災だった。大地震と停電、原発事故の衝撃、それに度重なる節電要請…。日本社会全体がエネルギー問題や環境問題に強い関心と意識を寄せるようになっていった。念願だったエコ・マジックショーに対する初の出演依頼が舞い込んだのはそんなときだった。
「初めて披露したエコ・マジックショーは、マジック自体は喜ばれたものの、合間に挟んだエコの話や解説には十分な手応えが得られませんでした。付け焼刃の表面的な知識だけで、聞いている人たちの心に響く話をしようというのが土台無理な話だったんだと思います」
もっと本格的に勉強して、専門家並みのレベルにならない限り、エコ・マジシャンなんて名乗れないと痛感させられる、初ステージになった。
「恥ずかしながら、当時は日々の食事からして、エコとは対極的な生活を送っていました。毎日の主食はコンビニ弁当やカップラーメン。炭酸飲料をガバガバ飲みながら、スナック菓子とジャンクフードで腹を満たす日々でした。そんな食生活が祟ったんでしょね、翌2012年には体調不良で2週間の入院生活を強いられました。ショックは大きかったのですが、何が幸いするのか、入院中にマクロビオティックという自然食を食べて体を元気にするプログラムに出会い、復調して無事退院できることになりました」
以来、普段の食生活を見直すとともに、保存料や食品添加物、加工食品や遺伝子組み換え食品など食の安全と健康に対する関心が高まっていったとミヤモは話す。調べていくうちに、食と健康の問題が環境問題にも深く関連することがわかってきた。
食や環境について、もっと本格的に勉強したいと、東京商工会議所の『eco検定(環境社会検定試験)』®を受験。猛勉強の末、2013年夏に受験したeco検定で、100点満点中98点という高得点で無事合格。さらに、数百ページある専門書を何冊も買い込んで、環境プランナー(2014年夏)や家庭の省エネ・エキスパート検定(2014年秋)などの数々の資格を取得していった。
「98歳まで生き延びた祖父が『ヒトが病気になるのは、自然の恵みに反して、人工的なものを食べるからなんだ!』と力説していたのを最近になって思い出しました。幼い頃は無視していたこの言葉が今になって思い出され、祖父の言葉もあながち間違いではなかったんだなと、実感しています」
2015年3月、環境省グッドライフアワード2015で環境大臣賞を受賞したミヤモ。
現在は、全国の自治体や学校、企業の環境担当や社会貢献担当などからお呼びがかかって、子どもやファミリー向けのショーから、中・高・大学生を対象にした講座、ビジネスマン向けのセミナーなど、さまざまな客層に応じたエコ・マジック&トークショーを展開している。
そうした活動が認められ、2015年には環境省グッドライフアワード2015で環境大臣賞を受賞。eco検定アワードでは、2013年と2015年に優秀賞を受賞した。
また、2017年2月には、所属する日本奇術協会の設立80周年記念大会で、エコ・マジックを通した奇術の普及、振興、地位向上に寄与したと、特別賞の表彰を受けるなど、多方面から評価されるようになった。
2015年10月には、eco検定アワード2015優秀賞を受賞。スピーチに登壇するミヤモ。同賞の表彰を受けたのは、2013年に次いで2度目となった。表彰式のあとの懇親会では、余興としてエコ・マジックを披露し、会場を盛り上げた。
日本奇術協会設立80周年記念大会で特別賞を受賞するミヤモ。
学校に呼ばれてエコ・マジックを披露することもある。小学校でエコ・マジックショーを実施した際には、マジックのあと、ステージ上から子どもたちに呼びかけて、簡単なゲームをした。
「子どもたちみんなとじゃんけんをして、まずは勝ち残り、その次に負け残りをします。じゃんけんでは普段は勝とうと思って出しますから、負けようと考えると、脳が活性化するんですね。脳トレの一種です。普段はゲーム機ばかりで遊んでいる子も多いと思いますから、体や指を使った遊びの楽しさも改めて実感してほしいという思いも込めました。体と心を解してから、“エコって、どんなことを思い浮かべる?”とマイクを向けます。子どもなりに、リサイクルとか無駄を省くとか、いろんな言葉が出てきます。自分が小学生だった頃はエコなんて言葉もなかったので、そんな発言をする子どもたちが新鮮だったりしますね」
他の学校ではどんなエコの取り組みがされているか、紹介してさらなる取り組みを促す。例えば、ごみ箱をカラフルに色分けして、分別作業自体を楽しくする工夫をしている学校もあるし、給食の食べ残しをなるべく減らそうと呼びかける学校もある。他校の取り組みを参考に、楽しく取り組むエコの工夫を考えてほしいと呼びかける。
高校に呼ばれた時は、エコ・マジックショーの最後に高校生たちに向けて、次のようなメッセージを贈った。
「未来の日本社会をつくっていくのは皆さん自身です。ぜひ今日の話を機会に、あ、なんか緑の服を着たやつが何か言っていたなと、そういうことでもいいので、頭の隅にとどめていただければと思います」
自治体が主催する環境イベントでのステージショー、環境セミナーや簡単なエコ・マジック教室などは全国各地で実施しているが、特に地方都市を飛び回ることが多い。つい先日も四国・徳島県に渡ったという。
東京都内での事例を聞くと、2016年に都内の自治体の依頼で実施した例は2回ほどあった。
2016年3月19日、荒川区環境課環境推進係が事務局を務める荒川区低炭素地域づくり協議会事務局主催の3回連続講座『あらかわエコセミナー』の1コマとして、『ECOマジックで学ぶ地球温暖化&ワークショップ』を担当した。
「対象は、子どもから高齢者までの区民30名ほど。“専門用語を多用しない”、“わかりやすくて楽しい”、“区民目線の話をしてほしい”、そんなリクエストをいただきましたので、『OIL』カードを『自然エネルギー』カードに替えるものなど3つほどのマジックを披露したあと、環境講義として地球温暖化のメカニズムと国際的な温暖化対策について、京都議定書~パリ協定の流れと日本の現状、水素社会に向けた取り組みなどを解説しました」
荒川区の環境講座では、地球温暖化のメカニズムから国際社会の取り組み、日本の現状などを解説した。
同年の5月22日には、港区の環境イベント『エコライフ・フェアMINATO 2016』に呼ばれ、開会式とオープニングあいさつの直後のつかみ役として、『ミヤモのエコ・マジックショー』でステージ前に集まる観客たちといっしょに盛り上がった。
この日のショーは、温暖化によって北極の氷が融けてシロクマが難儀しているという話をしながら、水を一瞬で凍らせるマジックや、江戸時代の循環型社会について紹介しつつ、ステージ上にあがってもらった子どもが握りしめる壊れた扇子を、魔法をかけて直してみせるマジックなど、エコの話とマジックを交互に交えた構成で進めていった。
港区の環境イベント『エコライフ・フェアMINATO 2016』のステージに立つミヤモ。
エコ・マジックを通して伝えたいことについて、ミヤモは次のようにそのねらいを語る。
「環境について勉強する際、どうしてもまじめな取り組みが重視されます。まじめにコツコツ、ときに我慢や苦しさを伴う地道な取り組みが求められる、そんなイメージを持つ方も多いと思います。何を隠そう、かつては私自身、そんなふうに思っていました。エコというと、“我慢”と“節約”ばかりで“修行僧のような生活”を強いられる、どちらかといえばマイナスのイメージだったのです。でも、今はエコって“楽しい・おしゃれ・もてる”というプラスのイメージでとらえています。そんなイメージをより多くの方々に持ってもらいたいんですね。純粋にマジックの不思議さを楽しんでもらいながら、複雑で難しい環境問題をできるだけわかりやすく解説したのがエコ・マジックショーです。観客の皆さんといっしょに環境問題について考える時間をつくっていく、そんな思いで実施しています」
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
オール東京62市区町村共同事業 Copyright(C)2007 公益財団法人特別区協議会( 03-5210-9068 ) All Right Reserved.